JBLのAVアンプ「MA710」と「MA9100HP」をレビュー。どちらもフロントパネルが白い、レアな製品だ
2024年6月にJBLのホームオーディオ用エレクトロニクス機器「Classic」シリーズの紹介記事を本サイトに書いた。
プリメインアンプ「SA550 Classic」、CDプレーヤー「CD350 Classic」、ネットワークオーディオプレーヤー「MP350 Classic」、そしてアナログレコードプレーヤー「TT350 Classic」である。それぞれ老舗オーディオメーカーJBLの実力の高さを印象づける完成度の高い製品群だった。
といっても多くのオーディオファンが「JBLってスピーカー専業メーカーでしょ?」と思っているフシがあるが、昨今のJBLは、同じハーマン・グループに所属する英国のオーディオメーカーであるARCAM(アーカム)との協業によって、さまざまなオーディオ・エレクトロニクス機器を発表しているのである。
そして2024年秋、「MA710」と「MA9100HP」という2モデルのAVアンプが日本で発売された。「JBLがAVアンプ?」といぶかしく思われる方も多いと思うが、JBLは北米を中心に「Synthesis(シンセシス)」シリーズでホームシアターのカスタムインストールビジネスを長年手掛けているし、アーカムも日本でこそ展開していなかったが、AVアンプを展開している。その流れを把握しておけば、JBLブランドでのAVアンプの発売もそれほど唐突なことではないとわかるのである。
JBLのスピーカー「STAGE」シリーズと組み合わされた「MA9100HP」。「STAGE」シリーズはイネーブルドスピーカーもラインアップするサラウンドシステム向けスピーカーだ
「MA710」と「MA9100HP」両モデルともにクラスD増幅のデジタルアンプで、高効率で発熱の少ないスイッチング電源回路が採用されている。それゆえ各7 チャンネル/9チャンネルのパワーアンプを内蔵しながらも、非常にコンパクトな外観でまとめられている。フロントパネルは斬新なホワイト仕上げ。黒くていかつい機械のカタマリといったイメージの国産AVアンプとはまったく異なるデザイン・テイストであり、リビングルームに置いてもまったく違和感のない美しいAVアンプである。
フロントパネルはホワイトで、随所にイメージカラーのオレンジが差し色としてあしらわれている
フット部分もオレンジ。普段は見えないような部分の意匠も凝っている
それぞれの型番はフロントパネルと本体横にプリントされている
ともにDolby AtmosやDTS:Xなどオーバーヘッドスピーカーを用いるイマーシブサウンド規格に対応。「MA710」は7チャンネルアンプ構成なので、Dolby Atmos再生時は5.1chのフロアチャンネルにオーバーヘッドスピーカーを2本足した5.1.2再生が可能となる。
「MA9100HP」は9チャンネルアンプ構成。Dolby Atmos再生時は5.1chフロアチャンネルにオーバーヘッドスピーカーを4本用いる5.1.4再生、またはサラウンドバックスピーカーを加えたフロア7.1chにオーバーヘッドスピーカー2本の7.1.2再生が可能だ。
またネットワークオーディオ再生についてはAirPlay 2、Google Chromecast、Bluetoothなどに対応し、さまざまな音楽コンテンツにすぐにアクセスできる。HDMI入力は「MA710」「MA9100HP」ともに6系統、ARC対応のHDMI端子も装備し、テレビとの連携も簡単だ。
HDMIのほかに同軸、光(Tos Link)、USB Type-Aのデジタル入力を備え、アナログ入力はラインレベルのRCA入力2系統のほかMM型カートリッジ対応のフォノ入力が用意されている。また、LFE(Low Frequency Effect)用のサブウーハーライン出力(プリアウト)はともに2系統ある。
基本構成は似ているが、HDMI出力の数などに違いがある。いちばん大きな違いはアンプの数。上の「MA710」は7チャンネルで、下の「MA9100HP」は9チャンネル分を内蔵する
両モデルとも、写真のシンプルな小型リモコンが付属する
自宅にてテストを実施。メインスピーカーはJBLの「Project K2 S9900」。まずは薄型AVアンプ「MA710」を4.1.2システムで再生した。なお、製品の高さは109.2mm(アンテナを除く)
テストは自宅で。センターレスの6.1.6構成のイマーシブ対応システムに本機を組み込んでその音を聴いてみた(「MA710」は4.1.2、「MA9100HP」は4.1.4で再生)。フロントL/Rスピーカーは15インチウーハーと4インチ・コンプレッションドライバー+ホーンを組み合わせたJBL 「Project K2 S9900」、サラウンド/サラウンドバック/オーバーヘッドスピーカーはリンの小型2ウェイ機「Classik Unik」、サブウーハーはイクリプス「TD725SW」である。
まず、弟機「MA710」の音を聴いてみよう。TIDAL Connect機能を用いてハイレゾファイルを聴いてみた。ちなみに定額制ストリーミングサービスのTIDAL(タイダル)は現状日本では正式にスタートしていないが、海外アカウントを取得すれば国内でも聴くことができる。2024年10月に我が国にローンチしたQobuz(コバズ)については、間もなくファームウェア・アップデートで対応するとのことだ。
TIDALを使って2チャンネル音源を再生。スマホで選曲をして、AVアンプが再生/ストリーミングを行うTIDAL Connectに対応。正式には後日のソフトウェアアップデートで対応とのことだが、取材時もとてもスムーズに利用できた。利便性と音質が両立した機能だ
聴きなれた男声ジャズ・ボーカル、ジェイムソン・ロスの「Don’t go to strangers」をまず再生してみた。デジタルアンプらしいと言うべきか、とても明快なさっぱりとしたサウンド。中高域にアクセントがあり、ボーカルの明瞭度がとても高いが、低域から中低域の量感に乏しく、男声の太くて甘い感じの表現は残念ながら物足りない。さすがにJBLの大型スピーカーを鳴らすのはしんどいか……。
内田光子が手兵クリーブランド管弦楽団を弾き振りした「モーツァルト:ピアノ協奏曲第17番」は、各楽器を分析的に聴かせるのではなく、モーツァルトの音楽の美しさを総体として、大づかみに描写する印象だ。音量を上げていっても腰砕けにならない骨格のしっかりした音調には好感を持った。
「EZ Set EQ」とは、アプリをインストールしたスマートフォンでピンクノイズを発生させ、部屋の音響特性によって生じる100Hz以下の落ち込みを補正するもの。ペアとなる2チャンネルずつ測定と補正を実施する必要がある。サラウンドやオーバーヘッドスピーカーも補正可能だ
「MA710」「MA9100HP」ともに、多くのAVアンプが持っている自動音場補正機能には基本的に対応していない(「MA9100HP」は有償オプションで「Dirac Live」に対応する)。そのいっぽうで「EZ Set EQ」という音質調整機能がある。低域端の周波数を決定する「Lower roll-off frequency」は10〜200Hzでデフォルトは20Hz。「Room EQ target function」はSmall~Largeでプラスマイナス6dBの調整が可能だ。
ここで「EZ Set EQ」を使って100Hz以下を補正、「MA710」でDolby Atmos収録のUltra HDブルーレイ「イエスタデイ」を再生してみた。ザ・ビートルズが存在しないパラレル・ワールドを描いた抱腹絶倒のコメディ映画だ。スピーカーコンフィギュレーションは、4.1chのフロアチャンネルにトップミドルスピーカー2本を加えた4.1.2構成だ。
主役のインド系シンガー・ソングライターの男の子、ジャックがバス事故から退院、ガールフレンドや友人にパーティーを開いてもらうシーン。彼はプレゼントされた新しいギターをつま弾きながらビートルズの「イエスタデイ」を弾き語るのだが、初めて聴くその曲のすばらしさにガールフレンドや友人たちは涙を浮かべて感動する。この場面にはさまざまな環境音(浜辺のせせらぎ、人々のざわめきなど)が散りばめられているのだが、「MA710」はそれらを余すことなく的確に拾い上げる印象だ。それから男女4人の声の描写も的確で、感情がよく乗っていることがわかる。
本人役で出ているエド・シーランのコンサートツアーのオープニングアクトを務めることになったジャック青年。大観衆がつめかけたモスクワの会場で歌うシーンでは、聴衆の歓声や手拍子などが空間をみっちりと埋め尽くし、Dolby Atmosならではの臨場感が味わえる。「EZ Set EQ」の低域補正の効果も明らかで、スタジアム級のコンサート会場を覆う低音の波動が生々しく実感できた。
アイルランドの首都ダブリンの不良少年少女たちが、ソウルバンドを組んで人気者になることを目指すドタバタを描いたアラン・パーカー監督の「ザ・コミットメンツ」のブルーレイ。Dolby TrueHD 5.1ch収録のこの作品の、クラブでのライブシーンを見てみたが、タイトなリズムセクションを切れ味鋭いサウンドで表現し、ぼくをよろこばせた。
一回り本体サイズの大きな「MA9100HP」を試聴する。スピーカーシステムは4.1.4構成とした
ここで「MA710」から「MA9100HP」にスイッチしてその音を聴いてみよう。「MA9100HP」の機能面・デザイン面の大きな特徴は、フロントパネル中央に液晶ディスプレイが配置されていること。文字品位も高く、これは使いやすそうだ。また、フロントパネル下部には照明が仕込まれていて、ブルー、グリーン、レッドと気分に合わせて切り替えることもできる(もちろん消灯可能)。
液晶ディスプレイでは本体設定などが可能。音楽だけを再生する場合など、テレビ・プロジェクターを使わないシチュエーションで便利に使える
本体下のLEDライトで気分を盛り上げるのもよい。色や明るさは任意に変更可能だ
まずTIDAL Connectを用いてハイレゾファイルを2チャンネル再生で聴いてみたが、「MA710」に比べて断然音がよいことがわかった。ジェイムソン・ロスの「Don’t go to strangers」など男声の厚みや力強さが生々しく伝わり、低音のスケール感も段違い。価格がほぼ2倍なので、当たり前でしょと言われるかもしれないが、その音質の違いは予想以上だった。
内田光子が弾き振りするモーツァルトのピアノ・コンチェルトは音場表現が秀逸で、扇形のオーケストラ・イメージが見事に出た。ピアノのタッチの精妙さもすばらしい。「MA710」同様クラスD増幅のアンプだが、デジタルアンプモジュールのグレードが本機のほうが上なのかもしれない。また電源回路にも大きな違いがあるのだろうと拝察する。
TIDAL再生時には、液晶ディスプレイに楽曲情報が表示された。映画だけでなく、音楽再生も行う普段使いのアンプとして気のきいた機能だ
フロアチャンネルの4.1chにトップフロント、トップリアの4本を加えた4.1.4構成で、Dolby Atmos収録のUltra HDブルーレイ「イエスタデイ」を再生してみたが、トップスピーカーが2ペア4本になったことも大きいのか、音場がみっちりと密につながり、スクリーン上に映し出されるパーティーの現場をリアル体験しているかのような臨場感を得られた。
トップスピーカー2本と4本の違いはきわめて大きい。ダイアローグの再生は「MA710」もよかったが、声の生々しさ、喉が潤っている感じは「MA9100HP」のほうが断然すばらしい。
ブルーレイ「ザ・コミットメンツ」のライブハウスの熱気の表現についても「MA9100HP」の魅力が際立つ。音の立ち上がりが鋭く、リズムセクションが生み出す絶佳のグルーヴがスピーカーから押し寄せてくる実感が得られる。
「MA710」には薄い(109.2mm)というならではの長所があるものの、音質や機能性を考えると……
内蔵アンプの数が「MA710」は7チャンネル、「MA9100HP」は9チャンネルという違いがまずあげられるが、それに加えて2チャンネル再生においても、サラウンド再生においても「MA9100HP」は音質が十分に吟味されていて、その完成度の高さに感心させられた。
「MA710」は104,942円という価格.com最安価格(2025年1月10日時点)を勘案すればよくできた製品と言えるが、「いかつい国産機ではなく、リビングルームに置いても違和感のない洗練されたデザインのJBLのAVアンプが欲しい」という方には「MA9100HP」、と太鼓判を押したいと思う。