アップルの最新&最強チップ「M3 Max」を搭載した「14インチMacBook Pro」をレビュー。最新Appleシリコンのパワーをチェックしていきましょう。
「M3 Max」を搭載する「14インチMacBook Pro」。今回試したモデルは16コアCPU、40コアGPU、64GBユニファイドメモリー、2TB SSDを搭載したカスタマイズモデルで、アップルストア価格は692,800円(税込)
アップルが2023年10月30日に発表した「M3チップ」ファミリーは、その名のとおり、自社製のAppleシリコンの第3世代のチップです。“ファミリー”ということで、ラインアップは、無印の「M3」、高性能な「M3 Pro」、エクストリームな「M3 Max」の3つ。「M1」と「M2」のときは、五月雨式に発表されましたが、今回は3種類のチップが一気に発表されました。
“無印、Pro、Max”の3種類が一気に登場した「M3チップ」ファミリー
各チップのターゲットや用途、それに主なスペックは以下のとおりです。
複数のアプリを活用したマルチタスクがサクサクこなせる万能チップ。「M3チップ」ファミリーの一番ベーシックなチップながら、その性能は非常に高く、動画編集やゲームなど、比較的ヘビーな作業も余裕でこなせます。外部ディスプレイ出力が1台までなので、この点は注意。マルチディスプレイ環境を構築したい人は「M3 Pro」か「M3 Max」を搭載したモデルを検討しましょう。
・ターゲット:一般ユーザー(学生、ビジネスパーソン、クリエイター、クリエイターを目指す人など)
・主なスペック:8コアCPU、10コアGPU、最大24GBメモリー、外部ディスプレイ1台
・搭載モデルの価格:248,800円(税込)から
負荷の高いワークフローを快適にこなしたい人向けの高性能チップ。動画編集なら、4K動画を何本も扱うような人向け。負荷の高い作業を、より短い時間でこなしたい人にもいいでしょう。
・ターゲット:研究者、プログラマー、クリエイター
・主なスペック:最大12コアCPU、最大18コアGPU、最大36GBメモリー、外部ディスプレイ2台
・搭載モデルの価格:328,800円(税込)から
搭載モデルは50万円オーバー! エクストリームな作業を行う人向けの超高性能チップ。動画編集なら8K動画を複数扱うような人、「Maya」や「CINEMA 4D」など3DCGソフトを利用する人、AI開発者などがメインのターゲットになるでしょう。「Mac Studio」や「Mac Pro」で行っていた作業がモバイル環境でできます。
・ターゲット:きわめて負荷の高いワークフローに挑むプロ
・主なスペック:最大16コアCPU、最大40コアGPU、最大128GBメモリー、外部ディスプレイ4台
・搭載モデルの価格:538,800円(税込)から
※価格はすべてアップルストアの価格。
「M3チップ」ファミリーは、業界最先端の3ナノメートルで製造されています。3年前に登場した「M1」は5ナノメートル(昨年登場した「M2」は次世代の5ナノメートル)だったので、3年で大きく進化していることがうかがえます。
「M1」「M2」「M3」の比較は下表のとおり。トランジスターの数は製造プロセスの微細化で順調に増えています。細かく見ると、「M3 Pro」のトランジスター数が「M2 Pro」より減っているのが気になるところ。実機がないため、性能がどうなっているのかは確認できませんが、「M3 Pro」が気になっている人は、価格.comでユーザーのクチコミなどをチェックするといいかもしれません。
「M1」「M2」「M3」の比較
そんな「M3チップ」ファミリーの特徴は、アーキテクチャを刷新したGPUです。新しいGPUの特徴のひとつが、「Dynamic Caching(ダイナミックキャッシング)」。ローカルメモリーをリアルタイムで動的に割り振ることで、メモリー使用量を最適化する技術です。「M2」以前では、ピークに合わせてメモリーを確保するため、余分にメモリーを確保し、パフォーマンスが低下することがありましたが、「Dynamic Caching」により、この事象を回避できるというわけです。
業界初という「Dynamic Caching(ダイナミックキャッシング)」。メモリー使用量を最適化することで、GPUの平均使用率が向上し、プロ向けアプリやゲームにおいてパフォーマンスの向上が期待されるとのこと
「メッシュシェーディング」と「レイトレーシング」も新しいGPUの特徴です。どちらもCG映像制作やゲームなどで、その効果が期待できるレンダリング技術です。「メッシュシェーディング」は、ジオメトリ処理のパフォーマンスと効率を高め、より複雑なシーンを素早くレンダリングできます。「レイトレーシング」はPCゲームなどではおなじみで、物理法則にしたがって、光と影の反射をリアルに映し出してくれます。ただ、この「レイトレーシング」の効果を体験できるゲームは、すぐには見つかりません。「M3チップ」ファミリーをきっかけに、人気のPCゲームタイトルがMacで遊べるようになれば、クリエイターだけでなく、ゲーマーにもMacは広く受け入れられるようになるのではないでしょうか。
「M3チップ」ファミリーを搭載した「MacBook Pro」のラインアップは、14インチモデルと16インチモデルの2タイプが用意されています。なお、「13インチMacBook Pro」は現行モデルからはなくなり、これで「Touch Bar」も引退となりました。賛否両論のあった「Touch Bar」ですが、なくなると少し寂しい気もします(「Touch Bar」の詳細はこちらの記事を参照)。
「14インチMacBook Pro」は、14.2型のディスプレイを搭載した持ち運びしやすいコンパクトなモデル。重量は搭載するチップにより異なり、M3モデルが1.55kg、M3 Proモデルが1.61kg、M3 Maxモデルが1.66kg。1.24kgの「MacBook Air(M2モデル)よりも重いですが、持ち運びしやすい超ハイスペックマシンと言えるでしょう。
「14.2インチLiquid Retina XDRディスプレイ」を搭載。スペック面では、SDR輝度が500ニトから600ニトにアップしています
「14インチMacBook Pro」を選ぶうえでの注意点は、M3モデルを選ぶと、Thunderbolt/USB 4(USB-C)ポートが2基になることと、新色の「スペースブラック」が選べないこと。その分、アップルストア価格248,800円(税込)からと、新型「MacBook Pro」としては比較的手ごろな価格から購入できます。
「M3 Pro」か「M3 Max」を搭載したモデルでしか選べない新色の「スペースブラック」は、“酸化皮膜シールを形成する画期的な化学の採用”により、指紋の付着が大幅に減るそうです。実物は確かに、指紋が目立ちませんが、付かないというわけではありません。「スペースグレー」と比べると、より黒く引き締まった印象で、プロの道具感が際立つ仕上げです。
「スペースブラック」は、思っていた以上にブラックで、高級感があり、ハイスペックさが漂っています
指紋が付きにくいとはいえ、付かないわけではありません。指紋が「目立ちにくい」と言ったほうがいいかもしれません
M3 Maxモデルの外部インターフェイス。M3モデルは右側面にThunderbolt/USB 4(USB-C)ポートが搭載されません
キーボードはフルハイトのファンクションキーを搭載。新色の「スペースブラック」はシャーシ以外の部分は変わっていないため、タッチパッドやキーボードのほうが指紋は目立ちます。特にキーボードは、使えば使うほどテカテカしていきます。ここにも指紋が付きにくい加工がほしかったです
「16インチMacBook Pro」も、SDR輝度が600ニトにアップした「16.2インチLiquid Retina XDRディスプレイ」を搭載します。重量はM3 Proモデルが2.14kg、M3 Maxモデルが2.16kgで、16インチという画面サイズを考えると、意外と軽い部類に入るでしょう。アップルストア価格は398,800円(税込)から。位置づけは モバイルワークステーションといったところでしょう。
最後に「M3 Max」の性能をチェックしていきましょう。
今回試した「14インチMacBook Pro」が搭載する「M3 Max」は、16コアCPU、40コアGPU、16コアのNeural Engineなどから構成されています。メモリー帯域幅は300GB/s。ユニファイドメモリーは64GB、ストレージは2TB SSDで、「14インチMacBook Pro」の最強モデルです。
「M3 Max」には、2つのエンコードエンジンも搭載されているので、動画の書き出しなど映像編集の場面では高いパフォーマンスを発揮してくれるでしょう。AV1デコードもサポート。電力効率の高いストリーミングサービスの再生が可能になり、バッテリー駆動でも長時間の視聴が可能です。
定番のベンチマークソフトの結果は以下のとおり。過去に試したモデルのスコアも併記していますが、さすがにエクストリームなチップだけに、ぶっちぎりの結果です。「M1 Max」より最大80%高速を謳っていますが、「CINEBENCH R23」と「Geekbench 5(CPU)」の結果はまさにそのとおりです。シングルコアの性能もしっかり上がっています。「Geekbench 5(Compute)」ではGPUのパフォーマンスも段違いなのがわかります。
一般的な用途では、間違いなくオーバースペックでしょうが、グラフィックを駆使した膨大データを扱うクリエイターや開発者にとって、「M3 Max」のパワーは心強いはず。また、これだけのパフォーマンスを持ち運べるというのが、「M3 Max」搭載の「MacBook Pro」が画期的なところと言えるのではないでしょうか。
新型「14インチMacBook Pro」は、製品名のとおり、その道のプロが求めるマシンに仕上がっていました。「M3 Max」のベンチマークの結果はずば抜けていました。このパフォーマンスを使い切る自信は僕にはありません。この性能を存分に生かすには、プロが使うような超重量級アプリが必須になるでしょう。
もちろん、新型「MacBook Pro」の魅力は高性能な「M3チップ」ファミリーだけではありません。高品質なディスプレイ、ノートパソコンとしては最高クラスのサウンド、打ちやすいキーボードなど、すばらしい完成度です。
円安の影響もありますが、「M3チップ」ファミリー搭載の「MacBook Pro」はお高めです。それに見合ったパフォーマンスは得られるので、パフォーマンスを求めるプロの方はぜひチェックしてみてください。