BEV(バッテリーEV)新型NISSAN LEAFの充電風景。搭載バッテリーは55,000Whまたは78,000Wh、売れ筋の1,000Whクラスのポータブル電源を55個または78個積んでいる計算だ
クルマの役割が、今少しずつ変わり始めています。
これまでクルマは、人や荷物を運ぶ「移動手段」としての役割が中心でした。しかし、BEV(バッテリーEV)やPHEV(プラグインハイブリッド車)の普及によって、クルマに蓄えた電力をアウトドアや災害時に利用する「走る電源」としての価値にも注目が集まっています。
さらに最近では、「オルタネーターチャージャー」、「走行充電器」などと呼ばれる、一般的なエンジン車のオルタネーターなど車両側の発電装置を利用して、シガーソケット等を通さずにポータブル電源を充電する、「走行充電」を可能とする製品が登場しています。また、これにソーラーパネルを組み合わせれば、走行中だけでなく停車中にも電力を確保できます。
こうした「クルマと電気」の関係は、アウトドアだけでなく、防災、そしてキャンピングカーへと広がっています。
EV、PHEVなどの電気自動車を電源として見た場合、BEV最大の武器となるのがバッテリー容量です。
一般的なポータブル電源が数百Wh〜数千Wh程度なのに対し、BEVは数万Whもの駆動用バッテリーを搭載するモデルがあります。
ただし、BEVの場合は外部給電に電力を使えば、その分だけ走行に利用できる残量が減ります。広域停電などで充電設備が利用できなくなった場合には、「生活に使う電気」と「移動のために残す電気」を意識して管理する必要があります。
一方、PHEVはBEVより駆動用バッテリーの容量が小さいものの、エンジンと発電機を備えており、燃料が続く限りは発電し続けることが可能です。
外部給電に対応したPHEVであれば、電力に加え、燃料という2つのエネルギー源を持つことが大きな強みになります。
ただし、エンジンを使用する場合には、騒音や排気ガスへの配慮も必要です。(各自治体のアイドリング規制は基本的には緊急時以外のアイドリングを禁じる内容となっています。)
PHEV三菱アウトランダー。最新モデルの電池容量は22,700Wh。BEVほどの電池容量はないが、それでも1,000Whポータブル電源20個以上の容量がある。また、ガソリンがある限り給電し続けられる強みがある
つまり、BEVは「大容量のバッテリー」、PHEVは「電気と燃料を組み合わせられること」が、それぞれ電源としての大きな特徴といえるでしょう。
EVやEHEVはV2L(Vehicle to Load)などの外部給電機能(コンセントのないEVやPHEVに接続しAC100V電源として取り出すコンセントを提供する装置)や車そのものにAC100Vコンセントを備えた車なら、蓄えた電力を取り出して、電気ケトルや電子レンジ、照明、PC、冷蔵庫など、さまざまな電気製品を利用できます。
キャンプなら調理や照明に使え、夏は扇風機、冬は電気毛布といった使い方も可能です。災害による停電時には、冷蔵庫やスマートフォン、通信機器などを動かす非常用電源としても役立ちます。
設置コストはかかりますが、一段進んでV2H(Vehicle to Home)のように、家の電気の大元に直接EV/PHEVをつないで、ソーラーパネルなども併用しながら、停電時に家の電源そのものを維持させることを可能とするシステムもあります。
V2L(Vehicle to Load)の例、ニチコンの外部給電器「パワームーバー」非常時にBEV/PHEVから家庭用に電源を取り出す
さらにV2H(Vehicle to Home)などの仕組みを使って、家庭の電源に直接BEV/PHEVの電気を供給する仕組みも。(写真はニチコンのトライブリッド蓄電システム)
では、ポータブル電源はどの程度の容量が使いやすいのでしょうか。
アウトドアと防災の両方で利用することを考えるなら、ひとつの目安になるのが1000Wh前後のクラスです。
クルマに積み込みやすいサイズの製品も多く、スマートフォンやPCの充電、照明といった小電力機器だけでなく、十分なAC出力を備えたモデルなら、IH調理器や電気ケトル、電子レンジなど消費電力の大きな家電にも対応できます。
ここで注意したいのが、「容量」と「出力」は別の数字だということです。
Whは「どれだけ電気を蓄えられるか」を示す容量。一方、Wは「一度にどれだけ大きな電力を取り出せるか」を示す出力です。
そのため、1000Whのポータブル電源でも、AC出力が小さければ高出力の家電は使えません。逆に、十分な出力を備えていても、容量が小さければ長時間の使用は難しくなります。
さらに2000Whクラスになると、使い方は一段と広がります。
容量だけでなくAC出力にも余裕のあるモデルを選べば、複数の機器を使ったり、条件によっては空調機器を動かしたりすることも現実的になります。拡張バッテリーに対応した製品なら、必要に応じて蓄電容量を増やすことも可能です。
ポータブル電源の大きなメリットは、アウトドアと防災を明確に分ける必要がないことです。
普段はキャンプや車中泊で利用し、停電が発生すれば非常用電源として使う。一台を日常と非常時で共用できるのです。
300Whから3,000Whくらいまでの容量が中心のポータブル電源。BEV/PHEVの容量とは比較にならないが、持ち運べるメリットは大きく、使い分けが重要。写真はANKERのポータブル電源SOLIXシリーズ
ここで一つの疑問が湧きます。BEVやPHEVそのものが電源になるなら、ポータブル電源は必要ないのではないか。そう思う人もいるでしょう。
しかし、両者は競合するというより、組み合わせることで使い勝手が高まる関係にあります。
BEV/PHEVを「電力の母艦」、ポータブル電源を「持ち運べる子機」と考えるとわかりやすいでしょう。クルマからポータブル電源へ電気を移しておけば、テントサイトや自宅など、クルマから離れた場所でも電気を使うことができます。
この組み合わせは災害時にも有効です。クルマを買い出しや避難、家族の送迎などに使わなければならない場合でも、充電したポータブル電源を自宅に残しておけば、冷蔵庫や照明、通信機器などへの給電を続けられるからです。
BEVやPHEVだけでなく、一般的なエンジン車でもポータブル電源と組み合わせることで「電源車」として活用できます。
そのカギとなるのが、車の発電機である「オルタネーター」を利用した「走行充電」です。
エンジン車は走行中、「オルタネーター」で発電して車載バッテリーや電装品へ電気を供給しています。その車両の電気系統から専用の走行充電器(「オルタネーターチャージャー」とも呼ばれる)を介してポータブル電源へ電気を送り込めば、移動時間そのものを充電時間に変えられます。通常ポータブル電源はシガーソケットを介して充電することができますが、走行充電器はバッテリー、オルタネーターなどに直に接続することにより、シガーソケットの5〜10倍の速度(電力量)でポータブル電源に給電ができます。
エコフローの走行充電システム
これを使えば、たとえば、自宅でポータブル電源を満充電にしてキャンプへ出発。現地で電気を使った後、翌日に観光や買い出しでクルマを走らせながら再び充電する、といった使い方が可能になります。つまり「走る→充電する→停車中に使う→また走って充電する」という電力の循環を作れるわけです。また、災害時等の緊急事態においては、車を「比較的安全な発電機」としてポータブル電源へ給電し続ける選択肢が生まれます。
さらにソーラーパネルを組み合わせれば、走行中はオルタネーター、停車中は太陽光という二つの充電手段を確保できます。アウトドアや車中泊で連泊する際はもちろん、停電が長期化した災害時にも有効な仕組みとなるわけです。
大容量化が進むにつれ、ポータブル電源の用途は家庭にも広がっています。
3000〜4000Wh級ともなれば、アウトドア用途だけでなく蓄電池のような家庭のバックアップ電源としての利用も視野に入ってきます。ソーラーパネルと組み合わせて昼間に発電した電力を蓄えたり、電気料金が安い時間帯に充電して必要な時間帯に使ったりすることも考えられます。
もちろん、住宅設備として設置する家庭用蓄電池とは容量やシステム構成が異なります。しかし、ポータブル電源には「持ち運べる」という大きな特徴があることは見逃せません。
普段は家庭で使い、週末にはクルマへ積んでキャンプへ出掛け、災害時には必要な場所へ移動させる。据え置き型の蓄電池とは違う、この自由度の高さがポータブル電源ならではのメリットなのです。
こうした仕組みをさらに発展させていくと、キャンピングカーの電力システムに行き着きます。
キャンピングカーでは以前から、クルマを始動するためのメインバッテリーとは別にサブバッテリーを搭載し、走行中にオルタネーターから充電する仕組みが使われてきました。
究極の防災時の停電対策はキャンピングカーか。もちろん車が使用できる状況であることが前提だが
現在はそこへ大容量リチウムイオンバッテリーやインバーター、ソーラーパネルなどを組み合わせ、冷蔵庫や電子レンジ、照明、PC、さらにはエアコンまで利用できる環境が現実的になっています。
電子レンジからエアコンまで揃う快適な「移動避難シェル」ともなるキャンピングカー
つまり、「ポータブル電源+走行充電+ソーラー」というシステムは、キャンピングカーが構築してきた電力システムの考え方を、一般的な乗用車でも比較的手軽に取り入れる方法ともいえます。
そして、この考え方はアウトドアだけにとどまりません。キャンピングカーなら電気だけでなく、ベッドや収納、車種によってはキッチンや給排水設備も備えられます。災害によって自宅での生活が難しくなったときには、「移動できる生活空間」として活用できる可能性もあります。
ここまでを整理すると、BEVは大容量バッテリーを持つ「走る蓄電池」、PHEVは電気と燃料という二つのエネルギー源を利用できる「長期戦に強い電源車」と考えられます。
さらに一般的なエンジン車でも、走行充電器(オルタネーターチャージャー)による走行充電とポータブル電源を組み合わせれば、移動しながら電力を確保できます。そこへソーラーパネルを加えれば、走行中はクルマ、停車中は太陽光から充電するという電力循環を作り出せます。
重要なのは、こうした機器を「非常時だけのもの」にしないことです。
普段からキャンプや車中泊などでポータブル電源や走行充電の仕組みを使っていれば、災害時にも操作方法や実際に使える電力量を把握した状態で利用できます。防災用品をしまい込んでおくのではなく、日常的に活用しながら非常時にも役立てる「フェーズフリー」の考え方とも相性がいいでしょう。
BEV、PHEV、ポータブル電源、走行充電器(オルタネーターチャージャー)、ソーラーパネル、そしてキャンピングカー。これらを別々のものとして捉えるのではなく、一つの「移動できるエネルギーシステム」として考える。ここからはアウトドアや車中泊を快適にするだけでなく、災害への備えにもつながる新しいクルマの価値が見えてくるのです。