花粉症の筆者は、「外に布団を干す」ということを基本的にしません。そんな筆者の心強い味方は「マットなし布団乾燥機」です。これは、その名の通りホースやノズルを差し込むだけで布団が乾燥できる布団乾燥機。従来までは布団サイズのマットを開いたり畳んだりする必要がありましたが、この手間が必要なく、手軽に使えるのが人気の秘密です。ちなみに、マットなしタイプは4年前に発売されたばかりにもかかわらず、今はほとんどのメーカーがマットなしタイプを大きく取り扱っています。それだけ、今まで「マットが面倒」と感じていた人がいたということでしょう。
ところが、そんな中で昨年、「マットあり」をあえて大きく打ち出してきたのが三菱電機の布団乾燥機「フトンクリニック AD-X80」(以下、AD-X80)。しかも、この製品は面倒なマット式なのに評判がいいのだとか……これは使ってみるしかありません。
ちょっと懐かしいレトロ感のあるデザインのAD-X80。濃い茶色のカラーリングや丸っこい形は、最近の布団乾燥機としては珍しい。今、あえて「マット式」を打ち出してきた“硬派”な製品です
<関連記事>あえて時代の逆を行く! 三菱の「本気のダニ対策」とは?
AD-X80は、前述したようにマット式の布団乾燥機です。付属するマットは布団を包みこめる「ヒートパンチマット」と「まくら用乾燥マット」。そのほか、ヒートパンチマットを収納するカバンが付属しています。ちなみに、ヒートパンチマットの大きさは最大2,100(幅)×2,050(縦)mm。結構大きいので、畳んでもそれなりの収納スペースが必要です。
本体上部にはハンドルがあり、持ち運びも簡単です。本体サイズは355(幅)×314(高さ)×161(奥行)mm、重量は3.6kg
本体上部にある操作部。モードを選択して「スタート」ボタンで運転開始。モードボタンを複数回押すことで、運転方法を変更することもできます
布団用のヒートパンチマット(左)とまくら用乾燥マット(右)が付属します
まくら用マットは本体内、ヒートパンチマットは大きいので付属する専用収納ポーチに収納
使用していないときの電源コードは本体内に収納。ただ、コードを出すたびに大きな前面パネルを外す必要があります。コードを出したままパネルを閉めることもできるのですが、これが意外に面倒。次のバージョンではもう少しコードの出し入れが簡単になったらうれしい……
ところで、「マット式」とひと言でいっても、実は種類があります。ひとつが布団をマットで「巻き込む」タイプ。このタイプは布団をほぼ全方向から包み込むように温めることができます。そして、もうひとつがかけ布団と敷き布団の間に挟むだけの「フラット」タイプ。こちらは置くだけなので、セットが簡単なのがメリット。ただし、敷き布団の上面全体はムラなく温められますが、側面から熱が逃げやすいという短所もあります。
そして、気になるAD-X80のマット方式は……なんと両方使えるハイブリッド方式。収納時のヒートパンチマットはマジックテープで「フラット」タイプの形をしていますが、このマジックテープで固定されている部分を開くことで「巻き込む」タイプにもなるのです。基本的に、頻繁に使用する「標準乾燥」にはフラット、本気の「ダニ対策」モード時には巻き込むタイプを使用します。
マットを開いて置いただけだと「フラット」タイプのマットとして使用可能です。標準の乾燥コースに使えます
包み込むようにセットするには、フラットタイプ時にマジックテープで止められているフラップ部分を開きます。マット上下にある「ポケット」に布団を押し込み、開いたフラップ部分を布団の下に挟み込めば準備完了です。こちらは、ダニ対策など念入りに布団を温めたい場合に便利です
和式の薄い敷き布団はもちろん、分厚いマットレスも包み込めます。ダブルサイズまで適用できるそうです
マットをセットしたら、マット端のスリットにノズルを差し込みます。マジックテープでぎゅっと固定すれば準備完了
最近は布団乾燥機を「冬に布団を温める」ために使用する人も多いですが、「温める」だけならマットは不要。なんとAD-X80は、ホースを布団に差し込んでボタンを押すだけで、まるで「非マット式」の布団乾燥機のように使用することもできます。
とはいえ、最近の「非マット式」になれた筆者にはマット式は正直面倒。このため一番気になるのが「この苦労をしただけの結果が出るのか?」ということです。
そんなわけで、温度が色でわかるサーモカメラでの撮影をしてみました。最初に撮影したのは、説明書の通りに使用した「標準乾燥」コース。次にマットを使用せずに「標準乾燥」コースを使ってみました。熱の分布は一目瞭然ですね。ノズルを差し込んだだけの布団は温まった赤いエリアが左上に偏っているのに対し、マット(フラット置き)を使用したベッドはほぼ全面が温まっています。
両方とも標準コースで約45分温めてから撮影。左がフラットタイプのマットを使用、右は足元からノズルを差し込んだだけで運転したもの
ところで、今回は「熱の分布」がわかりやすいように「色で表示する温度の下限」を30℃と高く設定しています。このため、この画像だけを見ると赤い部分以外のベッドが冷たそうに見えますが、実際はそんなことはありません。室温16℃の部屋で、水色エリアは約35℃、紺色に見える部分でも約28℃ほどあり、ベッド全体がお風呂のように温かです。
「マット式」の購入を考えているユーザー層なら、もちろん一番気になるのはダニ対策能力の高さでしょう。そこで、次はダニ対策ができる「ダニパンチ」モードを使用してみました。AD-X80のダニパンチモードは、敷き布団をマットで包んだあと、かけ布団をのせて90分運転。さらに、敷き布団とかけ布団を裏返してもう1回ダニパンチモードを運転します。ダニパンチモードは1回90分なので、1回のダニ対策には3時間かかることになります。最近の布団乾燥機のダニ対策モード運転時間は1時間半〜6時間(!)までさまざまなので、運転時間としては「平均的」といったところでしょう。
次はパワーです。ダニは50%以下の湿度で動けなくなり、50℃以上の温度で死滅するといわれています。ただ、ダニは生き物。もちろん布団表面を温めても、布団の内部に移動してしまいます。そこで重要になるのが布団の中心温度です。今回は敷き布団の中心に温度計を差し込んで布団の中心温度を計測してみました。また、同時に湿度も計測。しかも、今回はなんと濡らして軽く絞っただけのバスタオルで布団を挟み、バスタオルの上に湿度計を置くという過酷な環境でテストしてみました。結果は次のグラフの通り。
敷き布団を濡れたバスタオルで挟んで、その上に湿度計をのせて湿度の推移を計測しました。さらに、敷き布団の中心に温度計の針を刺して温度も計測しています
試験の結果はこの通り、温度は50℃を超え、湿度は20℃まで下がっています。終了後、タオル中心は少し湿っていましたが、表面はカラカラに乾いていました
温度計の針は「ノズルと反対側の布団の端」という温度が上がりにくい場所に刺していたのですが、3時間の運転後の中心温度は51℃まで上がっています。これなら布団の中のダニにも効いていそうです。また、濡れたバスタオルの上に置いていたのですが、最終的な湿度は20%に。一時は19%まで下がっていました。運転終了後のバスタオルの表面は、触ってみるとカラっと乾いた状態です。
最後に、標準モードと同じ設定で、温度を色で表示するサーモカメラでの撮影をしました。ダニパンチモード終了後は、標準モードでは表示されなかった「白いエリア」があります。ここの温度はなんとほぼ60℃。さらに、赤い部分が55℃、黄色部分で50℃以上ありました。かなり全体が熱くなっているのがわかります。ちなみに、ベッド上方右側の温度が低いのは、この部分からマットをはがし、撮影までに外気にさらされた時間が長かったためです。
ダニ対策モード使用後は、なんと一部はほぼ60℃まで温度が上昇しています。手で触ると「熱い!」と感じる温度帯です
最近の布団乾燥機は、布団以外のものを乾燥できるものが増えています。もちろんAD-X80もそのうちの1台。ノズルの先にはスリットがあり、これを靴に挟むことで靴の乾燥ができるようになっています。
そして、筆者が特に気に入ったのは衣類乾燥機能。なんと、衣類乾燥の際にはマットに服を「挟んで」乾かします。マットを使用するため、準備が面倒なうえ、少量しか乾燥できないというデメリットがあるのですが、この乾燥方法だと服が伸びることがありません。なお通常、カシミヤやシルクなどの一部のデリケートな衣類を乾かす場合は、平たい場所に「平干し」する必要があります。これはハンガーなどで干すと、重力で衣類が縦に伸びて形が崩れるため。しかしAD-X80で衣類乾燥すれば、マットに並べて干すため、このような問題もありません。ただし、服の素材によっては熱に弱いものもあるので、干す前に耐熱温度などはチェックしておきましょう。
靴やセーターなど、布団以外の製品も乾燥できます。衣類乾燥はマットを出すのが面倒ですが、「平置き」にして干せるので服が傷みにくそうなのが気に入りました
正直に言ってマット式の布団乾燥機は面倒です。特にベッドが壁に面していると、壁がじゃまで「包み込む」ようにセットするのが大変。しかし、今回のようにムラなく布団全面が温まる様子や、布団の中心温度、さらには布団の中で濡れたバスタオルが乾く様子を見ると「これなら、少々面倒でもやらざるを得ないか!?」と納得させられました。特に、手で絞っただけの濡れたタオルが乾いたのには驚きです。
とはいえ、筆者は非常にズボラな性格なので、頻繁にマットを使おうとすると飽きるのは目に見えています。なので、普段はノズルだけで布団を温め、月に1回くらいマットを使った「本気のダニ対策」をしようかと思います。こうやって使い分けができるのも、本製品のいいところですね。
パソコン雑誌編集者からドッグカフェオーナーという、異色の経歴を経た家電ライター。家電を活用することで、いかに家事の手を抜くかに日々頭を悩ませている。