PDA博物館
「ファンが集うコミュニティを作りたかった」

閉鎖から14年。Palmの定番サイト「Muchy's Palmware Review!」運営の裏側を聞く

「Muchy's Palmware Review!」のトップページ。カテゴリー分類やランキング、5つ星評価など、現在のアプリストアが備えている要素をそろえていた

モバイル黎明期に誕生したPDAをふりかえり、未来へのヒントにつなげる本連載。今回は、「Palmを手にしたら、まず訪れるWebサイト」として知られた「Muchy’s Palmware Review!」を取り上げる。同サイトに掲載された膨大なアプリと、ていねいなレビューは、「Palm」という名の大海にこぎ出すユーザーにとってなくてはならない、貴重な海図であった。

そんな、Palmユーザーなら誰もが知っている超有名Webサイトを運営していたのは当時、福岡在住で、大学を卒業したばかりのMuchy(ムッチー)氏。「あのころは、朝から晩までPCに貼り付いて、運営作業に没頭していた」。彼を突き動かしていた、情熱の源は何だったのか? Webサイトの閉鎖から14年経った今、当時の思いについて話を聞いた。(※聞き手=PDA博物館初代館長 マイカ・井上真花)

Muchy(ムッチー)氏。大学卒業後に、Palmウェアのレビューサイト「Muchy’s Palmware Review!」を立ち上げ、全盛期には、月間300万PVの人気コンテンツに。また、Webサイトの内容をもとにした「Palmシリーズ最強化パック」(アスキー)は、Amazonのコンピュータ関連書籍でベストセラーとなった

お金のない学生が6万円のPalmを入手! その妙案とは?

―― Muchyさんは当時、とてもお若かったと思うのですが、高価なPalmをどうやって手に入れたのですか?

実は、子どものころからモバイル端末が好きで、小型コンピュータの「ポケコン(ポケットコンピュータ)」や、シャープ製のPDA「ザウルス」を使っていました。大学を卒業後、司法試験を受けることになり、その勉強のためにPalmが欲しかったんです。しかし、大学卒業したばかりでお金を持っていないので、どうしても自力では買えない。

そこで一計を案じ、父親をそそのかして、「Palm Pilot Professional」を買わせることに成功しました。Palmは当時、英語バージョンしかなかったので、使うためには自力で日本語化しなければなりませんでした。カスタマイズなんてできない父親が挫折するのは、目に見えていました。案の定、3か月でギブアップし、晴れて僕のものになったんです(笑)。

Muchy氏が父から譲り受けたのは、当時約6万円で販売されていた「Palm Pilot Professional」(画像は、秋葉原モバイルプラザの店長・古川敏郎氏の所蔵品)

―― 知能犯ですね(笑)。初めてPalmを使った印象はどうでしたか?

すぐに、魅力を感じました。もともと勉強のツールとして欲しかったPalmのはずが、いつの間にか「Palmを使いたい」という気持ちのほうが勝ってしまったほど。特に好きだったのが、クレードルに置いてシンクボタンを押したときに鳴る、「ぴろりー」というHotSync音。文字を入力するGraffiti(グラフィティ)もおもしろくて、すぐに覚えました。「Zen(禅) of Palm」という思想にも惹かれましたね。

Palm Pilot Professionalの裏側。底面にある端子を、クレードルに挿して設置する

Palm Pilot Professionalの裏側。底面にある端子を、クレードルに挿して設置する

―― アプリは使っていましたか?

はい、アプリは「PalmGear」という海外のWebサイトで入手しました。

好きなアプリは、たくさんありましたよ。たとえば、今関さんの時刻表アプリ「DA TrainTime」はよく使いました。これは、NextTrain形式の時刻表データをもとに、次の電車が何分後に来るかを表示するというもの。Androidのウィジェットのように動く「DAソフト」だったので、ほかのアプリを使っているときでも、すぐに表示できて便利でした。

トラミンさんの「こさぴーの秋葉マップ」も好きでした。当時は福岡に住んでいたので、秋葉原には行けなかったんですけど、「ここにイケショップがあるんだ」なんて想像しながら見るのが楽しかったですね。

ゲームもやりました。名前は忘れたけど、おもしろいゴルフゲームがあって、しばらくそれで遊んでいました。あと、インターネットの情報をPalmで読むために、CHEEBOWさんの「PiloWeb」も使っていましたね。

「J-OS」(注:Palm OS搭載機用の日本語OS)で日本語化するために必要だったのが、「HackMaster」などのHack Extensionソフト。Hack Extensionソフトとは、システムの機能を拡張するために使うもので、これを使えばOSごと、日本語化するなんてこともできたんです。このように、かゆいところに手が届くカスタマイズができるのが、Palmの魅力でもありました。

「Muchy's Palmware Review!」が生まれたきっかけとは?

―― そんなMuchyさんが、なぜ、アプリのレビューサイトを作ろうと思うようになったのですか?

当時、Palmに関するWebサイトはいろいろあって、そこを起点にユーザーがつながっていました。たとえば、「PalmFan」の広瀬さんや、「パーム航空」の機長さん。彼らは、僕にとっても憧れでしたし、そんなふうにPalmコミュニティに貢献できればいいなと思っていました。

そこで、何か自分でやれることはないかと考えたとき、PalmGearを見ていて、「日本語でPalm
ウェアを紹介するWebサイトがあるといいのでは?」と思いついたのがきっかけです。1997年のことでした。当時はWeb作成の知識などなかったので、「FrontPage」というソフトを使って、見よう見まねで作りました。

―― 当時は、どれくらいのユーザーがWebサイトに訪問していたのでしょうか?

Palm関連のWebサイトが紹介してくれたおかげで、最初から反響があり、多くの人が訪れるようになって、すぐに月間100万PVを達成しました。1999年には、アスキーさんから「書籍を執筆しないか」と声をかけられ、それを機に法人化しました。

Muchy氏が執筆した「最強化パック シリーズ」(アスキー)。Palmユーザーの必読書だった

Muchy氏が執筆した「最強化パック シリーズ」(アスキー)。Palmユーザーの必読書だった

それまで、親には黙ってWebサイト運営をしていたのですが、覚悟を決めて「実は……」とカミングアウト。資格試験の勉強をしていると思っていた両親は、初めは驚いていましたが、最終的には喜んでくれました。父なんて、「自分が最初にPalm Pilot Professionalを買ったから、このWebサイトができたんだ。だから私はMuchy's Palmware Review!の父だ」と周囲に自慢するようになったほど(笑)。

もともと僕は、人の役に立つ仕事がしたかった。だから、弁護士になろうと思っていたんです。気づけば、Webサイト運営が仕事になっていましたが、「これも人の役に立つ仕事に違いない」と思いました。

「人の役に立つ仕事を」。Muchy氏の思いは一貫して変わらない

「人の役に立つ仕事を」。Muchy氏の思いは一貫して変わらない

―― 当時は、どんな生活でしたか?

趣味が仕事になったこともあって、毎日楽しかったですけど、やはりたいへんでしたよ。ピーク時には朝9時から夜12時まで、ほとんどWebサイト運営の作業に費やしていました。そのうち、Webサイトを訪れるWebデザイナーさんから、さまざまなアドバイスをもらえるようになったり、レビューを★で表示したり、ランキングを作ったりと工夫しながら、バージョンアップを繰り返していきました。さらに、書籍を執筆する仕事まで加わったものだから、本当に忙しかった。でも、毎日充実してました。

Webサイト運営で気をつけた3つのポイント

―― Webサイトを運営するにあたり、気をつけたことはありますか?

コンセプトは3つありました。ひとつめは、体系化して、欲しい情報にすぐリーチできる仕組みを作ること。カテゴリー(タグ)を分類したり、本文内で相互リンクを貼ったりするということは、今でこそ、誰でも当たり前にやっていますが、当時はあまり例がありませんでした。いろいろ試行錯誤して、工夫した部分ではあります。

「Muchy's Palmware Review!」では、カテゴリーが細かく分類されており、欲しいアプリをすぐに見つけられた

「Muchy's Palmware Review!」では、カテゴリーが細かく分類されており、欲しいアプリをすぐに見つけられた

2つめは、デベロッパーとユーザーの架け橋になるということ。アプリを開発するデベロッパーは、いろいろ勉強したり、ユーザーの声を聞いたりして、苦労しながらアプリを開発しています。これを続けるには、それなりにモチベーションが必要。僕は、そのモチベーションを上げるための仕掛けが必要と思い、5つ星という仕組みを作ってみました。

これにより、ユーザーの興味を惹くだけではなく、5つ星がついたということで、デベロッパーの気分も上がる。こうして、僕なりにPalmウェアを盛り上げていきたいと思ったんです。このことは、Webサイト内にも「一筆献上」という文章にまとめて掲載しました。

Webサイトの「モットーとお願い」に掲載されていた「一筆献上」。「すばらしい製品に出会ったら、ありがとうの一行でも良いので、開発者さんに、ぜひメールを書きましょう」と赤字で記されている

3つめは、レビューをするにあたり、中立の立場を守るということ。そのため、特定の人やメーカーと結びつかないようにしました。あまりMuchyという個人を前に出さず、謎のままにしておこうと、気をつけていましたね。

―― かなりのレビュー数でしたよね。あれはすべてMuchyさんが書いた?

ほとんどの記事は私が書きましたが、一部はスタッフに草稿を書いてもらいました。ただし、法人化した後、いろんな方々に運営を手伝ってもらっていましたが、レビューを仕上げるのは自分だけと決めていました。最終的な掲載本数は、5000本ぐらいあったんじゃないかな。

―― 当時、私もそのレビューを読み、どのアプリをインストールするか決めていました!

ありがとうございます。あるユーザーさんは、「私はMuchyさんが5つ星をつけたアプリ以外、自分のPalmに入れていない」と断言されていたんですが、それを聞いて「えらいことになった」と冷や汗をかきましたよ。

★の数でアプリを評価し、デベロッパーのモチベーション向上に努めた

★の数でアプリを評価し、デベロッパーのモチベーション向上に努めた

―― そんな人気Webサイトも、やがて終焉を迎えました。やめると決めた理由はなんでしたか?

Webサイトを閉めたのは、2005年。一番盛り上がっていたころは、月間300万PVぐらいのアクセスがありましたが、その後はPVも減っていきました。ソニーの「CLIE」がなくなり、日本のPalm市場自体がシュリンクしていたので、まあ、仕方ないかなと。

そこで僕自身、一定の役割を終えた感は強く、Webサイトを閉めることを決意しました。この運営を支えていたのは、自分のPalm愛だったのですが、正直、それも陰りが見えてきて。ちょうど30歳になり、個人的にも次のステージに向かう時期でもありました。

Webサイトを閉めた日は、さすがにつらくて、まるでわが子を失ったような気持ちでした。その半面、やりきった感もありました。周囲からは批判もあるかなと覚悟していたのですが、「長年ありがとう」という感謝の声ばかりで、Palmコミュニティのあたたかさを再認識しました。

2005年にWebサイトが閉鎖。そのときの様子を、Muchy氏が語った

2005年にWebサイトが閉鎖。そのときの様子を、Muchy氏が語った

大事なのは、デベロッパーに対する感謝の気持ち

―― 現在のアプリストアを使っていて、感じることがあれば教えてください。

App StoreやGoogle Play ストアには、クチコミレビューがあります。なかには心ないレビューもあり、それを見ると胸が痛みます。苦労してアプリを開発したデベロッパーさんは、これを読んで、どんな気持ちになるだろうと思うと。

「Muchy's Palmware Review!」には、あえてクチコミ機能をつけませんでした。あってもいいかなと思ったこともあるのですが、仮にやっても、承認制にしたと思います。僕がもっとも大切にしたのは、デベロッパーのモチベーションを下げないこと。クチコミが感謝の言葉であればいいのですが、そうでない場合、できれば載せたくないです。

僕は今も、デベロッパーに対して感謝の気持ちしかありません。現在使っているスマートフォンはiPhoneですが、ここにも、たくさんのアプリが入っています。

製品を育てるのは、ファンの力。そのファンが集うコミュニティが必要だと思っています。そういう場を、僕はMuchy's Palmware Review!で提供できたと思っていますし、これからのモバイル端末を育てていくうえでも、欠かせないものだと思っています。

Muchy氏が現在、メインで使っているスマートフォンはiPhone。その中には、数多くのアプリがインストールされている

取材を終えて(井上真花)

14年前、毎日アクセスしていた「Muchy's Palmware Review!」のMuchyさんに、ようやく会うことができて感無量。Muchyさんは「デベロッパーに対して感謝の気持ちしかない」と言われていたけれど、私もMuchyさんに対して感謝の気持ちしかありません。そう感じているPalmユーザーは、きっと多いはず。デベロッパーとユーザーとアプリストア、この3者がバランスよくお互いを支え合い、感謝し合える場所が、現在のスマートフォンにもあるといいなあと思いました。誰か作りませんか?

オフィスマイカ

オフィスマイカ

編集プロダクション。「美味しいもの」と「小さいもの」が大好物。 好奇心の赴くまま、良いモノを求めてどこまでも!(ただし、国内限定)

関連記事
価格.comマガジン「動画」まとめページ
ページトップへ戻る