“弾丸”試乗レポート

高い質感を備えたマイルドなWRX「インプレッサSPORT HYBRID」レポート

スバルのブランドの方向性を考えてエコカーではない道を目指した

続いては、インプレッサSPORT HYBRIDの開発のリーダーを務めた高津氏に話を聞くことができた。インタビュー形式で紹介しよう。

高津益夫氏 スバル商品企画本部 プロジェクトゼネラルマネージャー。1983年入社。サスペンションやシャシー系の設計実験畑を歩む。現行のWRXのプロジェクトゼネラルマネージャーも担当。その後はインプレッサ系全体を見ることになり、その最初のモデルがインプレッサSPORT HYBRIDとなった

鈴木:本来的に「ハイブリッドといえばエコカー」というイメージが強いのですけれど、インプレッサSPORT HYBRIDは、スポーツカーテイストが強いですね。その理由は?

高津:スバルブランドは「安心と愉しさ」を提供価値としています。そのブランドに沿ってハイブリッドのクルマを作ると、こうなりますということだと思います。走りの安心感とか安定性、楽しさ、ハンドリングの気持ちよさとか。そういうところをスポイルして、あえて燃費に振るというクルマ作りは、ブランドの方向とは違うかなと思っているので。

鈴木:燃費に有利なFFにするという考えはなかったのですか?

高津:まったく考えてないですね。

鈴木:それはAWDが、スバルの走りの安心と愉しさの大切なキーワードであると?

高津:そうです。やはり、私どもが持っているハイブリッドシステムは、運転の楽しさみたいなものにうまくマッチングするようになっています。モーターも、そんなに大きなものを積んでいませんし、バッテリーもそんなに大きくはない。ハイブリッドですから、もちろん、最低、燃費のところはやりますけれども、必要以上に燃費を攻めません。むしろ、ハイブリッドシステムを使って、気持ちよい乗り味とか、運転のしやすさみたいなところを高めていくのが、スバルらしいハイブリッドの使い方かなと思います。今は他にも、たくさんハイブリッド車がありますけれども、そういうところをスバルの特徴にしていきたいなと思います。

スバルらしい走りや乗り味を生かすためにハイブリッドシステムを活用している

鈴木:そうなると、インプレッサシリーズの中で、このハイブリッドの位置づけは?

高津:シリーズの中で、一番、上質なインプレッサということになるのではないでしょうか。乗り心地も静粛性も、一番上質になっているんじゃないかと。エコカーというよりも、走りの気持ちよさや快適性を上げたインプレッサ。そんな商品と捉えていただくことがいいのかなと。

鈴木:確かに、そういうイメージが実感できました。ある意味、WRXが過剰だと思う客さんには、これがいいのかなと。狙ったユーザー像もそんな感じだったのですか?

高津:あくまでもお客様が描いていただく世界観は、今までのインプレッサと同じです。ターゲットも特に変えたわけではありません。インプレッサの世界観をお買い求めたいというお客様をイメージして作っています。クルマを、日常のアクティブライフのよきパートナーと位置づけているお客様です。それがWRXになると、スポーツドライビングとなります。でも、インプレッサはそうじゃない。非日常ではなくて、普段ある日常の世界の中で、気持ちのよい相棒みたいなものをイメージしています。

レースやサーキットといった非日常ではなく、日常生活をアクティブに楽しむためのパートナーとしてキャラクターが設定されている

制御項目が多いハイブリッドのため、アイサイトは旧バージョンに

鈴木:ちなみに、アイサイトが最新バージョンではないのは、どういう理由ですか?

高津:ハイブリッドの場合、ガソリン車に比べて、いろいろ制御適合する範囲が広いんですね。ガソリンエンジン車であれば、エンジンだけやればいいんですけれど、ハイブリッドは、ガソリンエンジンともやりますし、モーターともやらなくちゃいけない。組み合わせる要素がかなり広がっています。そのためガソリン車以上に手間がかかります。手間をかければできますけれど、そうやって開発コストをかけて販価に上乗せされちゃうよりも、アイサイト(ver.2)でも、十分、世にあるほかのプリクラッシュブレーキに対してまだまだアドバンテージがあると思っています。であれば、リーズナブルな価格で出したほうが、お客様にとってもよい選択になるんじゃないかなと思っていました。

鈴木:時間をかければできるとも取れますね。ならば、どこかのタイミングでバージョンアップすることはあるのですか?

高津:いつとは言えませんが、そういう方向に進んでいくと思います。ただ、アイサイト(ver.2)でも、ハイブリッドにはガソリン車にはついていない特別な制御もあります。追従クルーズコントロールを使っているときに、エコCというボタンを押すと、よりEV走行が増えます。アクセルコントロールだと、エンジンが始動してしまうところも、EVで粘らせます。ハイブリッドならではの協調制御です。そういったところは、ガソリンのアイサイト(ver.3)よりも賢いくらいなんですよ。

静粛性や乗り心地など、インプレッサシリーズの中でもっとも上等に仕上がっている

WRXの技術は足回りを中心に採用されている

鈴木:ところで、インプレッサSPORT HYBRIDにはWRXの技術を数多く採用したと聞きましたが、具体的にはどういうところでしょうか?

高津:我々、スバルとしては、クルマが手足の延長になったような、そういったコントロール性、操縦性を作り上げたいと考えています。これはどのモデルでも同じで、一貫性を持って、お話していることです。それを実現するためには、人間の操作に対する遅れは「悪」なんです。でも、どんなクルマもハンドルを切ったら瞬時に動くわけじゃない。ほんの若干のラグを持って動き始めます。そのラグをできるだけ小さくしたいと、サスペンションの横剛性を上げています。ブッシュはWRXほどではありませんが、固いものを入れています。要になるクロスメンバーは、WRX用に開発した剛性の高いものをそのまま使っております。

リヤサスペンションのジオメトリーはWRXと同じ

鈴木:つまり、インプレッサSPORT HYBRIDはパワートレインだけでなく、足回りも見直したということですね。

高津:リヤがきっちとグリップしていることも大事ですね。“滑りそう”“スピンしそう”という不安感を感じさせない、安心感のあるリヤのグリップ。それとタイヤのコーナリングパワーをしっかりと引き出すためのサスペンションのジオメトリーが必要です。インプレッサSPORT HYBRIDでは、WRXのリヤサスと同じジオメトリーにしています。コーナリングでクルマがロールすると外側の車輪がバンプ(縮む)しますけど、そのときにトーインがつくようなジオメトリーです。どんなクルマもだいたい弱トーインなんですけれど、その中でも、WRX系は少しトーインを多めにつけているんですね。そのジオメトリーをインプレッサSPORT HYBRIDにも採用しています。

鈴木:そういうものがあるのでWRXに通じる感じになるのですね。めちゃくちゃ速いわけではないけれど、スバルのスポーツカーの乗り味の入口が味わえるということですね。
高津:日常の中で、普通の走りの中でのスポーティな気持ちよさは、十分にインプレッサSPORT HYBRIDでも感じていただけますし。さらに攻め込んで限界領域までというのであれば、WRXで楽しんでいただきたいなと思います。

日常の中で感じられるスポーティさ、乗り心地や静かさといった上質さでほかのインプレッサとは異なるキャラクターを備えているのが魅力だ

鈴木ケンイチ
Writer
鈴木ケンイチ
新車のレビューからEVなどの最先端技術、開発者インタビュー、ユーザー取材まで幅広く行うAJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員。
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田中 巧(編集部)
Editor
田中 巧(編集部)
通信を中心にしたIT系を主に担当。Androidを中心にしたスマートデバイスおよび、モバイルバッテリーを含む周辺機器には特に注力している。
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