「せいろ」といえば、和食や中華料理に使われる本格的な調理道具、というイメージ。中華の点心やおこわ、肉や魚のせいろ蒸しなど、ワンランク上の料理が家庭でも作れるいっぽう、ガスレンジで調理してせいろが焦げないか、火加減はどうしたらいいのか、お手入れが難しいのではないか、などわからないことが多くて、購入に二の足を踏んでいるという人も多いのではないでしょうか? かくいう筆者も、「せいろは扱いが面倒そう」という先入観を持っていたひとりです。
そんな中、エムケー精工から小型の電気せいろが登場しました。これを使えば手軽に本格的なせいろ蒸しを作れるとのこと。今回は、同機の使い勝手や、電子レンジで加熱調理したものとの味や食感の違いなどを比較してみたいと思います。
エムケー精工の電気せいろ「TEGARU=SEIRO(手軽せいろ)EM-185K」(以下、EM-185K)は、ガスレンジなどの火を使わず、電気で蒸し調理ができる製品。蒸し時間(加熱時間)をタイマーでセットすれば、火加減調節もいらず、おまかせで調理できます。本体幅は22.1cmで場所を取らず、キッチン台のほかダイニングテーブルの上でも調理可能。できあがった料理を、せいろごと食卓に並べられるのも魅力です。
せいろやふたなどすべて積み上げたサイズは221(幅)×240(奥行)×298(高さ)mmで、重さは約1.5kg。せいろの直径は18cmとコンパクトです
本体後方左から受け皿、本体、蒸気筒。前方はせいろセットで、左からふた、せいろ×2、延長輪。取扱説明書のほか、レシピブックも付いています
せいろは深さ約4cm(写真左)で、延長輪を重ねると深さ約8cm(写真右)になります。さらにせいろの下側とふたにも約2cmのかさがあるので、内部には高さ最大約10cmの空間が確保できます。
ちなみに、筆者は今回の検証中、せいろと延長輪の上下をずっと逆にして使ってしまっていました。調理の出来映えには支障なかったと思いますが、自身の確認の甘さに恥じ入るばかり……。正しく使えば、以下の写真より空間的に余裕を持って調理できますので、なにとぞご容赦を
EM-185Kの使い方はとても簡単。本体に蒸気筒を取り付けて水タンクに水を張り、受け皿をセットしたら、食材を並べたせいろとふたを重ねてタイマー設定するだけ。空焚きにならないよう、蒸し時間に合わせて水の量を調整します。
蒸気筒を取り付けてから水タンクに注水。本体には水位線があり、下の段まで水を入れると200ml、上の段まで入れると700mlになります。蒸し時間の目安は200mlで15分、700mlで60分。水が少ないと空焚き、多すぎると沸騰時にお湯があふれる危険があるので、水量は上下の水位線内に収まるようにしましょう
水を入れたら受け皿をセットします。受け皿は蒸し調理中に食材から落ちる油や水分を受け止め、水タンクが汚れるのを防ぎます。また、中央の蒸気口からせいろ全体に効率よく蒸気を回してくれます
せいろにクッキングシートや蒸し布を敷くことで、食材がせいろにくっついたり、肉汁などが染み込むのを防ぐことができます
せいろをセットしたらタイマーを回し、蒸し時間を設定します。最大設定時間は60分で、加熱時間が終了するとタイマーが「チーン」と鳴って知らせます。タイマーセットしてから蒸気が出始めるまで2〜4分かかる(水量や水温で変わる)ので、ネットのレシピなどを参考にする際は、その時間も考慮してタイマー設定するといいでしょう
では、レシピブックを参考に料理を作っていきましょう。まずは、電子レンジで調理することも多い、肉まんと冷凍シュウマイの温めから。肉まんは電子レンジだと約1分(600W)で、蒸し器だと強火で15分加熱。冷凍シュウマイは電子レンジだと6個で約3分10秒(600W)、蒸し器だと強火で約10分30秒の加熱が必要で、どちらも調理の手軽さと調理時間の短さでは圧倒的に電子レンジが有利。はたしてその手間と時間に見合うだけの味の違いを見せられるでしょうか。
肉まんは紀文の「肉まん」を使用。冷凍シュウマイは味の素「豚のあふれる肉汁にXO醬と葱油が香るザ★シュウマイ」を使いました
加熱時間の長い肉まんを下段に、短いシュウマイを上段にセットし、タイマーは少し長めの18分に設定しました
上段のシュウマイまで蒸気が届くのが遅く、十分温まっていないようだったので、途中で上下のせいろを入れ替えて蒸しています
18分後に加熱終了。肉まんにもシュウマイにもしっかり火が通っていました。食べ比べてみると、肉まんもシュウマイも、電子レンジで蒸したものとは味の違いが歴然でした。せいろで蒸した肉まんは、生地がふかふかで甘みも少し増した印象。中の具材も、よりジューシーでふっくらしている印象でした。それに比べると、電子レンジで加熱した肉まんは生地がごわごわしてパサつき、具材もうまみ少なめに感じられます。
いっぽう、シュウマイは冷凍技術の進化もあり、以前と比べると格段にジューシーな仕上がりになっているのですが、せいろで蒸すとさらにうまみがアップ。特に、皮のプルプルした食感が絶品で、一気に「お店の味」に近づきます。
時間がある休日などは、お昼に肉まんを食べたり、夕食のもう一品としてシュウマイを用意する時に、本気で調理する価値は十分あると感じました。
せいろで蒸した肉まんは生地がふかふかふっくら。比べると電子レンジで温めた肉まんは、生地の目が詰まり気味で、ややパサつきがあります。具材もせいろで蒸したものよりかたまり感が強いです
せいろで蒸したシュウマイは、皮がプルプルに仕上がっているのがわかります。電子レンジで温めたシュウマイは、蒸したシュウマイと比べると皮がややごわつき、肉のテカリも少ないです
続いて作ったのは、「洋風せいろの朝ごはん」。にんじんやブロッコリーなどの野菜、ソーセージ、パン、卵を入れたココットを並べ、パンとおかずを一度に蒸し上げる料理です。
せいろにブロッコリーとにんじん、プチトマトにソーセージ、バゲットを並べました。ココットに生卵を落とし、とろけるチーズをトッピング。うしろのせいろには、バゲットでなく冷凍したロールパンを入れました
せいろを二段重ねにして、まとめて20分蒸しました
蒸し上がったブロッコリーの緑が鮮やか。ココットの卵もしっかり固まっています
実際に食べてみて、一番驚いたのはパンのおいしさ。バゲットとロールパンを蒸したのですが、特にバゲットはクラスト(皮)もクラム(内側のやわらかい部分)もモチモチ感が増して、普段食べているバゲットとはまったく別の食感!
ロールパンはコストコのディナーロールを冷凍したものをそのまま蒸したのですが、ふっくら感が圧倒的なうえにオーブントースターで焼いて食べるより甘さがさらに際立っていました。これらのパンだけ蒸して食べる価値も十分あると感じます。野菜もシャキシャキした食感が残り、甘みも濃厚に感じられました。
バゲットがモッチリした食感になっていてビックリ。ふかふかしつつ弾力のある食感は、そのまま加熱せずに食べた時とも、トーストした時とも違っていて、「もう一度食べたい」と思わせるものでした
次に、上下のせいろで異なる料理も作ってみましょう。作ったのは「蒸しうどん」と「蒸ししゃぶ」。下段のせいろにエリンギや白菜、薄切りの豚バラ肉などを並べ、上段には冷凍の讃岐うどんをそのまま入れて20分蒸しました。
下段のせいろに白菜、もやし、エリンギ、人参、豚バラ肉を並べ、上の段には冷凍うどんを解凍せずそのまま置いて、20分蒸しました
蒸し終えたうどんはツルツルと光沢のある仕上がり
白菜や豚肉、にんじんも見るからにみずみずしく蒸し上がっています
このメニューもまた、絶品でした。特にうどんは、茹でるのでなく蒸したためなのか、モチモチ感がスゴいうえに、麺の表面がプルプルした独特の食感になっています。さらに、野菜もそれぞれのうまみが濃厚に。特に白菜がシャキシャキした食感を残しつつ甘みがアップ。蒸しうどんと蒸ししゃぶの組み合わせはもちろん、それぞれ単品としてもリピートしたいおいしさでした。
EM-185Kは最長60分までタイマー設定が可能。長時間の蒸し調理もおまかせで行えます。今回は、レシピブックに載っていた「蒸し塩豚」をアレンジし、「塩麹蒸し豚」を作ってみました。
タコ糸のネットで巻かれた豚肩ロース肉を購入。周りをフォークでまんべんなく刺したあと、塩麹を全体に塗りました。このあとキッチンペーパーとラップで巻いて、冷蔵庫で一晩置きます
せいろにクッキングシートを敷き、ラップとクッキングペーパーをはがした豚肩肉を乗せて蒸し調理。タイマーは55分にセットしました
せいろから取り出した肉をカット。中までしっかり火が通っています
肉を薄くスライスし、しょうが、みょうが、大葉を刻んで盛り付けて完成です
できあがった蒸し豚は、スライスした時は若干硬めに感じましたが、食べてみると適度な噛み応えとともに肉の繊維が解けていきます。薄味ながら塩麹が豚肉のうまみを引き出して滋味あふれるおいしさ。ごま油を付けて食べるとコクが増すほか、レモン果汁とナンプラーのドレッシングでもおいしく食べられました。ラーメンの具にもバッチリ合います。
そのほか、中華おこわと茶碗蒸しも作ってみました。中華おこわはフライパンで鶏肉やたけのこなどの具材を炒め、そこにもち米とスープ、調味料を加えてもち米にうまみを吸わせたあと、せいろで蒸し上げます。
具材を炒めたあと、洗ってザルに上げておいたもち米とスープを入れてさらに炒め続けます。スープは数分でもち米に吸われて汁気がなくなりました
炒めたもち米と具材を、蒸し布を敷いたせいろに入れて蒸し上げます。今回はもち米3合を蒸すのに、タイマーを35分に設定しました
蒸し上がったもち米はツヤがありつつ、米ひと粒ひと粒のかたちがしっかり残った、しゃっきりめの仕上がりになりました
炊き上がったおこわは、いま流行りの“外硬内軟”の食感。炊飯器や圧力鍋で作ったおこわと違って粘り気はほどほどで、食べるほどに具材のうまみともち米の甘みが広がります。今回はレシピに従い、もち米を洗ったあとは水に浸さずすぐザルに上げましたが、やわらかめのおこわが好きな人は30分から1時間ほど浸水させるといいかもしれません。
ごま油とつゆのうまみ、具材のうまみをしっかりまとったもち米は、食べ始めたら箸が止まらないおいしさでした
茶碗蒸しは、卵を溶いて約3倍のだし汁と塩、みりんなどを加え、鶏肉やしいたけ、茹でた小松菜を入れた器に卵液を注いで蒸し上げました。通常の蒸し器や圧力鍋で作る時は、蒸気がつゆになって容器内に入らないようにアルミホイルでふたをしますが、せいろの場合(特にふたが編み上げたドーム型の中華せいろの場合)は、蒸気が適度に外に逃げるため、アルミホイルのふたをしなくても大丈夫らしく、レシピブックにも特に指定がなかったので、あえてそのまませいろ蒸ししました。
卵液を容器に注いだ時に泡が立つと「す」の元になるので、茶こしでこしながら液をゆっくり流し込みます
茶碗蒸しやプリンを蒸す場合は具材からツユがこぼれないので、せいろにクッキングシートを敷く必要はありません。レシピブックより容器が大きめなので、少し長めの22分蒸しました
できあがりを見ると、若干水の膜ができているようにも見える程度で、アルミホイルがなくても問題なさそうです。卵の食感もなめらかで絶妙の味わい。ただ、気になったのは表面に「す」とまではいかないものの気泡がやや目立っていたことです。茶碗蒸しを作る場合、強火で蒸すと卵の成分がすぐ固まるため、その後沸騰して水蒸気となった水分が外に出られず、気泡や「す」になるのだとか。それを防ぐためには弱火で蒸すのがよいようですが、本機は火力調節ができません。その場合、ふたをずらすなどして、せいろ内部の温度を少し下げるとよいそうです。
できあがった茶碗蒸しの表面をよく見ると、細かく長細い穴が開いています
スプーンですくうと、つるんとした食感でおいしく食べられました。筆者個人としては、おもてなし料理として出すのでなく、家族で食べる分にはこれでまったく問題ないと思います
せいろの購入をためらう大きな理由のひとつにお手入れの不安がありますが、今回使ってみて、すごく大変というわけではないものの、特にせいろの扱いに若干のとまどいを感じました。
もともと、せいろは調理中は高温の蒸気が常に当たっているため、使い終わったら濡れた布巾で軽く拭くくらいでいいのだそうです。ただ、肉や魚、おこわなどを蒸す場合は油や食材のニオイが竹や木でできたせいろに染み付くのがイヤなもの。本機の取扱説明書には、「汚れが少ない場合はお湯や水で湿らせた布で拭く」「油汚れなどがひどい場合はタワシやブラシなどで水洗いする。食器用洗剤を使った時はよくすすぐ」とあるので、洗剤を使っていけないということでもないようです。それでも、せいろを長時間水に浸けるのは、カビの原因になるのでやめたほうがいいでしょう。
せいろは食材のニオイがつきやすいのが難点。調理後はすぐに洗ったり拭いたりしたほうが、ニオイなどの染み込みを抑えられます。ただ、洗剤も使いすぎるとせいろに染み込むのが心配。筆者は油や肉汁が大量に流れる料理を作ったあとに、洗剤でさっと洗い流しました
手入れするのは、せいろセットと受け皿、蒸気筒。せいろはある程度乾いたら風通しのよい場所に移して乾燥を続けました
また、最も大変だと感じたのは、洗ったあとの乾燥。風通しのよい場所に、上下左右から風が通るようにして陰干しするのですが、十分乾燥させるには丸1日以上かかると感じました。平らな場所に伏せて置いておくとカビが発生するリスクがあるようで、干す場所の確保に苦労する家庭も多いと思います。
せいろを日陰干ししたり保管するのには、S字フックなどを使うと便利。通気性の悪い棚や引き出しの中に入れておくと、カビや虫食いが発生しやすいです。また、しばらく使わない場合は新聞紙に包むと、湿気を吸収してくれてカビにくいそうです
となると、油汚れがかなり多い場合以外は、布巾で拭く程度のお手入れに止めるのが実用的でしょうか。汚れが目立ったりしたらせいろのみ購入するのも手かも。ただ、せいろやふたなど消耗品の交換(購入)は購入販売店かエムケー精工のお客様相談窓口から行うそうでややめんどう。
ちなみに、せいろは1個990円(税別)、ふたは900円(税別)、延長輪は990円(税別)とのことで、準備が整い次第、同社のオンラインショップでも購入可能になるとか。市販の直径18cmのせいろも使えるそうなので、ネットで安めのせいろを見つけたら、それを買うのもいいかもしれません(ただし、価格.comで検索したところ、最安価格のものもそれほど値段は変わりませんでした)。
今回いろいろな料理をせいろで作ってみて、そのおいしさを改めて実感しました。特に驚いたのが、パンやうどんの温めで、これはせいろを使う場合はぜひ試してほしいです。肉まんや冷凍シュウマイの温めも、電子レンジより圧倒的においしく仕上がります。もちろん、野菜も蒸すことでみずみずしさを残しつつ凝縮した甘みを堪能できました。
確かに電子レンジに比べると時間はかかりますが、調理の工程自体はとても簡単。せいろを二段乗せて調理すれば、その分、調理時間の時短にもなります。また、せいろはステンレスなどの蒸し器と違い、調理中や調理後も蒸気が適度に逃げるので、水滴が食材に戻りにくく、調理後そのままにしていてもおいしさを保てるのがメリット。レシピブックを参考にタイマー設定してほったらかし調理もできますし、蒸し時間がよくわからなければときどきふたを取って、加熱具合をチェックしてもよさそう。予想と違って実際はかなりアバウトな調理にも対応してくれると感じました。
唯一の不満点はせいろのお手入れ。特に洗ったあとの乾燥は問題で、丸1日以上室内に干しておくのは、正直かなりめんどうです。ただこれも、S字フックなどを使って乾燥させる場所を確保できれば、かなり負担を軽減できそうです。
サイズはコンパクトですが、それでも使わないままキッチンに置いておくと場所を取りますし、換気の悪い場所に置きっぱなしだとせいろにカビも生えやすいです。今回さまざまな料理に使えることがわかったので、購入するならかなり高頻度に使うことを考えたほうがいいでしょう。また、積極的に使うことで、毎日の食事のグレードも確実にアップすると思います。
雑誌やWeb媒体において、生活家電の紹介記事やお試し記事を執筆。家電ジャンルは調理家電から掃除機、美容・健康家電など幅広くこなす。夫婦共働きのため、調理など家事も応分に担当(ただしあくまでダンナ目線)。立食いそばも好き。