完全ワイヤレスイヤホンブームの火付け役、スウェーデンのオーディオメーカー「EARIN」から、2年ぶりとなる完全ワイヤレスイヤホンの最新モデル「EARIN M-2」が発売された。
現在では数多くのライバルがひしめく完全ワイヤレスイヤホン市場。その中で、「EARIN M-2」は、低遅延で切れにくい無線通信と、使い心地のよさに磨きをかけた。使用感を交えて、その進化点をレポートしたい。
スウェーデンのオーディオメーカーEARINの完全ワイヤレスイヤホン第2弾「EARIN M-2」。Bluetooth 4.2接続に対応しており、コーデックは、AAC、apt-X、SBCをサポートする
台風で部品工場が壊滅的な被害にあい、新規工場の確保に時間がかかったことで、当初予定から数か月遅れての発売となった「EARIN M-2」だが、2018年2月末、数量限定にて初回分がついに発売された。品薄状況は今も続いているが、6月頃にはシルバーモデルも発売予定。流通量も今後改善していく見込み。こうした状況がありながら、早速、価格.comの「イヤホン・ヘッドホン」カテゴリーの売れ筋ランキングでは、トップ3にランクインするほどの人気を見せている(2018年3月28日時点)。
「EARIN M-1」が余計な機能を省き、大胆な小型化・軽量化(直径14.5×高さ20mm、3.6g)を実現したのに対し、「EARIN M-2」では、従来同様のコンパクトサイズを維持しながら、大幅な機能追加と音質の向上を実現している。まずはその概観からチェックしていきたい。
完全ワイヤレスイヤホンにはたいてい、充電器を兼ねた収納ケースが付属している。EARINではこれを「カプセル」と呼んでいるが、このカプセルのデザインを変更。「EARIN M-1」で好評を得ていたスティック型はそのままに、イヤホンの取り出し口に向かって細くなる形状となり、手に持ったときのホールド感がアップしている。
従来同様のスティック型だが、イヤホンの取り出し口に向かって細くなるデザインに変更されており、手に持ったときのホールド感が上がった。本体サイズは23(直径)×99(長さ)mmで、重量は56g
また、イヤホン本体を収めるトレイも頑丈になった。「EARIN M-1」ではABS樹脂だったが、「EARIN M-2」ではこれをメタルとABS樹脂のハイブリッドに。加えてイヤーピースの固定方法をマグネットに変えたことで、カプセルを逆さまにして開けても落ちないようになった。このほかにも、カプセル用とイヤホン用の充電状況がわかるLEDインジケーターを個別に搭載。それぞれの充電状況がわかるようになったのもポイントだ。
イヤホンを収納するトレイ部。内側にABS樹脂を、外側にメタルを使用。microUSBポートはケース内バッテリーの充電用で、その周辺にはカプセルの充電状況がわかる3つのLEDを配置している(従来は赤と緑の2色で表示)
トレイに仕込まれたマグネットによってイヤホンが固定される。取り出しやすいうえ、カプセルを逆さにしても落ちにくい
内部のトレイにもイヤホン本体の充電状況がわかるLEDを配置。地味だがこうしたところも使い勝手がよくなっている
カプセルより大きく進化したのがイヤホン本体だ。人間工学に基づいた形状になり、フォームタイプのイヤーチップもリニューアル。フィット感が向上し長時間着けても抜けにくくなったほか、遮音性についても体感してわかるほど向上している。特に風切り音はだいぶ抑えられているのが印象的だ。
人間工学に基づいたデザインになったイヤホン本体。ボディはABS樹脂で、本体サイズは14.5(幅)×17.2(高さ)×21(奥行)mmで重量が3.6g
耳に装着する際のひと手間もなくなった。一般的な完全ワイヤレスイヤホンは、左右イヤホンが明確に分けられており、事前に確認する必要があった。「EARIN M-2」では、左右のポジションを自動検知するモーション検出機能を搭載するため、左右の区別なく使えるようになっている。
また、完全ワイヤレスイヤホンの弱点と言われる、無線通信の安定性も改善している。左右イヤホン間の通信に、電波ではなく磁界を使った、NXPテクノロジー社の近距離磁器誘導(NFMI)技術「MiGLOテクノロジー」を使用し、音飛びや音切れの原因となるドロップアウトや、音ズレの原因となる遅延が改善されている。MiGLOテクノロジーを採用する完全ワイヤレスイヤホンはほかにもあるが、このコンパクトサイズで実現しているのは、「EARIN M-2」の大きなアドバンテージと言えるだろう。
しかし、ドロップアウトについては、周辺環境に左右されやすい印象がある。さまざまな電波が飛び交っている駅ビルや、混雑している都心部に出かけて試すと、通信が途切れることもあった。安価な製品に比べれば途切れにくいとは思うが、期待しすぎるのは禁物。ただ、前モデル「EARIN M-1」は一度接続が切れると回復するのにも時間がかかっていたが、「EARIN M-2」ではすぐに再接続される。こうしたところには進化を感じた。
遅延については体感上気にならないレベルで、スマートフォンのゲームアプリ「アイドルマスター シンデレラガールズ スターライトステージ」も快適にプレイできる。また、動画配信サービスで映像を視聴してみたところ、唇の動きとセリフが合っておりリップシンクも問題なかった。
操作性という面では、イヤホン背面に搭載されたタッチインターフェイスも快適だ。楽曲の再生/停止や次曲/前曲をタップで行える。また、本体に内蔵されたマイクにより、ノイズリダクション付きのハンズフリー通話も可能。「EARIN M-2」ユーザー側のノイズを20dB低減させるという。そのほかにも、Siriなどの音声アシスタントも活用できる。「EARIN M-1」になかったこうした実用的な機能を備えることで、スマートフォンでの使い勝手は格段によくなった。
前述の通り「EARIN M-2」はマイクを内蔵するが、ハンズフリー通話以外の機能も備えている。それがイヤホンを耳に着けた状態でも、外音を取り込める「トランスパレンシー機能」だ。
赤丸で囲んだところにマイクが内蔵されているが、フォームチップ装着時はほぼ目立たない。マイクは合計4個(左右のイヤホンそれぞれに2個ずつ)搭載しているという
この機能により、たとえば、コンビニの会計時に店員さんの声を聞くために、わざわざイヤホンを外す必要もない。電車の車内アナウンスも問題なく聞き取れる。使ってみると確かに便利な機能だった。
このトランスパレンシー機能は基本的には、「音楽を再生しているとき」でも、「音楽を停止しているとき」でも、どちらでも利用できる。初回ペアリング時は、音楽を停止すると外音の取り込みを行い、音楽の再生が始まると自動的にオフになる「オートモード」になっているが、後述するスマートフォン用の専用アプリ(無料)を使えば、常時オンまたはオフすることも可能だ。
ただ、作りこみが甘いところもある。接続するスマートフォンによって、外音の取り込みが始まるまでに数秒のタイムラグがあり、機種によって短いときもあれば、5秒以上かかるときもあるなど、まちまちなのだ。また、マイクを通して入ってくる音の音質があまりよくないため、音楽を聴いているときは集中できないときもある。じっくり聴きたいときは、トランスパレンシー機能を切るほうがベターだろう。
後述する専用アプリ(Android/iOS対応、いずれも無料)を使えば、トランスパレンシー機能のオン/オフができるほか、取り込んだ音のボリューム調整や、マイクの指向性(近距離〜遠距離)を細かく調整することもできる
専用アプリについても機能改善が行われている。大きなところでは、本体ファームウェアのアップデート機能を追加したことだ。これにより、製品の改善を中心に、新機能の提供も行っていくという。そのほか、イヤホン本体の電源をアプリ上から切れるようになったのも新しいところだ。なお、バッテリー残量表示(イヤホンのみ)や、左右のバランス調整などは従来と同じ。
専用アプリのホーム画面。白い円がイヤホン本体のバッテリー残量を表している(カプセルの電池残量は非対応)。そのほかにも、ボリューム調整や左右のバランス調整も行える
それでは音を聴いてみる。プレーヤーとして、アップルのスマートフォン「iPhoneSE」やソニーのウォークマン「NW-A45」を使い、iTunesで販売されている楽曲やリッピングしたCD音源を中心に試聴した。
「EARIN M-2」は前モデル同様、Knowles社製BA(バランスドアーマチュア)型ドライバーを1基搭載し、周波数特性も同じ20〜20,000Hzとなるが、搭載ドライバーは新型になっている。音の傾向は初代で感じた、変な誇張や演出のないトーンバランスのよさを受け継ぎながら、さらに音のこもりが少なく粒立ちのいい解像感あるサウンドに進化している。また、低音の表現力にも磨きがかけられており、ドラムスのキレや、ウッドベースの深みのある音など、小型なBA型ドライバーとしては、想像以上に厚みや量感なども出ているように思えた。新型ドライバーでは、低音を強化したというだけあって、それを実感できる仕上がりだ。
完全ワイヤレスイヤホンのヒット商品となった「EARIN M-1」と比べると、「EARIN M-2」では大きな進化を遂げている。MiGLOテクノロジーにより無線通信の安定性を高めたことで、よりよい音質となったほか、新たにマイクを搭載したことにより、ノイズリダクション付きの通話機能や、外音を取り込めるトランスパレンシー機能も搭載。使い勝手もだいぶ向上した。そのうえで、従来モデル並みの超小型・超軽量な本体を実現しているのは、「EARIN M-2」の大きな魅力。完全ワイヤレスイヤホンの中では、実勢価格が32,000円と高めだが、使ってみると割高な印象はしない。ただ、トランスパレンシー機能の作りこみが甘く、実力を出し切れていないのは残念だった。今後提供予定のファームウェアやアプリのアップデートが待ち遠しい。