“弾丸”試乗レポート

テスラ「モデルS」と1週間過ごして見えてきたもの

モデルSの象徴ともいうべきユニークで先進的な機能

自動車メーカーとして異色の存在であるテスラモーターズ。そのフラッグシップとなるモデルSも相当にユニークだ。走りうんぬんの前に、まずクルマへのアクセスから独特なのだ。一般的なキーにあたるのは、クルマを型取ったリモコンなのだが、クルマのボディやドアノブなどに鍵穴は存在しない。リモコンを持ってクルマに近づくと、ボディに埋め込まれたドアノブが自動的に飛び出してくるのだ。そのとき、ドライバーはリモコンを操作する必要がない。ただ歩み寄るだけでOKなのだ。

続いて、ドアノブを引いてドアを開け、クルマに乗り込む。そして、ギヤをセレクトして、アクセルを踏み込めばスタート。これだけだ。……なんだかおかしい。そう、 「キーを差し込む」「イグニッションスイッチを押す」「パーキングブレーキを解除する」という、走り出すまでに必要とされる作業がすべて省かれているのだ。、クルマを降りるときも同様で、「パーキングブレーキの操作」「イグニッションの操作」「キーロックの操作」は必要ない。最初のうちは、何か大切なことを忘れている思いが強くて不安になった。しかし、人間とは便利にできているもので、ほんの数日で慣れてしまった。逆に、その後に普通のクルマに乗ったときには、「スタートまで、なんてたくさんの儀式があるんだ。めんどうくさい」と思うようになってしまったほどだ。

モデルSのリモコンにはユニークな仕掛けが施されていた

リモコン操作をしなくても、リモコンを持って近づくと、ボディに埋め込まれたドアノブが自動的に飛び出してくる

今度は、インテリアに目を移してみよう。センターコンソールに控えるのは、先述の17インチのタッチスクリーンだ。エアコンやクルマの設定など、ほとんどの操作は、このタッチスクリーンで行う。さまざまなボタンやダイヤルなどのハードキーがないためスタイリッシュなうえ、多様な作業に対応できるが、便利かと問われれば、正直なところ微妙と答えざるを得ない。ハードキーのほうが一発で操作できるとも言える。この感覚は、フィーチャーフォン(いわゆるガラケー)とスマートフォンの違いに似ている。慣れてしまえば使えるけれど、初めての人は、相当に面食らうだろう。しかし、ガソリンエンジン車からEVへのイノベーションを掲げるテスラモーターズのクルマであれば、このタッチスクリーンの採用は、まったくもって大正解。先進性をアピールするという意味では、非常に大きな役割を果たしている。

大型ボディだけに室内はゆったり。先進的だが、かなりシンプルな作りだ

では、肝心の走りはどうか。その加速は特別なものであった。試乗用に借りたのは「P85」で、4輪駆動ではないが、最高出力350kW(476馬力)/最大トルク440Nmのハイパフォーマンス版だ。アクセルをめいっぱい踏み込めば、ポルシェ911カレラを上回る(カレラSには若干届かない)強力な加速を見せる。しかも、加速中の変速がない(=加速感が途切れない)だけでなく、エンジンの轟音や振動はない。速度が高まるほど加速感が増すような二次曲線的な加速を体験できた。そのエキサイティングさは、エンターテインメントそのものであった。

しかし、モデルSは、いつもフル加速を行うようなキャラクターではない。ステアリングとアクセルの操作感はずしりと重い。また、たっぷり積んだリチウム電池の重量もある。通常の感覚でのスタートは、ゆったりと滑り出すかのよう。重いリチウム電池をタップリと床下に積むため、重心は非常に低い。しかも、ホイールベースは全長に対して長めにとってあるので、道の流れに乗って走るモデルSの動きは重厚だ。もちろん静粛性は十分に高い。いわゆる新参ブランドでありながら、プレミアムカーとして認められるだけの走りを実現していた。

エキサイティングな加速感と、どっしりとした重厚感。ふたつの側面を合わせ持つモデルS

エキサイティングな加速感と、どっしりとした重厚感。ふたつの側面を合わせ持つモデルS

振り返ってみると、モデルSには斬新なトライだけでなく、旧来の価値観においても認められる美点も数多く備わっている。リモコンキーによるエントリーやタッチセンターなど、ユーザーインターフェイス面での斬新な機能は、意外に合理的で利便性にすぐれるものであった。また、EVならではの静粛性の高さや振動の少なさ、重心の低さからくる走りは、従来からあるプレミアム感の延長にあるものだった。さらに、その強烈なパフォーマンスもモデルSならではの魅力だ。そして、室内や荷室の広さは、パワートレインがコンパクトな、EVとしてのメリットを大いに引き出したものであった。

もちろん、斬新すぎるユーザーインターフェイスや後席のアメニティの少なさなどに不満を感じる人もいるだろう。しかし、それも含めてモデルSの魅力なのだ。フィーチャーフォンに対するスマートフォンのように、センスのよさや先進性を売りにする製品とモデルSは同じなのだ。モデルSに乗ってみたら、イノベーションとはどんなものかを感じることができるだろう。

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