ハイボールブームやNHKの朝ドラ「マッサン」の影響などで、すっかり定番のお酒となったウイスキー。先日は、サントリーの「響17年」と「白州12年」が人気増加による原酒不足のため販売休止と報道されるなど、その人気は衰えを知りません。ただ、いざ高級ウイスキーを購入するとなるとどれを選べばいいのか迷ってしまうという人も多いのではないでしょうか。
ウイスキーの世界的な生産地として知られているのは、スコットランド、アメリカ、日本、アイルランド、カナダの5か国。各国で作られるウイスキーは、「スコッチウイスキー」「アメリカンウイスキー(ほとんどがバーボン)」「ジャパニーズウイスキー」「アイリッシュウイスキー」「カナディアンウイスキー」と言い、これらは世界の「5大ウイスキー」とも呼ばれています。
各産地のウイスキーには大まかな味の特徴はありますが、それぞれ銘柄も非常に多いため、確かにその中から1本を選び抜くのはなかなか至難の業。そこで、人気の酒販店「目白田中屋」の店長であり、世界中5000種類以上のウイスキーを飲んだという賢人・栗林幸吉(こうきち)さんに協力を要請。世界5大ウイスキーからそれぞれ、今買うべき、「デイリーウイスキー」と「贈り物」に最適な銘柄を教えてもらいました。
栗林さんは、2016年に書籍「ウイスキー案内」を監修するなど、業界の超有名人。海外へも頻繁に訪れており、テレビ番組「クレイジージャーニー」では蒸溜所訪問の様子が放映されたことも
また、各産地のウイスキーが持つ味の特徴も教えてもらったので、参考にしてみてください。ということで、ウイスキーの王様「スコッチ」の銘柄から紹介していきます。
栗林さんが選りすぐった9本がズラリと並ぶ
「スコッチウイスキー」は、イギリスの最北端に位置するスコットランド地方で作られるウイスキーの総称で、5大ウイスキーの中で最も知名度が高いジャンル。麦芽の乾燥時にたかれるピート(泥炭)のスモーキーな香りが最大の特徴です。
「ある意味、個性のかたまり。蒸溜所の環境が味に色濃く反映されるシングルモルトは奥深い魅力にあふれていて、僕はワインに次ぐ味の幅広さを持っていると思います。いっぽうで、よりブレンダーの腕に左右されるブレンドデッドモルトは、アートと言える産物。この面白さもスコッチの魅力でしょう。より個性を楽しむには、なるべくストレートやロックから飲むのがオススメですね。ほかには、加水して香りを開かせるトワイスアップという飲み方もいいでしょう」(栗林さん)
「ザ・グレンリベット 12年」
「ザ・グレンリベット 12年」は、繊細かつ複雑な味わいが特徴で、これはポットスチル(蒸溜器)の高さと幅に由来するものです。また、マザーウォーターのミネラル分が豊富なことも、独特のフレーバーに寄与しています。
栗林さんのレコメンドコメント
「『すべてのシングルモルトの原点』と言われているのが『ザ・グレンリベット』。その理由はひとつに、ゆるぎない信頼感ですね。蒸溜所が創立して200年近く経っていますが常にトップランナーであり続ける、まさに王様。和菓子でたとえるなら『とらや』や『たねや』のような老舗の貫禄があるんです。味の特徴はとにかくバランスがいいこと。この味を、全ウイスキーの真ん中に置いて考えるといいでしょう。そのうえで、もっとフルーティーな味がいいとか、スモーキーな香りがいいとかで選んでいけばいいと思いますよ」
「ラガヴーリン 16年」
「ラガヴーリン 16年」は、独特のピート香が特徴的な、アイラ島産ウイスキーの傑作。複雑かつ豊かな香味で、多くの愛好家からアイラモルトの決定版と評価されています。ややウッディーな海塩の味わいが続き、長く上品なスモーキーフレーバーの余韻も魅力です。
栗林さんのレコメンドコメント
「16年以上熟成された年月が生み出す重厚なモルトの味わいと、それに負けない個性的な香り。寝かせたぶんだけ特徴が出る、シングルモルトの醍醐味がはっきりと表れた1本です。それでいて、手が届かない価格ではないですし。むしろ値ごろだと思いますよ。アイラモルトなので個性は強いですが、もしこの香りが好きな人であれば、ぜひプレゼントでも挑戦いただきたいですね。『ラガヴーリン』っていう名前もカッコイイですし(笑)」
「アメリカンウイスキー」は、トウモロコシやライ麦、麦芽などさまざまな穀物が原料に使われ、主原料の割合によってバーボン、コーン、ライ、モルトと多様に分類されます。その多くが、内側を焦がした新しい樽で熟成されており、ライトながら華やかな味わいが特徴です。
「製法からしてダイナミックなんです。甘みの強いコーンを使い、気温差の激しい環境で作ったうえで新樽に寝かせるわけですから。磨くというより鍛えて生み出される、そんなイメージですかね。フードペアリングを考えたときに、肉に合うウイスキーといえばアメリカンだと思います。なので、肉食の人に特にオススメですね」(栗林さん)
「エヴァン・ウィリアムス 12年」
「エヴァン・ウィリアムス 12年」は、1783年にケンタッキー州ルイヴィルで、ライムストーン(石灰岩)からわき出る水を発見し、最初にトウモロコシを原料としたウイスキーを作ったとされる人物、エヴァン・ウィリアムスにちなんで名前が付けられたブランド。50.5度という高いアルコールから醸し出される、パンチの効いた味わいが特徴です。
栗林さんのレコメンドコメント
「バーボンのド定番のひとつ。見た目からしてずっと変わらない、このスクエアボトルがいいじゃないですか。“いにしえのバーボン”! 価格がそこまで高くないのに贅沢な熟成感を楽しめて、キャラメル系の香味を持った王道的バーボンとも言える味わいです。ストレートやロックで、まったりちびちびと飲むのが好きですね」
「ブラントン 46.5度」
「ブラントン 46.5度」は、貯蔵庫で長い眠りの時を過ごした原酒を、ひと樽ごとに厳格にテイスティングし、その中から熟成のピークを迎えたものだけをボトリング。時間と手間を惜しまずに作られた、芳醇で濃密な味わいが特徴です。
栗林さんのレコメンドコメント
「見てください、プレゼントに喜ばれること間違いなしの美しさ! ボトル先端のオブジェですが、実は8タイプあるんです。こういう遊び心もニクいですよね。うちのお店でもプレゼント用に買っていかれるお客様が多いです。味わいは、バーボンらしい甘さや強さがありながらも、苦さはなくて好バランス。余韻の伸びも、豊かできれいなスパイシーさが心地よく、バーボンが苦手な人でも飲みやすいと思いますよ。これも、飲むならストレートやロックがいいでしょう」
「ブラントン」のキャップ。栗林さんのおっしゃる通り、よく見るとデザインが違います
「ジャパニーズウイスキー」は、サントリーの創業者・鳥井信治郎氏と、ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝氏によって礎が築かれた日本産のウイスキー。スコッチウイスキーを手本にしているため、原材料や製法はスコットランドと基本的に同じですが、スモーキーフレーバーは日本人の嗜好に合わせて抑えられ、穏やかでまろやかに仕上げられている銘柄が多め。原酒の熟成に使用する樽の素材に、国産のミズナラを使用することがあるのも特徴のひとつです。
「近年は世界的に評価が高まっていますよね。『響 17年』が休止になったのも、『響 21年』が世界一(※)になったことが影響していると思います。ジャパニーズの特徴をわかりやすくたとえるなら、トヨタ車。ロールスロイスだと重厚感がありすぎて、人を選ぶじゃないですか。でもトヨタ車は人を選ばないし、運転しやすい。それでいて性能が高くて壊れない。ジャパニーズウイスキーも飛び抜けた個性こそないものの、誰が飲んでもしっかりおいしい。剛速球や極端な変化球はないけれど、コントロールがよくてストライクゾーンにしっかり狙ってくる、そんな優秀さが特徴だと思います」(栗林さん)
※:2017年7月、イギリスの世界的な酒類コンペティション「ISC」にて、「響21年」は最高賞「シュプリーム チャンピオン スピリット」を受賞
「ブラックニッカ ディープブレンド」
「ブラックニッカ ディープブレンド」は、ホワイトオークの新樽で熟成を重ねたモルト原酒と、樽熟成したカフェグレーン原酒を使用。新樽ならではのウッディーな香り、モルトのふくよかな香り、深くなめらかなコク、豊かで伸びのある甘い味わい……。そして心地よいピートの香りとビターな樽の余韻が続きます。
栗林さんのレコメンドコメント
「『ブラックニッカ』は居酒屋のハイボールなどでもよく飲まれていると思いますが、同じニッカでも、よりウイスキーとして楽しむならこちらがオススメです。モルトの濃さやスモーキーさもしっかりあって、この価格はリーズナブル。子供のころはコーヒーが苦くて飲めなかったけど、大人になって好きになる人っていっぱいいるじゃないですか。ウイスキーも似ていると思うんですよね。その入門に最適なのも『ディープブレンド』かな。お手ごろですが、ニッカのジャパニーズウイスキーとしての気概を感じる1本です。ハイボールはもちろん、ロックやストレートでも」
「イチローズモルト ワインウッドリザーブ」
「イチローズモルト ワインウッドリザーブ」は、赤ワイン熟成樽の空き樽をウイスキーの後熟に使用。フルーティーな風味に加え、ビターチョコレートやオレンジピールなどを感じさせる複雑な味わいが特徴です。
栗林さんのレコメンドコメント
「リッチなモルトの華やかさに甘やかなワインのニュアンスが加わった、なかなか珍しい味わいです。イチローズモルトのリーフシリーズは3種類あるんですが、この『ワインウッドリザーブ』が1番面白いと思いますね。3つの中ではキャラが際立っていますが、決して飲みにくくはありませんし、口当たりは素晴らしいです。赤いラベルも華やかで、特に贈り物にはオススメ。ストレートやロック、トワイスアップなどでどうぞ!」
「イチローズモルトのリーフシリーズの中でも、ウイスキー初心者には緑色ラベルの『ダブルディスティラリーズ』、逆にツウ好みなのが金色の『ミズナラウッドリザーブ』ですね」と栗林さん
「アイリッシュウイスキー」は、アイルランド島で作られるウイスキー。現在の主流は大麦をメインにライ麦、小麦などが補助材料で、蒸溜回数が多いためなめらかな味わいに。また基本的にピートで炊いた麦芽は使わないので、スモーキーさはありません。
「大サイズのポットスチルを使うことや、蒸溜を通常は2回のところ、3回行うのが伝統的なアイリッシュ。最近は2回の蒸溜所もありますけどね。あとは大麦麦芽のほかに未発芽の大麦も原材料として使うこともポイント。この独自の製法で磨き上げることで、麦のウマみを感じながらもスムースで伸びやかな、飲みやすい味になるのが特徴です。軽快とでも言いましょうか、駿馬が草原を駆け抜けるような、たくましくもライトなテイストですね」(栗林さん)
「ブッシュミルズ ブラックブッシュ」
「ブッシュミルズ」は、創業は1608年と言われ、これは現在操業中のアイリッシュウイスキー蒸溜所の中で最古の蒸溜所。伝統の3回蒸溜を守りつつも未発芽の麦は使用せず、ノンピート麦芽にこだわっています。「ブッシュミルズ ブラックブッシュ」は、オロロソシェリー樽とバーボン樽で最長7年長期熟成させたモルト原酒を80%以上使用し、少量生産のグレーンウイスキーとブレンド。シェリー樽熟成由来の熟した果実の香りと、重厚な味わいが特徴です。
栗林さんのレコメンドコメント
「シニア世代のロングセラーであり、アイリッシュの入門でもあります。誰もが飲める軽やかさが特徴。その中に、オロロソシェリーなどの樽熟成による、口当たりのまろやかさややさしい甘みもあります。樽で熟成するという面白さを、手ごろな価格でダイレクトに感じられる1本ですね。そのままでも、割ってもおいしく飲めますよ」
「レッドブレスト 12年」
「レッドブレスト 12年」は、大麦麦芽と未発芽の大麦を原料とし、昔ながらの銅製ポットスチルで3回蒸溜して作られる伝統的なアイリッシュ。豊かでクリーミーな口当たり、オロロソシェリー樽由来の重厚でドライフルーツのような風味が特徴です。
栗林さんのレコメンドコメント
「これぞアイリッシュと言える、まろやかで上品なアロマが際立つ1本。クリーミーさがあって、ウッディーなトーストの香りや、果物を焼いたようなジューシーなフレーバーも。何とも複雑な香味ですが、余韻が伸びやかで贅沢さを感じさせてくれるおいしさですね。ストレートやロック、トワイスアップがオススメです」
「カナディアンウイスキー」は、ライ麦を主原料とする穏やかな香りのフレーバーリングウイスキーと、トウモロコシを主原料とし、クリーンに蒸溜したベースウイスキーをブレンド。軽やかな味わいや繊細な香りが特徴です。
「偉大なるライトスムースと言える、軽やかでキレのいい味わい。アイリッシュも軽快ですが、カナディアンは原材料の味に引っ張られすぎないやさしさがあります。たとえるなら、アイリッシュが麦焼酎だとしたらカナディアンは黒糖焼酎。コーンに由来する甘味もあって、スウィートなカクテルによく合うのも特徴です。ただ、贈り物に適した銘柄はないと思うので、今回はあげていません」(栗林さん)
「カナディアンクラブ」
「カナディアンクラブ」は、「C.C.」の愛称で親しまれているカナディアンウイスキーの代表格。冬の寒さが厳しいカナダで6年以上寝かされたすっきりとした味わいは、クセがなくて飲みやすいのが特徴です。
栗林さんのレコメンドコメント
「『カナディアンと言えばいえばこれ!』と言えるド定番ですが、やっぱり外せません。味わいにはバニラを感じさせる甘みと、ほんのりフローラルなニュアンスがあって上品。それでいて余韻は控えめなので、ほかの素材とケンカすることがなく、カクテルとも相性がいいんです。ハイボールにするのもオススメですよ」
今回紹介した9本のウイスキーは、「ブラックニッカ ディープブレンド」以外は栗林さんが勤める「目白田中屋」で基本的に購入可能。スーパーでも入手できる有名な商品は、逆に同店には置いてないことも多いそうです。また、より栗林さんのことを知りたい人は、著書「ウイスキー案内」を読んでみるのもいいでしょう。
栗林さんが監修する「ウイスキー案内」(洋泉社/税込1,404円)
今回、デイリーと贈り物の2タイプに分けて紹介しました。特に、プレゼント用のラインアップは、6月17日の父の日にもってこい! ぜひご参考に。
【取材協力店舗】
「目白田中屋」
住所:東京都豊島区目白3-4-14
営業時間:11:00〜20:00
定休日:日曜日
「目白田中屋」は、2010年のWWA(ワールド・ウイスキー・アワード)で、単一小売店部門の世界最優秀小売店として認められた超名店。店内にはブランデー、ワイン、日本酒、ビール、リキュールなどさまざまなお酒が売られていますが、やはりウイスキーのラインアップはかなりのもの
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。