3次元立体音響規格であるDolby Atmosに対応したコンテンツは、今やApple Music、Amazon Musicといった音楽サブスクでも多数配信されていて、かなり身近になっている(Apple Musicなどでは「空間オーディオ」と表記されることも)。国内外さまざまな楽曲がそれで楽しめる現状だが、なかでも個人的に「え! この人たちの曲も!?」となったのが「嵐」だ。
Apple Musicで嵐の「5×20 All the BEST!! 1999-2019」(Special Edition)を再生。“ガチ”のDolby Atmosを楽しんでみたい! というのが本記事の趣旨
そう、1999年にデビューした国民的アイドルグループの嵐である。ご存じのとおり2020年末をもって活動を休止しているわけだが、そんななか、サブスクで配信中のベストアルバム「5×20 All the BEST!! 1999-2019」(Special Edition)が2024年11月3日にDolby Atmos音源化されたのだ。
ちなみにこれ、同日が嵐のデビュー25周年だったことを記念した周年企画のひとつだった。男性アイドルグループは、そもそもサブスク解禁だけでもわりとニュースになる存在だが、ここに来てDolby Atmos化とはうれしい展開だ。
で、実際に該当の曲をDolby Atmos環境でガッツリ鳴らしてみたところ、まあ聴きどころが多くて楽しいのである。嵐のCDデビューから活動休止までをリアルタイムで知るJ-POPファンとして、なかなか胸アツな体験だったのでレポートしたい。
実は2024年は、Snow ManやKing & Princeなんかの新曲もDolby Atmosで配信されたりして、男性アイドル界隈のDolby Atmos対応の動きが記憶に残る年ではあった。ただ活動休止中の嵐の場合、新曲ではなく、昔の楽曲を改めてDolby Atmosミックスしたのがポイント。わざわざ周年企画に合わせてきたあたりも含め、運営側の気合いを感じる。
いや、わかる。筆者もお茶の間で、テレビに映る嵐のキラキラを20年間浴びてきたから、自分がスタッフだったら絶対気合いが入ると思う。彼らはそういう存在だった。
ちなみに筆者は嵐メンバーと同世代で(松本さん&二宮さんと同い年)、それこそ彼らが90年代中期にジュニアとしてテレビに出ていたころから存在を知っている。そこから20〜30代と年齢を重ねるごとに「若いころからずっと第一線で仕事をして輝いている嵐、スゴすぎる」と、どんどんリスペクトが増したものだ。
社会人になり、「同世代の嵐があんなに頑張ってるんだから、自分も頑張らなきゃ」と己を鼓舞したことがある現アラフォーは、筆者だけではあるまい。アイドルとはそういうものだ。ひとりの社会人として、そのプロ意識に学ぶところがありすぎて、40代の今となってはもはや彼らに尊敬しかない。
そんないちリスナーの目で見ると、今回の嵐楽曲のDolby Atmos化は、活動休止中のグループからちゃんと“供給が続いている”という側面もある。既存の楽曲がリファインされて世に出ることにより、それこそ“まだまだ嵐は終わらない”感が示されているようでエモい。
今、空間オーディオのベストな方法は「Apple TV 4K」とDolby Atmos対応AVアンプを使うこと。「Apple TV 4K」をプレーヤーにして、Apple Musicで配信されている嵐の空間オーディオ(=Dolby Atmos)楽曲を再生。AVアンプで天井に6本のスピーカーを設置した「4.1.6」システム(サブウーハーを含む11本のスピーカー)を鳴らしてみた
少々前置きが長くなったが、ここからが本題。嵐楽曲のDolby Atmos再生について語っていこう。今回はDolby Atmosミックスの底力を知るべく、編集部・柿沼氏の自宅試聴室にて、オーバーヘッド(トップ)スピーカーを含む本格的なDolby Atmos対応システムでガッツリ体験させてもらった。
……で、まず簡単に感想を言うと、「やっぱり気合い入ってるな!」である。
こちらはDolby Atmos speaker set up guide による「7.1.6」システムイメージ。ここから画面下のセンタースピーカーと試聴位置後方のサラウンドバックスピーカーを除いたものが「4.1.6」だ
「Apple TV 4K」以外の「空間オーディオ」を再生できるプレーヤーは限られている。現状では写真のZidoo「UHD8000」などが対応品。“オーディオ然”とした製品を探している方はこちらもチェックしてみるとよいかも
特にそう感じたのが、デビュー曲の「A・RA・SHI」(1999年)だ。デビュー曲ゆえ気合いが入っていて当たり前なのだが、Dolby Atmosミックスで体験したことにより、原曲の時点で相当なこだわりがあることを改めて実感した。
ラップで始まるノリのよいポップチューンでありつつ、異なるテンポが混在したり、わかりやすいAメロ・Bメロ・サビから外れた構成だったりと、2000年前後のアイドルのデビュー曲として改めて聴きどころが多い。
今回のDolby Atmos再生では、まず1つひとつの音がクリアに感じられて見通しがよかったのが印象的だ。間奏のヘビーなギターや打ち込みの効果音など全体的にエッジが効いており、それらがサラウンドスピーカーに振り分けられていて、広がり感がある。
そしてDolby Atmosといえば、天井に設置するトップスピーカーから出てくる上方向の音がポイントになるが、本曲では後半で重なるコーラス成分がトップのフロント(試聴位置前方の天井に設置されたスピーカー)から出されていて、その瞬間に自然に没入感が深まって熱い。
つまり、トップスピーカーをわざとらしく使うというよりは、自然なサラウンドの広がり感を重要視しつつ、たまにトップも効果的に使っている感じだ。これがナチュラルな没入感を演出していてよい。
また、5人の歌パートをガッツリ重ねて作られた楽曲であることも、改めて実感した。サビなどユニゾンのパートで音の分離がよく、一体感がありつつも、そこに5人がいるのがわかるのだ。ユニゾンはアイドル楽曲ならではの聴きごたえなので、本格的なシステムだとその魅力が存分に味わえて感動する。
Apple Musicで「5×20 All the BEST!! 1999-2019」(Special Edition)のページを表示すると「Dolby Atmos」の表記がされていることがわかる
今回再生した「5×20 All the BEST!! 1999-2019」(Special Edition)は、嵐楽曲の20年間の変遷を楽しめるアルバムだが、Dolby Atmosで体験することで、各時代の楽曲をまた新鮮な気持ちで味わえてよかった。
初期の楽曲である「感謝カンゲキ雨嵐」(2000年)や「君のために僕がいる」(2001年)は、ギターや効果音の音に立体感があって、わかりやすくサラウンド感に振っている傾向が感じられた。
「Love so sweet」(2007年)は、メインパートはセンターに定位しつつユニゾンの声はしっかり分離し、コーラスやサビのキラキラ感のある効果音がサラウンドに振り当てられている。「言葉より大切なもの」(2003年)や「Happiness」(2007年)もそうだが、このあたりは元のミックスを生かしつつ、サラウンドスピーカーも自然に使うことで、基本のステレオイメージをベースに立体感が生まれているように感じる。
「Monster」(2010年)は、バックの音のサラウンド感がグッと強まるミックスになっていて、聴きごたえがある。絶妙に音が取りにくいAメロが、改めて味わい深く伝わってくるというか。そして「おお」と声が出たのは、「夏疾風」(2018年)。Aメロからメインボーカルやバックの演奏、1つひとつの音に分離感があるのだが、サビに入った途端、トップも含めたすべてのスピーカーが一気に鳴り出すのだ。楽曲の盛り上がりどころで、しっかりとDolby Atmosならではの没入感が高まる1曲になっていて、聴き惚れてしまった。
全体的に、バックの演奏をスタンダードにサラウンド空間に広げ、そこから上方向にも伸びて聴こえるように鳴っている印象で、元の楽曲の世界観を壊さずにそれを実現させているのがいちリスナーとしてうれしい。
Apple Musicには「空間オーディオ」というカテゴリーが設けられているので、Dolby Atmosの再生に対応した環境(サウンドバーなど)があるならば一度試していただきたい
さて、今回は天井スピーカーを含めたDolby Atmos再生に対応する専用室という、一般的にはちょっと特殊な環境で体験した。現実には「家にそんなスピーカー置けないし、天井にスピーカー埋め込むなんて無理……」という方が大半だろう。かくいう筆者も賃貸マンション住まいで、自宅に本格的なDolby Atmos環境を導入できない状況なので、よくわかる。
では、そんな我々が現実的に嵐の楽曲をDolby Atmos再生するにはどうしたらよいのか……?
現状、最も手軽な再生方法は、スマートフォンを音楽プレーヤーにして、イヤホンやヘッドホンと組み合わせて再生するスタイルだ。本格的なDolby Atmos再生ではないが、はじめの一歩として「あれ? これまでと違う!」となるのでよいと思う。
「iPhone」(iOS端末)の場合、音楽アプリ「ミュージック」(Apple Music)で「空間オーディオ」と呼ばれているものがDolby Atmosのことだ。これに「AirPods」シリーズや「Beats Studio Buds +」などの空間オーディオ対応ヘッドホン/イヤホンを生み合わせて再生すればよい。このスタイルの場合、対応ヘッドホン/イヤホンと「iPhone」が連動して頭の向きを判別する「ダイナミック・ヘッドトラッキング」技術で最適化することにより、「空間オーディオ」ならではの没入感が楽しめるようになっている。
「AirPods Pro 第2世代」(左)と「Beats Studio Buds +」(右)。最も手軽な「空間オーディオ」再生は、こうしたヘッドホン/イヤホンとiPhoneを組み合わせること
Android端末の場合は、同じくApple MusicやAmazon Musicで配信中の楽曲を再生することになり、一応組み合わせるヘッドホン/イヤホンに縛りはない。ただ、大前提としてAndroid端末自体がDolby Atmosに対応している必要があることと、上述の「iPhone」のようにアップル独自の「ダイナミック・ヘッドトラッキング」を使えない(Google製品にはヘッドトラッキング対応製品もある)ので、機材の組み合わせなどで再生クオリティに差が出ることに注意だ。
ちなみに自宅でDolby Atmos楽曲をスピーカー再生したい場合は、今回使用した「Apple TV 4K」や、対応AVアンプなどを導入する必要がある。比較的簡単なのは、「Apple TV 4K」をDolby Atmos対応のサウンドバーと直接HDMI接続すること。それで物足りなければ、AVアンプやスピーカーの導入へステップアップしていくのもアリだろう。
価格.comでも人気を博すJBL「BAR 1000」の再生イメージ。脱着可能なサラウンドスピーカーとサブウーハーがセットになっていて、「7.1.4」相当(天井に4本スピーカーを設置したのと同等)の再生が可能としている。同じDolby Atmos対応サウンドバーでも、再生能力はさまざま
そんなわけで長々と書いてきてしまったが、詰まるところ何が言いたいって、嵐の楽曲からスタートするDolby Atmos再生、結構いいぞって話だ。いまから始めてみればいいじゃない……というか、むしろいまこそDolby Atmos再生を始めよう。リッチな音に包まれながら、いつか来る活動再開のニュースを待とうじゃないか。