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驚異的駆動力の一体型AVアンプ。デノン「AVC-A1H」

「2022東京インターナショナルオーディオショウ」で参考展示されていたデノンAVアンプのハイエンドモデル「AVC-A1H」が正式に発表された。発売を前に製品発表会が行われたので、15chものパワーアンプを内蔵した一体型モデルの概要をさっそく見ていこう。

「AVC-A1H」の本体色は「A1」シリーズにしかラインアップされないという「プレミアムシルバー」と、スタンダードな「ブラック」の2色。いずれも希望小売価格は990,000円(税込)で、3月下旬発売予定

「AVC-A1H」の本体色は「A1」シリーズにしかラインアップされないという「プレミアムシルバー」と、スタンダードな「ブラック」の2色。いずれも希望小売価格は990,000円(税込)で、3月下旬発売予定

デノンAVアンプのラインアップはこちら。これまでデノンAVアンプのハイエンドモデルだった「AVC-A110」は生産終了しており、「AVC-X8500H」は「AVC-A1H」と併売される

デノンAVアンプのラインアップはこちら。これまでデノンAVアンプのハイエンドモデルだった「AVC-A110」は生産終了しており、「AVC-X8500H」は「AVC-A1H」と併売される

「AVC-A1H」の基本仕様は、基本的には先のオーディオショウで発表されていたとおり。最新のDSP(Digital Signal Processor)を搭載し、オーバーヘッドスピーカー6本のアサインに対応。サブウーハーは最大4台を接続できるうえ、各サブウーハーに近くのサラウンドスピーカーの低域を割り当てる「指向性」モードを備える。そのほかの主要スペックは改めて以下に列挙する。

「AVC-A1H」主要スペック
●15chアンプ内蔵
●定格出力:150W(8Ω、20Hz〜20kHz、THD0.05%、2ch駆動時)
●最大15.4chプロセッシング対応(最大9.4.6chシステムに対応)
●Dolby Atmos、DTS:X、IMAX Enhanced、Auro-3D、MPEG-4 AAC、360 Reality Audioなどに対応
●HDMI入出力はすべて40Gbps(8K/60Hz、4K/120Hz)対応(ZONE2を除く)
●独自のネットワークオーディオ機能「HEOS(ヒオス)」対応
●プリアンプモード搭載
●サブウーハー最大4本による「指向性」モード搭載
●有償アップデートで「Dirac Live」に対応予定
●寸法:434(幅)×498(奥行)×195(高さ)mm(アンテナを除く)
●重量:32.0kg

リアパネルを見るとすべてのスピーカー端子が横並びになり、スピーカーケーブルが接続しやすいように配慮されている。また、プリアウトは17.4ch分を装備。サブウーハー用のプリアウトのみXLR/RCA端子(2系統)が用意されることもポイント。このXLR端子は出力chの変更もできるため、フロントL/Rなどにアサインすれば外部パワーアンプとの接続も可能なのだ

リアパネルを見るとすべてのスピーカー端子が横並びになり、スピーカーケーブルが接続しやすいように配慮されている。また、プリアウトは17.4ch分を装備。サブウーハー用のプリアウトのみXLR/RCA端子(2系統)が用意されることもポイント。このXLR端子は出力chの変更もできるため、フロントL/Rなどにアサインすれば外部パワーアンプとの接続も可能なのだ

約16年ぶりの「A1」グレードAVアンプ

上記関連記事でも触れたことだが、デノンのAVアンプにおける「A1」は特別なモデルに冠される型番だ。それが「AVC-A1H」で約16年ぶりに復活する。

「A1」の歴史が始まったのは、1996年の「AVP-A1」から。サラウンド音声が家庭にも普及し出したタイミングだ。そして2007年にはDolby TrueHDやDTS-HD Master Audioといったロスレス(可逆)圧縮のサラウンド音声に十全に対応すべく「AVC-A1HD」が登場した。この「AVC-A1HD」と合わせてAVプリアンプ「AVP-A1HD」、10chパワーアンプ「POA-A1HD」が発売されたことも「A1」が特別なモデルであることを表している。

「A1」を冠するAVアンプは2007年「AVC-A1HD」以来。最新のハイエンドモデルは「AVC-A110」だったが、現在は生産終了

「A1」を冠するAVアンプは2007年「AVC-A1HD」以来。最新のハイエンドモデルは「AVC-A110」だったが、現在は生産終了

その「AVC-A1H」のコンセプトは「孤高」。「深淵」をコンセプトにしたこれまでのハイエンドモデル「AVC-A110」でも名乗れなかった「A1」を冠する、デノン史上最高のAVアンプだという。

そのコンセプトを実現するための設計を担当したのが、「深淵」を掲げて「AVC-A110」を作り上げたエンジニア高橋佑規氏。音質の最終検討には「サウンドマスター」山内慎一氏が加わり、2人のコラボレーションによりできあがったのが「AVC-A1H」。音質検討だけでも10か月をかけているそうだ。

そこで重要視されたのは音質だけでなく、15chという内蔵パワーアンプの数だ。これは2014年に世界初のDolby Atmos対応AVアンプ「AVR-X5200W」を発売して以来の目標だったそうだ。と言うのは、2014年当時Dolbyから受け取ったデモディスクには「9.1.6」というテストトーンが含まれていたから。

Dolby Atmosの「9.1.6」とは、フロアに9本、天井に6本のスピーカーとサブウーハーを1本加えた構成のこと。サブウーハーがアンプ内蔵ならば、15ch分のパワーアンプを内蔵していれば、このシステムをひとつのAVアンプで駆動できる。このDolby Atmos黎明期からの悲願が「AVC-A1H」で達成されたことになる。

製品説明を担当した高橋佑規氏。「AVC-A110」では「サウンドマネージャー」として製品の設計にあたっていた。「AVC-A1H」でも設計の実務にあたり、音質の最終検討で「サウンドマスター」山内慎一氏が加わりチューニングが施されたという

製品説明を担当した高橋佑規氏。「AVC-A110」では「サウンドマネージャー」として製品の設計にあたっていた。「AVC-A1H」でも設計の実務にあたり、音質の最終検討で「サウンドマスター」山内慎一氏が加わりチューニングが施されたという

Dolby Atmosデモディスクの目次。「TEST TONES」の項目に「Test Tones 9.1.6」とある。2014年当時の家庭用製品ではこれを十全に再生できなかったが、「AVC-A1H」では完全な形で、しかも一体型AVアンプで再生可能だ

Dolby Atmosデモディスクの目次。「TEST TONES」の項目に「Test Tones 9.1.6」とある。2014年当時の家庭用製品ではこれを十全に再生できなかったが、「AVC-A1H」では完全な形で、しかも一体型AVアンプで再生可能だ

AVR-4520以来続く、AB級リニアパワーアンプ回路

では、「AVC-A1H」に搭載されたパワーアンプはどのような構成なのか。マランツの「AMP10」ではD級アンプが採用されたことと対照的に、デノンが採用するのは一貫してAB級のシンプルなパワーアンプだ。

この端緒は2012年の「AVR-4520」までさかのぼることになる。15chアンプ内蔵を実現する「AVC-A1H」までの間、もちろんクラスD増幅のアンプを選ぶ道筋もあったという。しかし、デノンが選んだのは、すでに膨大なノウハウのあるAB級パワーアンプをモジュール化すること。そのモジュールを左右対称に配置し、効率よく放熱することで、ch間のセパレーションの向上や安定動作を追求してきた。

デノンとしてもクラスD増幅のアンプを搭載したAVアンプの計画がないわけではなかった。その例が2003年の「A&Vフェスタ」に参考展示された「POA-X」。しかし、最終的にデノンが選び、ずっと使っているのは「差動1段」のAB級増幅アンプ。差動段数の少ないアンプは設計が難しい反面、多段と比べて位相移転が少なく、安定性が高いという

デノンとしてもクラスD増幅のアンプを搭載したAVアンプの計画がないわけではなかった。その例が2003年の「A&Vフェスタ」に参考展示された「POA-X」。しかし、最終的にデノンが選び、ずっと使っているのは「差動1段」のAB級増幅アンプ。差動段数の少ないアンプは設計が難しい反面、多段と比べて位相移転が少なく、安定性が高いという

「AVR-4520」以来、デノンは1chごとにモジュール化したアンプを左右対称に配置する構成を定番化。現在では「モノリス・コンストラクション」と呼ばれている

「AVR-4520」以来、デノンは1chごとにモジュール化したアンプを左右対称に配置する構成を定番化。現在では「モノリス・コンストラクション」と呼ばれている

増幅素子がヒートシンクに直接取り付けられることは「AVC-X8500H」「AVC-A110」と同様。その間には放熱のために銅板が挟まれている。この銅板の厚さは「AVC-X8500H」「AVC-A110」比で2倍。内蔵アンプが増えた分、より効率のよい放熱を志向している

増幅素子がヒートシンクに直接取り付けられることは「AVC-X8500H」「AVC-A110」と同様。その間には放熱のために銅板が挟まれている。この銅板の厚さは「AVC-X8500H」「AVC-A110」比で2倍。内蔵アンプが増えた分、より効率のよい放熱を志向している

2012年以来、着実なアップデートで内蔵アンプ数を増やしてきただけでなく、「AVC-A1H」ではデノンのAVアンプ作りのノウハウがふんだんに生かされている。それらのポイントは写真と合わせて以下に列挙していこう。

徹底した低インピーダンス化&ノイズ対策

パワーアンプ/リレーユニット基板、電源ユニットには2層基板を使用。そのパターン泊厚を現行モデル「AVC-X8500H」の2倍とした

パワーアンプ/リレーユニット基板、電源ユニットには2層基板を使用。そのパターン泊厚を現行モデル「AVC-X8500H」の2倍とした

プリアンプ基板は「AVC-X8500H」で2層基板だったところ、4層基板を採用。省スペースできるだけでなく、DACから出力までの経路がよりシンプルになった。また、強力なシールド効果によって、ノイズを大幅に低減したという

プリアンプ基板は「AVC-X8500H」で2層基板だったところ、4層基板を採用。省スペースできるだけでなく、DACから出力までの経路がよりシンプルになった。また、強力なシールド効果によって、ノイズを大幅に低減したという

「規格外」の電源トランス&ブロックコンデンサー

内蔵アンプ数が増えたことにともない、電源部ももちろん強化されている。求められる容量の電源トランスを探したところ、まさに市場にない規格外品だったため、カスタム品を製作。トランスの重さだけで11.5kgもあるという。このトランス下には2mmの銅板を置き、機構としての安定と高い放熱効率を実現した

内蔵アンプ数が増えたことにともない、電源部ももちろん強化されている。求められる容量の電源トランスを探したところ、まさに市場にない規格外品だったため、カスタム品を製作。トランスの重さだけで11.5kgもあるという。このトランス下には2mmの銅板を置き、機構としての安定と高い放熱効率を実現した

パワーアンプ用のブロックコンデンサーもやはり大容量化されている。容量は「AVC-X8500H」「AVC-A110」比で1.5倍(22,000μFが33,000μFになった)。また、「AVC-A110」では巻きテンションをあえて緩めたカスタム品を使っていたが、今回のコンデンサーもこの手法を継承している

パワーアンプ用のブロックコンデンサーもやはり大容量化されている。容量は「AVC-X8500H」「AVC-A110」比で1.5倍(22,000μFが33,000μFになった)。また、「AVC-A110」では巻きテンションをあえて緩めたカスタム品を使っていたが、今回のコンデンサーもこの手法を継承している

そのほかのコンデンサーなど、定数や容量を最適化したカスタムパーツを多数投入。内部配線のワイヤリングの仕方なども含めた細かなチューニングが施される

そのほかのコンデンサーなど、定数や容量を最適化したカスタムパーツを多数投入。内部配線のワイヤリングの仕方なども含めた細かなチューニングが施される

D/Aコンバーターは32bit精度2ch品を10個使用

D/Aコンバーター素子には2ch品を10個使用。フロントLとサブウーハー3など、使用頻度の高いchと低いchを組み合わせて、実使用時の干渉を抑制している

D/Aコンバーター素子には2ch品を10個使用。フロントLとサブウーハー3など、使用頻度の高いchと低いchを組み合わせて、実使用時の干渉を抑制している

サンプル基板を確認すると、D/Aコンバーター素子はESSテクノロジー製。マランツのAVプリアンプ「AV10」での採用も考えると、おそらく「ES9018K2M」であると推察される

サンプル基板を確認すると、D/Aコンバーター素子はESSテクノロジー製。マランツのAVプリアンプ「AV10」での採用も考えると、おそらく「ES9018K2M」であると推察される

低重心の高剛性シャーシ

32.0kgの本体を支えるシャーシにも剛性が求められる。特に底板は1.2mmトランスプレート+1.2mmメインシャーシ+1.6mmボトムプレート(現行モデル「AVC-X8500H」のボトムプレートは1.2mm)の計4.0mm。最も厚い部分の厚みは6mmにもなるという

32.0kgの本体を支えるシャーシにも剛性が求められる。特に底板は1.2mmトランスプレート+1.2mmメインシャーシ+1.6mmボトムプレート(現行モデル「AVC-X8500H」のボトムプレートは1.2mm)の計4.0mm。最も厚い部分の厚みは6mmにもなるという

フット(脚)部分は頑丈で重量もある鋳鉄製。安定性が上がるだけでなく、音が明瞭になる効果が得られたという

フット(脚)部分は頑丈で重量もある鋳鉄製。安定性が上がるだけでなく、音が明瞭になる効果が得られたという

マランツ「AV10」「AMP10」と比べたくなる、驚異的なクオリティ

さて、「AVC-A1H」の発表会が行われたのは、実は“いつもの“D&Mホールディングス(川崎市)の試聴室ではなく、福島県白河市にある「Shirakawa Audio Works」(通称:白河工場)内の試聴室だ。「AVC-A1H」などを開発するための部屋と同じようにスピーカーの距離を設定してあるという、いわば試聴用のリファレンス(基準)のような部屋だ。今回はこの試聴室でいくつかのコンテンツを再生してもらった。

発表会の会場は「Shirakawa Audio Works」内の試聴室。Bowers&Wilkinsの「802 Diamond」を中心とした「9.4.6ch」のシステムが設置されていた。サブウーハーの再生モードは「指向性」ではなく、「スタンダード」モードだ

発表会の会場は「Shirakawa Audio Works」内の試聴室。Bowers&Wilkinsの「802 Diamond」を中心とした「9.4.6ch」のシステムが設置されていた。サブウーハーの再生モードは「指向性」ではなく、「スタンダード」モードだ

開発担当である高橋氏のセレクトは、「不屈の男 アンブロークン」の北米版ブルーレイ(Dolby Atmos収録)。スタティックオブジェクトと呼ばれる方式でオーバーヘッドスピーカー成分が“動かない(chベースと同じように振る舞う)”が、ミックスのすぐれた「初期のDolby Atmosミックスの傑作」だと高橋氏は言う。

物語の冒頭から戦闘機による激しい銃撃戦が繰り広げられると、鋭い銃撃音が飛び交うだけでなく、重さをともなった爆発音がハーフドーム状の空間のいたるところに定位する。腹にズシンとくる、この感覚はなかなか味わえるものではない。コンテンツのできがよいこともあるだろうが、「AVC-A1H」のアンプが、各スピーカーのウーハーをしっかりとグリップして駆動している証拠だろう。

次に再生されたのは、いきものがかりのブルーレイ「いきものがかり THE LIVE 2021!!!」。やはりDolby Atmosを収録した一枚で、このミックスは高橋氏が信頼する音響エンジニア古賀健一氏によるもの。

楽曲が再生されると、ライブ会場らしい反響やバンド演奏のリバーブがみっちりと空間を満たす。これはよくできたコンテンツと再生システムがなければ味わえない“Dolby Atmos感”だ。ただし、ぼやっと空間が埋め尽くされるのではなく、ボーカル、ベース、ギターなどすべての音がクリア。時折頭上から“降ってくる”ような鳴り物の演出も心地よい。

しかも、このソフトの再生音量はなんと0dB! この音量を絞らない設定は一般家庭ではありえないと言ってよい(もちろん、スピーカーにもよるが)。吸音もしっかりとした広い試聴室で、0dBの音量でも安定してサラウンドを聞かせてくれる「AVC-A1H」はちょっと驚異的だ。

Official髭男dismのブルーレイ「Official髭男dism one-man tour 2021-2022 -Editorial- @SAITAMA SUPER ARENA」(Dolby Atmos収録)でも、やはりすばらしい空間の満たし方。こちらではよりバンドのアンサンブルが強調され、キックドラムの明確さが光る。

定番のソフトとしてUltra HDブルーレイの「トップガン マーヴェリック」(Dolby Atmos収録)でからはチャプター2を再生。マッハ10を超えるスピードを出そうとする戦闘機のエンジンの轟音、それにはさまれる緊張感のある会話シーン。動と静のコントラストがすばらしく、しばし試聴を忘れて作品にのめり込んでしまった。

こうなると、頭をよぎるのはマランツのセパレート型AVアンプ「AV10」と「AMP10」の存在だ。こちらのクオリティにも驚かされたのだが、「AVC-A1H」と比べたらどうなのか? 気になってしまうのが人情というもの。「同じクオリティでした」ということはないにしても、マランツのペアの希望小売価格は「AVC-A1H」の2倍以上。

とすれば「AVC-A1H」は抜群のコストパフォーマンスなのではないか……。そんなことも考えさせられた「AVC-A1H」の試聴だった。最後に、「Shirakawa Audio Works」を訪れたのは、「AVC-A1H」の生産現場を見学するためでもある。この様子は別記事にて、後日お伝えする予定だ。

柿沼良輔(編集部)

柿沼良輔(編集部)

AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。

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