続いて、「ノア」と「ヴォクシー」の開発を担当したトヨタ自動車 製品企画本部の水澗英紀氏と川口靖氏のお2人から話を聞くことができた。インタビュー形式で紹介しよう。
写真左が、トヨタ自動車 製品企画本部 ZH チーフエンジニアの水澗英紀氏。先代モデルを含め、「ノア」「ヴォクシー」に9年間携わる。現在は「エスティマ」や「ウイッシュ」などのミニバン系全体を担当。企画本部の前は、実験部門でエンジンマウントやゴムブッシュ、燃料タンクなどの開発を長年担当してきた。写真右が、製品企画本部 ZH 主幹の川口靖氏。2010年から「ノア」「ヴォクシー」担当になり、今回はデザインと燃費開発を担当。以前は、ウェルキャブの製品企画に9年ほど携わっていた
鈴木:試乗してみたところ走りの印象がものすごくよかったんですよ。低床化がものすごく効いていると感じました。重心の低さも感じましたし、直進性もすぐれていますね。
水澗:私は元々、開発では実験屋だったんです。ですから、開発のベースはクルマとしての、走っての性能なんですね。記者発表でも、あまりPRしていないのですが、走りは縁の下ですから、しっかりレベルを上げようと考えていました。
やはり、クルマを買うときは「パッケージングいいね! シートアレンジいいね!」と買うでしょうけど、その後に感じるのは、走行性能だと思うんですよ。でも、ミニバンは、限界やコーナーを攻めるクルマではありません。このクルマにとっての快適な走りは何かというと、「助手席や後席に座っている人たちがストレスなく過ごせること」「ドライブを楽しんでいただけること」だと考えています。それではドライバーがつまらないか? というとそうでもない。ドライバーが狙った通りにきちんと動いて、よけいな動きをしない。それが、このクルマにとってのファン・トゥ・ドライブ。派手なことはやっていませんけれど、乗用域では快適に過ごせるようにしています。
鈴木:話の順番がおかしくなってしまいましたが、「ノア」と「ヴォクシー」のモデルチェンジにあたって気をつけたのは、今おっしゃった、縁の下の走りだったということですか?
水澗:実は違うんですよ。
鈴木:あら(笑)。走りにこだわったのは、実験屋としての矜持ですか?
水澗:おっしゃる通り(笑)。クルマの走りは土台ですからね。
水澗:初代の「ノア」と「ヴォクシー」は、初めてこのクラスで両側スライドドアを付けて大ヒットしました。そこで、2代目モデルでは、初代モデルの不満を解消しようということに狙いを定めました。具体的に言うと、燃費をよくしたい、というわけです。そこで、バルブマチックという可変バルブリフトの機構をトヨタとして初めて採用しました。それから、3列目シートを格納するときに、初代モデルは重くて力が必要でしたが、それを簡単にしようということで、ワンタッチスペースアップを開発しました。さらに、乗降性をよくしようと、ステップを若干下げるといったことをやったんですね。
そのおかげか、2007年の発売から3年程度は、「ノア」と「ヴォクシー」合計で、ジャンル内50%以上のシェアを確保できたのです。ところが、「セレナ」や「ステップワゴン」がモデルチェンジすると、特に「セレナ」が販売を伸ばしてきて、昨年は、「ノア」と「ヴォクシー」を合計しても「セレナ」には販売台数でかなわなくなってしまいました。
そこで、3代目の開発にあたっては、「このクラスの理想は何だろう?」という基本に立ち返ってスタートすることにしたのです。5ナンバーの「ノア」や「ヴォクシー」、「ステップワゴン」、「セレナ」のクラスでは、2001年に初代「ノア」と初代「ヴォクシー」が登場して以来、だいたい4車種で月に2万台の販売をずっと維持しているんですね。震災のときにはさすがに2万台を下回りましたが、それ以外では、ほとんど2万台を切ったことがない。
ほかの3列シート車の販売が減っている中、このクラスの販売数が減らない理由とは何か?と考えると、「このクラスにしかない魅力だよね」となります。それが、広さ、スライドドアによる乗降性のよさ、そして、シートアレンジだったんです。このクラスで一番大切なところで先代の「ノア」や「ヴォクシー」は、ライバルの「セレナ」や「ステップワゴン」に負けていたんです。この事実を真摯に受け止めた上で、負けている部分を最高なものに改良しようというのが、今回の企画のスタートとなりました。
鈴木:なるほど。その解決策として、低床化が出てきたということですね。
鈴木:「ノア」と「ヴォクシー」には、このクラス初の本格ハイブリッドが搭載されていますが、走りがミニバンに非常にマッチしていると感じました。フィーリングも「プリウス」よりもよくなっているという印象です。
水澗:実は、今回のハイブリッドの導入には問題点が2つありました。ひとつは電池の搭載場所です。ミニバンとしてパッケージングを悪くしてはいけない。そのためにフロントシート下に納めました。もうひとつは、安くて燃費のよいハイブリッドを採用したかったのですが、ちょうどよいシステムがなかったことです。トヨタは2リッターのハイブリッドを持っていませんから、1.8リッターの「プリウス」のユニットを流用した方が、燃費もいいし、安くできるのではないか、となりました。ところが、パワーが足りないんじゃないか、という不安があったんです。「プリウス」と「ノア」や「ヴォクシー」ではクルマの大きさからして違いますからね。そこにちょうど「プリウスα」が出まして、こっちの方が、デフがローギアなので、ポテンシャルが高いことがわかりました。
川口:「ノア」と「ヴォクシー」のハイブリッド車は、「プリウス」よりも車両重量が200kgも重たいんです。ですから「プリウス」のユニットをそのまま使ったら走らない。燃費も悪くなる。でも、「プリウスα」だと、その半分、100sの差です。ただ、お客様に走らないと思われてはなりませんから、初期の出だしは、「走る!」という体感が得られるようなセッティングにしています。
鈴木:アクセルを操作したとき、どれだけ出力を出すかという部分のチューニングですね。
水澗:「プリウス」は、燃費重視で、アクセルを相当に踏み込まないと走っていかないようになっています。その特性をそのまま持ってくると、旧型の「ノア」や「ヴォクシー」から乗り換えられたお客様には「なんだよ、このかったるいクルマ!」となってしまうでしょう。そういう使いにくさがないように、出だしのところで、少しモーターを使って、トルク感を得られるように味付けをしています。
鈴木:それ以外にも、モーターで走るシーンが多いなという印象でした。
水澗:なぜそう感じられるかというと、パッと車速が乗るものですから、巡航でアクセルオフにするとモーター駆動になりやすいんですよ。そのほうが、結果的に速いし、燃費もいいんですね。ゆっくりEVで走っていくよりも、そういうほうが実用燃費はいいんです。結果的な側面もありますが、タウンユースの実用燃費は期待以上に出るのではないかと思います。いっぽうで、絶対的な出力は変わっていません。出だしに使っていますので、高速での伸びは悪いです。
鈴木:なるほど。でも、中間加速はトルク感があっていいなと思いました。
水澗:乗られた方から、そういう声をいただくことが多いですね。すでに先週くらいからデリバリーが始まった中で、価格.comのクチコミを見たところ、「プリウスα」から乗り換えた方が、「プリウスαより走る!」と驚いているコメントがありましたね。価格.comの掲示板は、直直に書いてくれる人が多いので、実は毎日チェックしているんですよ(笑)。
鈴木:「ノア」と「ヴォクシー」には、このクラス初の本格ハイブリッドが搭載されていますが、走りがミニバンに非常にマッチしていると感じました。フィーリングも「プリウス」よりもよくなっているという印象です。
水澗:実は、今回のハイブリッドの導入には問題点が2つありました。ひとつは電池の搭載場所です。ミニバンとしてパッケージングを悪くしてはいけない。そのためにフロントシート下に納めました。もうひとつは、安くて燃費のよいハイブリッドを採用したかったのですが、ちょうどよいシステムがなかったことです。トヨタは2リッターのハイブリッドを持っていませんから、1.8リッターの「プリウス」のユニットを流用した方が、燃費もいいし、安くできるのではないか、となりました。ところが、パワーが足りないんじゃないか、という不安があったんです。「プリウス」と「ノア」や「ヴォクシー」ではクルマの大きさからして違いますからね。そこにちょうど「プリウスα」が出まして、こっちの方が、デフがローギアなので、ポテンシャルが高いことがわかりました。
川口:「ノア」と「ヴォクシー」のハイブリッド車は、「プリウス」よりも車両重量が200kgも重たいんです。ですから「プリウス」のユニットをそのまま使ったら走らない。燃費も悪くなる。でも、「プリウスα」だと、その半分、100sの差です。ただ、お客様に走らないと思われてはなりませんから、初期の出だしは、「走る!」という体感が得られるようなセッティングにしています。
鈴木:アクセルを操作したとき、どれだけ出力を出すかという部分のチューニングですね。
水澗:「プリウス」は、燃費重視で、アクセルを相当に踏み込まないと走っていかないようになっています。その特性をそのまま持ってくると、旧型の「ノア」や「ヴォクシー」から乗り換えられたお客様には「なんだよ、このかったるいクルマ!」となってしまうでしょう。そういう使いにくさがないように、出だしのところで、少しモーターを使って、トルク感を得られるように味付けをしています。
鈴木:それ以外にも、モーターで走るシーンが多いなという印象でした。
水澗:なぜそう感じられるかというと、パッと車速が乗るものですから、巡航でアクセルオフにするとモーター駆動になりやすいんですよ。そのほうが、結果的に速いし、燃費もいいんですね。ゆっくりEVで走っていくよりも、そういうほうが実用燃費はいいんです。結果的な側面もありますが、タウンユースの実用燃費は期待以上に出るのではないかと思います。いっぽうで、絶対的な出力は変わっていません。出だしに使っていますので、高速での伸びは悪いです。
鈴木:なるほど。でも、中間加速はトルク感があっていいなと思いました。
水澗:乗られた方から、そういう声をいただくことが多いですね。すでに先週くらいからデリバリーが始まった中で、価格.comのクチコミを見たところ、「プリウスα」から乗り換えた方が、「プリウスαより走る!」と驚いているコメントがありましたね。価格.comの掲示板は、直直に書いてくれる人が多いので、実は毎日チェックしているんですよ(笑)。
鈴木:ところで、プリクラッシュ・ブレーキ(衝突被害軽減自動ブレーキ)がオプションにも設定されていないのは、どういう理由ですか?
水澗:もともとトヨタは、死亡事故低減にプライオリティを置いていて、高速でのプリクラッシュに力を入れていました。いっぽうで、低速衝突に対する自動ブレーキは、普及型の開発が遅れていますので、無理にヘンなものをつけるよりも、本当に信頼性が高くて、性能のよいものをトヨタ全体でしっかりと作って、それからつけようという考えです。
鈴木:じゃあ、今まさに開発中であると? どこかのタイミングで装備するということですか?
水澗:そうしたいと思っています。
鈴木:今回の「ノア」と「ヴォクシー」は、ウェルキャブ仕様にずいぶんと力が入っているようですけね。これはどういう考えなのですか?
川口:もともとウェルキャブは、「ハイエース」をベースにしたものが圧倒的に多いのですが、乗用車系では「ノア」と「ヴォクシー」が売れているんですよ。スロープを装備していてクルマ椅子が載せられるし、さまざまなバリエーションのシートをそろえているというのもあります。「ノア」と「ヴォクシー」は、これまでもウェルキャブにおいて非常に重要なクルマだったんです。
通常、ウェルキャブの開発は、本体の開発よりも少し遅れて、「このクルマをどう使おうかな?」というように進めてきました。でも、今回は、ほぼ同時期にスタートして、「こういう企画をウェルキャブでやりたいので、標準のほうに折り込んでおいてよ」という進め方を採用しています。たとえば、細かい話ですけれど、「内装のトリムのカップホルダーの位置は、車椅子が通るときに当たるので、逃げておいてね」とか。バックドアのトリムがちょっと凹んでいるのも、車椅子を搭載したときに、車椅子のハンドルがバックドアに当たらないようにするためのものなんです。
そういう細かい部分を最初から考慮して作りました。「ノア」と「ヴォクシー」は、トヨタ車体で作っているんですけれど、これまでは、いったん出来た車体を別の工場に移して改造するというやりかただったんです。でも、今回は、ひとつの工場の中で全部を作り終えてしまおうというやり方にしました。トヨタ車体はもともと福祉車両であるウェルキャブに理解のある会社ですが、今回は、さらにメーカーとして、標準車なみのことをやってきました。
鈴木:なるほど。ウェルキャブは、今後、ますます必要性が高まるクルマですからね。
ウェルキャブ仕様には、荷室部分にスロープ装備して車椅子が格納できる車椅子仕様車や、助手席リフトアップシート車、サイドリフトアップシート車
車椅子から運転席への移乗をサポートし、車椅子を電動で格納できるフレンドマチック取付用専用車などがラインアップされる
鈴木:最後に、何か言いそびれたことはありますか?
川口:私は、デザイナーではないのですが、今回の開発ではデザインの旗振りをしていました。このクルマは5ナンバーとして寸法に制約がありますから、かなりデザインに無理がありました。非常に少ない自由度の中で、これだけエモーショナルなデザインの、しかも4種類の顔を作るというのは本当に大変なことです。でも、その中でも、しっかりと先代モデル以上に差別化もできたと思います。
鈴木:思ったよりも、デザインするためのスペースって少ないんですよね。
川口:全長を100mm伸ばしたといっても、デザインのために伸ばしたのではないので、意匠のためのスペースはありません。パッケージで全部使ったので。そういう意味で大変でした。
水澗:私は室内の後席スペースをできるだけ広くしようとがんばりましたが、単なる寸法勝負にしたくはなかったんです。その広さをお客様がどう使うかを考えました。たとえば、2列目シートのロングスライドはぜひともやりたかったこと。こういうクルマのバックドアって、実際のスーパーの駐車場では開けるスペースがなかったりするんですよね。そんな時、買い物してきた荷物をどこに載せるかというと、スライドドアを開けてシートに乗せるんですよ。でも、載せた荷物がシートの上から床に落ちちゃったりして……。そこで、スライドドアを開けたときにすごく広いフロアがあれば、そこに荷物を置けますよね。ロングスライドのシートは、足を投げ出すだけでなく、そういった荷物を置いたり、子どもが着替えたり、ペットが座ったりと、さまざまな用途に使えるユーティリティスペースとして、提案したかったんですね。
また、低床にすると、バックドアが大きくなるし、開口に必要なワークスペースも大きくなる。さらに、バックドアが立ってヒンジが大きくなると、よけいオーバーハングが大きくなる。それを解消するために、今回はトヨタでは初めてとなる大型のアームヒンジを使っています。一般的な家庭の駐車場に止めたときにバックドアが開かなくなることがないようにと。室内が広くなったけど、使いにくくなったとならないように、いろいろ気を配っているんですよ。