レビュー

iFi audio「Zen Air」シリーズを使ってアナログレコードをミニマムに楽しむ

ここ10年で、主流となる音楽コンテンツの提供スタイルが大きく変わった。これまで主流だったCDから徐々にデジタル音源の配信へと移行し、現在ではストリーミング再生が主流となりつつあるのはみなさんもすでに承知のことと思う。

そんな時代にもかかわらず、旧きよき時代のフィジカルメディアであるアナログレコードが再び注目されているのは、なかなかユニークな現象だと思う。ジャケット(いわゆるレコードが収納されているケース)が30cm四方あるため飾っても“映える”ことや、針をレコードに落とす再生手順そのものが楽しく思えるなど、人によって魅力に感じる部分はさまざまだが、共通しているのは“音の心地よさ”だろう。

アナログレコードの人気が再燃。特に若者の間で人気が高まっているという

アナログレコードの人気が再燃。特に若者の間で人気が高まっているという

アナログレコードはレコードの溝から針が音を拾い上げる最初の部分からスピーカーに音を送り届けるまで、すべての行程がアナログ信号で行われていて、現在のデジタル音声信号とはまったく逆をいくシステムとなっている(もちろんプレーヤーからのアナログ信号を途中の機器でデジタル信号に変えて伝送する機器もあるが)。その結果、スーッと体に染み渡るような、聴き心地のよい音色を楽しむことができるのだ。この耳なじみのよいサウンドそのものが、アナログレコード最大の魅力といってもいいだろう。

しかしながら、アナログレコードはメディア自体が大きい(一般的なLPレコードで12インチ=約30cm)こともあって、プレーヤーも大きく、設置にかなりのスペースが必要となってしまう。また、振動に弱く(針が飛んでしまう)、最も収録時間が長いLPレコードでも片面30分前後しか収録されていないためひんぱんにかけ直しが必要など、旧世代メディアならではの面倒くささも少なからず存在する。設置場所の問題など、導入までにはかなり敷居の高さを感じてしまっている人も少なからずいるようだ。

そこでオススメしたいのが、まずは手元のオーディオシステムを大きく変えることなく、イヤホン/ヘッドホンなどで手軽にアナログレコードを楽しむ方法だ。これだったら、プレーヤーとフォノイコライザー、ヘッドホンアンプの3つがあれば楽しめるし、ヘッドホンアンプに関しては現在所有しているものをそのまま活用することだってできる。ゆくゆくはスピーカーで楽しむことをオススメしたいが、まずは聴き慣れたイヤホン/ヘッドホンで、アナログレコードの魅力に触れてみてはいかがだろうか。

そんなお手軽システムにピッタリな製品が、今回紹介するiFi audioのフォノイコライザー「ZEN Air Phono」とアナログヘッドホンアンプ「ZEN Air CAN」だ。

iFi audioのフォノイコライザー「ZEN Air Phono」(写真下)とアナログヘッドホンアンプ「ZEN Air CAN」(写真上)

iFi audioのフォノイコライザー「ZEN Air Phono」(写真下)とアナログヘッドホンアンプ「ZEN Air CAN」(写真上)

そもそもフォノイコライザーとは、アナログレコードプレーヤーに必須の機器。仕組みとしては、アナログレコードから生み出される音声信号(針の上下運動を使ってコイルで発電する仕組みのため音声信号はとても小さい)を増幅する専用アンプのようなもの、といっていい。ただ、レコードはそれ自身が持っている弱点を補うため特殊な音声収録が行われており、それに対応した帯域補正(レコードの世界では補正カーブと呼ばれている)が必要なこと、MM(ムービングマグネット)やMC(ムービングコイル)など出力電圧が異なるカートリッジ(レコード針のある部分でピックアップなどとも呼ばれている)方式があり、どちらも利用したい場合、両方に対応した専用品が必要となっている(ちなみにほかにもさまざまな呼ばれ方をしているが、使い勝手のうえでの共通認識として大半のカートリッジがこの2つのどちらに分類される)。

実は、レコートプレーヤーのなかにはこの機能を本体に内蔵した、さらに手軽なモデルもあるが、そういった製品はMMカートリッジしか使えないことが多い。また、フォノイコライザーは単体製品のほうがちょっとだけ音がよくなる。アナログプレーヤーを存分に楽しみたい場合、ちょっとした違いが音に大きく影響するため、せっかくだったら単体フォノイコライザー導入をオススメしたいところ。そんな場合に、この「ZEN Air Phono」はピッタリの製品だったりするのだ。

というのも、「ZEN Air Phono」がとてもリーズナブルな価格設定となっているからだ。アナログレコード関連の製品といえば数十万円はざらで、数百万円が主流、なかには一千万円を超えるものもあったりする。それに対して「ZEN Air Phono」は、基本的な機能性と音質面の良質さを確保しつつも、実売価格2万円以下という群を抜いたハイコストパフォーマンスを実現しているからだ。

iFi audio「ZEN Air Phono」。コストを抑えるため、筐体は樹脂製となっている

iFi audio「ZEN Air Phono」。コストを抑えるため、筐体は樹脂製となっている

実は、iFi audio「ZEN」シリーズには「ZEN Phono」という既存モデルがあり、こちらもコスパのよさが好評となっていたが、さらに採用パーツや基本構成を見直し、4.4mmバランス出力の省略など機能性も絞り込むことで、さらにリーズナブルな価格設定となっている。手軽にアナログレコードを楽しみたい人にとってはとてもありがたい、うってつけの製品といえる。

背面インターフェイス。4.4mmバランス出力の省略など機能性も絞り込むことで、リーズナブルな価格を実現している

背面インターフェイス。4.4mmバランス出力の省略など機能性も絞り込むことで、リーズナブルな価格を実現している

とはいえ、安かろう悪かろうになっていないのがiFi audio「ZEN Air」シリーズならではの魅力といっていい。実際、基本的な性能について「ZEN Air Phono」は十分な内容を持ち合わせている。まず、カートリッジ方式はMMとMCに両対応。ちなみに、上位モデル「ZEN Phono」ではMC方式の設定が細かく3タイプに分かれていた(かなり低出力なMCカートリッジにも対応していた)が、「ZEN Air Phono」ではごく一般的なMM/MCの2タイプとなっているものの、不便に思うことはまったくない。また、iFi audio独自の「サブソニックフィルター」も搭載。こちらによって、ランブルと呼ばれているレコード盤のソリによる“ゴロゴロ音”を除去、安定したサウンドを楽しむことができるという。

もうひとつの「ZEN Air CAN」は、オールアナログ回路構成のヘッドホンアンプ。iFi audioでは“CAN”の名を冠したさまざまなヘッドホンアンプがラインアップされているが、そのなかでもこちらはエントリークラスに位置する製品となっている。3系統の入力を持ち、出力は6.3mm標準ステレオと4.4mmバランスのヘッドホン出力のみといたってシンプルな構成にすることで、音質とリーズナブルな価格設定を両立している。

アナログヘッドホンアンプ「ZEN Air CAN」。こちらも筐体は樹脂製だ。出力は6.3mm標準ステレオと4.4mmバランスのヘッドホン出力を用意

アナログヘッドホンアンプ「ZEN Air CAN」。こちらも筐体は樹脂製だ。出力は6.3mm標準ステレオと4.4mmバランスのヘッドホン出力を用意

背面入力端子は3系統用意

背面入力端子は3系統用意

また、4.4mmバランスヘッドホン端子に関しては、一般的なデュアルアンプによる+−両配置ではなく、シングルアンプの−側にLR独立したグラウンドをレイアウトしたもので、これによって一般的なヘッドホン出力回路のようなクロストークや歪みが抑えられているという。こちらの採用も、音質とコストの両面でメリットを考えた結果のチョイスいえる。

ほかにも、機能面では0dB、9dB、18dBという3つのゲイン切り替えを用意。鳴りにくい上級ヘッドホンから鳴りやすいインイヤーモニターまで、幅広い製品に対応。iFi audio独自のサウンドチューニング機能、低域をブーストする「XBass」や空間的な広がり感を作る「XSpace」の2つも搭載されている。

ゲイン切り替え、iFi audio独自の「XBass」や「XSpace」も搭載

ゲイン切り替え、iFi audio独自の「XBass」や「XSpace」も搭載

ちなみに、「ZEN Air Phono」と「ZEN Air CAN」は(アナログ機器ということもあり)どちらもDC5VのACアダプターが必要となっているものの、コスト低減のためか付属していない。片側がUSB A端子の電源ケーブルが同梱されるのみとなっている。メーカーとしては、別途iFi audio「iPower II 5V」を購入してもらうか、既存のUSB充電器(5V/2A以上)を使用してくれ、ということのようだ。動作確認している製品として、アップルの12Wパワーアダプター「A1401」が紹介されているので、今回の試聴時にはそちらを活用している。

今回はアップルの12Wパワーアダプター「A1401」を組み合わせて使った

今回はアップルの12Wパワーアダプター「A1401」を組み合わせて使った

なお、今回の試聴ではプレーヤーにTechnics「SL-1200MK7」を、カートリッジについてはShureのMMカートリッジ「M97xE」とDENON「DL-103R」を使用、MMとMCそれぞれの特徴についてもチェックした。ヘッドホンは、オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」をメインにいろいろな製品を試してみた。

プレーヤーはTechnics「SL-1200MK7」を使用。ヘッドホンは、オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」をメインに使用した

プレーヤーはTechnics「SL-1200MK7」を使用。ヘッドホンは、オーディオテクニカ「ATH-ADX5000」をメインに使用した

まずはShure「M97xE」から。アナログレコードらしい自然な音色、自然な音場表現が特徴だ。聴き心地がよいのにもかかわらず、音のフォーカスがしっかりしていている。にじみやボケのない、明朗快活なサウンドだ。特にクラシックとの相性がよく、音場的な広がり感を余さず表現してくれる。音色的にもリアルで、スティングを聴くとボーカルこそマイクの特徴が感じられるものの、ドラムもサックスもライブ会場にいるかのような音を聴かせてくれる。初めてこの音を聴いた人は、アナログレコードの情報量の多さに驚くかもしれない。「ZEN Air Phono」と「ZEN Air CAN」の組み合わせは、そういったアナログレコードの魅力をしっかり引き出してくれている。

また、アナログレコード時代の作品だけでなく、デジタル録音された最新アルバムもずいぶんと聴き心地よくなっていることも特徴といえる。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのアルバムは、384kHz/32bit配信のハイレゾ音源ほどの情報量こそ感じないものの、よく練って作られた細やかな配置の音場表現はしっかりと伝わってくるし、なによりも女性ボーカルの歌声がとても心地よく耳に響く。なんとも魅力的なサウンドだ。

続いて、カートリッジを「DL-103R」に変更、「ZEN Air Phono」の設定もMCに切り替えてみた。打って変わってこちらは鮮度感の高さ、キレのよさが存分に感じられる音に変化。「DL-103R」の特徴もあるのだろう、ボーカルなどセンターの距離もだいぶ近づいていて、ダイレクト感の高いサウンドへと変化している。そのため、スティングの歌声は声の特徴がしっかりと伝わってくるし、なによりもつい先日レコーディングしたかのような、時代を感じさせないフレッシュさを持ち合わせている。TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUNDのアルバムも、情報の多いクリアネスなサウンドを聴かせてくれる。初めてこの音を聴く人は、アナログレコードだと気がつかないかもしれない。

最後にひとつ、「ZEN Air Phono」と「ZEN Air CAN」のACアダプターをiFi audio「iPower II 5V」に交換してみた。効果のほどは圧倒的。「ZEN Air Phono」はノイズ感が低減、いちだんとクリアな音になった。いっぽう「ZEN Air CAN」は、音量を上げたかのような、ダイナミックレンジの広いサウンドへと変化した。最初は手持ちのUSB充電器を活用するのもありだが、できれば早い段階で「iPower II 5V」に交換したいところだ。

iFi audio「iPower II 5V」への交換は音質的な寄与が大きいので、できれば交換したいところ

iFi audio「iPower II 5V」への交換は音質的な寄与が大きいので、できれば交換したいところ

このように「ZEN Air Phono」と「ZEN Air CAN」の組み合わせは、懐にやさしい価格設定、レイアウトの自由度が高いコンパクトさを持ち合わせつつも、アナログレコードならではの魅力を十分に引き出してくれる製品だった。もし、将来的にグレードアップするとしても、サブシステム用の機器として末永く活用できることだろう。

アナログレコードはヘッドホンでも十分に楽しめる。ぜひ、みなさんも実際に試してみてほしい。

野村ケンジ

野村ケンジ

ヘッドホンなどのオーディオビジュアル系をメインに活躍するライター。TBSテレビ開運音楽堂にアドバイザーとして、レインボータウンFM「みケらじ!」にメインパーソナリティとしてレギュラー出演。音元出版主催のVGP(ビジュアルグランプリ)審査員も務める。

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