続いて、CX-3の開発のリーダーであるマツダの冨山氏から話を聞くことができた。インタビュー形式で紹介しよう。
マツダ株式会社 商品本部 開発主査 冨山道雄氏
CX-3開発主査。先代デミオがスカイアクティブテクノロジーを採用することとなったマイナーチェンジから主査を担当。兼任でベリーサの主査も担当する。それ以前は技術開発部部長。「サスティナブルズームズーム宣言」や「ビルディングブロック戦略」などの策定を手がけてきた
鈴木:このCX-3は、今までにない、まったく新しいモデルです。その世界観は、どういうものなのでしょうか?
冨山:このクルマは、ホイールベースをデミオと同じにするというのだけが制約条件で、それ以外は、まったく自由な発想でクロスオーバーを作ろうということでした。企画がスタートした段階では、決まった定義はなかったんですね。「どういうクルマであるべし!」みたいなものはなくて、「人を中心としたクルマ作りをしていこう」ということで、人をとことん研究していきました。
ちなみにコンパクトカークラスであるデミオがカバーできるのは、エントリーのお客様です。そのエントリーから次にいくお客様、30代前半から半ばがピタッとはまるクルマが、うちの中では手薄でしたので、そのあたりのゾーンを狙おうとなりました。当然、新しいクルマなので、マクロデータはありません。そのため、徹底的にミクロデータを調査しました。個人レベルのお客様の趣向、価値観、クルマに対する期待値。そういうものを個々に訪問して、お客様の望むクルマ像を作り込んでいきました。マクロではなくミクロで作ったクルマですね。
CX-3のデザインスケッチ
あらかじめ決まっていたのはホイールベースだけで、それ以外は自由に作ることができたと言う
鈴木:なぜ、クロスオーバーなのでしょうか?
冨山:お客様はセダンやハッチバック、SUVといった、既存のクルマの形に、だんだんと飽き足らなくなってきているんですね。特に、クルマ離れといわれる若い層のお客様にとってクルマは、実用的な移動の道具としか捉えられなくなっています。そうした考えに合わせるように、合理的で快適なクルマが出てきてもいます。でも、そうなると、趣味性を持ってクルマを見ることができなくなってしまいました。
そうした中で、既成概念にとらわれないモノを作ろうと。形を融合するのではなく、価値観を融合しようと。それが何を意味するかというと、「どんなライフスタイルにもマッチするクルマ」「いろいろな使い方、いろんなシーンに持っていっても、そこに釣り合うクルマ」を作ろうということになりました。
また、30代はライフスタイルが劇的に変化します。シングルからカップルになって、ファミリーになる。そういうステージの変化にぴたっとはまるクルマを作ろうと。そういう感覚でクルマをまとめていきました。
鈴木:ミクロデータとなる個別のインタビューはどこで行ったのですか?
冨山:ヨーロッパです。特に先鋭的な価値観を持った方々。いわばクリエーターみたいな方々を中心に訪問しながら、彼らがクルマに期待していること、彼らのクルマの使い方をいろいろ学ばせていただいて、それを凝縮しました。
鈴木:欧州といえば、クルマ文化が一番進んでいるところ。そこでデータを収集したということですね。
冨山:そうです。彼らに共通しているのは、モノ選びに対して、常に主体的ということ。人の意見ではなく、自分の価値観にマッチしたものを選んでいます。その価値観は、本質を追究したモノ。だから、見せかけだけではなくて、人に対していかに機能が寄り添っているか? 自分の中のスタイルに合っているか? というモノを主体的に選ばれる。そういうお客様だったんですね。
ヨーロッパのクリエーターなどからヒアリングを行い、クルマに求められる価値観を探った
鈴木:主体的にモノ選ぶお客様に選ばれるものを作ろうと。そして次のステップに移るわけですね?
冨山:そうです。そこで出てくる、クルマに対する本質的な欲求というのは、「自分のライフスタイルを表現できる」「クルマが自己表現のひとつである」「自分の生活スタイルをクルマで語れるようになりたい」ということです。そのために、エクステリアデザインとインテリアデザインに対する高い要求がありました。
次に、移動は時間経過ではないということ。運転を実際に楽しみたいんですね。しかも、街中だけでなく、郊外でのロングドライブも楽しみたい。
そして、移動体験を楽しみたいということ。そういう人たちは、いろいろな交友関係があるんですね。一人で乗るときは純粋に運転を楽しみたいけれど、仲間と乗るときは仲間とその空間を楽しみたい。刺激的な移動体験をしたいということで、室内の作りとかパッケージングにも関心がありました。
鈴木:デザイン、走り、空間ですね。
冨山:でも、それってクルマとして当たり前なんです。だから本質なんですね。でも、今ある既存の車型で、その3つに完璧に応えているクルマってありますか? デザインは格好いいけれども、仲間と乗るにはちょっとというクルマもある。人がたくさん乗れるけれど、格好はちょっとねというクルマもある。つまり、なにかをトレードオフしているんです。CX-3は、それらに完璧に応えたい。そのとき、最大公約数にする必要はない。最大公約数にすると、どんどんクルマが大きくなっちゃう。大は小を兼ねるになってしまう。我々が作るモノにはコンパクトカーという前提があります。必要最小限度の中で、きっちりとお客様を満足させようと。必要最小限というのはミニマムではなく、お客様が満足するところはきっちり押さえる。そういう必要最小限の空間と荷室、ダイナミックなデザインを両立させていこうと考えました。
クルマの本質を追究した結果、ユーザーに満足してもらえるクルマが完成したのだ
鈴木:開発を振り返って、一番、印象的だったできごとは何ですか?
冨山:印象的だったのは、これはお客様のために作ったクルマなんですけれど、社員もみんな、このクルマを好きになってしまったということです。みんな、このクルマが欲しいと思いながら、このクルマを開発してきたんですよ。
どういうことかというと、開発の途中で試作車を確認するイベントがありました。自分の開発領域を、試作車で確認する仕事です。でも、開発者から出てくる質問は、「これ、いくらくらいなの?」「サイズはどのくらい?」「高さはどれくらいなの?」と。自分の購入車として考えている(笑)。それが、クルマ全体を初めて見たときの言葉なんですね。
鈴木:ああ、部品ごとに開発しているとクルマ全体が見えませんからね。
冨山:その様子を見て、「これいいじゃないか!」と。マツダ社員が欲しいと思うようなクルマができていたんですね。
鈴木:そこは手応えになりますね。では、最後にお客様へのメッセージを何かいただけませんでしょうか?
冨山:このクルマのコンセプトは、「次の時代のスタンダードを創造する」という言い方をしています。スタンダードである標準的なクルマは、一家に一台のクルマです。そういうクルマは、いろいろなシーン、いろいろなライフスタイルにマッチしたクルマでなくてはなりません。お客様に我慢をしていただくことなく使っていただけるクルマです。特に我々が想定しているのはヤングファミリー、カップル、あるいはシニア層の方々です。本質を見極められる方にも納得できるよう、十分に上質な作り込みを行っています。ぜひ、このクルマを使って、いろいろアクティブに行動して、新しいライフスタイルを探していただきたいですね。新たな発見が、このクルマを介して生み出されることを期待します。