価格.comの「プリメインアンプ」カテゴリー「人気売れ筋ランキング」を眺めると、シンプルなアナログ音声対応モデルだけでなく、デジタル音声入力を持ったモデルがとても多い。
なかでも注目すべきは、昨今続々登場しているARC対応のHDMI端子を持ったモデルだろう。2023年8月18日現在のランキングの上位に入っている製品では、マランツ「NR1200」「MODEL 40n」、TEAC(ティアック)「AI-303-S」および「AI-303-B」、ヤマハ「R-N2000A」などがあげられる。
この理由は、もちろんその利便性の高さにあると見てよいだろう。上記のプリメインアンプとテレビをHDMIケーブルでつなぐだけで、テレビの電源オン/オフに連動して動き、音量調整もテレビのリモコンでOK。好みのスピーカーとプリメインアンプをつないでおけば、テレビの使い勝手はそのままに、立派なサウンドシステムが完成するのだ。
盛り上がりを見せるジャンルの製品だけに、「人気売れ筋ランキング」外にも面白い製品がある。それが今回紹介するBluesound(ブルーサウンド)の「POWERNODE EDGE」だ。もちろん、HDMI端子を持っているのだが、独自のOSを搭載したネットワークオーディオプレーヤーでもある。特に、ストリーミングサービスでの音楽の再生を重視するユーザーに注目してほしい。
ネットワークオーディオプレーヤーとARC対応のHDMI端子付きプリメインアンプ機能が統合された「POWERNODE EDGE」。デジタル音声信号の対応は最大192kHz/24bit(PCM)で、DSDには対応しない。クラスD増幅のアンプ出力は40W(8Ω)×2。本体は白と黒の2色展開
219(幅)×193(奥行)×44.5(高さ)mmというコンパクトな筐体に必要最小限の接続端子を備える。音声入力はARC/eARC対応のHDMIのほか、アナログ/デジタル兼用の3.5mmミニ端子のみ。スピーカー端子の横のRCA端子は、2.1ch構成用のサブウーハー出力だ
Bluesoundの母体はLenbrook(レンブロック)という企業であり、同グループには1972年創業のNAD Electronics、PSB Speakersという老舗オーディオブランドがある
あまり耳なじみのない名前かもしれないが、Bluesoundは2023年で10周年を迎えるカナダのオーディオブランド。その母体はLenbrook(レンブロック)という企業で、スピーカーブランドPSB Speakersやアンプを中心としたブランドNAD Electronicsも保有している。
Lenbrook自体の創業は1978年。カナダやアメリカでオーディオ製品のディストリビューターとして成長し、その後上記PSB Speakers、NAD Electronicsを買収。そして現代の潮流に合わせた新ブランドとして立ち上げたのがBluesoundというわけだ。
Bluesoundはここ10年の「新ブランド」ではあるが、バックグラウンドの歴史は古く、伝統的なオーディオメーカーの兄弟ブランドと言える存在なのだ。
実際に、製品の開発チームはPSB Speakers、NAD Electronicsと共有されているという。NAD Electronicsのアンプ設計などのノウハウ、PSB Speakersのスピーカー設計のノウハウをBluesoundへ援用し、Bluesoundのソフトウェア技術をNAD ElectronicsとPSB Speakersで活用しているのだ。
PSB Speakersのオフィシャルページを見ると、Bluesound独自のOS「BluOS」を搭載したアクティブスピーカー「Alpha iQ」がラインアップされるなど、その成果はしっかりと現れているようだ。
「BluOS」とはBluesoundが独自に開発したLinuxベースのOSのこと。各種ネットワークオーディオ機能をサポートする。Bluetooth、Wi-Fi、AirPlay2などに対応するほか、最大192kHz/24bitのハイレゾ音源を有線・無線のいずれでも音質劣化なく伝送できるとしている
上記のとおり、Bluesoundのハードウェア設計には伝統的なオーディオメーカーの技術が援用されている。それならば、なぜわざわざ同グループ内でBluesoundという新ブランドを興したのか? それはリスニングスタイルの変化という時代の潮流を受けてのことであり、独自OS「BluOS」開発にもつながっていく。
象徴的なもので言えば2005年のYouTube、2007年のiPhoneの登場以降、音楽聴取の一般的なスタイルは急激に変化し、何らかのディスクプレーヤー、アンプ、スピーカーをそれぞれに用意するという在来型のオーディオの形も変容を迫られていた。
そうした当時のマーケットに対しての新しい動きを模索するなかで立ち上がったのが、Bluesoundであり、ソフトウェアの開発は2011年には始まっていたそうだ。
そしてBluesoundが提唱するのが、「鮮明で緻密なサウンドを、これまで以上に簡単に手に入れることができる」ようにするための「Living HiFi」という考え方だ。そのための製品ラインアップが小型の音楽ストリーミングプレーヤーや各種ストリーミングサービスに直接アクセスできるワイヤレススピーカー。プリアンプ/パワーアンプをセパレートした2ch/サラウンドシステムをラインアップするNAD Electronicsとは対照的と言ってよいだろう。
なお、NAD Electronicsにも「POWERNODE EDGE」とほぼ同機能の「M10 V2」「C 700」といった製品があるが、「POWERNODE EDGE」ほど小さくはないし、もう少し高価な値付けがされている。
「BluOS」で対応できるインターネットラジオ、音楽ストリーミングサービス一覧。日本では始まっていないサービスも含まれるが、Spotifyに対応しているほか、Amazon Musicでハイレゾを再生できることが特筆される。今後日本で始まるはずのハイレゾ対応サービスQobuz(コバズ)にも対応していることに注目したい
ここで注目すべきなのが、わざわざ独自OS(ソフトウェア)を開発していること。時代に合ったオーディオ製品を発売するだけであれば、ソフトウェア開発は外部からソリューションを購入して対応する、という方法もありうるはずだ。しかし、Bluesoundはあくまで自家製のOSにこだわる。
開発当初は外部から購入したネットワークモジュールを組み込んでみたこともあるそうだが、どうしても機能が供給元に制限されてしまうというデメリットがあった。さらに、組み込んだモジュールのソフトウェアアップデートの可否も供給元次第であるだけでなく、根本的には供給元自体が消えて無くなる可能性もある。
そういうデメリットを根本から解決すべく、OSの独自開発に踏み切り、「BluOS」として完成させたというわけだ。冒頭のとおり、現在ではPSB Speakersのアクティブスピーカーに「BluOS」が搭載されているほか、NAD Electronicsでは「BluOS」を搭載したアンプやD/Aコンバーター(ネットワークオーディオプレーヤー)がラインアップされている。
さらに、「BluOS」は自社ブランド以外への供給実績もある。DALI(ダリ)、ROKSAN(ロクサン)などのブランドで合計数十以上のデバイスが「BluOS」を搭載しているという。
こうして供給される「BluOS」のメリットは、もちろんBluesoundが必要だと思う機能を自由に実装できること。家庭内の「BluOS」デバイスを一元管理するマルチルームや、多くのストリーミングサービスへの対応など、充実した機能性を誇る。兄弟ブランドのNAD ElectronicsはAVアンプも擁するだけに、クレストロンなどのホームオートメーションシステムへ対応することも特徴だ。
ここからは、「POWERNODE EDGE」を借用して自宅でしばらく試用したレポートをお届けする。まずは素性を知るために、メインシステムであるMARTIN AUDIOの38pウーハー搭載スピーカー「CDD15」と接続し、音楽を再生してみよう。
「POWERNODE EDGE」は各種音楽ストリーミングサービスの再生が可能なので、ここでは「TIDAL」を利用してロスレス音源を再生。まずは“いつもの”ということでスティーリー・ダンの「Babylon Sisters」をかけてみると、スネアの余韻をしっかりと再現してくれる。解像感が高く、低音が緩まないところがよい。ウーハーをグリップしてグッと沈み込む感じはないものの、決して非力な感じはしない。
パーカッシブな音のキレのよさ、空間の広がりを担保できる解像感が「POWERNODE EDGE」の持ち味と言えそうだ。タイトなリズムにホーンセクションがキレよく響く、テラス・マーティンのアフロビート調チューン「Degnan Dreams」などがとても気持ちよく聴けた。
40W(8Ω)というアンプ出力は控えめに見えるため、不安に感じられる人もいるかもしれないが、心配には及ばないだろう。この数字は「定格出力」であって、ステレオ再生時(2ch同時駆動時)にも保証される数値だ。「最大出力」としてはもっと余裕があり、実際に使ってみても不足は感じられなかった。低能率のスピーカー、デッドな(響きの少ない)環境、日本の一般家庭で想定される以上の大音量、この3つが揃わない限りはパワーが足りない、とは思わないはずだ。
組み合わせたスピーカーはMARTIN AUDIOの「CDD15」。主に施設やイベント会場などで使われる製品のため、出力音圧レベルは100dBと非常に高い。その意味では鳴らしやすいスピーカーではある
東芝「58Z20X」と「POWERNODE EDGE」を組み合わせてARCの挙動を確認。「POWERNODE EDGE」はとてもコンパクトなため、テレビの脚の下にピッタリと収まった
ARCの挙動確認のために、テレビとも接続してみよう。互いのARC対応HDMI端子にHDMIケーブルをつなぐだけだ。テレビによってはARCやCEC設定を有効にしておく必要があるので、ここだけは留意したい。
我が家のテレビ東芝「58Z20X」と接続する限り、動作は快適そのもの。テレビの電源オン/オフや音量調整のリンクは申し分なしだった。テレビの電源オン時の追従速度は、普段使っているAVアンプ(ヤマハ「RX-A4A」)以上だ。
「POWERNODE EDGE」で音楽再生をしている場合はARCと入力の取り合いになるため、アプリでの入力切り替え操作が必要な場合もあったが、それは苦にはならないはず。音楽再生のためにはスマホで何らかの操作していることがほとんどと想定されるので、そのままスマホアプリで入力切り替えをすればよいからだ。
専用の操作アプリ「BluOS」(無料、写真は2023年8月15日時点のiOS版)で音楽再生や入力切り替え、各種設定などが行える。アプリのUIは近日アップデートされる予定だ。便利な機能として「サブウーファー」使用時の「クロスオーバー」の設定(40〜200Hz)がある。ここで設定したより下の周波数の音がサブウーハー用プリアウトから出力される
ここで接続したスピーカーはエラックの「CL 310.2 JET」。幅123mmとスリムな割に奥行きが深く、意外と中低域のしっかり出るブックシェルフ型スピーカーだ。こちらでもやはり低域が緩まず、ほどよい量感で聴かせてくれるのが気持ちよい。
そういうまっとうな帯域バランスと品質を持っているので、「POWERNODE EDGE」と適当なスピーカーを組み合わせさえすれば、音楽も映画もテレビ番組も、一般的なテレビのスピーカーよりもはるかに充実した再生がかなうことは間違いない。
感心したのは、NHK総合で放送された「おげんさんのサブスク堂 羽生結弦 Part1」を再生したとき。折に触れてさまざまな音楽が流されるが、ダイナミックレンジが限られたテレビ放送でも意外なほどの高鮮度であることにハッとさせられたのだ。
Mrs. GREEN APPLEのライブ映像が流れれば、スタジオでのスタティックなトーク収録場面から一転して、ライブらしい音の広がりが展開される。ボビー・マクファーリンの微妙なボーカルのニュアンスを味わえることにも驚かされた。「POWERNODE EDGE」でテレビの音を充実させれば、日常的にこうした楽しみが得られるわけで、これは非常にありがたい。
価格.comの最安価格10万円以下(2023年8月15日現在)で音楽プレーヤーとしても使えるうえ、テレビとの連動も申し分なしとなれば、「POWERNODE EDGE」のコストパフォーマンスは十分に高いと言えるだろう。
ARC挙動チェック時に接続したのはエラックの「CL 310.2 JET」。出力音圧レベルは86dB、インピーダンスは4Ωと鳴らしやすい部類のスピーカーではないが、ここでも不足は感じられなかった。かなり古い製品だが、この形のモデルは進化を重ね、現在は「BS 312」という製品が販売されている
テレビと組み合わせてARC機能を使った印象で言えば、「POWERNODE EDGE」の音質は同価格帯のAVアンプよりもすぐれているだろう。しかも「POWERNODE EDGE」はかなり小型であるため、設置の自由度が高い。さらに、音楽ストリーミングサービスへのアクセスのスムーズさはAVアンプの付帯機能とは段違いだ。
こうしたメリットから、2chの音楽再生を重視したい人、サラウンドはしない人、テレビ周りに大きなオーディオ機器を置きたくない人に「POWERNODE EDGE」は好適と言える。
いっぽうでAVアンプには、より安価な製品でもARC対応アンプとして利用できるほか、自動音場補正(測定による音質の最適化)機能を使えるというメリットもある。サラウンドをしないという場合でも、とにかく安くARC対応アンプを使いたい人、響きの多い部屋(特に何の手当もしていない部屋)で自動音場補正をしたほうがよい結果が得られそうな人はAVアンプを検討する価値があるだろう。
オフィシャル写真では本体を縦にした壁掛けスタイルも紹介されている。録画用HDDのようにテレビ裏に金具を介して設置するという方法もユーザーの定番だという
「POWERNODE EDGE」には右の専用ブラケットが付属する。上の写真はこれを使った取り付け方法例だ
さて、最後に「BluOS」のメジャーアップデートについてお伝えしておきたい。次期アップデートで、「BluOS 4.0」へとアップデートされるという。この周知のために来日したプロダクトマネージャー、マット・シモンズ氏が最新OSの特徴を解説してくれた。
Bluesoundのプロダクトマネージャー、マット・シモンズ氏
先述のとおり、「BluOS」は独自のソフトウェアであるため、その内容はBluesound自身が随時アップデートしている。そのOSが「BlueOS 4.0」となり、「BluOS」アプリは大幅にインターフェイス変更、機能拡充を行うという。その概要は以下に列挙する。
最も大きい変化は、「ボトムナビゲーション」を新設したこと。タブを画面下部に設けて、任意のメニューへ素早くアクセス可能にする
ホーム画面では、ニュース&アップデートなどを表示。ユーザーへのコンタクトも活発にするという
「Favorites」は、お気に入りコンテンツの管理ページ。プレイリスト、アーティスト、アルバム、曲など、どの項目がいちばん上にくるかをカスタマイズできる
「Players」は「BluOS」製品の管理・設定を行うページ。機能的にはほぼ従来と同じだが、マルチルームのアイコンを変えるなどのブラッシュアップを施されるそうだ
機能的には、「Search」つまり楽曲検索機能のアップデートが大きなメリットになりそうだ。これまではプレーヤー、サービス……と順に選んで深い階層に潜る必要があったが、よりシンプルな検索が可能になるという
専用の操作アプリ「BluOS」(無料)は、iOS、iPadOS、Android、macOS、Windowsに対応する。アップデートについては、iOS、iPadOS、Androidが先行される見込みだ
そして、独自OSを開発・供給している強みとしてあげてくれたのは、Bluesound製品であればすべてが現在(取材時点:2023年3月)もサポートされているということ。「BluOS 4.0」のアップデートについても、すべての「BluOS」搭載Bluesound製品で対応可能だという。以前購入したBluesound製品であっても、最新の機能が享受できるのは、ユーザーにとって大きなメリットだ。
もちろん、どこかのタイミングでは、ハードウェアの限界から最新のソフトウェアへのアップデートは断念せざるを得ないかもしれない。それでも、手厚いサポート体制があるという事実は購入の際の大きな安心になる。
このアップデートは2023年秋を予定しているとのこと。ソフトウェアアップデートで機能がさらに充実する、Bluesound製品にぜひ注目していただきたい。
AVの専門誌を編集して10年超。「(デカさ以外は)映画館を上回る」を目標にスピーカー総数13本のホームシアターシステムを構築中です。映像と音の出る機械、人が一生懸命つくったモノに反応します。