続いてAirPods Maxの音質をチェックしてみた。ここからはノイキャン対応ワイヤレスヘッドホンのライバルとして、ソニーのWH-1000XM4、BOSEのNOISE CANCELLING HEADPHONES 700を用意。プレイヤーはiPhone12 Proで、Amazon Music HDの音源を再生している。
最初に断っておくが、この対決はフェアではない。ソニーのWH-1000XM4は12月下旬時点での価格.com最安価格が約34,000円、BOSEのNOISE CANCELLING HEADPHONES 700は価格.com最安価格で約36,000円。AirPods Maxは税込み67,980円なので、2倍弱、金額にして3万円以上の価格差のある製品対決だ。
アップルのAirPods Max、ソニーのWH-1000XM4、BOSEのNOISE CANCELLING HEADPHONES 700を聴き比べ
まずはAirPods Maxから。僕がリファレンスにしている宇多田ヒカルの『あなた』を聴いてみたが、Bluetoothのワイヤレスヘッドホンとは思えないほどに極めてナチュラルで自然な情報量を備えたサウンドだった。歌声もハッキリしているけど音が立つ訳ではなく、微細音の再現もすべて出し切るし、低音は低音のフィールドとでも呼びたくなるようなハリあるサウンドで再現。Official髭男dism『Pretender』を聴いてもサウンドはニュートラルで、エレキギターが空間の中で鳴っている様子まで感じられるし、集中すれば歌声、キーボードの立体感まで把握できる。そして特筆すべきは極上の低音だ。空気を振動させるパワーを出しつつも、情報もしっかりとカバーしてくれている。
ライバル機はというと、BOSEはAirPods Maxと比べると歌声の音情報量も少なく楽器の音も歪むし、低音はゴツゴツと量感でカバーする感じでハリのある表現はない。ソニーは、歌声の伸びやかさ、響きの再現性はさすがで、密閉型ヘッドホンらしく音の空間的な密度もしっかりと感じられる。いっぽうで、音のセパレーション、そして空間の音の間という静の表現力はAirPods Maxが上。ソニーも低音のハリを再現してくれているが、AirPods Maxのほうがもっと上だ。
音質評価としては音源を聴くほどにAirPods Maxの評価が上がっていく。微細音の再現性、音の密度感とは正反対の方向性、そっけないほどの音のセパレーション、深く上質な重低音は本当にすばらしい。ただ、繰り返しになるがAirPods Maxはライバル機より3万円以上も高価なのだから、音質で負けていたらその時点でお話にならない。AirPods Maxは高価なだけあって音質もよかったというだけのことだ。
あとはサウンドの好み次第というところもあるが、AirPods Maxはかなり地味な音なので、物足りなさはある。ただ、音の素性はいいのでイコライジング次第で如何様にも変えられそうだ。AirPods Proも発売後にさまざまなアップデートを重ねていることを考えると、どうせ音質も変えてくるだろうと想像もできる。
ノイズキャンセリング性能については、AirPods MaxとWH-1000XM4、NOISE CANCELLING HEADPHONES 700を電車内に持ち込んで検証した。電車内での密を避けるため、今回は平日朝に郊外に向かう下り電車に乗車して検証を行っている。
最初にAirPods Maxをテストしてみたが、正直言って最初の印象は芳しくなかった。電車の走行音などごう音はそれなりに低減するのだが、風が強く吹き付けるようなゴゴゴという重低音が残る。車内アナウンスなどはあまり音色を変えずに軽く押さえる程度だ。
電車内でAirPods Maxのノイズキャンセリング性能を検証
ライバルのソニー WH-1000XM4は、電車の騒音低減は得意で走行時の重低音から低音域は的確に消して、軽めのカタンコトンという音のみになるなど、すばらしい効果を発揮していた。BOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700は走行時のごう音をほぼ抑えつつ、全帯域でわずかに騒音を残す絶妙なチューニングだった。
ソニー WH-1000XM4も検証
BOSE NOISE CANCELLING HEADPHONES 700も検証
AirPods Maxのノイキャン性能は電車で試すと想像以上にソニー、BOSEに負けている……と思いつつ目的の駅で降りて電車を折り返し(そのまま駅構内でもAirPods Maxを装着したまま)、検証を再開すると先程とはAirPods Maxのノイズキャンセリング効果のレベルがだいぶ違うことに気が付く。AirPods Maxのノイキャンでもっとも気になっていた風が強く吹き付けるようなノイズはなくなり、走行時の重低音から低音までの騒音も低減して軽いカタンコトンという音のみになった。高域のエアコンの音についても消せるところも優秀。車内アナウンスは自然な音のまま全体を大きくボリュームダウン。これならソニー、BOSEと同クラスだ。
AirPods Maxを乗り換え時も装着してテスト
今回検証して気が付いたのは、AirPods Maxは「コンピュテーショナルオーディオ」による装着密閉具合による音響調整の効果が大きいということ。ノイキャン効果も含め、装着してしばらく密閉状態が続くと最適化が進むようだ。そのため短時間で付け外しすると最高のパフォーマンスが発揮できない。顔の向きを変えたり、たとえば上着の襟にヘッドホンが触れてズレるだけで効果が弱まる。なんともナーバスな働きだが、よくも細かに計算してやっているなと感心もしてしまった。
AirPods Maxは襟との接触でもノイキャン効果が変化する
最後に、AirPods Maxはノイズキャンセリング機能特有の酔うような気持ち悪さが強めということは伝えておきたい。装着した直後がもっとも強烈に表れ、最適化が進んでもソニー、BOSE(両社とも僕はまったく気にならない)よりもキツイ。AirPods Maxはノイズキャンセリング効果の強弱を調整する機能がないというところも残念なところだ。
以上、AirPods Maxの全体的な使い勝手、音質、ノイズキャンセリング性能をチェックしてきたが、AirPods Maxはなんともアップルらしい“高価だけどいいモノ”だった。ただ、細かい不満はいくつもある。ヘッドホンで重量384.8gは持ち歩きには重いし、電源ボタンがないのは慣れない。音質は個人的には文句ないが、ノイズキャンセリングについては、装着時の特有の不快感が強く出ることと、強弱が調整できない点が気になる。ただ、それらもハードウェアの問題である重量以外はいずれアップデートで解消してくれるかもしれない。
それら全部を踏まえて“AirPods Maxは買い”かと問われると、ワイヤレスヘッドホンで4万円以上となると躊躇するのも事実。空間オーディオの効果は確かにすばらしいし、アップデートでさまざまな機能改善も期待できる。その総合力に価値を見出すなら買っていいアイテムだろう。