レビュー

「C5 エアクロス SUV」2000km試乗! シトロエンの“魔法の絨毯”は1日中走っても疲れ知らず

近年のシトロエンのラインラップで、筆者が注目しているのが2022年11月にマイナーチェンジモデルが発売された「C5 エアクロス(AIRCROSS) SUV」だ。

「C5 エアクロス SUV」はシトロエン初のSUVモデルで、2019年に現行モデルが発売された。「魔法の絨毯のような乗り心地」をうたう独自のサスペンションシステムや、ラウンジのソファのような座り心地を提供する「アドバンストコンフォートシート」など、快適性におけるシトロエンの“らしさ”がよく表れているモデルだ。

その特徴から、おそらく長距離の走行も得意であろうと考えた筆者は、クラシックカー取材のため東京から九州までの移動に際して同車を連れ出してみたので、2,000km超の長距離試乗レビューをお届けしよう。

今回の長距離試乗によって、「C5 エアクロス SUV」の乗り心地のよさを余すことなく体感できたので、その魅力やすばらしさなどをお伝えしたい

今回の長距離試乗によって、「C5 エアクロス SUV」の乗り心地のよさを余すことなく体感できたので、その魅力やすばらしさなどをお伝えしたい

C5 AIRCROSS SUVの製品画像
シトロエン
4.63
(レビュー8人・クチコミ68件)
新車価格:501〜674万円 (中古車:225〜561万円

迫力あるボディだが、見た目ほど大きくはない

まずは初対面のクルマを受け取って、外観デザインをグルリと眺めてみる。

「C5 エアクロス SUV」のフロント、リアエクステリア。2022年11月のマイナーチェンジによって、これまで丸みを帯びていたフロントフェイスが、直線的で精悍なデザインへと変更されている

「C5 エアクロス SUV」のフロント、リアエクステリア。2022年11月のマイナーチェンジによって、これまで丸みを帯びていたフロントフェイスが、直線的で精悍なデザインへと変更されている

「C5 エアクロス SUV」は、ボンネット位置が高いことなどから、見た目の迫力があってボディサイズが大きく感じられた。これから知らない土地を走ることから、少しだけ不安を覚えたのだが、ボディサイズの数値を確認すると全長4,500mm、全幅1,850mm、全高1,710mm、ホイールベース2,730mmと、たとえばマツダ「CX-5」(同4,575mm、1,845mm、1,690mm、2,700mm)とほとんど同じだった。実際のボディサイズよりも大きく見せるような外観デザインが採用されているようだ。

ブラックを基調に、ところどころ青などのアクセントが配されたインテリアは落ち着いた印象で、スイッチ類の触感なども好印象だ。また、ヒップポイントが高いSUVなので、フロントシートに座ったときの眺めもとてもいい。

黒基調のインテリアは、ダッシュボードやドアパネルなどにブルーのステッチがさりげなく入れられていてスタイリッシュだ

黒基調のインテリアは、ダッシュボードやドアパネルなどにブルーのステッチがさりげなく入れられていてスタイリッシュだ

パワートレーンは、1.6L 4気筒ガソリンエンジンの「Pure Tech」、2L 4気筒ディーゼルエンジンの「Blue HDi」、1.6L 4気筒ガソリンエンジンにモーターを組み合わせた「プラグインハイブリッド」の3種類がラインアップされているが、今回試乗したのは「Blue HDi」だ。最高出力は177ps/3750rpm、最大トルクは400Nm/2,000rpmを発揮し、車重は1,670kgと比較的軽量なので、力強い走りが期待できそうである。ちなみに、トランスミッションは8速ATが採用されている。

現代によみがえった「ハイドロニューマチック」

センターコンソールにあるスライド式のシフトスイッチを操作して、Dを選択。ゆっくりとアクセルを踏み込むと、「C5 エアクロス SUV」は、都心の速い流れにスルりと滑り込んだ。

先ほど、ボディが大きく感じると述べたのだが、走り始めればそのようなことはまったく感じられなかった。むしろ、車幅がつかみやすく、何よりも見晴らしのよさは安心感をも与えてくれる。

そして、乗り始めて最初に感じられたのが、乗り心地のよさだった。「C5 エアクロス SUV」には、「PHC」(Progressive Hydraulic Cushions=プログレッシブ・ハイドローリック・クッション)が搭載されている。これは、カンタンに言うと「ダンパーの中にもうひとつダンパーが入っている機構」と考えてもらえればいいだろう。通常は、ダンパーが縮みきるとそこでバンプラバーに当たって底付き感が出てしまう。しかし、「PHC」はもうひとつのセカンダリーダンパーが働くことで、それを回避できるのだ。そして、付け加えるならセカンダリーダンパーがあることで、通常のダンパーをより柔らかく設定できる。それらの働きによって、大幅な乗り心地の向上を果たしている。

(「ハイドロニューマチック」の流れを汲むシトロエン独自のサスペンションシステム「PHC」は、全車に標準装備されている

(「ハイドロニューマチック」の流れを汲むシトロエン独自のサスペンションシステム「PHC」は、全車に標準装備されている

「PHC」は、冒頭で述べたように「魔法の絨毯」と謳われている。実際には、そこまで言い切れないまでも、相当に次元の高い乗り心地を実現しているのは事実だ。もともと「PHC」を開発した目的は、同社の「ハイドロニューマチック」の乗り心地を現代によみがえらせたい思いからだったので、当然である。

「PHC」は、市街地はもちろん高速道路でもフワッと、ゆったりとした乗り心地を与えてくれる。たとえば、継ぎ目などを超えた際もショックは角のない丸みを帯びたもので、しなやかさを象徴するかのようだ。そして、最も得意なのが少し荒れた路面で、この点だけで言うなら「ハイドロニューマチック」よりいいかもしれないと思ったほどであった。

ただし、この乗り心地はいまのドイツ車に慣れた人だと、少し違和感を覚える可能性もある。ドイツ車のピシッとした乗り心地に慣れた人からすると、「C5 エアクロス SUV」は少々つかみどころがなく、どこまで揺れるのだろうと不安になるかもしれない。しかし、案ずることなかれ。30分も乗っていれば、この乗り心地に慣れてきて、そのあとドイツ車に乗り換えると、しばらくは「なんて乗り心地が荒いのだろう」と思うことだろう。

そして、「C5 エアクロス SUV」が最も輝くのは高速道路における長距離移動時だろう。たおやかな乗り心地とともに、しっかりとまっすぐに走る直進安定性の高さ。アクセルペダルの踏み込み量に対しての適切な加速感や変速タイミングなど、どれをとってもドライバーの意思を逆なでしないものだった。唯一、気になるとしたら、ブレーキペダルの踏み込み量に対してブレーキが若干効き気味になるくらいだろうか。

C5 AIRCROSS SUVの製品画像
シトロエン
4.63
(レビュー8人・クチコミ68件)
新車価格:501〜674万円 (中古車:225〜561万円

疲れた体すら癒やしてくれるほどに乗り心地がいい

さらに、「アドバンストコンフォートシート」の座り心地は抜群だった。一度座ると、特に姿勢を変えなくても何時間も座り続けることができ、丸1日走り続けても疲れなどが感じられず、翌日もまた元気に運転できたのには驚いた。

「C5 エアクロス SUV」は、前後席のどちらも快適な乗り心地をもたらす「アドバンストコンフォートシート」が採用されている。ベースには低反発な高密度ウレタンが用いられ、厚さ15mmのやわらかなスポンジで挟み込む手法によって、上質で快適な座り心地を実現している

「C5 エアクロス SUV」は、前後席のどちらも快適な乗り心地をもたらす「アドバンストコンフォートシート」が採用されている。ベースには低反発な高密度ウレタンが用いられ、厚さ15mmのやわらかなスポンジで挟み込む手法によって、上質で快適な座り心地を実現している

実は以前、アルファロメオ「ステルヴィオ」で似たような行程を走らせているのだが、今回「C5 エアクロス SUV」で同じことをすると、それぞれの個性がはっきりと見えてきた。共通するのは、どちらも目的地まで疲れなく到着できること。だが、そこへいたる過程はかなり異なる。「ステルヴィオ」は常にワクワクさせてくれて、ドライブを積極的に楽しませてくれる。「C5 エアクロス SUV」は、ゆったりとしたシートに座り、淡々と移動していく。その際、クルマに気を使うことが一切なく、好きな音楽を聴いたり同乗者との会話を楽しんだりと、快適な移動空間として存在し続けるのだ。

決して、どちらがいいということはないのだが、取材などで疲れ果てたあと、どちらのキーを手に取るかと問われれば「C5 エアクロス SUV」と答えてしまうだろう。そして、しばらく走って宿泊場所に到着するときには、取材の疲れが取れて元気が出てくるのだ、「C5 エアクロス SUV」は疲れた体を癒やしてくれる“魔法”を持っているようだ。

気になる点もいくつかあったが……

かなり好印象の「C5 エアクロス SUV」であったが、気になった点も少しだけ述べておきたい。雨の日に、後席のドアを開けた途端、大量の水が室内に流れ込んできたのだ。どうやら、ルーフに溜まった雨水によるもので、ドリップモールがうまく働いていないようだった。

さらに、これは旧PSA系の車種に共通するのだが、タッチスクリーン操作の煩雑さだ。たとえば、ナビ画面を映し出しているときに、ちょっと寒いなとか暑いなと感じたら、ピアノブラック部分の目的の印をタッチして画面上に設定画面を呼び出して変更し、再びナビ画面に戻すために目的の印をタッチするという操作が必要だ。しかもそのすべてのタッチ操作に区切りや反応がないので、視線をそちらに向けてしまうので危険である。これについては、ぜひ改良を望んでおきたい。

燃費はもう少し伸びてくれるとうれしい

今回、長距離を走行した際の燃費は、

市街地:11.6km/L(13.6km/L)
郊外14.8km/L (16.9km/L)
高速:18.7km/L(19.4km/L)
※()内はカタログ値

上記のような結果となった。SUVは空気抵抗の大きいボディではあるものの、正直にいうともう少し燃費が伸びるとうれしい。高速道路で20km/Lは期待したいところだ。

アウトドアやレジャーでの移動を快適に楽しめる

家族や仲間とアウトドアやレジャーを楽しみたいという人は多いだろうが、その移動も含めて快適に楽しみたいというのであれば、ぜひこのクルマをおすすめしたい。まず、乗り心地が抜群にいいので同乗者にも好評だろうし、会話もはずむだろう。当然、着くまでに疲れることはないので、現地で思い切り楽しむことができるはずだ。

そして、ドライバーや乗員が疲れているだろう帰路でも、クルマからの主張や違和感がないのでストレスなく帰宅できる。このように、あくまでクルマは影になり、しっかりと乗員をサポートしていく。それが、「C5 エアクロス SUV」なのである。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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