レビュー

私はこうして100万円超のプレーヤーを買いました。「U1X」導入ドキュメンタリー

Pixel Magic Systems社が展開するオーディオブランドLUMIN(ルーミン)のネットワークオーディオプレーヤー「U2 MINI」をレビューしてからというもの、ずっと気になっていた上位モデルの存在が「U1X」。「U2 MINI」同様、D/Aコンバーター回路を内蔵しない「ネットワークトランスポート」とも呼ばれる製品だ。以前は「U1」という型番で展開されていたが、別体の電源部がアルミ削り出しに強化されて「U1X」となった。LUMINの最高級「ネットワークトランスポート」であり、シルバーの希望小売価格が1,331,000円(税込)、ブラックが1,464,100円(税込)。名実ともに「ハイエンド」と言っていいだろう。

LUMINの「U2 MINI」(上)と「U1X」(下)。「U1X」は左の電源部を別体とした2筐体構成。「U1X」のボディはどちらもアルミブロックから削り出されたというハイエンドならではの豪華な仕様だ

LUMINの「U2 MINI」(上)と「U1X」(下)。「U1X」は左の電源部を別体とした2筐体構成。「U1X」のボディはどちらもアルミブロックから削り出されたというハイエンドならではの豪華な仕様だ

タイトルのとおり、最終的にはこの「U1X」をうっかり購入してしまったという話なのだが、なぜそうなってしまったのか。「U2 MINI」記事では、「U2 MINIの希望小売価格はシルバーが396,000円(税込)、ブラックが435,600円(税込)」「ここですぐに購入! という価格の製品でもない」とか言っていたのに……。ハイエンドオーディオ機器には魔力がある。みなさんも気をつけていただきたい。

今後も高まりそうな「Roon Only」モードの価値

そもそも、「U2 MINI」を試してみたのは、「Roon Only」モードという特殊な機能を搭載していたから。「Roon Only」モードとは、音楽再生のための総合ソフト「Roon」で音楽を再生するためだけの機能のこと。基本設定の変更などを含む「Roon」以外の操作が一切できなくなるというかなりクセのあるモードだ。

なぜわざわざそんなことをするのかと言えば、ひとえに音質のため。ソフトウェアの動きを最適化して音質を向上させようという取り組みだ。LUMINに限らずこうした取り組みは活発化しており、その例としてiFi audioの「NEO Stream」における「Exclusive Mode」も取り上げたばかり。

筆者も普段の音楽再生の中心は“サブスク”によるストリーミングサービスであり、それに特化した「Roon Only」モードのような機能を持ったオーディオ製品にはとても興味がある。そして、いちどその頂点を体験してみたいと思い借用したのがLUMINの最高峰ネットワークトランスポート「U1X」。なお、D/Aコンバーターを内蔵したネットワークオーディオプレーヤーの最高峰モデルとしては「X1」という製品が存在する。

「U2 MINI」も「U1X」もできることは基本的には変わらない。主な違いは電源をスイッチングからリニア電源に変更し、冒頭の写真のとおりに別筐体としたこと。どちらもDSDは22.6MHzまで、PCMは768kHz/32bitまでをサポートするし、MQAファイルもデコードできる。音楽のストリーミングサービスは「Spotify」「TIDAL」「Qobuz」に対応。先述の「Roon」を使う場合は自宅のローカルNASからファイルを再生するか「TIDAL」「Qobuz」いずれかを再生することになる。「Qobuz」は日本でまだサービスが開始されていないが、運営会社であるXandrieには日本法人があり、現在ハイレゾファイルのダウンロード販売とストリーミングサービスを日本でも開始する方向で準備しているという。ストリーミングサービスが開始されれば、「Roon」ならびに「Roon Only」モードでの音楽再生の価値はさらに高まるだろう。

2023年1月時点の告知によれば、日本での「Qobuz」のサービスは「アニメ、クラシック、ジャス、ワールドミュージック、J-Pop」など「9000万曲以上」を楽しめるとしており、具体的には「2023年度後半」の配信スタートに向けて準備をしているとのこと。

「U1X」のデジタル音声出力端子は、USB-DAC接続用のUSB Type-Aが2系統、光、同軸(RCA)、BNC、AES/EBU(XLR)が各1系統。384kHzなどの高いサンプリング周波数のデータを出力するにはUSB-DACへの接続が必要だ。今回利用したのは同軸(RCA)端子のみ

「U1X」のデジタル音声出力端子は、USB-DAC接続用のUSB Type-Aが2系統、光、同軸(RCA)、BNC、AES/EBU(XLR)が各1系統。384kHzなどの高いサンプリング周波数のデータを出力するにはUSB-DACへの接続が必要だ。今回利用したのは同軸(RCA)端子のみ

我が家でD/Aコンバーター非内蔵の「ネットワークトランスポート」が求められるのは、プリアンプとしてトリノフ・オーディオの「Altitude16」(写真下)を使っているから。音量調整や各種補正をデジタルで行うため、プレーヤーからの入力はデジタルのほうが望ましいと考えたのだ。内部処理の精度は96kHz/24bitのため、最大192kHz/24bit出力の同軸(RCA)デジタル接続でも何の問題もなし。普段は「Altitude 16」が「Roon」再生機も兼ねていた

我が家でD/Aコンバーター非内蔵の「ネットワークトランスポート」が求められるのは、プリアンプとしてトリノフ・オーディオの「Altitude16」(写真下)を使っているから。音量調整や各種補正をデジタルで行うため、プレーヤーからの入力はデジタルのほうが望ましいと考えたのだ。内部処理の精度は96kHz/24bitのため、最大192kHz/24bit出力の同軸(RCA)デジタル接続でも何の問題もなし。普段は「Altitude 16」が「Roon」再生機も兼ねていた

音を出した瞬間に心をつかまれる、段違いの実力!

さて、「U1X」が自宅に届いたのでさっそく設置してみると、「U2 MINI」とは異なる重み(「U1X」は8kg、「U2 MINI」は2.5kg)に驚かされた。これは主に本体をアルミブロックから削り出したことによるだろう。本体内部のノイズ対策だと思われるが、いかにも高級オーディオという高級感の醸成にも一役買っていることは間違いない。

そしてもっと驚かされたのは、音を出した瞬間だ。力感たっぷりでありながら、ぼやけたところのない精細感もある。つまりは根本的な音質が段違いにすばらしかったということ。記事冒頭の写真のように、テスト時には「U2 MINI」も同時に借用していたのだが、直接比較するまでもなかったな……としばらく呆然と音楽に耳を傾けてしまった。

もちろん、「U2 MINI」のコストパフォーマンスの高さは間違いない。価格のとおり「U1X」は「U2 MINI」の3倍音がよいのかと問われれば、そんなことはないと思う。ただし、価格をいとわずにこだわりを詰め込んだ結果、この音質に達しましたと言われれば納得せざるを得ない。

「U2 MINI」と同じく、本体設定は専用のアプリ(無料)で行う。「Roon Only」モードに入るには、「LUMIN名称」を「♯ROONONLY」に変更するだけ。このモードから出るためには、ハードウェアリセットが必要だ

「U2 MINI」と同じく、本体設定は専用のアプリ(無料)で行う。「Roon Only」モードに入るには、「LUMIN名称」を「♯ROONONLY」に変更するだけ。このモードから出るためには、ハードウェアリセットが必要だ

「U2 MINI」でも再生したスティーリー・ダンの「Babylon Sisters」を「U1X」で再生すると、よりすっきりと全体の見通しがよく、響きの細部がつぶさに確認できる。音楽の立体感があるとも言える。中低域も充実して、ベースとバスドラムが跳ねるように生き生きとしている。「U2 MINI」で聞いた「Roon Only」モードでもかなり感動したのだが、「U1X」の通常モードはすでにこれを大きく上回る印象で、「U2 MINI」には実は味付けというか付帯音があったのか……と思ってしまうほどのクセのなさだ。

そもそもの再生能力が高いので忘れそうになっていたが、ここで「Roon Only」モードを試してみると、やはり「U1X」のS/Nのよさが伸張される。「U2 MINI」で感じたほどの“激変”ぶりはないものの、「Roon」での再生をメインにしているユーザーであれば、これを使わない手はない。

「U1X」と「Altitude 16」は同軸(RCA)デジタルで接続した。USB-DACとの接続だけを前提とした「ネットワークトランスポート」の選択肢は広めだが、こうして同軸デジタルなどで音声出力できる製品は少ない

「U1X」と「Altitude 16」は同軸(RCA)デジタルで接続した。USB-DACとの接続だけを前提とした「ネットワークトランスポート」の選択肢は広めだが、こうして同軸デジタルなどで音声出力できる製品は少ない

初めは比較という意味で音圧を普段と同程度にしていたが、変に刺激的な音を発しないナチュラルさから、音量もついつい上げたくなる。普段はもう少し音量を上げたいと思った場合でも部屋が音で飽和してしまう感覚があり、控えめにせざるを得ないことがあった。これは部屋の容積の都合上致し方ないかと思っていたのだが、「U1X」では“あと一声”音量を上げても耳障りにならない。実はここが導入の大きなポイントになった。

そういうよさはモノラル音源で顕著だ。定番どころをあげれば、ソニー・ロリンズの「Saxophone Colossus」。自宅でも環境の整った試聴室と同じように“爆音”で聞きたいと思うものの、先のように音が飽和してしまう、高域が耳に痛いという感覚があった。それがクセのない「U1X」ではうまく抑えられて、かなりの音量で聞いても耳障りにならない。

結局何を聞いてもよいわけで、愛聴するすべての音源を「U1X」で聞き直したくなる。これぞ「ハイエンド」が持つ魔力。「比較の必要がない」と思わされた再生冒頭から心をつかまれていたが、「U1X」が長期間自宅になければ愛聴音源を聞き直せない。ならばやむなし……ということで「U1X」を購入することになってしまった。

ここで、音のよいネットワークオーディオプレーヤーはほかにもありそう、と思われるかもしれない。しかし、D/Aコンバーターを内蔵しない「ネットワークトランスポート」で同軸(RCA)や光などの音声出力を持った製品は実は少数派だ。「U1X」と同価格帯ともなればなおさら。予算無制限ならば、SSDのストレージも内蔵したAurender(オーレンダー)の「W20SE(Special Edition)」はあこがれの製品のひとつだが、倍以上の予算が必要になる。先述のとおり自宅の「Altitude 16」とスムーズに接続するためには同軸デジタル出力を持った「ネットワークトランスポート」が望ましいし、こんなニッチな仕様でしかも音のよい製品はめったにない。

そんなことを思い巡らせていたら、「買う!」という自身でも思いもよらぬ結論にたどり着いてしまったのだった。

補足しておくと、当然古い音源だけがすばらしいのではない。ロバート・グラスパーの「Black Radio」10周年記念デラックス・エディション(オリジナルは2012年発売)を聞いて改めて今に続くロバート・グラスパーの音楽のコンセプトを再確認したり、テイラー・スウィフトの「Midnights」(2022年)を聞いてもはや「カントリーの〜」という文脈では語れないポップスターとなった彼女の現在地を確認したり、年末年始の休みを大いに楽しんだ次第だ。

「Midnights」の1曲目「Laveder Haze」では地をはうような低音が部屋を満たし、リバーブのかかったボーカルが漂うようにその上に乗ってくる。歌詞とリンクするような音場表現だと思う。こういう完成度の音楽/音源を提示できるのは本人やプロデューサー、エンジニアチームの意識の高さがあってこそだろう。しかも、真剣に聞かないとなかなか伝わらない部分でもある。どうせユーザーはちゃんとした環境で聞かないだろうと考えて、手を抜くことだってできなくはないはずだ。それをしないテイラー・スウィフトチームの凄みが「U1X」でよくわかった。

ラックに収まった「U1X」。選べる場合は基本的に黒のオーディオ機器を指名しているので、今回も本体色は黒。黒いアルミ削り出しボディの精悍さも購入動機のひとつ

ラックに収まった「U1X」。選べる場合は基本的に黒のオーディオ機器を指名しているので、今回も本体色は黒。黒いアルミ削り出しボディの精悍さも購入動機のひとつ

コスパで言えば「U2 MINI」や「NEO Stream」だが、「U1X」にしか超えられない壁がある

100万円超の音楽プレーヤーを買うという行動は、仕事としても活用できるという“言い訳”があるからで、みなさんが同じようにすべきとはまったく思わない。コストパフォーマンスで考えれば「U2 MINI」やiFi audioの「NEO Stream」のほうが確実に上なのだから。ではどんな人が「U1X」のようなプレーヤーを買うべきか。コストはともかく、あと一歩のパフォーマンスをどうにかしたいと切望するオーディオユーザーということになるだろう。

大抵の人はオーディオをするうえで制限があるはずで、部屋の調整はしようがない、あるいは美観を重視していかにもなオーディオ的調整をしたくない、という場合もあるだろう。「U1X」にはそういう“あと一歩”の壁を帳消しにしてくれるような能力があって、それは突き詰めてつくられた製品だけができることなのだろうと思う。部屋特有のクセを増幅しないとも言える。

我が家でも、「U1X」購入は部屋を大工事する予算は取れないがゆえのテコ入れと言える(細かい部屋の手入れは趣味として終わらないが)。結果として、「U1X」のパフォーマンスには大いに満足している。部屋の工事よりも「安く」済んだので、コストパフォーマンスが高いという詭弁も成り立たなくはない……。

というわけで、家で“爆音”を出さない人は「U2 MINI」か「NEO Stream」を購入すれば愛聴するすべての音源を聞き直したくなる、オーディオの楽しみのひとつを十分に享受できるはず。ストリーミング全盛のこの時代のすばらしい趣味の製品として、「U2 MINI」も「U1X」も「NEO Stream」も、ぜひみなさんに知っていただきたい。

柿沼良輔(編集部)

柿沼良輔(編集部)

AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。

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