3分でわかる自動車最新トレンド
自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

復活傾向のスポーツカーに時代が求めるクルマの姿はない!?

自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する新連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載3回目は、昨今復活のきざしがあるスポーツカーを取り上げる。東京モーターショー2015では、マツダの「RX-VISION」やホンダ「NSX」などが、注目度を誇っていたが、市場や社会的ニーズはそこにどれだけあるのか? モータージャーナリストの森口将之氏が考察する。

オープン2座のスポーツカーの争いとなった、昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤー

昨年の日本カー・オブ・ザ・イヤー(以下、COTY)は、マツダ「ロードスター」とホンダ「S660」という、オープンボディの2人乗りスポーツカーの争いになり、ロードスターが受賞した。この結果について、皆さんはどう思っているだろうか。ロードスターの受賞は妥当、S660のほうがふさわしいという意見のほかに、スポーツカーがトップになるのはおかしいと思っている人もいるだろう。

それを示すようなデータが、このWebサイトにある。筆者は価格.comの自動車カテゴリーで「プロフェッショナルレビュー」を書かせていただいている。その際に過去のレビューの「参考になった」数字もチェックするのだが、数字が多いのは国産のコンパクトカーや軽自動車で、スポーツカーは下位に沈んでいる。

2015年のCOTYを受賞したロードスター。俊敏なハンドリングや徹底した軽量化など、ライトウェイトスポーツの本質を追及した1台といえよう

COTYの次点となったS660。いずれも手ごろなスポーツカーとして魅力は高い

COTYの次点となったS660。いずれも手ごろなスポーツカーとして魅力は高い

価格.comを見ているのはクルマ好きだけではなく、幅広いユーザーであるはずだ。だからこの数字はユーザーの生の声として信用に足ると思っている。

なのに、自動車雑誌ではスポーツカーを取り上げることが多い。これには別の理由があると考えている。メディアにはエンターテインメント的側面もある。テレビで言えばニュース番組も音楽番組もアリだ。自動車雑誌はクルマ好きにターゲットを絞っているから、趣味的なスポーツカーの記事が多くなるのは当然である。

ただしそういった場で執筆する、自分を含めたモータージャーナリストは、すべてのジャンルを公平に扱うべきだ。なので、筆者の場合、COTYはスズキ「アルト」に10点を与え、ロードスターは6点、S660は5点とした。ちなみにCOTYの投票は、持ち点25点を5台に分け与え、もっとも高く評価したクルマに10点を与えるというルールなので、1位と2位以下の点数に差がついてしまうのは仕方がない。

参考までに、1964年に始まったCOTYの先輩格であるヨーロッパのカー・オブ・ザ・イヤーで、スポーツカーが受賞したのは1978年のポルシェ928だけだ。妥当なジャッジだと思っている。

1978年にヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞した唯一のスポーツカーであるポルシェ「928」。当時としては先進的な設計で、登場後20年発売され続けた

今や、速さやスポーティさは、いくつもあるクルマの評価軸のひとつにすぎない

スポーツカーの歴史は古い。自動車が実用化されて間もなくレースが始まり、レース用のクルマが作られた。これがスポーツカーのルーツだ。当時はスポーツカー=レーシングカーだったのだ。その後レースのルールが厳しくなり、競争が激しくなったので、レーシングカーの専用化が進んでいった。

この頃のクルマは手作りだったので超高価であり、富裕層のための遊び道具だった。でもその後、量産化に成功して一般市民に手が届く存在になると、人々はクルマの便利さや快適さに注目した。そこでセダンやワゴンが生まれ、第二次世界大戦後になるとライフスタイルの多様化によって、ハッチバック、ミニバン、SUVが登場した。

速いクルマ、楽しいクルマを好む考え方が、昔からあるクルマの評価軸であることがわかろう。でもその後、さまざまなジャンルのクルマが登場し、人々がクルマを選ぶ基準もデザイン、価格、乗り心地、使い勝手、燃費など多様化してきた。そんな中で、2人しか乗れず幌屋根のロードスターやS660をベストとすることは、筆者にはできなかった。

ただこの2台、サーキットや山道で飛ばさなくても走る楽しさが味わえ、多くの人に手が届く価格で販売されていることは評価したい。対照的なのが最高出力500ps以上、最高速度300q/hレベルのスーパーカーで、筆者レベルの人間が公道で頑張ったぐらいでは何も起こらず、かえって欲求不満になってしまう。付加価値を上げるための高性能ではないかとうがった見方をしてしまう。

世界的に見ると、スーパースポーツ、スーパーカーはかつてないほどラインアップは豊富。憧れの対象だが、走る楽しさを味わうまでの道のりは購入とは別の意味で険しい

スポーツカーは趣味の対象。クルマ離れの処方箋になった時代は過去のもの

クラシックカーが注目されているのは、その反動という見方もできる。たとえば1961年に発表されたジャガー「Eタイプ」は、当時のスポーツカーでは屈指の高性能車で、排気量は3.8ℓと大きかったが、最高出力は265ps、最高速度は240q/hだった。ボディサイズは長さも幅も日本の5ナンバー枠に収まっていた。筆者も写真の車両を運転したことがあるが、感覚的には現在の2ℓターボ級の性能であり、日本の一般道でも存分にその魅力を堪能できた。

半世紀以上前に登場したEタイプ。優美なデザインには定評があるが、サイズや手ごろなパワーで、今でも日本の一般道で魅力を堪能できる

地球環境や交通事故などが問題になっている状況を含めて考えれば、速いことはすばらしいという価値観にそろそろ終止符を打つべきであろう。そしてクルマは商品である以上、価格も性能の一部であるという認識で評価したいものである。

若者のクルマ離れというフレーズをよく聞く。その原因のひとつに、一部のクルマ好きによるスポーツカー至上主義が影響しているのではないかと案じてしまう。スポーツカーに興味はないがクルマは欲しいという人は多い。前に書いたように、現代人がクルマに興味を持つ理由が多様化しているからで、クルマ好き=スポーツカー好きではない。だから無理にクルマ好きの趣味趣向を押し付けず、逆にクルマを好きになってくれたことに感謝するぐらいの気持ちで接したいものだ。

大学生に未来のクルマを考えてもらうと、車内でダンスをしたり、雑談をしたり、マシンではなくスペースとして考えるアイディアが多く出てくる。彼らは速さを求めていない。だから電気自動車や自動運転車にもスッと入り込める。昨年のグッドデザイン賞の大賞に輝いたのは、30代前後の若者が中心となって立ち上げた「WHILL」という会社のパーソナルモビリティだった。筆者は審査委員のひとりとしてWHILLが頂点に駆け上がっていく様子を眺めながら、時代の変化を実感した。

若者の間では、クリスマスよりもハロウィンに人気がある。クリスマスの過ごし方は、恋人といっしょに高級レストランで食事という理想形が決まっていて、それに近づくために頑張るというピラミッド型だった。でも今の若い人たちの多くは、頂点を目指して頑張ることにはあまり興味がない。だから自由に自分らしさを表現できるプラットフォーム型のハロウィンが人気なのではないか。この考え方、そのまま昔と今のクルマ趣味の状況に当てはまるような気がする。

グッドデザイン賞の大賞を受賞したパーソナルモビリティのWHILLは、若いスタッフが立ち上げたプロジェクト。乗り物に求めるものの多様さを象徴している

時代が求めるのは、カッコよく運転して楽しい実用車

筆者も一度だけ、フランスの「マトラ」というスポーツカーを所有したことがある。ミッドシップエンジンでリトラクタブルヘッドライトという、ミニスーパーカーのような姿をした、横一列の3人乗りだった。でも個人で仕事を始めることになって、不便さが目立つようになったので売却した。その後は今に至るまで、スポーツカーを持ちたいと思ったことはない。

筆者はクルマより先にオートバイの免許を取って、現在も2台の二輪車を所有する身であることも大きい。個人的には、操る楽しさではオートバイはクルマのはるかに上を行くと信じている。だから操縦という趣味の部分はオートバイに任せて、クルマは移動体としてのすばらしさを堪能するパートナーという分担にしているのだ。

ミッドシップエンジンで、横に3個並んだシートが特徴のフランス製スポーツカー「タルボ・マトラ・ムレーナ」

日本には、昨年COTYを争ったロードスターとS660以外にも、日産「フェアレディZ」、ダイハツ「コペン」といったスポーツカーがあり、今年はホンダ「NSX」が加わる予定だ。4人乗りではあるが、トヨタ「86」とスバル「BRZ」、レクサス「RCF」、そして日産「GT-R」もスポーツカーに近い存在といっていいだろう。

これだけスポーツカーがあれば十分だ。それよりも今の日本の自動車シーンに本当に必要なのは、使いやすくて燃費がよくて価格もお手頃なクルマが、カッコよくて運転して楽しいことではないだろうか。

ヨーロッパにはこういうクルマが数多くある。だから若者のクルマ離れがそれほど進んでいないのではないかと想像する。対する日本は少し前まで、そのような車種があまりなかった。クルマ好きの声に応えてスポーツカーを送り出すいっぽうで、実用車は価格と燃費を追求するという二極化が進んでいた。

でも最近になって状況が変わってきた。一昨年に登場したマツダ「デミオ」、そして昨年のアルトなど、使いやすくて燃費がよく、お求めやすい価格でありながら、魅力的なデザインを備え、見ても乗っても楽しいクルマが増えてきた。

ちなみにこの2台、一昨年と昨年のCOTYで、筆者が10点満点を入れた車種でもある。若者が最初のクルマとして買うにも敷居は高くないし、買い物や旅行など日々の生活の中で便利さ快適さを体験しながら、運転の喜びも味わえるからだ。

クルマはスマートフォンに負けない、マルチタスクなモバイルツールである。だからデザインや走りを含めて、いろいろな部分で喜びを味わえる実用車をメーカーにどんどん出してほしいと願っている。

没個性的になりやすい軽自動車だが、埋没しないデザインを盛り込んだアルト。魅力ある意欲的なデザインと実用車の組み合わせがクルマの未来を広げるはずだ

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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