価格.comプロダクトアワードの「カメラ」部門は、本アワードがスタートした2006年より始まった部門で、なかでも人気製品によるしのぎの削り合いが顕著なカテゴリーである。価格.com上でも、デジタルカメラと関連製品の人気はかなり高く、多くのユーザーが日々クチコミ掲示板などで意見を活発に交換するなど、最も動きの激しいカテゴリーと言っていい。そんな「カメラ」部門で、プロダクト大賞に選出されるということは、その年のベスト製品に選ばれたというのと同義に近い意味を持つ。それくらい毎年注目される部門なのだ。
ここ10年の大賞受賞製品を振り返ってみると、全11回(2006年は上半期も含む。2015年のカメラ周辺機器部門は含まず)のうち、実に9製品が「デジタル一眼レフ」であることがわかる。このことは、デジタルカメラ市場がこの10年で大きく変化してきたことと無縁ではない。
本アワードが開始された2006年当時、デジタルカメラと言えば、コンパクト、一眼レフを問わず、いわゆるカメラの形をした製品のことを指していた。コンパクトデジカメは、比較的安い価格帯で、スナップなどのカジュアルな利用が中心。一眼レフは、いわゆるカメラを趣味としたような人向けの製品で価格も高め。製品カテゴリーとしてはっきりと分けられており、ユーザー側としても、この2つは用途も性格も異なるものであるという認識を持っていた。当然ながら写真自体の画質もデジタル一眼レフのほうがはるかに上で、ユーザー評価も一眼レフのほうが上になることが多かった。2006年上半期のニコン「D200」に始まり、2006年のPENTAX「K100D」、2007年のオリンパス「E-3」、2008年のニコン「D700」、など、この時期には、いずれも画質性能にすぐれた各メーカーのミドルレンジあるいはハイエンドモデルが大賞を受賞している。しかも、必ずしも売れ筋モデルというわけではなく、画質性能のよさで選ばれているのが、いかにも価格.comプロダクトアワードらしいラインアップだ。
2006年上半期の大賞受賞製品、ニコン「D200」
2007年は、オリンパス「E-3」が受賞した
こうした状況にやや変化が見られるのが、2009年に大賞に選出された、キヤノン「EOS Kiss X3 ダブルズームキット」からの3年間だ。「EOS Kiss X3」は、キヤノンの一眼レフラインアップの中では、エントリーにあたる製品。画質のよさもあるが、どちらかと言えば、エントリーユーザーでも使える簡単さと価格の手ごろさが特徴の大衆機だ。その後も、2010年には、コンパクトデジカメとしては初の大賞選出となったリコー「CX3」が、2011年には同じくコンパクトデジカメのニコン「COOLPIX P300」が大賞を受賞するなど、デジタル一眼レフのエントリーモデルや、画質にこだわった本格派コンパクトモデルの人気が、中上級のデジタル一眼レフカメラの人気を上回った。
実はこの時期、デジタルカメラ市場では激変が起こっていた。2008年くらいから徐々に普及し始めたスマートフォンの影響で、価格の安いコンパクトデジカメが市場から姿を消すようになり、一部のコンパクトデジカメは活路を求めて高性能化の一途をたどるようになる。同じ頃、「ミラーレス一眼」と呼ばれる、小型のレンズ交換式カメラが市場に登場し、話題を呼んだ。当初「ミラーレス一眼」は、一眼エントリーユーザー向けの製品として発売されたため、「EOS Kiss X3」などのエントリー向け一眼レフが、その影響を大きく受けることになった。こうした流れの中で、高級コンパクト、ミラーレス一眼、エントリー一眼レフの三者が、ほぼ同じような市場で戦うこととなり、技術向上はもとより、デザイン性の向上や、価格面での競争など、さまざまな変化がこれらの製品間で起こるようになった。そのような背景のもと、画質がよく、取り回しやすく、価格も安い、コンパクト系デジカメの人気が高まることとなったのだ。
2009年に大賞に選出された、キヤノン「EOS Kiss X3 ダブルズームキット」
このように市場全体がコンパクトモデルに傾倒していく中で、しばらくは大きな動きのなかったデジタル一眼レフであるが、2012年に、大きな変化が起こる。それが、2012年に大賞に選ばれた、ニコン「D800」の登場である。デジタル一眼レフの世界では、キヤノンとニコンの二大メーカーが覇を競っているが、デジタルカメラの中心パーツである撮像素子の面では、キヤノンのほうが高画素化では進んでいたのが、この「D800」によってニコンが一気に3630万画素という高画素化を実現。瞬く間に人気を博した本機の登場で、その後しばらくニコンの上級機の人気が続くことになる。続く2013年の「D7100」、2014年の「D810」などは、まさにこのニコンの優位性を示すものだったと言えるだろう。
しかし、そんな一眼レフ市場に大きく切り込んできたのが、ソニーであった。ソニーは、一眼レフではなくミラーレス一眼のフルサイズ機「α7」を2013年に発表。その後もこの「α7」シリーズのラインアップを拡充し、二強のキヤノン、ニコンに迫る勢いを持ち始めている。こうした流れの中で、今年2015年の「カメラ」部門(「カメラ周辺機器」部門は独立)では、その最新モデルとなる「α7 II ILCE-7M2」が大賞に選出された。
このように、ここ10年の価格.comプロダクトアワード・カメラ部門の歴史を見ると、その背景に、ここ10年のデジタルカメラ市場の激しい変遷が見て取れるのである。
2014年の大賞受賞製品「D810」
2015年のカメラ部門は、ソニー「α7 II ILCE-7M2」が受賞
カメラ周辺機器部門では、キヤノンのレンズ「EF100-400mm F4.5-5.6L IS II USM」が大賞となった