どこかで役立つかもしれない「文具トリビア」

「消しゴムといえばMONO」は東日本だけ!? 意外と奥深い「消しゴム」の古今東西

突然ですが、「消しゴム」を想像してみてください。……はい、思い浮かびましたか?

では、その消しゴムのスリーブ(消しゴムに巻いてある紙製のケース)はどんな色をしていますか? おそらく、大体の人が「青・白・黒」のストライプか、「水色」を想像したと思います。

つまり、これとこれですね。

トンボ鉛筆「MONO消しゴム」(写真左)と、SEED「Radar(レーダー)」(写真右)。日本人が「消しゴム」と聞いてイメージするのは、ほとんどがこの2つのはず

トンボ鉛筆「MONO消しゴム」(写真左)と、SEED「Radar(レーダー)」(写真右)。日本人が「消しゴム」と聞いてイメージするのは、ほとんどがこの2つのはず

そして、「青・白・黒」を思い浮かべた人の出身地は静岡県より東で、「水色」の人は静岡県より西の出身のはずです。

「消しゴムといえば?」で出身地がわかる!? 消しゴムの東西分断現象

「青・白・黒」のスリーブといえば、もちろんトンボ鉛筆の「MONO消しゴム」です。こちらを「日本を代表するザ・消しゴム」……だと思っている人は多いでしょう。しかし、実際は先にも述べたとおり、静岡より東に限定される話なんです。

たとえば、筆者を含む西日本出身にとっては、消しゴムといえばSEEDの「Radar(レーダー)」のこと。もちろん時期的な話もありますが、それは後述するとして。現在アラフィフ以上の人が小学生だったころは、そもそも関西で「MONO消しゴム」を見たことがない、なんてことも普通でした。

これに関しては問屋など流通の事情とか、製造上の問題だとかいろいろ表だって書けないこともあるんですが、ともかく「消しゴム」と聞いてイメージする色を尋ねれば、出身地が東側か西側かぐらいは大体わかるよ、というお話です。

あと、こういう話になると大抵「MONOとRadar、どっちがよく消える?」みたいな対決をさせたがる人がいるんですが、結論から言うと「性能はほぼ同じ」です。

消しゴムの消す能力は“消字率”という数値で表します。「MONO消しゴム」と「Radar」はともに消字率97%と超高レベル!

消しゴムの消す能力は“消字率”という数値で表します。「MONO消しゴム」と「Radar」はともに消字率97%と超高レベル!

ちなみに、先に「静岡より東」「静岡より西」なんて書き方をしましたが、じゃあその静岡はどうなん? と言いますと、静岡・山梨辺りは「MONO消しゴム」でも「Radar」でもない、ホシヤ「Keep消しゴム」という第3の勢力圏内だったりします。あと、例外的に東北・九州の一部も。

「Keep消しゴム」のスリーブは、黒地に「Keep」と入ったデザインなのですが、見たことありますでしょうか。

消しゴム界の密かな第3極こと「Keep消しゴム」(ホシヤ)。ちなみに、なぜ当時静岡・山梨でのみ売れていたかに関しては、メーカーでも「よくわかっていない」とのこと

消しゴム界の密かな第3極こと「Keep消しゴム」(ホシヤ)。ちなみに、なぜ当時静岡・山梨でのみ売れていたかに関しては、メーカーでも「よくわかっていない」とのこと

歴史的には「MONO消しゴム」や「Radar」とほぼ同時代の1970年ごろに登場したものですから、発売からすでに50年以上。「Keep消しゴム」も超ロングセラー消しゴムと言えるでしょう。少し硬めの消し味に根強いファンもいて、いまだに一部地域で売られ続けています。

消しゴム界の風雲児「まとまるくん」が日本の消しゴム界を統一!

そんな消しゴム東西分断(と独立KEEP地域)の勢力図が、1986年に突如としてガバッと大きく変わります。

それが、ヒノデワシ「まとまるくん」という革新勢力の登場でした。消しカスがやわらかく、くっついてまとまるという、従来製品になかった性質を持った消しゴムです。

1990年代には「これを知らない小学生なんか存在しない」とまで言われた「まとまるくん」(ヒノデワシ)

1990年代には「これを知らない小学生なんか存在しない」とまで言われた「まとまるくん」(ヒノデワシ)

それまでは、消しカスといえば、パッパッと手で机の下に払い落とすとか、紙の上に集めてゴミ箱に捨てるかとか、処理するのがちょっと面倒なものでした。それが「まとまるくん」の登場によって、コネコネとまとめてつまんで捨てられるようになったわけで、卓上の掃除がとても簡単になったのです。

消しカスが粉っぽくならずにまとまるので、あとはそれをつまんで捨てるだけ。床掃除がラクになるからと、「まとまるくん」を推奨した学習塾もあったとか

消しカスが粉っぽくならずにまとまるので、あとはそれをつまんで捨てるだけ。床掃除がラクになるからと、「まとまるくん」を推奨した学習塾もあったとか

消しゴムを最も使うのは小学生から高校生の世代ですが、彼らにとっては、勉強中の手すさびとして消しカスをコネコネするのが楽しいもの。そして親世代にとっても、子ども部屋の床に散った消しカスを掃除しなくてよくなるということで、積極的に「子どもに買い与えたい消しゴム」として認知されることになりました。

その結果、90年代の小学校では圧倒的「与党消しゴム」の座に。場所によっては、1クラス40人全員が「まとまるくん」を使っていた、なんてすさまじい話もあるほど。ぶっちゃけ、今のアラフォー、アラサーの人たちはひとまとめに「まとまるくん世代」と呼んでもいいぐらい、発売された1986年から2000年代なかばまでの約20年は「まとまるくん一強時代」でした。

使用環境に合わせて選ぶ「消しゴム多様化の時代」が到来

じゃあそれ以降、現代はどうなっているかというと、これはもう多様化の時代です。

そして2000年代以降は、消しゴムの機能が一気に多様化。それまでのような「圧倒的に強い消しゴム」は舞台から消えました

そして2000年代以降は、消しゴムの機能が一気に多様化。それまでのような「圧倒的に強い消しゴム」は舞台から消えました

じわじわと復権した「MONO消しゴム」や「Radar」に加えて、軽い力でなでるように消せるプラス「ダブルエアイン」や、力を入れてゴリゴリこすっても折れにくいサクラクレパス「アーチ消しゴム」といった機能派消しゴムが登場。これにより、消し味の選択肢が増えたことで、「消しゴム多様化の時代」が訪れました。

独特なスリーブ形状を採用した「アーチ消しゴム」(サクラクレパス)。消しゴムがグニャっとゆがむほど力を入れても折れにくいのが特徴です

独特なスリーブ形状を採用した「アーチ消しゴム」(サクラクレパス)。消しゴムがグニャっとゆがむほど力を入れても折れにくいのが特徴です

また、近年は、小学校入学時に用意するものとして「2Bの鉛筆」を指定されることが増えているのをご存じでしょうか。子どもの筆圧が低下傾向にあるため、かつてはHBやBだったものが、より濃いものに変わってきたようです。

使う鉛筆が変われば、当然ながら求められる消しゴムも変わるわけで、最近は濃い鉛筆が消しやすいよう、粘りけがあってやわらかい消しゴムが人気となっています。

実際に、Bや2Bで書いた濃い文字に対応する小学生用消しゴム「エアインキッズ」(プラス)を使ってみたところ、紙に残った黒鉛をより確実に吸着し、筆跡をキレイに消せました。

一般的な消し味の消しゴムと、濃い字対応「エアインキッズ」(プラス)の消字比較。濃い字対応のほうが、軽い力でよりきれいに消せました

一般的な消し味の消しゴムと、濃い字対応「エアインキッズ」(プラス)の消字比較。濃い字対応のほうが、軽い力でよりきれいに消せました

加えて、子どもが勉強する環境の変化も消しゴムに影響を与えています。学研教育総合研究所が2021年に実施した「小学生の日常生活・学習に関する調査」によると、全体の70%以上がリビングやダイニングで勉強しているのだとか。昨今では「リビング学習」「リビガク」なんて言葉もあるぐらいです。

そこでリビングの床を汚さないよう、消しカスを掃除しやすい消しゴムが改めて注目されているというわけ。つまりは、「まとまるくん」路線の進化型消しゴムですね。

一例として、消しゴムに鉄粉を練り込み、消しカスを磁石の力で集められるクツワ「磁ケシ」シリーズや、消しカスが消しゴムの先端にくっつくぺんてる「PentelAin(ぺんてるアイン)消しゴムくっつくタイプ」のような高機能消しゴムが次々と登場し、こちらもまた人気を集めています。

磁力で消しカスを集めて、そのままポイッとできる「磁ケシ」(クツワ)。砂鉄集めのような楽しさで、子どもが自主的にカスを片付ける! と話題になりました

磁力で消しカスを集めて、そのままポイッとできる「磁ケシ」(クツワ)。砂鉄集めのような楽しさで、子どもが自主的にカスを片付ける! と話題になりました

2023年発売の最新“消しカスがまとまってくれる系”「PentelAin消しゴム くっつくタイプ」(ぺんてる)。カスが消しゴム本体にくっつき、そのままつまんで捨てられるので、掃除がとても簡単です

2023年発売の最新“消しカスがまとまってくれる系”「PentelAin消しゴム くっつくタイプ」(ぺんてる)。カスが消しゴム本体にくっつき、そのままつまんで捨てられるので、掃除がとても簡単です

【まとめ】地味〜に進化している「消しゴム文化」の今後にも注目

ここまでの流れを整理すると、まず地域で売られていた消しゴムを何となく買っていたのが、やがて機能に注目するようになり、現在では使用環境に合わせて多様化された機能から選んで買うようになったと。単なる白いゴム(正確にはほとんどが塩ビ樹脂ですが)の塊でしかない消しゴムですが、こうした時代の変化があり、知らない間にも地味〜に進化しているんです。

正直なところ、今後どこまで子どもの勉強道具として「鉛筆+消しゴム」のコンビが残るかはわかりませんが……少なくともあと十数年ぐらいは続くんじゃないか、という予想はあるようです。その間に消しゴムはさらにどういう進化をしていくのか? 気になるところです。

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2022/07/05 11:00
きだてたく
Writer
きだてたく
最新の機能派文房具から雑貨・ファンシー系のオモシロ文房具まで、何でも徹底的に使い込んでレビューする文房具ライター。雑誌・WEBで文房具の最新情報や使いこなし記事を執筆するほか、文房具の楽しさを伝えるトークライブやワークショップなども全国各地で精力的に行う。最近は掃除機業界にも進出中!
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和田友梨(編集部)
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和田友梨(編集部)
万年筆、インク、紙を肴に飲む辛党ライター。チカチカ点滅するモニター画面や丸い押しボタン、ローレット加工を施したダイヤルなど、レトロチックなデザインにロマンを感じます。
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