イベントレポート

市販を熱望! ヤマハの原付二種電動スクーター「E01」の試乗で実感した電動バイクの可能性

日本国内において電動バイクの先駆者であるヤマハが、原付二種クラスの電動バイクのニーズなどを検証するため、新モデル「E01(イーゼロワン)」の実証実験を2022年7月から3か月間、日本を含む世界各国で実施する。E01の市販については発表されていないが、実証実験のためだけに作られたモデルではなく、そのまま量産してもおかしくない仕上がりだ。そんなE01のメディア向け試乗会が開催されたので、乗り味などを確かめてきた。

ちなみに、バイクの世界ではまだ電動タイプは一般的ではないが、東京都が2035年をめどに都内で新車販売されるバイクの100%非ガソリン化を目指すと発表していることから、今後、電動化が加速していくのは確実。現に、日本の国内4メーカーも開発に力を入れ始めている。その中でも早くからこの分野に取り組んでいるヤマハの電動バイクの動向は、押さえておきたいトピックだ。

電動アシスト自転車の「PAS」を発売した1991年頃から電動バイクの研究・開発を進めている。2002年に電動スクーター「パッソル」、2005年に「EC02」、2010年に「EC03」を発売。現行モデルとしては「E-Vino」がリリースされている

電動アシスト自転車の「PAS」を発売した1991年頃から電動バイクの研究・開発を進めている。2002年に電動スクーター「パッソル」、2005年に「EC02」、2010年に「EC03」を発売。現行モデルとしては「E-Vino」がリリースされている

<関連記事>ヤマハ「Vino」がEV化! 電動バイク「E-Vino」の実力とは?

3つの充電方式に対応した原付二種スクーター

これまでヤマハが市販してきた電動バイクはいずれも原付一種(50cc)クラスだが、今回発表されたE01は、原付二種(125cc)クラスに当たる。電動バイクでは、原付一種は定格出力が0.6kW以下、原付二種は1kW以下と定められているため、E01に搭載されているモーターの定格出力も0.98kWと規定内のスペック。原付二種の車体に搭載できる小型サイズで、高回転まで回る特性のものがなかったため、独自で開発したという。

サイズは1,930(全長)×740(全幅)×1,230(全高)mmで、重量は158kg(バッテリー含む)

サイズは1,930(全長)×740(全幅)×1,230(全高)mmで、重量は158kg(バッテリー含む)

モーターはシート下に搭載。定格出力は0.98kWだが、最高出力は8.1kW(11PS)となっている

モーターはシート下に搭載。定格出力は0.98kWだが、最高出力は8.1kW(11PS)となっている

モーターの駆動力はベルトで後輪に伝えられる。一般のスクーターのようなユニットスイング式ではない

モーターの駆動力はベルトで後輪に伝えられる。一般のスクーターのようなユニットスイング式ではない

前後ホイールを結ぶ直線を意識し、それに直角に交わるラインなどが入れられた電動バイクらしいデザイン。躍動感を損なうとして、通常のバイクではあまり採用されていないデザイン手法だという

前後ホイールを結ぶ直線を意識し、それに直角に交わるラインなどが入れられた電動バイクらしいデザイン。躍動感を損なうとして、通常のバイクではあまり採用されていないデザイン手法だという

原付一種クラスの電動バイクは着脱式のバッテリーを採用していることが多く、日本国内の4メーカーが手を組んで2輪車向け交換式バッテリー共通化に取り組むなどしているため、交換式バッテリーのステーションが整備されれば、充電を待つことなく、交換するだけで継続走行できる。その半面、バッテリー容量が限られるため長距離ツーリングのような走り方にはあまり向いていない。ヤマハでは、原付一種の電動バイクを都市内交通、原付二種クラスの電動バイクを少し移動距離の長し都市圏交通と位置づけており、E01には56.3Ah(87.6V)と容量の大きなバッテリーを搭載し、104km(60km/h定地走行テスト値)の航続距離を確保。バッテリーの取り外しはできないが、「急速充電器」「普通充電器」「ポータブル充電器」の3つの方式に対応しており、充電スタンドだけでなく、家庭用のAC100Vコンセントにつないで充電することも可能だ。

フロントフェイスの真ん中に充電コネクターを配置。充電コネクターはひとつだが、急速充電器、普通充電器、ポータブル充電器のすべてに対応する。写真は、普通充電器での充電の様子。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで5時間かかる

フロントフェイスの真ん中に充電コネクターを配置。充電コネクターはひとつだが、急速充電器、普通充電器、ポータブル充電器のすべてに対応する。写真は、普通充電器での充電の様子。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで5時間かかる

急速充電器を使うと、1時間でバッテリー残量ゼロの状態から90%まで充電できる。なお、高速道路のSAなどで見かける「CHAdeMO(チャデモ)」方式には対応していない

急速充電器を使うと、1時間でバッテリー残量ゼロの状態から90%まで充電できる。なお、高速道路のSAなどで見かける「CHAdeMO(チャデモ)」方式には対応していない

家庭用のAC100Vコンセントから充電する際に使用するポータブル充電器は、手で簡単に持ち運び可能。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで14時間かかる

家庭用のAC100Vコンセントから充電する際に使用するポータブル充電器は、手で簡単に持ち運び可能。バッテリー残量ゼロの状態から満充電まで14時間かかる

100km以上の航続距離を実現し、ショートツーリングも楽しめそうなE01は、ヤマハの同クラスの人気モデル「N-MAX」と同等の使い勝手と運動性能を目指したという。強度と剛性バランスにすぐれた新開発のバックボーンフレームを採用し、バッテリーを低い位置に搭載することにより、シート下にフルフェイスヘルメットがひとつ入るだけの収納を確保。そして、重量物をフレーム側に搭載し、バネ下と呼ばれる車輪側の軽量化を図ることで、運動性能を高めている。

一般的な電動バイクはシート下にバッテリーを搭載しているため、このように収納スペースが確保されているのはめずらしい

一般的な電動バイクはシート下にバッテリーを搭載しているため、このように収納スペースが確保されているのはめずらしい

ポータブル充電器もシート下に収納することができる

ポータブル充電器もシート下に収納することができる

フロントホイール径は13インチで、110/70のタイヤを履く。ブレーキはシングルディスク

フロントホイール径は13インチで、110/70のタイヤを履く。ブレーキはシングルディスク

リアホイールも13インチで、タイヤは130/70サイズ。2本のサスペンションで支えるタイプのスイングアームを採用し、そこにナンバープレートホルダーをマウントしている

リアホイールも13インチで、タイヤは130/70サイズ。2本のサスペンションで支えるタイプのスイングアームを採用し、そこにナンバープレートホルダーをマウントしている

ヤマハが目指した原付二種電動スクーターの乗り味をチェック!

ヤマハは2035年までにバイクの販売台数のうち、約20%を電動モデルに置き換える目標を示しているが、都市内のコミューターで使われる原付一種だけでは実現するのは難しいらしい。そのため、少し長い距離の走行に対応し、バイクの楽しみも味わえる原付二種クラスの投入が不可欠と考え、E01では、使い勝手などの利便性だけでなく、一般のバイクに乗っているユーザーが乗り換えても違和感なく楽しめる乗り味を目指しているという。限られた試乗コースで、しかも雨が降る中ではあったが、ヤマハが目指した乗り味を体感できるだろうか。

スタートするには、まずイグニッションスイッチを「ON」に合わせる

スタートするには、まずイグニッションスイッチを「ON」に合わせる

続いて右手側のスタートボタンを押せば、発進が可能になるのはエンジン付きのバイクと同じ。右手側にはモード切替のボタンも装備されている

続いて右手側のスタートボタンを押せば、発進が可能になるのはエンジン付きのバイクと同じ。右手側にはモード切替のボタンも装備されている

アクセルをひねると、電動バイクらしい力強い加速感がダイレクトに伝わってくる。電動バイクのモーターは、最高出力が同クラスのエンジンより低くても、出だしの加速は力強く感じるものが多い。ただ、これまで筆者が試乗したことのある原付一種モデルの場合、発進時の加速は機敏でも、そこから高回転に向けてパワーが出てくる感覚はなかったのだが、E01は原付二種クラスであることと、高回転まで回るように開発されたモーターの効果もあるのか、出だしで感じる加速感が回転上昇に合わせてそのまま伸びていく印象。今回の試乗コースは直線が短かったので体験はできなかったが、まだまだ伸びていく余裕を残しているように感じられた。

高回転に向かって伸びていくようなパワー感が気持ちよく、もっと広いところで乗ってみたいと思わされた

高回転に向かって伸びていくようなパワー感が気持ちよく、もっと広いところで乗ってみたいと思わされた

そして、アクセルでの微妙なコントロールがしやすいのも特筆すべきポイント。電動バイクの中には、アクセルがオン/オフの切り替えしかないスイッチのように感じるものもあるが、E01は、エンジン車で言うパーシャルという中間開度でもアクセルをひねった量に合わせてパワーを取り出せる。今回の試乗コースは、限られたスペースで、路面も濡れていたため、微妙な速度コントロールが求められるところがあったが、そうした場面でも非常にコントロールがしやすかった。

すべりやすい路面で、スラロームのように車体を切り返すような場面でもコントロール性は良好

すべりやすい路面で、スラロームのように車体を切り返すような場面でもコントロール性は良好

コーナリング中の安定感も高く、フレーム剛性の高さと重心の低さも実感できた。原付二種クラスとしては車重が重いほうだが、その重さが安心感につながっている。エンジンのようにトルク変動がないモーターであることも、ひと役買っているようだ。

雨の中でも安定して走れる車体の完成度の高さも感じさせられた。公道でも走らせてみたい!

雨の中でも安定して走れる車体の完成度の高さも感じさせられた。公道でも走らせてみたい!

ヤマハは電動アシスト自転車やe-Bikeの分野でも、モーターの制御が緻密で、ペダルを踏み込む力にアシストが上乗せされるような“人の感覚に合わせようとした特性”に仕上げられている印象だが、この点は、電動バイクでも同様。E01での試乗では、モーターの緻密な制御などスクーターであってもライダーに操る楽しさを提供しようとするヤマハの姿勢を感じることができた。E01は郊外へのツーリングのような使い方も視野に入れているというが、航続距離だけでなく、走行時の安定性や乗り味は申し分ないレベル。ショートツーリングにも、十分、楽しみながら出かけられるだろう。

ヤマハでは、原付一種クラスの都市内移動は他メーカーとの“協調領域”、原付二種以上の趣味性が高いカテゴリーについては各メーカーの個性や特徴が現れる“競争領域”ととらえているという。近年、エンジン付きのバイクでは原付一種から原付二種に主役の地位が移りつつあり、通勤・通学の足としても原付二種が選ばれる傾向。こうしたことから考えても、電動バイクも原付二種クラスをどんどんリリースしていくべきだと個人的には思っている。現時点で、原付二種クラスの電動バイクは日本国産メーカーから市販されていないが、E01を筆頭にラインアップが拡大し、バイクの電動化が活性化することを期待したい。

増谷茂樹

増谷茂樹

カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。

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