一般的にBluetoothスピーカーと言えば、本体がコンパクトかつバッテリー駆動に対応することによるポータブル性が魅力! ……ですが、それとは別のタイプにも注目してほしい。今回紹介するのは、自宅で高音質なサウンドを楽しむための「据え置き型」で「ハイエンド」なBluetoothスピーカーです。近年そういった製品が増えてきた背景、そして実際の製品の実力や個性をお伝えしていきましょう。
Bluetoothスピーカーの主流は、コンパクトさとバッテリー内蔵で持ち運びの自由度を高めたポータブルタイプ。外出時の持ち出しはもちろん、自宅内でもベッドからリビング、防水仕様の製品ならキッチンやバスルームまで、さまざまな場面で活躍してくれます。
ですが昨夏からこの冬、ポータビリティよりオーディオとしてのクオリティを重視した、据え置き使用想定のハイエンドBluetoothスピーカーの注目製品が続けて登場。Astell&Kern「ACRO BE100」は税込5万円弱、AIRPULSE「P100X」はさらに上の税込10万円弱と、その価格設定からも、各メーカーの本気度が伝わってきます。
Astell&Kern「ACRO BE100」
AIRPULSE「P100X」
据え置きでそういう価格帯のBluetoothスピーカーがこれまでになかったわけではありません。たとえばMarshallやFenderはこのジャンルに以前から積極的でしたし、音質も優秀でした。とはいえ「あのギターアンプのMarshall!」「あのストラトやジャズベのFender!」というブランドイメージやギターアンプ的なデザインのインパクトがぐいぐい前に来るため、ハイエンドオーディオとしての評価&注目はされにくかった感はあります。
対してAstell&Kern(アステルアンドケルン)とAIRPULSE(エアパルス)は、DAPとスピーカーというそれぞれの分野で確立されたブランド力を持つ“オーディオブランド”。その彼らが本気で作り込んだBluetoothスピーカーとなれば、これはもうオーディオマニアも文句なしのハイエンド! です。そしてその実力も文句なしのハイエンド!
今回はその「オーディオブランドが本気出したBluetoothスピーカー」である両製品の魅力を紹介しつつ、それを通して「据え置き型ハイエンドBluetoothスピーカー」というジャンル自体もプッシュしていきたいと思います。
さて、このような製品が登場してきた背景としては、「LDAC」や「aptX HD」など、高音質コーデックでのBluetooth音声送信に対応するスマホが増えてきたこと。それを受信するオーディオ機器向けのSoCでも、同じくそれらに対応するものが増えてきたこと。つまり高音質Bluetoothスピーカーを実現しやすい、技術的な環境が整ってきたことは大きいでしょう。
しかし加えて、ユーザー側に「おうち時間の充実」というニーズ、購入動機が生まれたことも見逃せません。売れる見込みがあるからこそ、オーディオブランドも企業として本気で開発に取り組める! というわけです。
ではここでユーザーから求められる「高音質なBluetoothスピーカー」とは、どういったスタイルのものなのでしょう?
「Bluetoothにも対応する高音質スピーカー」というだけなら、そういう製品は以前からありました。それこそAIRPULSEの「A80」「A100」「A300 Pro」は、すばらしく音のよい本格的なパワードスピーカーでありつつBluetooth対応です。
AIRPULSE「A300 Pro」はaptX HD対応の本格パワードスピーカー
でもこれ、一般的に「Bluetoothスピーカー」として想像される形ではありませんよね? あくまでも「本格パワードスピーカー(Bluetoothにも対応します)」的な製品です。Bluetoothスピーカーで育った若い世代のユーザーには、この「左右別筐体で、その両方に電源ケーブルを挿す必要があって……」みたいな設置性や使い勝手はなじまないのではないでしょうか?
Bluetoothスピーカー的な使いやすさや親しみやすさを感じられるのは、やはりワンボディ、完全一体型のスピーカー。サイズ大きめでバッテリー非搭載な据え置き用でも、一体型であれば「Bluetoothスピーカー」として認識されやすく、それに慣れ親しんだ世代のユーザーにも受け入れられやすい。一体型なら、ポータブル型ほど気軽ではないにせよ、室内でのちょっとした移動は簡単だったりもしますしね。
ということで今回プッシュするのは、その「“一体型”で据え置き型なハイエンドBluetoothスピーカー」であり、それを代表する前述の2製品です。まずは両製品の概要をさらっと確認。
●幾何学的なアシンメトリー形状にカットされたスピーカーメッシュグリル、フラットな天板にて存在感を放つボリュームノブ、プレミアムPUレザーなど、いかにもAstell&Kernらしいデザイン。
●BluetoothのSoCに内蔵のDAC機能は利用せず別途単体のDACチップES9010K2Mを核としたDAC回路を搭載。ハイエンドなクラスDアンプ、デジタルクロスオーバー、ダイナミック・レンジ・コントロールなどにより、最大音量時までクリアなサウンドを確保。
●シルクドームのツイーター2基を左右、ケブラーウーハー1基を中央に配置する、2ウェイ3スピーカー構成。バスレフ構造で低音を補強。
●SBC、AACに加え、LDACとaptX HDにも対応。
●3.5mmステレオミニ端子アナログ入力も用意。
●ボリュームノブとタッチボタンの組み合わせによる、わかりやすい操作性。
●TrebleとBassのイコライザー。
●ウッドとファブリックによる、クラシカルなオーディオシステム然としたたたずまい。
●96kHzまでのデジタル信号をそのまま受け取って増幅できるデジタル入力対応クラスDアンプチップ、TAS5805Mを採用。DSPによるクロスオーバー、ダイナミック・レンジ・コントロールのコンビネーションで幅広い音量で力を発揮。
●同社の象徴的特許技術であるAir-Bladeツイーター2基を左右、マグネシウム合金性フレームを備える強力なミッドウーハー1基を中央に配置する、2ウェイ3スピーカー構成。背面設置環境の影響を受けにくいパッシブラジエーターで低音を補強。
●SBC、AACに加え、aptX HDにも対応。
●RCA端子アナログ入力も用意。
●クリック感を備えるフィジカルなノブによる、わかりやすく心地よい操作性。
●TREBLE&BASSのイコライザーも専用ノブでサッと調整可能。
では実機チェック開始。まずは両製品まとめてサイズ感を確認しておきましょう。据え置き機とはいえ、いえむしろ据え置き機だからこそ、どれほどの設置スペースを確保する必要があるかの確認は大切です。
スペック数値としては、ACRO BE100が261(幅)×164(高さ)×171(奥行)mm/重量3.2kg、AIRPULSE P100Xが300(幅)×180(高さ)×200(奥行)mm/重量5.1kgとなっています。実際に見てみると……
BE100とiPhone Xとボックスティッシュ
P100XとiPhone Xとボックスティッシュ
肉眼ではこの写真よりもう少しP100Xの存在感が強めかも
実物を並べてみると、全体としては数値の差ほどにP100Xのほうが大柄とは感じません。どちらのスピーカーも、部屋の中での存在感や圧迫感が大きすぎたりはしない印象です。
ただし奥行きの違いは見落とせません。BE100の奥行はカタログ的には171mmですが、それは立体的な形状のスピーカーグリルの凸部も含んだ数値。底面だけの奥行なら実測150mm程度です。奥行が200mmのP100Xとは50mm、つまり5cmの違いがあります。加えて電源ケーブルにも注目。BE100はL型プラグ、P100Xはストレートプラグです。なので、設置時に確保が必要な背面スペースも、P100Xのほうが少し大きめになります。
本体の奥行には50mmほどの差があります。加えて……
BE100だと電源プラグ&ケーブルを逃すための背面スペースは20mmほどあればOK
P100Xだと電源プラグ&ケーブルを逃すために背面スペースに80mmほど必要
P100Xは電源アダプター方式ではないので、コンセントや電源タップに挿す側の接続性は良好!
ですが、背面がすぐ壁だったり棚の段に入れて設置するような場合、P100Xのほうが有利な要素も。低音補強が、BE100は背面バスレフ、P100Xはパッシブラジエーターなんです。背面バスレフは壁に近すぎると低音がふくらみすぎる場合もあり、そこは少し気を遣う必要があります。対してパッシブラジエーターはそこをあまり気にしなくてもOK。実際に設置して気にならなければ問題ありませんし、イコライザーで低音を削って調整することもできます。とはいえ、基本情報として気には留めておいたほうがよいでしょう。
サイズにせよバスレフにせよ、購入して実物を設置するときになって「置こうとしてた場所に置けない……」となったときのガッカリ感は痛恨。入念に下調べ&検討して、その製品を確実に設置できるだけのスペースをあらかじめ確保しておきたいところです。
続いてデザイン、そして操作性をチェック。工業製品のデザインには、外観的な印象と同時に、操作インターフェイスの取捨選択やその配置なども含まれます。ですので、そこはまとめて確認していこうというわけです。
Astell&Kern ACRO BE100は、シンプルなスクエア形状を基本にしつつ、アシンメトリーなスピーカーグリルと大きなボリュームノブでAstell&Kernらしさを表現。それをプレミアムPUレザー素材で覆うアプローチも、同社DAPをレザーケースと組み合わせた様子を想起させる、なるほどな演出です。
改めて全体
これぞAstell&Kern!な非対称カット
プレミアムPUレザーが醸し出す雰囲気……
背面にはバスレフポート
フィジカルに可動するインターフェイス要素は、同社らしさの象徴であるそのボリュームノブのみ。
このローレット加工も実にAstell&Kern的
わかりやすさ重視で[ボリューム]ノブと言いましたが、このノブは正しくは[電源・音量・モード]ホイールです。回せばボリューム、押してモード切り替え、長押しで電源オン/オフという動作になります。そのほかの機能は、天板PUレザーに目立ちすぎないように刻まれているタッチボタンで操作。タッチ操作のたびにプレミアムPUレザーの感触が伝わってくるという仕掛けもさすがです。
イコライザーは左Treble→右Bassの並び。ここは鍵盤がそうであるように、左低音→右高音の並びのほうが自然かも
さらに、その操作および現在のモードや設定の確認をサポートしてくれるのが、ノブの下に備えられたインジケーターとスピーカーグリスを通して表示されるテキストディスプレイ。光の色やテキストで必要な情報を伝えてくれます。不要なときには光りませんので、視覚的なうるささもありません。
ほんの数文字のテキストですが、操作へのフィードバックとしては十分に有用です
AIRPULSE P100Xは、MDF製のキャビネットをチェリーウッドの木目で覆い、前面そしてパッシブラジエーターのある背面はともにファブリック素材のグリル。フォルムも素材も、クラシカルなオーディオらしさを意識したものとなっています。「1960年代のモダンデザイン/2020年代に見るとビンテージデザイン」みたいな雰囲気です。もういっぽうのACRO BE100はかなりコンテンポラリーな印象ですから、並べるとお互いの個性がわかりやすいですね。
改めて全体
スピーカーはこうでなきゃ!的なスピーカーグリルにブランドロゴ
ACRO BE100のレザーに対してこちらはウッドで暖かな雰囲気
普段は目に入らない背面もこの仕上がり。グリルの向こうにパッシブラジエーターを装備
操作インターフェイスもクラシカル。指でつまんで操作するフィジカルなノブとスイッチが、POWER ON/OFF、BASS、TREBLE、VOLUME/INPUTの4個用意されています。VOLUME/INPUTノブは回せばボリューム、押せばBluetoothとアナログ入力の切り替えです。ノブが明快な▲形状なおかげで、ボリュームやイコライジングの現在設定の視認性もバッチリ。
電源オンのライトアップも、ブルーやレッドではなく、電球色的な暖かなオレンジ
70年代の単品アンプみたいな雰囲気の操作ノブ
そして特筆すべきは、それらの操作の感触! 電源スイッチはヌメッとした重みのある回し心地から、オン/オフの位置にカチッとハマってくれます。BASS、TREBLE、VOLUMEノブは細かなクリックのあるタイプです。回し心地も気持ちいいですし、イコライザーの±0地点であるセンターポジションが明確になるのもうれしいですよね。
実は普通にリモコンも付属してたりします
では最後にサウンドチェック。試聴ソースはApple Musicのロスレス音源。両製品共通の高音質コーデックはaptX HDですが、ACRO BE100はLDAC接続時のほうが好印象でしたので、そちらをメインに聴いています。LDACは電波環境がよい場所でなら、aptX HDよりハイビットレートを確保できますから、自宅据え置きには特に向いているかもしれませんね。
まずは両者のサウンドの特徴をポイントごとにピックアップしましょう。
<Astell&Kern ACRO BE100>
▼音の感触:シルクのようななめらかさ
▼低音:コンパクトサイズにしてまったく不足なし
▼イコライザー:効き具合がわかりやすく使いやすい
▼対応力:極小音量での超近距離リスニングも快適
<AIRPULSE P100X>
▼音の感触:コットンのような心地よさ
▼低音:超低音の空気感まで感じられる
▼イコライザー:こだわりの微調整仕様
▼対応力:部屋全体に音楽を広げることもできる
以降、各ポイントについて詳しく説明していきます。
BE100は音の感触がすばらしくスムーズ。ツイーター振動板がシルク素材だからという単純な理由からだけではないでしょうが、まさにシルキーと表現したくなる質感です。近年の良質な録音の作品を聴くと特に、その質感と中域の十分な厚みが合わさったボーカル表現の絶品さにうっとりさせられます。
P100Xは、あちらをシルクと言うならば、こちらはコットンのように豊かな手触り感が持ち味。整えすぎず、音の粒の粗さや凹凸もそのまま生かして届けてくれます。この音で1960年代〜70年代あたりに録音された名盤、たとえばサラ・ヴォーンさんあたりを聴くと、その時代の空気感までが伝わってくるようです。
そして両製品ともに見事なのは、スピーカーのルックスとサウンドの雰囲気が見事に一致していること。このスピーカーからはこういう音がしてほしい! という期待に完璧に応えてくれています。
BE100はカタログスペックの周波数特性として50Hz〜20KHzとなっており、実際その数値に違和感のない低音が再生されます。現代的なクラブサウンドなどで使われるディープなベースも、さすがにその響きの底のほうまではとらえきれませんが、厚みやスケール感の表現は十分以上。据え置きスピーカーとしてはコンパクトサイズ、しかも左右一体型で、これだけの低音再生能力を確保しているのは驚きです。
P100Xは、カタログスペックは52Hz〜20kHzとBE100とほぼ同じ数値。ですが実際に聴くと、その52Hzあたりからそのさらに下の超低域にかけては、BE100よりも伸びていそうな印象です。先ほどあげた「ディープなベースの響きの底のほう」の帯域ですね。ここはシンプルにそのサイズの違い、ウーハーの口径やキャビネット容積のおかげでしょうか。
ちなみにウーハー振動板口径は、BE100の4インチ≒10.16cmに対して、P-100Xは11.5cm。わずかな違いに見えるかもですが、直径ではなく面積で比べると約1.28倍という差になります。
BE100のイコライザーは、TrebleとBassを0〜5で調整できます。実際に聴いての感触としては、2〜3あたりを基本ポジションとして、そこから±2〜3で調整すると考えるのがよさげです。Trebleは音や全体の明るさや抜け感を調整する感覚、Bassは特にバンドサウンドのエレクトリックベースの帯域にぐいっと効いてくれます。それでいて最大値である5までブーストしても、高音ギャンギャン低音ボワボワみたく破綻してしまうことはありません。効果がわかりやすく、使いやすいイコライザーです。
P100Xのイコライザーは、BASSとTREBLEを最大±3dB、それをクリックのあるノブで±6区切りで調整できます。単純計算だと1クリックでわずかか0.5dBの増減です。超微調整! こちらのイコライザーは音質を細か〜く追い込みたい人に向くタイプと言えます。
BE100は筆者自宅ベッドのヘッドボードの棚にも置けるサイズだったので、そこに設置しての「トークコンテンツを聴きながら就寝」という使い方も試してみました。するとボリュームは0〜100できめ細かく調整できますし、睡眠のジャマにならない極小音量でも音質が崩れませんし、クリアさのおかげで声の聞き取りやすさも抜群ですし、ツヤやかさのおかげで声の聴き心地も最高ですし、この使い方にもフィット!
P100Xは、極小音量までの調整しやすさ、聞き取りやすさはこちらにもあるのですが、サイズがでかいのでベッド周りには起きにくいです。ですがこちらは音の拡散、特に左右水平方向への拡散にすぐれるAir-Bladeツイーターの威力か、部屋全体に音を広げる能力が優秀! ベッドルームに限らず、どこに置いても部屋中にイイ感じに音を届けてくれるという意味では、置き場所をあまり選ばないスピーカーと言えます。
ということで、Astell&Kern「ACRO BE100」とAIRPULSE「P100X」というBluetoothスピーカー2製品を紹介させていただきました。どちらのモデルも音だけではなく、オーディオとしての雰囲気の演出もすばらしく、それがひいてはオーディオに限らず「部屋に置くものとしての雰囲気のよさ」にもつながっています。据え置き型スピーカーは、そのサイズからどうしても存在感をドカンと出してしまいますから、その存在感の雰囲気も大事ですよね。
その点は、「据え置き型ハイエンドBluetoothスピーカー」全般において、今後も大切なポイントであり続けることでしょう。それを踏まえてさかのぼれば、序盤で触れたMarshallやFenderのスピーカーの人気にも改めて納得。これからもすばらしい製品の登場に期待しておきたいジャンルです。