最近、バイク人気が急騰しているが、オフロード走行は自分には無縁と思っている人も多いだろう。ただ、ツーリング先で未舗装路に遭遇することは結構ある。たとえば、近年ブームのキャンプツーリングでも、キャンプ場はオフロードになっていることがほとんど。そんなシーンでも不安なくバイクを操れれば、もっとバイクでの楽しさが広がるはずだ。そこで今回は、ヤマハが運営するライディングスクール「大人のバイクレッスン」に参加し、そこで教えてもらえるオフロード走行の基礎をレッスンの様子とともに紹介する。また、オフロード走行できるバイクもピックアップしているので、オフロードに興味のある人はチェックしてみてほしい。
ヤマハ「大人のバイクレッスン」
日本全国で開催されている初心者やリターンライダー向けのライディングスクールで、オンロードとオフロードのレッスンが用意されている。どちらのレッスンも人気が高いが、オフロードのレッスンは開催できる場所が限られることもあり、倍率は高い。使用するバイクはもちろん、プロテクターやブーツ、ヘルメットなどの装備もレンタルでき、参加料金は8,000円(税込/昼食付き、車両と装備のレンタル料も含む)。1日コース(9〜16時)でたっぷり学べ、モトクロスやトライアルなどオフロード競技のトップライダーもインストラクターとしてレクチャーしてくれるのも、このレッスンが人気の理由だ。
<外部リンク>https://www.yamaha-motor.co.jp/mc/yra/otona/
レッスンで使用されるバイクはヤマハ「セロー250」。シート高が低く初心者にも扱いやすいマシンだが、2020年に惜しまれつつも生産終了となった
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今回のレッスンでは、トライアルの野崎史高選手(左写真の左側)、レディースモトクロスの本田七海選手(左写真の右側)という現役トップライダーのほか、数年前までレディースモトクロスのトップ選手だった伊集院忍インストラクターなど、豪華なインストラクター陣がオフロード走行の基本を教えてくれた
オフロード走行はタイヤがすべりやすいのが、オンロード走行ともっとも違うところ。ブレーキをかけてもすべるし、曲がろうとして不用意に車体を傾けたり、ハンドルを切ってもすべる。オフロード走行に慣れた人だと、タイヤがすべることがオフロードの楽しさだと感じるようになるが、初心者の場合、タイヤがすべるのが怖くて体が固まってしまい、バイクをうまく操れないという悪循環に陥ってしまうことが多い。そうした恐怖心を払拭するため、まず、タイヤがすべっても対応できるライディングポジションを教えてもらった。
最初にインストラクターがお手本を見せてくれる。オフロードでは曲がる際に車体を傾けるが、上半身は地面に対して垂直の姿勢を保つリーンアウトの姿勢が基本だ
うしろから見ると、お尻を外側にズラし、車体を傾けるのとは逆方向に上半身を持って行っているのがわかりやすい。内側の足はバランスを取るためと、転びそうになったら地面に着けるようにやや前方に伸ばす
ドアノブを握るように外側からハンドルを持つと、車体が振られた時に対応しやすくなる。自分から見て、両手の甲が「ハ」の字になるようにするのだとか
オフロードブーツは足首が動きにくいので、意図しないでギアを操作してしまわない位置に置いておく必要がある
お手本を見たあと筆者たちもトライするが、なかなかサマにならない。でも、インストラクターがていねいに教えてくれるので安心だ
凹凸のあるオフロードでは、ステップの上に立つスタンディング姿勢を取ることも多い。林道ツーリングなどで、前方が見渡しやすくなるというメリットもある。ヒザがつま先より前に出ないように、股関節を少し折りたたんで前傾になるのがポイント
参加者もスタンディング姿勢にトライ。ステップの上に真っ直ぐ立ち上がるのだが、この段階でフラフラしてしまうのはバランスが取れていない証拠だ
スタンディング姿勢から腰を少し折るようにしてハンドルを握る。この時もハンドルは外側から握ろう
ライディングポジションについて学んだあと、バイクを走らせてみる。といっても、最初は1〜2m程度。前に立つインストラクターのところまで動かしてブレーキをかけて止まる。簡単な操作のように思われるかもしれないが、雑にブレーキを握るとタイヤがすべったり、車体が不安定になってしまう。フロントフォークがカクっと縮んでしまわないように、ていねいにブレーキを握るのがポイントだ。
目の前に立っているインストラクターのところまでゆっくりとバイクを走らせ、ブレーキをかけて止まる。オフロードでの繊細なブレーキのかけ方を学ぶための練習だ
徐々に距離を伸ばしながら練習すると、やさしくブレーキレバーを握れるようになってくる。土の上でもしっかり止まれなければ、オフロードを安全に楽しみながら走ることはできない
フロントブレーキのかけ方を習ったら、次はリア。オフロードではリアブレーキを多用するが、荷重が抜けやすいので雑に踏むと簡単にロックしてしまう。そこで、まずはわざとロックさせて後輪がすべる感覚を掴み、それからロックさせないかけ方を学んでいく。順を追って練習していくことで、初心者でも不安なくオフロードで止まれるようになる。
最初に、わざと後輪をロックさせることで急なブレーキをかけるとすべりやすいことやタイヤがすべる感覚を学ぶ
ロックさせられるようになったら、後輪がすべらないブレーキ操作を練習する。1回ずつインストラクターがアドバイスしてくるので身につくのも早い
ブレーキのかけ方をマスターしたら、次は曲がる練習だ。本レッスンの最初に行ったリーンアウトの姿勢で足を出しながら曲がるのが、オフロードでの基本。この姿勢が取れていれば、急にタイヤがすべったとしても対処できる。今回行うレッスン内容は、スピードはあまり出さずにコースに設けられたパイロンを曲がるというもの。インストラクターの見本を見ると、大げさなぐらいお尻を外側にズラし、上半身を車体とは逆に傾けるのがポイントのようだ。最初はそこまで大げさにお尻を動かす理由がよくわからなかったのだが、実際に試してみると、走っているうちに大げさにリーンアウトの姿勢を作ることでタイヤがすべっても対処しやすく、さらに、お尻と外側の足でタイヤを地面に押しつけることができるため、タイヤがすべりにくくなる感覚もつかめた。
まずは、本田選手の見本を見学する。お尻をシートの外側の角までズラしたきれいなリーンアウトのフォームだ
続いて、先導するインストラクターに続きパイロンを回る
本田選手ほどの美しさはないものの、徐々にそれっぽい姿勢が取れるようになってきたか!?
いったんお昼休憩をはさんだあと、午後のレッスンはスタンディングでの曲がり方からスタート。立った姿勢でも、座っている時と同じくリーンアウトのバランスを作り出すのがポイントで、お尻を外側にズラし、外側のヒザで車体を押し込むようにして傾ける。車体が傾いた分だけ体を外側に移動させてバランスを取るのだが、普段オンロードで走っている時には取ることがない姿勢なのでなかなか難しい。
本田選手の見本。車体に対して体を外に出し、傾けた車体とバランスを取るのがポイントだ
パイロンを走っている姿を見ると、車体と体でバランスを取っているのがわかりやすい
本田選手と同じような動きを止めた車体の上で筆者もやってみたが、あきらかにぎこちないし、お尻が外側に出ていない
止めた車体での練習を何度か繰り返したあとは、インストラクター(今回は本田選手)のあとについてパイロンを回る。顔はヘルメットごと大げさなくらい行きたい方向に向けるのだそう
走っているうちに、少しずつできるようになってきた!? と思っていたが、改めて写真で見るとやはりぎこちない
続いて、林道ツーリングやキャンプ場などでもすぐに役立ちそうなUターンのやり方を習得する。コーナリングと同じく、リーンアウトの姿勢で曲がるのが基本だが、半クラッチを使って駆動力をコントロールするのがUターンならではのコツ。低速でUターンする際、アクセルで車速をコントロールしようとするとスピードが出すぎて大回りになったり、それを避けようとしてブレーキを握りそのまま立ち転け……という負のスパイラルになりやすい。アクセルは少し開ける程度で固定しておき、車速のコントロールは半クラッチで行うのがポイントだ。
きれいなリーンアウトのフォームに目を引かれるが、ここで学ぶべきポイントはクラッチの操作だ
スタンディングした姿勢でUターンする際は、アクセルの開度は一定で右手は動かさず、左手の指先で半クラッチを調整する
筆者たちも実践。半クラッチの操作を身につけるため、まず、低速で足をつきながらUターンしてクラッチをつなぐ感覚を覚える
右手首をひねる角度は一定にしておき、指先でクラッチを調整する感覚をインストラクターが教えてくれた
基本の操作から順に練習することで、結構コンパクトにUターンできるようになった
そして、これまで練習していたフラットな路面のコースから移動し、坂道のあるコースへ。登り下りの練習が始まるのだ。坂を登る時は基本スタンディングで加速する時のように前傾姿勢を取り、下る時は腰を後ろに引くようにして後輪に荷重をかけ、バランスを取る。
本田選手の見本。スタンディング姿勢だがヒザがあまり曲がらず、股関節から前傾している
本田選手の真似をしたつもりなのだが、頭の位置があまり前に行っていない。このあたりの動作を大げさにやるのが大切
基本を学ぶと、女性の参加者も難なく坂道を上れるように!
下りは逆に、腰をうしろに引く。もっと大げさに引くべきなのだが、右足でブレーキペダルを踏まなければいけないので、まだそちらに気を取られている……
レッスンの締めは、複数のグループに分かれてちょっとしたトレッキングツーリング。といっても、インストラクターの先導でコースを走り回る程度だが、パイロンを回ったり、坂道を登ったり下ったりと、レッスンで学んだことをひと通り体験できる。ときには少々コースを外れて荒れた道を走ったりもしたが、数時間レッスンしただけで自分の走りが変わっていることに驚いた。オフロードを走っているため当然タイヤもすべったりするが、怖がることなく対処できるようになっていたのは、基本的なことを順を追って練習してきた成果だろう。レッスンのプログラムがとてもよくできていることを実感できた。
登り下りもあるコースを縦横無尽に走り回る感覚が楽しい。1日のレッスンでセロー250もかなり操れるようになった
コーナリングのフォームも、最初に比べればサマになっているような!?
筆者はオフロードを少しは走ったことがあるが、きちんと技術を習ったのは初めて。オフロード車を購入したあと、先輩ライダーたちに「大丈夫、大丈夫」と言われながら林道に連れて行かれ、「習うより慣れろ」で怖い思い(ときには痛い思いも)をしながら何となく走っていたが、今回、「大人のバイクレッスン」できちんと基本から学ぶと、たった1日でも、今まで何をしてきたのかと思うくらい自分の走りが変わったことが実感できた(本当に身についているかは、後日、走ってみないとわからないが……)。
このような筆者の経験から、これからオフロードを走ってみたいと思っている人は、まず、正しい基本技術を習得したほうがオフロード走行を楽しみやすいし、成長もしやすいと思う。オフロードで身につけた技術はオンロードでも役立つと昔から言われていることなので、オンロードのライディングでも世界が広がるだろう。
充実したレッスン内容と豪華なインストラクター陣、そして、バイクも装備もレンタルも昼食も含めて8,000円(税込)というヤマハ「大人のバイクレッスン」の価格は相当安い(というか絶対に儲けは出ていない)。セロー250が生産終了となり、プロモーション効果が期待できる自社モデルも限られるのに、ライダーを育てるプログラムを用意しているヤマハの姿勢には頭が下がる思いだ。
さて、本レッスンで使用したセロー250が生産終了してしまっているということで……、これからオフロード走行デビューをしたいと考えている人にオフロード走行できる現行モデルを紹介しておこう。
オフロードを走れるバイクというと、セロー250のような「トレールバイク」が一般的。250ccクラスの単気筒エンジンを搭載しているものが多く、細身で軽量なのが特徴だ。ただ、このカテゴリの日本国産マシンは、今は驚くほど少ない。セロー250が生産終了したため、現行モデルで生き残っているのは、価格.comマガジンで筆者が過去にレビューしたこともあるホンダ「CRF250L」とカワサキ「KLX230 S」くらいだ。
ホンダ「CRF250L」には、前後のサスペンションストロークが長い「CRF250L<s>」もラインアップ。2モデルとも重量は140kg。メーカー希望小売価格は599,500円(税込)となっている
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カワサキ「KLX230 S」の重量は136kg。メーカー希望小売価格は506,000円(税込)だ。クローズドコース専用で公道走行はできないバリエーションモデル「KLX230 R」(重量は115kg)もある
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このほか、オフロード走行が可能なモデルとして近年注目されているのがアドベンチャー系のモデル。大きめのカウルやスクリーンを装備し、どちらかというと長距離ツーリングに対応したモデルだが、オンロード性能を重視したモデルと、オフロード走行にも対応した車種がある。ヤマハ「テネレ700」は前述のトレールモデルと同様に、フロント21インチ、リア18インチのホイールを装備し、オフロードの走破性も高いモデル。また、トレールモデルのホンダ「CRF250L」の兄弟モデルである「CRF250RALLY」も、オフロード走行もできるマシンだ。
688ccの並列2気筒エンジンを搭載したヤマハ「テネレ700」(重量は205kg)。メーカー希望小売価格は1,287,000円(税込)
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ホンダ「CRF250 RALLY」も兄弟モデル「CRF250L」同様に、サスペンションストロークが長い「CRF250 RALLY<s>」もラインアップ。2モデルとも248ccの単気筒エンジンを搭載し、重量は152kg。メーカー希望小売価格は741,400円(税込)となっている
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●撮影:松川忍
カメラなどのデジタル・ガジェットと、クルマ・バイク・自転車などの乗り物を中心に、雑誌やWebで記事を執筆。EVなど電気で動く乗り物が好き。