シンガポールに本拠を置くAlpha & Deltaは、数年前に設立されたばかりの新しいオーディオブランドで、イヤホンをメインとしたラインアップを展開している。そんなAlpha & Deltaの製品を、このたび、ハイエンドオーディオやネットワークオーディオ製品の輸入販売を手がけるブライトーンが扱うこととなり、日本国内での本格的な販売がスタートすることとなった。今回は、国内販売第1弾となる2製品、「D6」「D3」について、紹介していこうと思う。
「手頃な価格で、オーディオファンが望む高品質な製品作り」をコンセプトに掲げるメーカーだけあって、「D6」「D3」ともに造りに対してリーズナブルに思える価格設定となっているのが特徴だ。
たとえば「D6」は、専用開発された10mm口径ドライバーをHDSS(ハイ・デフィニション・サウンド・スタンダード)技術を投入したデュアル・エア・チェンバー構造の亜鉛合金筐体に搭載。さらに、8本構成の銀メッキ銅線ケーブルを採用するなどパーツのチョイスにもこだわりを持ち、それでいて定価15,000円(税別)という、なかなかに良好なコストパフォーマンスを示しているのだ。保証期間も3年(「D6」のみ)と長く、そういった姿勢からも自信の表れが感じられる。安かろう悪かろうではない、質のよさにもこだわっているというAlpha & Deltaだけに、そのサウンドがいかなるものか、大いに興味が惹かれるところだ。
ということで、まずは「D6」から詳細を紹介していこうと思う。
Alpha & Delta「D6」
先にも述べたとおり、「D6」は10mm構成のダイナミック型ドライバーを搭載したモデルで、亜鉛合金製の筐体はHDSS技術を投入したデュアル・エア・チェンバー構造を採用。ハイレゾ音源に対応するとともに、自然なサウンドステージをもつ3次元音響再生もアピールする。外観も、表面がメッキ(的な?)処理された筐体や、8線構成による銀メッキケーブル、ケーブル側にバネを配置して強度を高めた3.5mmジャックなど、上質感の漂う造りとなっている。
「D6」の筐体は亜鉛合金を採用。ドライバーユニットは、口径10mmのダイナミック型が使われている
ケーブルも8線構成の銀メッキタイプを採用するなどかなりこだわっている
また、付属品に関してはレザーケースやレザーイヤホンバンド、イヤークリップなど、かなりの充実度を誇っている。さらに、イヤーチップはシリコン9ペア、フォーム1ペアの合計10ペアが付属するなど、充実した内容となっている点もありがたい。
付属品はかなり豪華。イヤーチップもサイズや素材の違いで10種類が付属するなどかなり充実している
さて、肝心のサウンドはというと、鮮度感が高く、それでいて丁寧なディテール表現を持ち合わせているのが好ましい。HDSSのおかげか、左右への広がり感がある上に定位もしっかりしているが、それ以上に魅力的なのが中高域の心地よい音色だ。
TVアニメ『ハクメイとミコチ』EDテーマ「Harvest Moon Night」を聴くと、軽やかで清々しい2人の歌声が堪能できる。特に、ボリュームを落としてもしっかりと耳に届いてくる抜けのよさがのびのびと歌っている様子に感じられ、とても心地よい。ベースの音も、ややライトな印象になるものの、フォーカス感がしっかりしているため、リズミカルな演奏に感じられる。
いっぽう、アース・ウィンド・アンド・ファイアー(Earth, Wind & Fire)「Let's Groove」を聴くと、粘りのあるベースの音によって、独自のグルーブ感が色濃く表れる。その上に、ドライなボーカルとギターが乗り、なんとも軽快なサウンドに纏まっている。なんともノリのよいサウンドだ。ポップス、ロック系はとてつもなく楽しい演奏を聴かせてくれる、絶妙なチューニングだ。
いっぽうで、低域がタイトに締め上げられていることもあってか、クラシック系、特にオーケストラはベストマッチとまでは行かないイメージはある。例外はチェロの独奏。なんとも、表現力豊かな演奏を聴かせてもらえるので、これはこれで素晴らしいと感じる。とにもかくにも、ボーカルものやジャズ、ロック、ポップスなどをメインに聴く人は、魅力的なサウンドに感じてもらえるはずだ。
ただし、1点注意がある。じつはこの「D6」、新品を聴き始めた際はかなりセンシティブな高域を持つ、硬質な音色のサウンドだった。その状態が本来のものではないだろうと想像し、エージングを行ったところ、上記のようなすがすがしさと心地よさを併せ持つサウンドを聴くことができたのだ。「D6」本来のサウンドを評価するには、少なくとも48時間、できれば100時間ほどのエージングを行ってから聴くことをオススメしたい。
変わって、もうひとつの製品「D3」の詳細を紹介していこう。
Alpha & Delta「D3」
こちらは、定価7,000円(税別)と、「D6」に対して下位グレードに位置する製品で、独自チューニングが施された6mm口径のダイナミック型ドライバーを搭載するモデル。耳掛け型とストレート型どちらも可能な個性的デザインを持つ筐体は、金属というか鋳鉄を採用しているという、今どき珍しい素材チョイスとなっている(試しに磁石を近づけてみたら本当に鉄だった)。外観は「D6」とおなじく、メッキ処理されていて上品な印象だ。
「D3」の筐体は鋳鉄を採用。ドライバーユニットは、6mm口径のダイナミック型のものが使われている
ケーブルも「D6」と同じく銀メッキ銅線ケーブルを採用するが、「D3」は8線ではなく4線となる。付属品は、イヤーチップが6ペアになっているものの、レザーケースやレザーイヤホンバンド、イヤークリップなどは変わらず同梱されている。7000円クラスの後の充実度は、なかなかない。
下位モデルとなる「D3」にも銀メッキ銅線ケーブルが使われている
レザーケースにイヤークリップ、6種類のイヤーチップと付属品もなかなか豪華だ
「D6」とは打って変わって、「D3」はナチュラルテイストを重視した、ややウォーミーな傾向を持つサウンドキャラクター。低域の量感も多めで、落ち着いた印象の音色傾向だ。ボーカルの声は比較的自然なイメージで、よく通るすがすがしさは「D6」と共通している。いっぽう、ピアノに関しては倍音のそろいがよいのか、不思議と「D3」のほうがとても伸びやかに感じる。帯域バランス的には、屋外での使用がメインのユーザーは「D3」の方が好ましい場合もありそう。このあたりは、使用環境や好み次第といえるだろう。
ちなみに「D3」も「D6」と同じ時間(約100時間ほど)エージングを行ったが、高域の角が取れたものの、音色にそれほど変化は生じなかった。このあたりは、ドライバーの違いによるものかもしれない。
このように、Alpha & Deltaの「D6」「D3」は、なかなかに完成度の高い製品に仕上がっていた。特に「D6」は、独特のサウンド表現を持ち合わせていて強い興味を持った。加えて、コストパフォーマンスのよさも大いに魅力だろう。注目に値するモデルだ。
ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。