特別企画
HiBy R3シリーズとAstell&Kern「A&futura SE200」を使って検証

DACの違いによって音はどう変わるのか? DAC違いのハイレゾDAPで聴き比べてみた

HiBy R3シリーズとAstell&Kern「A&futura SE200」

HiBy R3シリーズとAstell&Kern「A&futura SE200」

デジタル音声データをアナログ音声に変換するDAC(デジタルtoアナログ・コンバーター)は、オーディオ機器においてかなり重要なパートと考えられていて、この部品ひとつで大きく音質が変わるとさえ言われることがある。もちろん、ひと括りにDACといってもDA変換タイプもいろいろあり、また製品によって精度の違いがあったりなど、さまざまな要因が重なっているのだろうと推測はできる。しかしながら、うがった見方をすればDAC以外の部分、回路設計やアンプ部など別の要素に起因している可能性もあり、その音の違いは本当にDACのせいなのか? という疑問も浮かんでくる。

冒頭からややこしい話をさせてもらったが、要するに、DAC違いで本当に音は変わるのか、試してみよう、という話だ。というのも、ここ最近発売されたハイレゾ対応DAP(デジタルオーディオプレーヤー)の中で、DAC違いによる音の変化を確認できそうな製品が2つも登場してきたからだ。

なお、今回テストする環境(というかDAP)も、DACチップがヘッドホンアンプ一体型だったり、非公表ながら別回路でヘッドホンアンプが用意されていたり(あくまで推測だが)と、厳密にいえばDACパートのみの音質差を比較するとはいえない状況にあるが、ある程度、DAC違いの特徴を把握、類推できそうな環境ではある。ということで、今回は“DACの違いによって音はどう変わるのか?”というポイントに注視しつつ、そのサウンドをレビューさせていただこうと思う。

DACの異なる3モデルをラインアップ! HiBy R3シリーズ

HiBy R3シリーズ

HiBy R3シリーズ

まず取り上げるのが、HiByのR3シリーズだ。こちらの製品、スマートフォン用アプリなども手がけている新進気鋭のポータブルオーディオメーカー、HiByのエントリーシリーズで、小型軽量、ハイコストパフォーマンスがウリの製品。最初にESS社製DAC「ES9028Q2M」を搭載した「R3」がデビューし、その後シーラス・ロジック社製の「CS43131」をデュアルで搭載した「R3Pro」へと発展。その後、DACをESS社製「ES9218P」デュアル搭載に変更した「R3Pro Saber」が追加された。このため、現在は運がいいことに(R3は販売終了だが)「ES9028Q2M」シングルと「CS43131」デュアル、「ES9218P」デュアルの3タイプDACをほぼ同じ環境で聴き比べることができるようになっている。

もちろん、「R3」と「R3Pro」では搭載DAC数が異なっているため回路設計も異なっているだろうし、そもそも3タイプのDACはいずれもスマートフォン向けを想定されたタイプで、スペース効率を高めるためにヘッドホン回路が一体化されている統合チップとなっている。そのため、厳密には“DACパートのみの比較”にはならないのだが、DACチップのみの比較や、メーカーによる音色傾向の違いはわかるかもしれないということで、「R3」と「R3Pro」、「R3Pro Saber」の3製品を比較試聴してみた。試聴用のイヤホンは、差異を厳密に聴き比べるためにも、Astell&Kern「AK T9iE」やfinal「A8000」など、高価格帯のイヤホンで試聴を行った

ヘッドホン出力部などの細かなデザイン差異はあるものの、基本的なサイズ感やデザインは3モデル共通だ

ヘッドホン出力部などの細かなデザイン差異はあるものの、基本的なサイズ感やデザインは3モデル共通だ

まずは「R3」から。やや低域は量感少なめに感じられフォーカスに甘さも感じられるが、SN感が良好なこと、中高域がクリアでメリハリがあるので、表現力のあるサウンドが楽しめる。女性ボーカルはニュートラルな歌声で、ややメリハリ強めといったところか。いっぽうで、エレキギターは高域が少しガシャガシャした音。ドラムも高域の要素が目立つ傾向にある。

続いて、「R3Pro」を試聴。こちらは、圧倒的にノイズ感が減少。とても静粛な、SN感がグッとよくなったサウンドにグレードアップしている。このあたりは、回路設計変更に由来する可能性もあるが、デュアルDAC構成の恩恵とも思える。

また、「R3」対して音色も随分変わっている。高域は伸びやかではあるものの、痛々しい鋭さが皆無な、自然な印象のサウンドにシフトしている。チェロはやや低域の量感が増しているし、何よりもリアリティのある、自然な音色に感じられる。ギターもドラムのシンバルも、現実にある音になっていて、迫力があるのに聴き心地もよい、絶妙なサウンドだ。女性ボーカルは声の特徴がしっかりと表現されていて、「R3」に対して圧倒的にリアルに感じられる。おかげで、「五等分の気持ち」をとても楽しく聴くことができた。

そして、「R3Pro Saber」を聴いてみる。こちらはこれまでの2製品に比べて圧倒的に解像感が高まってくれたかのような、ハイファイなサウンド。よく聴くと、SN感とノイズ感の少なさは「R3Pro」と大差ないのだが、中高域のクリアさ、表現の緻密さが増し、細やかな表現までしっかり感じ取られる、クリアでフレッシュな印象のサウンドになった。チェロの音がいちばんリアルに感じられるし、女性ボーカルの歌声も、とてもハキハキとしている。こと音質では、「R3Pro」に対してもワンランクよくなった印象だ。

とはいえ、JロックやJポップの場合、イヤホンとの組み合わせに配慮が必要と思えるのも「R3Pro Saber」ならではの音色傾向でもある。OLDCODEXを聴くと、「A8000」だとかなり高域が強め、「AK T9iE」では付帯音の多さが気になった。

ESS社製「ES9218P」をデュアル搭載する「R3Pro Saber」。音質に限れば、「R3Pro」に対してもワンランクよくなった印象だ

それにしても、(アンプ一体型の統合チップではあるけれど)DACひとつでここまで音が変わるのは興味深い。特にわかりやすかったのが「五等分の気持ち」の中野一花(CV.花澤香菜)だろう。かなりハスキーな「R3Pro Saber」に対して、「R3Pro」では独特のやわらかく心地よい響きを聴かせてくれる。イヤホンとの相性もあるが、自然な音が好きなら「R3Pro」、クオリティを重視したいなら「R3Pro Saber」というように、R3シリーズに関してはハッキリと特徴がわかれていた。

1台に2種類のDACを搭載した異色のDAP。Astell&Kern「A&futura SE200」

Astell&Kern「A&futura SE200」

Astell&Kern「A&futura SE200」

次にテストしたのが、Astell&Kern「A&futura SE200」だ。こちらの製品、同ブランドのプレミアムクラスDAP「SE100」の後継に当たるモデルで、デザインコンセプトを受け継ぎつつも外観、音質の両方からクオリティアップを果たしたもの。先に登場した「SA700」同様、音量ダイヤルの根元部分にLEDが配置されるなど、最新モデルならではの作り込みの細やかさも持ち合わせている。そんな「SE200」の最大の特長であり、これまでの製品になかった独自性が「マルチDAC」システムだ。

なんと、「SE200」にはESS社製「ES9068AS」×2とAKM社製「AK4499EQ」×1、2種類のDACが搭載され、それぞれが独立したヘッドホン出力を持ち合わせているのだ。そして、それぞれ別のヘッドホンアンプが接続され、バランスとアンバランス、2種類ずつ合計4系統の出力が用意されている。このように、「SE200」は個別に異なるヘッドホンアンプが組み合わされているため、純粋なDACの比較試聴にはならないが、どちらも同一筐体内にレイアウトされているため、比較的イコールコンディションに近いはず。ということで、こちらもAstell&Kern「AK T9iE」とfinal「A8000」、2つのイヤホンを使用して比較試聴してみた。

「SA700」にも採用された、LED付きの音量ダイヤル。LEDの色で再生楽曲のビットレートやサンプリングレートを直感的に確認できるのが便利だ

ヘッドホン出力は、DACごとにバランスとアンバランスの2系統が用意されており、1台で4種類の異なる出力を楽しめる

まずはAKM社製「AK4499EQ」から。ひと言で表現するならば、自然な音色とスピード感の高さを巧みにバランスしたサウンド。高域にちょっとした鋭さを持つが、音色の表現はとてもニュートラルなので、迫力のある、それでいて聴き心地のよいサウンドが楽しめる。高級モデルということもあってか、クラシックからJロックまで、さまざまな楽曲が楽しめる懐の深さを持ち合わせている。MYTH & ROIDを聴くと、迫力満点の分厚いサウンドをしっかり再現しつつも聴きやすさも持ち合わせている、ドラムの音もリアルだったり、聴いていてとても楽しい。

続いて、ESS社製「ES9068AS」のほうを聴く。メリハリ表現がやや控えめで、こちらのほうがよりニュートラルな表現に感じられる。解像感や歪み感の少なさではこちらのほうが有利で、地味だが優秀な音といったイメージだ。そのため、先ほどと同じくMYTH & ROIDを聴くと、「AK4499EQ」に比べてやや客観的な表現に感じられる。音の厚さもこちらのほうが少ない。それでいて絶対的な情報量は多く、楽曲の魅力がしっかりと伝わってくる。聴き心地のよさよりも、音の正確さに重きを置いたかのようなサウンドキャラクターだ。

と、ここまで聴いて気がついた。「SE200」の場合は、トータルのサウンドキャラクターを意識的にコントロールしているのかもしれない、と。というのも、「ES9068AS」のほうはラインアウト的な音色傾向にも思えるからだ。既存モデル「KANN」のような2系統(合計4つ)の出力をDACからセパレートして用意したのかもしれない。いずれにしろ、好みやイヤホンとの相性で2系統のヘッドホン出力を楽しめるのはありがたい(実際にはどちらの出力も「AK T9iE」「A8000」分け隔てなくまずまずの相性を見せてくれていた)。

まとめ

同一シリーズ内にDACの異なる3モデルをラインアップするHiBy R3シリーズと、1台に2種類のDACを収めたAstell&Kern「A&futura SE200」を使って、DAC違いによる音の変化を確認してみたが、特に「SE200」の音を聴くと、DACに音の違いはあれど、それを含めて総合的なサウンド作りをするのがオーディオメーカーのあるべき姿、という気がしてくる。とはいえ、どの音が好みかR3シリーズを聴き比べて好みのひとつをチョイスするというのも楽しい。

今回の試聴では、ヘッドホンアンプという別ファクターがどうしても分離できなかったが、DAC違いで多少なりクオリティや音色傾向が音が変わってくるのは確かなようだ。特に、メーカーによって音色が結構違ってくる点にはとても興味が引かれた。これは多分、各チップメーカー(の製品シリーズ)が採用している内部構成やソフトウェア処理の違いによって生じているのかもしれない。原因については想像するしかないのが歯痒い部分だが、今後もこういった機会があれば、いろいろと試してみたいと思う。

いずれにしろ、DAC違いをアピールする製品同士の場合、音の違いを意識的に差別化しているようなので、そういった製品があった場合はぜひ聴き比べて自分好みのほうをチョイスしてほしい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどをはじめ幅広いジャンルで活躍するAVライター。ハイレゾ音源についても造詣が深く、アニソンレーベルのスーパーバイザーを務めるほか、TBSテレビ開運音楽堂「KAIUNハイレゾ」コーナーではアドバイザーとしてレギュラー出演している。

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