レビュー

シャープのネックスピーカー「AN-SX8」は立体音響/サラウンドの表現力が大幅にアップ

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立体音響とLC3のサポートで機能向上

ネックスピーカーといえば、音響効果を高めたテレビスピーカーの代替品、はたまた音楽を気軽に楽しむパーソナルスピーカー。低音重視設計だったりサラウンドフォーマット対応だったりテイストに差はあれど、首掛け式という構造は同じ。音の向きが首周りから耳への垂直方向という、設計上の難しさも抱えるオーディオデバイスだ。

シャープから発売された「AN-SX8」は、“AQUOSサウンドパートナー”としてのラインアップであり、基本的にはテレビの音を補完/強化する目的のネックスピーカー。外観は2019年発売の「AN-SX7A」によく似ており、アコースティック面で最大の特徴と言える「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」を継承していることからしても、直接の後継機と見ていいだろう。

シャープのネックスピーカー「AN-SX8」

シャープのネックスピーカー「AN-SX8」

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2023/06/15 11:00

この「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」は、蛇腹形状の振動ユニット内部にあるバスレフダクトと、その振動ユニットが伸縮して振動を生み出すパッシブラジエーター構造により、迫力の重低音を生み出す。低音再生能力はさておき、その振動機構はコンテンツだけでなく使い手を選ぶこともあり、体に振動が伝わることをどうとらえるかでこの製品に対する評価は変わってくる。

振動で重低音を伝える「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」を搭載

振動で重低音を伝える「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」を搭載

「AN-SX7A」からの変更点は大きく2つ、「立体音響のサポート」と「低遅延コーデックの採用」だ。

立体音響のサポートは「OPSODIS(オプソーディス)」と「Dolby Atmos」の二本柱で構成される。前者は鹿島技術研究所と英サウサンプトン大学の共同開発による立体音響技術で、周波数ごとに異なる両耳間の位相差を制御する信号でクロストークキャンセルを行うもの。シャープ製品では、8K放送の22.2ch再生に対応したサウンドバー「8A-C22CX1」で採用実績があり、効果は実証済だ。後者はイマーシブサウンドフォーマットの代表格、Netflixなど対応するコンテンツプロバイダーも増えており、映画好きにはぜひとも欲しい機能だ。

低遅延コーデックとは、Auracast(Bluetooth LE Audio)の標準コーデック「LC3」のこと。「AN-SX8」はネックスピーカーと送信機で構成され、両者をつなぐのはAuracastのオーディオプロファイル・TMAP、それを介してLC3が伝送されるという仕組みだ。なお、「AN-SX8」は従来のBluetooth Audio/A2DPにも対応しており、スマートフォンとペアリングして音楽再生を楽しむこともできる。

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2023/07/28 09:00

テレビとHDMIケーブル1本で準備完了

「AN-SX8」の典型的な利用スタイルは、ARC対応のテレビとHDMIケーブルで接続し、テレビの音声を出力すること。テレビに搭載された各種ストリーミングアプリはもちろん、テレビにHDMIで接続したブルーレイレコーダーやゲーム機も楽しめるから、コンテンツに不足はない。ネックスピーカーと送信機は出荷時からペアリング済み、箱から出してすぐに使える点もうれしい。

「AN-SX8」のパッケージ内容。ネックスピーカー本体と送信ユニット、各種接続ケーブルが付属する

「AN-SX8」のパッケージ内容。ネックスピーカー本体と送信ユニット、各種接続ケーブルが付属する

送信機の背面インターフェイス。テレビとはHDMI/ARCでの接続が想定されているが、光デジタル端子も用意されている

送信機の背面インターフェイス。テレビとはHDMI/ARCでの接続が想定されているが、光デジタル端子も用意されている

送信機の電源はUSB Type-C、付属のケーブル(USB-C to A)のA端子側をテレビにつなげば電源を確保できる。もちろんUSB充電器を利用してもいいが、テレビのUSBポートを使えば送信機の電源オン/オフを気にする必要はなくなる。

ネックスピーカーの装着感は上々。首周りに異物感はあるものの窮屈というほどではなく、首を回したり傾げたりといった動作にも影響しない。接続も簡単で、テレビの電源をオンにしたあと左側面にある電源ボタンを長押しすれば、自然な日本語で「電源が入りました。送信機に接続します」の直後に「接続しました」とアナウンスが流れる。

「AN-SX8」を装着したところ

「AN-SX8」を装着したところ

サウンドモードは、左手前の3Dボタンで切り替えできる。用意されたサウンドモードは、ダイレクト、Dolby、OPSODIS 1、OPSODIS 2、クリアボイスの5種類。電源をオフにするとダイレクトに戻ってしまうため、使いはじめに3Dボタンを何度も押すのは手間に思えるが、毎回同じ傾向のコンテンツを見るわけではないため、この仕様でも特に不満を感実ことはないはずだ。

3Dボタンを押すことで立体音響モードを切り替えられる

3Dボタンを押すことで立体音響モードを切り替えられる

あの爆音推奨映画は「OPSODIS 2」がぴったり

試聴には、Ultra HDブルーレイの「ラ・ラ・ランド」(音声はDolby Atmos)とAmazonプラム・ビデオの「マッドマックス怒りのデス・ロード吹替版」(音声はDolby Digital)をピックアップ。前者はオーソドックスなDolby Atmos再生能力を、後者はOPSODISの効果を確かめることが目的だ。

「ラ・ラ・ランド」をダイレクトモードで聴くと、主人公の1人・ミアが自室でパーティーに誘われるシーンではルームメイトが部屋を行き交う様子、ドアの閉まる音がする方向がわかりやすく、なるほどサラウンド音源なのだなあと実感できる。しかし、音がする方向は明瞭なものの包み込まれるような音場感に乏しく、高さ方向(この場合部屋の広さ)の再現力もDolby Atmosというには...という印象で、リアルの9.2chシステムやイネーブルドスピーカー搭載のサウンドバーと比較するには少々厳しい。

しかし、サウンドモードをOPSODISに変更すると、音場の広がりが自然になる。頭部全体が包み込まれるとまではいかないものの、音場が前後左右に広がるようで、部屋の空気感が変わる。もう1人の主人公・セブがレストランでピアノを弾くシーンが好例で、レストランの雰囲気・臨場感はOPSODISモードのほうがリアルだ。

Amazonプラム・ビデオの「マッドマックス怒りのデス・ロード吹替版」はDolby Atmosではないが、OPSODISをオンにすることで印象は一変。改造カー軍団(?)が砂漠を疾走するシーンでは、V8エンジンの音も車同士が追いつき追い越される方向もはっきり、臨場感は格段に増す。「AN-SX8」のOPSODISには、横方向の広がりを重視したモード1と高さ方向の広がりを重視したモード2があり、特にモード2の効果がわかりやすい。リアルに振動を伝える「ACOUSTIC VIBRATION SYSTEM」は、コンテンツによって向き不向きがあるのだが -- たとえばダンスで床を踏み鳴らすシーンで視聴者に振動が伝わるのは不自然だ -- 、マッドマックスの場合はプラスに作用している。

これは試聴したすべての映画/ドラマに言えることだが、音場全体の位置が低めだ。物理的に耳より下にスピーカーが配置されているのだからやむを得ない部分はあるものの、ステージ全体を見下ろす位置で視聴しているような、それでいて後背部から音が聴こえるようなところは改良の余地ありだろう。

「AN-SX7A」前モデルより大幅に価格は引き上げられたものの、Dolby AtmosとOPSODISのサポートが加わり、立体音響/サラウンドの表現力は大幅にアップしている。HDMI/ARC対応でさえあればメーカーを問わず接続できる点も、大きなアドバンテージだ。深夜に音量MAXで聴いても近所迷惑にならないこのネックスピーカー、機会があれば試してほしい。

「AN-SX8」は「Nintendo Switch」でも利用できる。個人的には「ゼルダの伝説・ティアーズ オブ ザ キングダム」がおすすめ

「AN-SX8」は「Nintendo Switch」でも利用できる。個人的には「ゼルダの伝説・ティアーズ オブ ザ キングダム」がおすすめ

海上 忍
Writer
海上 忍
IT/AVコラムニスト、AV機器アワード「VGP」審査員。macOSやLinuxなどUNIX系OSに精通し、執筆やアプリ開発で四半世紀以上の経験を持つ。最近はAI/IoT/クラウド方面にも興味津々。
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遠山俊介(編集部)
Editor
遠山俊介(編集部)
2008年カカクコムに入社、AV家電とガジェット系の記事を主に担当。ポータブルオーディオ沼にはまり、家にあるイヤホン・ヘッドホンコレクションは100オーバーに。最近はゲーム好きが高じて、ゲーミングヘッドセットにも手を出している。家電製品総合アドバイザー資格所有。
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