続いて、開発のリーダーとして腕を振るった主査・山本氏に話を聞いた。インタビュー形式で紹介したい。
マツダ株式会社 商品本部 主査 山本修弘(やまもとのぶひろ)氏。マツダ・ロードスター開発担当主査。ロータリー・エンジンの開発やレース活動を経て、RX-7やロードスター開発に携わる。2007年よりスポーツカー担当主査に
山本:今までもそうでしたが、今日もあまり数字のことは言わずに、商品説明をしないで乗っていただくという新しい試みをさせていただきました。まずは、今日はどうでしたか?
鈴木:実は、新型の出来に関しては、ほとんど心配していませんでした。デミオとかアクセラの操安もすばらしいので、まあ間違いないだろうと。ですから、今日は予想通りというか、ちょっと超えていたと(笑)。昔からつきあっていた彼女がすごくドレスアップしたら、さらにべっぴんさんになった。でも、ダメだったところも好きだったんで、そこが綺麗になったので…文句を言うところじゃないかもしれませんが。
山本:クルマがどんどんよくなっていくのは当たり前だけど、「じゃあ、それが楽しいの?」といえば、このクルマの場合はイエスじゃないんですね。むしろ、クルマの悪さが「乗り味=良さ」につながっている面もあるので、そこがものすごく難しいんです。
僕が言うのもなんだけど、クルマをよくしようとしていないんですよ。人が中心。人のためにいろんなものを作っているのが、僕たちの基本で、すべての領域がそれに基づいているんですよ。人が使うときに、人を苦しめてはいけない。ペインレスという言葉を使ってきました。人は大事だから、人の空間はちゃんと確保しながら、パッケージはミニマムにせい! とみんなやってきたと。だから、全長が短くなったのではなく、結果として、ああなったんです。ミニマムに作ったから、ああいう寸法になった。あれを目指して作ったわけではない。それは絶対に間違えないようにしてください。ちょうどの大きさで、いいものを作って、デザインで薄化粧しただけですよという思いなので。そこはわかってもらいたい。
鈴木:数値を目指して開発したわけではないんですね。
山本:やっぱり数値では語れない。なぜなら、初代のロードスターが持っていた人馬一体という価値観は、すべて人が感じるところにあるからです。ベースとしてはスカイアクティブ・テクノロジーとか鼓動デザインがあるので、あまり心配はしていなかったんですよ。その上を、僕たちがきっちっとやらないといけないなという思いがすごくあった。
鈴木:人が感じるところですね。
山本:そうです。そこをどうやって作るのか? どうやるかというのは、最初から悩んで。やっぱりエンジニアたちに、その気になってもらうためにも体験してもらうことが、とても大事だろうなと思っていたんです。それがあって、ここに持ってきた巻物があるんです。
鈴木:なんですかそれ? 秘密の巻物ですか(笑)。
山本:実はこれには、僕が2007年から、このクルマを担当してからの歴史が綴られています。17枚をつなげた巻物です。ここにいろんなことがありましたよ、と書いてある。
鈴木:なるほど! 開発の歴史なんですね。記録ですね。
山本:たとえば、今年(2014年)の9月4日にマツダ・サンクス・デイズ・イン・ジャパンがありました。富良野に行ったとか書いてあります。
鈴木:いろいろ、ありますね。
山本:これをずっと遡っていくと、2008年に、このクルマの担当になって1年後なんですけれど、「感」づくりのために27人の開発メンバーと社外走行に行ったんです。1泊2日のドライブを行って、「感」とは何なのか? と。
鈴木:「感」って、最初からあったんですね。
山本:いろんなクルマに乗っていきました。どんなクルマかというと、NAとNB、NCロードスター、NC2、デミオ、RX-8、RX-7、アウディTT、BMW Z4、ミニクーパーS、ポルシェ・ケイマンS、シビック・タイプR、プリウス、コペン。この「感」が当時から、僕たちには目標としてあったので、どのクルマの、どんな「感」が際立ってたの? というのをみんなで乗って話し合いました。すると、NAロードスターって、やっぱりいいんですよ。
ケイマンに軽快感はないけれど、走り感や一体感がすばらしい。そういったことは、ちゃんと見習おうね。あるいは、その感覚というのを知ろうね! っていうためにやったんです。
鈴木:それが2008年ですね。
山本:RX-8もよかった、NCもよいところがあったよね〜と、そういったことをメンバーとして共有したんです。そして「感」を作ろう。その「感」はあれよね? といったら「ケイマンのアレよね!」って。「NCのアレよね」「NAのアレよね」といったときに、みんながわかるようにならないといけない。いちいち、「感」とはこれこれしかじかと言っていたら、とても仕事ができない。そういったことを、その時代にやっていたんです。そこから、ここまで来て、この「感覚」ができた。長い時間がかかっているんですね。
鈴木:この巻物はいつから始まっているのですか?
山本:2007年から。1枚がいっぱいになったら次に行く。実は、2009年まで項目のナンバーが249までいったんですけれど、ここで1に戻っているんです。これには理由があって。実は、いったん解散したんですよ。
鈴木:解散したんですか!
山本:タスク・チームでやってきましたけれど、2009年にリーマンショックがあって、もういっぺん見直せとなりました。厳しい時代が僕たちにやってきたんです。このままではダメでリセットしようや! という歴史もあったんです。
鈴木:でも、巻物を見ると、一週間後には再スタートしていますね(笑)。
山本:タイミングを変えるようにと。少しスパンを伸ばして、もっと長期まで、このクルマを乗れるように、メンバーはもういっぺん考え直そうと。このクルマで苦難して、本当によかったと思いますよ。バブルのときに作ったら、こんなクルマはできていない。
鈴木:もっと緩い感じになりそうですよね。
山本:僕たちは、今回、原点回帰して、素直に動くクルマを作りたかったんです。
ただ、見て乗ってわかるように、なんの飛び道具も使っていません。原理原則に基づいて、ありたい姿を忠実に着実に正しく作ってきました。逆にそれだけなんです。それをやってみて、いかに難しいかというのを、今回、感じましたね。
鈴木:電気の力で曲げるとかはありませんよね(笑)。
山本:すっぴんで、これだけの味を出すためには、すごく大変だった。前後重量配分も50:50にして、ちゃんとすれば、ちゃんとクルマって動くじゃないですか。そういったところを作り込んだのが、このクルマの特徴になるでしょうね。
それにこれがマツダの6世代商品の最後になります。ブランド・アイコンになると言っていますけどね。
鈴木:広報さんに「マツダのフラッグシップはなにですか?」と聞いたら、ロードスターと答えていましたよ。
山本:社内ではなく、外の人たちが、「マツダのブランド・アイコンはロードスターだよね」と言ってもらいたいんですよ。そうしなきゃいけないと思っています。25年間、ずっと同じネームプレートで続いているクルマも他にマツダにはありませんしね。僕たちが言うのではなく、まわりがそう言わないと、デミオを買ったお客さんが、アクセラを買ってもらえません。よそに行ってしまう。ブランドができない。マツダのブランド・アイコンをロードスターにできて、「マツダのクルマはどれを買ってもいいな!」と思ってもらわないとブランドにならないと思います。
鈴木:まずは6月のロードスター発売からですね。
山本:そういった使命を持っている。そういう思いがあると。これからがスタートですからね。