価格.com「プロジェクタ」カテゴリーの人気売れ筋ランキングを席巻している小型プロジェクターの画質比較テストはいかがでしたか? 個々のモデルの画質や機能についてはそちらをご参照いただくとして、ここでは寝室やワンルームで使いたいモデルを選び出し、実際に部屋に持ち込んだ場合の使い勝手と、天井へ投写する場合の注意点について記します。
実に20年前の「インテリアライフスタイル2003」で、「日本ベッド」が発表した「ベッドルームシアター」。ヘッドボードに仕込まれた2台のプロジェクターで、正面の壁面と天井に投写していました
寝室やワンルームにプロジェクターを置くとなれば、そこはベッドルームシアターと言えるでしょう。そう言われて思い浮かべるのは、一般的な壁投写? それともプラネタリウムみたいな天井投写? ベッドに横たわってまず考えたいのは、視線をどこに向けるかです。
映画館で最前列に座ると視野一杯に迫力の映像を見られますが、見上げる姿勢になるため首がかなり疲れるはず。
それに対して、深くリクライニングした格好で横たわり天井に投写した映像を見るならば、基本的には視線の先に映像があるので、見上げることによる首の疲労はなさそう。
コンテンツ次第ではありますが、天井に映像を投写するプラネタリウム方式は、意外に居心地がよくないかもしれません。確かにカイロプラクティックなどのBGV(バックグラウンドビデオ)として、うとうとするにはよいのですが……。
また、天井にスピーカーを埋め込みでもしない限り、映像と音の一体性が得られないという問題もあります。映像は天井にあるのに、音はテーブルの上か壁際に置くスピーカーから聞こえることになるだろうからです。
天井に映して寝ながら映画を見るのは、まさに夢見心地。別途サウンドシステムを用意するなら、定位感がしっかりした2chシステムよりも、広角に音場が広がるものがよさそう。写真はソニーのBluetoothスピーカー「HT-AX7」
いっぽう、一般的な壁(やスクリーン)への投写は、枕やクッション、あるいはリクライニング機構のあるベッドなどで、上半身をうまく起こせれば理想的と言えます。映画館最前列の例と同じように、見上げるような姿勢は長時間ともなるとつらい姿勢。特にリラックスしてくると人間の視線は下がってくるので、ベッドルームシアターではなおさら留意する必要があります。
電動リクライニングベッドでなくても、枕やクッションを重ねたり、ヘッドボードに傾斜が付いているベッドを選んで上半身を起こしたりできれば、快適なベッドルームシアターを構築できるでしょう。写真は日本フクラのベッドシステム「RATIOLETTO(ラティオレット)」
まとめると、天井投写は天窓から夜空の星を見上げるように非日常をのんびり楽しみたいという人が選ぶのがよいでしょう。ヒーリング用BGVを流したり、YouTubeなどをリラックスして見たり……。その場合、プロジェクターのサウンドシステムがしっかりしているモデルが望ましいでしょう。
前回までの連載でレビューしたモデルで言えば、エプソン「EF-12」やBenQ「GV30」などが候補になります。
いっぽう、BGVなどではなく、映画などの作品をきちんと見るなら、やはり専用ルームやリビングシアター同様、壁投写が望ましいでしょう。そのほうが映像に合ったオーディオシステムも設置しやすいというメリットもあります。
詳細は後述しますが、60インチ前後での投写であればANKER「Nebula Capsule」、80インチ以上での投写であればViewsonic「M2e」やXGIMI(エクスジミー)「MoGo 2 Pro」あたりが候補として考えられます。
「Nebula Capsule」の価格は魅力的ですが、あまり映像の明るさを期待できません。画面を80インチより大きくするならば光量が不足しがちのため、少し価格の高い「M2e」「MoGo 2 Pro」などを選ぶとよいでしょう。価格差以上の明るさを得られるうえ、オートフォーカス機能で設置の手間が少ないなど、それでもコストパフォーマンスは高いと思います。
では実際にプロジェクターを使って「ベッドルームシアター」を実践してみましょう。
寝室はそれほど広くないのが普通でしょう。我が家は8畳ほどで、部屋の真ん中辺りにプロジェクターを置けば壁までの投写距離は2m弱といったところ。すると画面サイズは画角16:9で60〜70インチ程度となり、目が冴えすぎなくてよい塩梅だと思います。この塩梅にかなう、最もコストパフォーマンスがよいモデルはどれでしょうか。
価格が安いという意味で言えば、さきほど触れた小型モバイルタイプANKER「Nebula Capsule」でしょう(後日、個別の画質レビューも公開予定です)。明るさが100ルーメンとあって80インチできちんと映像を見るには正直かなり厳しくはあります。しかし、60インチ程度のサイズで、暗い寝室でゆったり見るセカンドシステムとして使うぶんには“アリ”だと思います。
ただ、オートフォーカス全盛の中にあって、本モデルのピント調整はマニュアル。本体を握って右手親指の位置にあるダイヤルを回し、手動でピントを合わせる必要があります。
電源を入れると「シー」という騒音がする「Nebula Capsule」。寝室ではベッドや布団が吸収するのか、この手の音は思ったほど耳障りではありません
本体が筒状なので、仮に天井に映すならばそのまま置くとコロコロと転がってしまいます。本体底面に付いたネジ穴に固定する三脚などが必要となるでしょう
なお、「Nebula Capsule」に限りませんが、間違ってもベッドや枕の上にそのまま置いて天井に投写するのはやめましょう。背面にあるスピーカーからの音がこもるだけでなく、モデルによっては排熱のための吸排気口を塞いでしまい故障や火災の原因になりかねません。
この点、エプソンの「EF-12」などは、最初から立てて設置することを意図して設計されています。天井への投写を検討する場合はこのあたりも確認するとよいでしょう。
もちろん、そもそも垂直方向への投写ができないプロジェクターはたくさんあります。この点は後述しますが、天井へ映像を投写したい場合は、垂直方向に投写できるかどうか、推奨される設置方法はあるか、という点を確認しましょう。
バッテリー内蔵モデルだからといって、「Nebula Capsule」を枕や布団に直接置いてしまうのは絶対にNG。放熱を妨げるからです
「Nebula Capsule」ではちょっと物足りない人のために、上位モデルの「Nebula Capsule3 Laser」も見てみましょう。
詳細は連載ですでにレポートしていますが、明るさ300ルーメンと、「Nebula Capsule」の3倍の光量で映像の明るさも色の純度も段違い。白壁に投写するだけで黒みがない映像が浮かび上がり、公称300ルーメンとは思えないクッキリ映像が楽しめます。リアルタイムのオートフォーカス、全自動での台形補正も便利。
プロジェクターを定位置に常設しないのであれば、取り出して簡単に設置できる手軽さが確保されているか(オートフォーカス機能などがあるか)どうかという視点も持つとよいでしょう。
ただし、寝室やワンルームから持ち出さないのであれば、バッテリー内蔵型の「Nebula Capsule 3 Laser」はやや割高かも。
そう考えると、次に紹介するXGIMIの「MoGo 2 Pro」あたりが、ここであげた中では価格対満足度のバランスがいちばんよいかもしれません。
では、エプソン「EF-12」やBenQ「GV30」のような天井への投写を推奨して設計されているのがわかるモデル以外で、天井投写が可能かどうかはどう見分ければよいのでしょうか?
たとえばエプソンの「EH-TW5825」のような高圧水銀ランプモデルでは、放熱の問題から傾けて投写することはできません。いっぽうでレーザー光源やLED光源の製品であれば、基本的には設置方法には制限がないと思われます(もちろん設計次第なので、各製品の取り扱い説明書などで必ず確認のこと)。
つまり、「それっぽい」設計のモデル以外でも、レーザー/LED光源で本体の底にネジ穴が設けられていれば、そこに三脚などを取り付けて角度を調整、天井投写することは不可能ではありません(連載の次回アウトドアでのプロジェクター利用を取り上げますが、そこでも解説予定です)。
ベッドルームシアター向きかどうかは、垂直方向への投写ができるかどうかだけでなく、映像が投写される位置も関係してきます。これを考察するために、BenQの「GV30」を見ていきましょう。
「GV30」は、マグネットキャッチの土台にカタツムリのような本体を載せて滑らせることで縦方向に映像をシフトできます。壁にも天井にも自在に投写できる使いやすさは、まさにベッドルームシアター向き。
「GV30」には専用の台座が付属しているため、天井への投写がとても簡単
「フォーカス」の「リアルタイム調整」オン、「自動縦キーストーン」(自動台形補正)オンで使います
ただ実際やってみると、枕に頭を載せてちょうどよい位置に映像を投写しようとする場合、台形補正をかなり使うことになり、せっかくの画素をむだにして映像部分の解像度を落としてしまうのです。
台形の映像の外側に見えるグレーの部分が、デジタルで台形補正することによる画素のむだ。これが大きいほど解像度が下がっているということです
そこで、壁に正対するのと同様に、天井に正対するように垂直上向きに投写すれば、画素のむだは生じなくなります。
ただここで問題が。光学式レンズシフト機能を持たない大半のプロジェクター、特にDLPモデルは、テーブル置きでちょうどよい位置に映像を投写できるように、光路軸上より若干上の方向に投写されるようあえて設計されています(打ち込み、オフセット)。この状態で90度真上に向けて投写すると、視線より若干上に見える位置に映像が投写されてしまいます。
これは、壁際のベッドサイドテーブルなどにプロジェクターを置くと、映像が壁に被ってしまうことを意味します。それを回避するためには、本体を上下反転させて設置&投写し、映像も「設置」メニューから上下反転に切り替えて、自身の視線の少し下(部屋の中央側)に映像が来るようにする必要があるのです。
天井への投写時は、プロジェクターの打ち込み角が問題になります。壁側に本体天面を向けて立ててしまうと、視線の先に映像を合わせるためには、本体を部屋の真ん中近くに置く必要が出てきてしまいます(ベッドの位置にもよりますが)
映像を上下反転させ、壁側に本体底面を向けて置くと、映像が壁にけられることもありません
エプソン「EF-12」のメニュー画面。設置メニューで「設置モード」を「上下反転」にします。そのほかのメーカーでも、同じような設定項目があるはずですので、確認してみましょう
これにより、枕に頭を載せた視線の位置やや下あたりに映像が来ることになり、非常に快適に視聴できるのです。
実際に各モデルを視聴してみて、意外と言っては失礼ですが、この点にまできっちり気を利かせていたのが、XGIMIの「MoGo 2 Pro」。フォーカス合わせと台形補正を自動でするだけでなく、壁投写か天井投写かを判別し、「前面モード」=天地そのまま、「前面天井モード」=上下反転を切り替えてくれるのです。
天井投写のために本体を上向きにしてテーブルなどに設置するとき、メニューで設定を「上下反転」にしなくても自動で上下反転。視線より少し下の見やすい位置に投写してくれるので、壁に近い位置に置いても映像がけられることがありません。個人的には、今回のテストでこれにいちばん感動しました。
XGIMIの「MoGo 2 Pro」では専用(別売)のマルチアングルスタンドが利用可能。希望小売価格は10,800円(税込)
XGIMIの「MoGo 2 Pro」は自動で「前面モード」と「前面天井モード」を切り替え可能。「前面天井モード」は天井投写向けのモードで、映像の天地が逆さまになります
小型かつ音のバランスも良好な「MoGo 2 Pro」は寝室に好適
最後に、快適なベッドルームシアター構築のためにひとつ指摘しておきたいのは、照明環境です。寝室での明かりはどう配置していますか?
これまで日本の住宅では、部屋の種類に関わらず、天井の中心に大きな照明が一灯というのが一般的でした。しかしLED照明のブルーライトが直接視界に入ると、入眠をうながすメラトニンというホルモンの分泌を抑制するため入眠を妨げると言われています。「寝る前にスマホを見ると眠れなくなる」と言われるゆえんでもあります。
プロジェクターの場合はスマホやテレビより大画面ですが、光量は控えめ、かつ、目に飛び込んでくる光は直接光でなく、スクリーン(投写面)からの反射光。目にやさしいという点でも寝室向きと言えます。
ここで、環境光とプロジェクターの設置場所の関係を思い出してください。
上の記事で、照明はプロジェクターの投写映像に影響を与えない場所に設置する、と書きました。それは寝室でも同様。照明を部屋の中央に天井付けして照らすのではなく、投写映像のじゃまをしないベッドサイドや足元などにそっと、スタンドや間接照明を置くのがよいでしょう。
そしてこれは、プロジェクター視聴にとって有利な環境であると同時に、見終わってからの快眠にとてもよい環境なのです。
白熱球時代には定番だった簡易調光器、ルートロン「クレデンザ」(手前)。コンセントとランプの間に入れる抵抗のような製品ですが、LED照明とつなぐ場合は調光対応の電球に限り使用できます
ホームシアターのある暮らしをコンサルティングする「fy7d」代表。ホームシアターの専門誌「ホームシアター/Foyer(ホワイエ)」の編集長を経て独立、現在はインテリアとの調和を考えたシステムプランニングも行う。