突然ですが皆さん、ボールペンは何を使っていますか? 筆者は41年間生きてきて、ボールペンといえば「絶対ジェットストリーム派」。そう、世界でシリーズ累計年間1億本以上という脅威の販売本数を誇る、三菱鉛筆のヒット作「ジェットストリーム(JETSTREAM)」です。
「ジェットストリーム」を選ぶ理由は、それが“今のところ自分が字をいちばん上手に書けるボールペン”だから(言い切った!)。もちろん個人の主観ではありますが、誰かに「字がキレイだね」と褒められるときは、たいがい「ジェットストリーム」で書いている気がするんですよね。
「ジェットストリーム」のおかげで今日もキレイに書けた!(自画自賛)
しかし、なぜ「ジェットストリーム」だと字がキレイに書きやすいんだろう……? その秘密を知りたくて、今回は三菱鉛筆さんに突撃取材! 「ジェットストリーム」シリーズに込めるこだわりなんかを教えていただきました。
三菱鉛筆株式会社へ突撃!
ちなみに、先に結論から言っちゃうと、「なぜ字がキレイに書きやすいのか」に対する公式見解は出ませんでした。でも、「私の中でジェットストリームが優勝し続けている理由はコレなんだな」という、ひとつの答えは見えてきたんです。
今回お話をうかがったのは、下記の3人。
【写真中央】三菱鉛筆株式会社 商品開発部 商品第二グループ 次長 岡本達也さん
【写真右】同経営企画室 広報担当 課長 深沢直人さん
【写真左】同経営企画室 広報担当 係長 加賀美洋介さん
まずは、「ジェットストリーム」の誕生から軽く振り返っていただきました。
「『ジェットストリーム』が誕生したのは2006年。当時の開発担当者が、“従来型の油性ボールペンの書き味を変えよう”と思ったところからスタートしています」と、岡本さんは語ります。
「クセになる、なめらかな書き味」というキャッチコピー
ボールペンのインクは、大きく「水性」「油性」「ゲルインク」の3種類に分けられます。「ジェットストリーム」は油性に分類されますが、“低粘度化”しているのが大きな特徴。油性インクを低粘度化することで、それまでの油性インクにないスルスルと滑るような書き味を実現しました。
上が従来の油性インクのボールペン、下が「ジェットストリーム」で書いた文字です。「ジェットストリーム」のほうは、描線が途切れることなくスルッと書けています
聞くところによると、「最初から低粘度化を狙ったというよりは、従来の油性インクの書き味を軽くしたいという思いから始まり、結果として低粘度になったという感じです」とのこと。つまり、「それまでにない、新しいボールペンの書き味を生み出そう」という目標が先にあり、それを実現するアプローチのひとつがインクの低粘度化だったわけです。
もちろん、2006年の発売当初からいきなり売れたというわけではありませんでした。全国の文具店の店頭で試し書きイベントを実施するといった積極的なキャンペーンを行ったことで、徐々に「ジェットストリーム」の認知度がアップ。製品ラインアップを拡充して今にいたると言います。
「ジェットストリーム」の発売前、明らかにそれまでのボールペンと異なる書き味だったので、社内ではこれを「よい」とする意見もあれば、「書きにくい」という意見もありました。それがいくつかの種類を出していくにつれて、だんだん評価を獲得していったという感じですね
過去にない革新的なプロダクトが登場したとき、その先進性ゆえに肯定意見と否定意見で分かれるのはお約束。2006年当時、「ジェットストリーム」がそれまでのボールペンにない新しい書き味を実現した証左であり、画期的な製品であったことがよくわかります。
なお、「ジェットストリーム」シリーズ各種の開発にあたり、最終的な書き味は、開発者を中心に社内関係者が実際に使って決めるというアナログなやり方で決定しているそう。
表立って公表はできませんが、開発するうえで目安とする数値はもちろんあります。ペン先の摩擦係数を従来よりも低く設定しているとか、そういったことですね。ただ、最終的には実際の書き味を試して、いろいろな要素を組み合わせたなかで感じられる“心地よさ”とか、そういう感覚的なものが決め手になります
なるほど。つまり「ジェットストリーム」の持つ書き味には、数値化できる部分とできない部分があって、両者の要素が絶妙にからんで使う人の手になじんでいると……。実際に聞くと、なかなか奥深い話です。
さて、いよいよ本題です。どうして筆者は「ジェットストリーム」だと字がキレイに書ける(と思える)のか? 今回のインタビューを受けて、その理由に直結すると思われるポイントが3つありました。続いては、そこを深掘りしていきましょう。
上述のとおり、「ジェットストリーム」の最大の特徴は、滑らかな書き味を叶える低粘度油性インク。これのおかげで、力まずに筆記ができるのは、字をキレイに書ける大きな要素だと思います。そしてここで重要なのが、ペンの先端から粘度の低いインクが漏れないようにしている技術です。
そう、低粘度油性インクはサラサラしているので、従来のボールペンの機構だとペン先からインクが漏れ出てしまうのだそう。そこで「ジェットストリーム」には、ペン先のボールを後ろからバネで押すことで、インク流量を調整する機構が設けられています。
さらさらとした低粘度インクに対応するため、スプリングチップを内蔵。ペン先のボールを押さえることでインクの直流(ペン先からの漏れ出し)を防ぐ
「ジェットストリーム」は「ツインボール」機構も搭載。インクの逆流(ペン先方向へ逆らってインクが流れること)も防止します
つまり、ただ油性インクの粘度を低くしただけではなく、それを「ちゃんとボールペンとして使える」ように成り立たせる技術が搭載されているんですね。ユーザーとしてはまったく知らずに使っていましたが、実はこの小さなペンの中にすごいノウハウが詰まっているんだなあ……とじんわり感動します。
ここまでのお話で、「やっぱり字がキレイに書けると感じる理由は、低粘度油性インクなんだな」と筆者が思ってきたところで、岡本さんがおっしゃいました。
インクだけでなく、ペン自体のグリップ感も書き味を決める大事な要素です。したがって、その辺の組み合わせのバランスが、杉浦さんの手に合ったのではないでしょうか
確かに、ペン自体が持ちやすくないと字は書きづらいですよね。「ジェットストリーム」の特徴のひとつである、わずかにくびれた軸やクリップ形状が、筆者の手とペンの持ち方にハマったのは確実にあると思います。しかし、個人の手のサイズやペンの握り方は千差万別なので、ここは人によって意見が分かれるところかもしれません。
もはや、自分の手が「ジェットストリーム」に寄せた握り方になっている部分もあるのかな……と思いつつ
ただ、岡本さんによれば「いろいろなボールペンを使い比べたうえで、『ジェットストリーム』に帰ってくるお客さんは多いです」とのこと。現実に、一定数以上の人が「握りやすさ」を感じる形状であることは間違いないようです。この辺が「数値化はできない、アナログな書き心地のよさ」のひとつなのでしょう。
そして、書き味でもうひとつ大事なのが、ペン先の太さを決めるボール径。シリーズの代表ラインである「ジェットストリーム スタンダード」のボール径は、0.38mm、0.5mm、0.7mm、1.0mmの4種類。なお、筆者が個人的にいちばん愛用しているのは0.5mmです。実際のところ、現在、シリーズ全体で主要なサイズもやはり0.5mmだそう。
しかし、ひと昔前まで、ボールペンのボール径は0.7mmが主流でした。「ジェットストリーム」も、最初は0.7mmと1.0mmの2種類で発売されています。0.5mmがラインアップに加わったのは2008年のことで、数年かけて売り上げが伸びて0.7mmを抜き、今や主要サイズになっている状況だそうです。
上から2番目が0.7mm、3番目が0.5mmです。ボール径によって、字の仕上がりはかなり異なりますよね
つまり、世の中の多くの人にとって、実はボールペンは0.5mmが書きやすいサイズということなのでしょうか……?
いえ、0.5mmが主要なボール径になった原因ははっきりとはわかりませんが、ひとつの可能性として、時代の流れも大きいと思います。たとえば、2000年代以降、「Excel」などで作成した資料をプリントアウトして、そこに字を書き込むということが多くなりましたよね。つまり、小さめの文字を書く機会が増えていて、少し細めのボール径が求められるようになったのではないかとも思うのです
「Microsoft Office」が普及した2000年代以降、ビジネスシーンにおける資料は主に「Excel」や「Word」で作成され、それをプリントアウトした書類にペンで文字を書き込むシーンが増えたのは確かです。「ジェットストリーム」の0.5mmが売り上げを伸ばした背景には、そんな時代とのシンクロもあったのでは……というのは、かなり興味深いご意見でした。
まとめると、低粘度油性インクのサラサラな書き味は元より、それをボールペンとして成り立たせる「内部の機構」、手にしっくりくる物理的な「グリップ感」、そして実際にボールペンを使用する自分の「環境」。それらの要素がかっちりと組み合わさって、筆者の中で「ジェットストリームだと字がキレイに書ける」という結果になっているのだと思います。いやあ、深掘りしてみると面白いですね。
さて、そんな「ジェットストリーム」ですが、2024年3月に新たなラインが登場したのをご存じですか? 新開発のインク「JETSTREAM Lite touch ink(ジェットストリーム ライトタッチインク)」を搭載した「JETSTREAM シングル(Lite touch ink搭載)」です。最後にこれをご紹介して、本記事を締めくくりましょう。
「JETSTREAM シングル(Lite touch ink搭載)」。くすみカラーがかわいい
こちら、従来の低粘度油性インクよりさらに筆記抵抗を減らし、より軽やかな書き心地を実現した新インクを採用しているんです。2006年に「ジェットストリーム」が登場してから、低粘度油性インクそのものが大きくブラッシュアップされるのは今回が初めて。また、インクのボテや紙滑りなども改良されています。
つまり、「ジェットストリーム」史の中でもかなりエポックメイキングな新製品なのですが、実際に使ってみると……本当に字が書きやすい! 従来品よりさらに引っかかりが少なく、滑らかな書き味です。書き比べてみて、「こんなに変化がわかるものなんだ」とびっくりしました。
これから未来に向けて、「ジェットストリーム」の新しい定番になってほしいという願いを込めたデザインを採用しています
ボディのカラーリングは近年トレンドのくすみカラーで、軽やかさを感じられるトーン。軸の先端までラバーで覆われていて、グリップ感も良好です。なお、ボディのカラバリは0.5mmが11色(一部数量限定)、0.7mmが5色で展開
ノック棒には、筆記時の微細な振動や異音を抑える機構を搭載していて、ペン先を出した状態で本体を降ってもシャカシャカしません。クリップは折れにくく、手帳やポケットに収まりのよい形状です。
実際に使ってみて、筆者は完全に「ライトタッチインク派」になってしまいました。これからは「ジェットストリーム」の中でも、「ライトタッチインク」を選択する生活になるでしょう。今後もしばらく、私の中でボールペンといえば「ジェットストリーム」が優勝し続けそうです。