有機ELテレビは「暗いけど画質がいい」ものだと思っていませんか? 最新の高輝度パネルを搭載した有機ELテレビは、実は非常に“明るい”のです。ここでは、mini LEDバックライト搭載の液晶テレビと高輝度パネル搭載の有機ELテレビの明るさを実際に比べてみました。発光の原理が異なる液晶テレビと有機ELでは、「見え方」も異なるのです。
【監修】オーディオビジュアル評論家 秋山 真
PROFILE
音響の専門学校を卒業後、CDマスタリング、DVDエンコードのエンジニアとしてキャリアをスタート。2007年に渡米し、パナソニックハリウッド研究所(PHL)に在籍。ハリウッド大作からジブリ作品に至るまで、ブルーレイの名だたるハイクオリティ盤を数多く手掛けた。帰国後はオーディオビジュアルに関する豊富な知識と経験を生かし、評論活動を展開中。2019年からは日本オーディオ協会の職員として協会運営にも携わっている。
「有機ELは暗い」「mini LEDの画質は有機ELに近づいている」――こうした意見を耳にしますが、これは本当なのでしょうか?
シャープでは、高輝度有機ELパネル「QD-OLED」搭載の「GS1」シリーズと、mini LEDバックライト搭載の「GP1」シリーズを「2つのフラッグシップモデル」として展開しています。ここで取り上げるのは、この2シリーズの55V型モデル
今回、実機を借用できたのはシャープの製品です。シャープはmini LEDバックライト搭載の液晶テレビ「GP1」シリーズと有機ELテレビ「GS1」シリーズを、「2つのフラッグシップモデル(最上位モデル)」としています。
そこで、液晶のフラッグシップ「GP1」シリーズから55V型の「4T-C55GP1」を、有機ELのフラッグシップ「GS1」シリーズから同じく55V型の「4T-C55GS1」をお借りし、両機を並べて同一の条件で映像を再生してみました。
2024年11月25日時点での価格.comのデータはこちら。発売当初は有機ELテレビ「4T-C55GS1」のほうがmini LEDバックライト搭載液晶テレビ「4T-C55GP1」よりもかなり高価でしたが、この時点では差が縮まっていました
まずは、リビングルームを意識した明るい環境で「AIオート」という映像モードを使い、YouTube動画を再生してみました。以下の写真は同一条件で動画撮影したものを切り出したデータです。左がmini LEDバックライト搭載液晶テレビ「4T-C55GP1」で、右が有機ELテレビ「4T-C55GS1」。
こちらの映像では、右の有機ELテレビ「4T-C55GS1」のほうが「明るい映像」だという印象を受けませんか? 人物に当たった照明の明るさがよりはっきりと再現されているのは「4T-C55GS1」だと言えるでしょう
上の写真を見ると、右の有機ELテレビ「4T-C55GS1」のほうが「明るい映像」に見えませんか。これは有機ELテレビが局所的な明るさ(と暗さ)の再現が得意であることに由来していると考えられます。画素単位で発光を制御できる有機ELテレビは、ピーク輝度を出すこと(暗い映像の中に一点だけ白が出ているような映像の再現)が得意なのです。
ちなみに、「4T-C55GS1」はサムスンディスプレイが供給する最新世代(第3世代)「OD-OLED」パネルを採用しています。サムスンディスプレイの発表によれば、このパネル自体の実力はピーク輝度3,000nit。あくまでパネル自体の、しかも数値上の話にはなりますが、安価な液晶テレビでは太刀打ちできないほどのスペックを持っているのです。
白バックで製品解説をするシーンに切り替わると、左の液晶テレビ「4T-C55GP1」のほうが「明るい映像」のように見えます
次に切り出した写真は、白バックで製品を解説するシーンです。こちらの写真を見ると、左のmini LEDバックライト搭載液晶テレビ「4T-C55GP1」のほうが「明るい映像」のように見えませんか。これは液晶テレビが全面で(広い面積で)明るい映像を映すことに長けていることに由来していると考えられます。
液晶テレビはパネルの裏に「バックライト」と呼ばれるLED光源を持っています。これを同時にパッと光らせればよいというわけです。液晶テレビが明るい映像を再現しやすい、という原理は感覚的に理解しやすいのではないでしょうか。この原理はLED光源が細かくなったmini LEDバックライトでも同様です。
「GP1」「GS1」シリーズともに映像処理エンジンは「Medalist S5X」。「AIオート」という映像モードはこのエンジンのAI処理を生かした設定です。環境センサーと映像のリアルタイム解析で、画質の最適化を図ります
部屋を真っ暗にしたうえで、映像モードを「映画」に変更。暗い映像を見てみます。使用した映像はビコムの8K/60p撮影作品「8K空撮夜景 SKY WALK – TOKYO YOKOHAMA」。作品詳細はオフィシャルページへどうぞ
次に、液晶テレビと有機ELテレビの違いがよくわかる暗い映像を再生してみました。映像モードは、暗い部屋で映画を見る場合に推奨される「映画」モードです。
写真を見てわかるのは、夜景の灯りがより明るく再現されているのは右の有機ELテレビ「4T-C55GS1」だということでしょう。「AIオート」モードで見た映像と同じように、局所的な明るさ再現の得意な有機ELテレビの特性がよく表れています。
また、動画でも写真でも伝わらない(※)部分にはなってしまうのですが、実は暗い海の部分(写真の下半分程度)が真っ暗ではありません。暗所にも映像の情報が入っていて、それをしっかり(肉眼で)視認できるのは有機ELテレビ「4T-C55GS1」でした。
(※カメラのダイナミックレンジの限界のため。暗所にだけ合わせて撮影すれば有機ELのすぐれた暗部階調性がわかるはずではあります)
おそらく静的なスペックで見れば、液晶テレビ「4T-C55GP1」のほうが明るい数値(より高輝度)になると思われますが、実際に映像を見ると必ずしもそういう印象にはなりません。数値では表れにくい、局所コントラストの差が存在することを理解していただけるでしょう。
また、動画でも言及していますが、こうした有機ELのよさは暗い部屋で、映画などの暗い映像を見てこそよくわかるもの。有機ELは総じて「画質的に有利」です。ただし、その真価は、わざわざ映像モードを変え、暗い部屋をしつらえ、暗い映像を見たときに100%発揮されるものです。そうはしない、したくない、という人はmini LEDバックライト搭載の液晶テレビのほうが使いやすいかもしれません。
カメラのダイナミックレンジの限界もあり、動画では有機ELテレビのすぐれた暗部の階調性を再現しきれませんでした。それでも夜景の中でピカッと突き上げるような灯りを再現する、有機ELテレビ「4T-C55GS1」のよさ、“ピーク感”は伝わるのではないでしょうか
視野角の広さも有機ELテレビの特徴です。動画では映像を見ながら話すシーンがありますが、左の液晶テレビ「4T-C55GP1」はカメラに対して斜めになっているため、カラーシフトで全体が暗く見えます
「4T-C55GP1」(「GP1」シリーズ)の画質に言及しておくと、mini LEDバックライト搭載液晶テレビとして明るさは控えめ。再生映像に応じてバックライトをエリアごとに動かす「ローカルディミング」についても積極的に実施して高コントラストを狙うタイプではありません。直射日光が当たるまでではない明るい部屋で、「AIオート」モードを基準に、元気のよい映像を楽しみたいという人が選ぶとよいのではないでしょうか。
いっぽうの有機ELテレビ「4T-C55GS1」(「GS1」シリーズ)は、最新(第3世代)の「QD-OLED」を使った日本市場唯一のモデルです。暗部のノイズっぽさなど、従来指摘されていた弱点を改善した高輝度パネルを求める人によいでしょう。
また、「GS1」シリーズは「GP1」シリーズよりも絵作りがよりニュートラル(自然な色味)なので、ディレクターズインテントを重視する(制作者の意図どおりの映像を見たい)ユーザーもこちらを選ぶべきです。
価格.comの最安価格(2024年11月25日時点)は257,799円(税込)と、高輝度パネルの有機ELテレビとしては比較的安価な点も魅力です。
ここまで比較動画、写真を見ていただき、特に最新の高輝度有機ELテレビの映像は決して「暗くない」とわかっていただけたのではないでしょうか。もちろん、もっと明るい映像のmini LEDバックライト搭載液晶テレビもありますし、もう少し安い(高輝度パネルを搭載しない)有機ELテレビは「GS1」シリーズほど明るくはありません。
とはいえ、最新有機ELテレビが「暗くない」ことには変わりありませんし、その有機ELテレビよりも暗い映像の液晶テレビもあります。
そのため、リビングルームで使うから液晶テレビを選んだほうがよいということはありません。いっぽうで、窓から直射日光が入るような場所にどうしてもテレビを置きたい場合など、非常に明るい映像が求められるならばmini LEDバックライト搭載液晶テレビはよい選択肢になります。
そして繰り返しになりますが、有機ELテレビは、暗い部屋で、映画などの暗い映像を見るこだわりのある人が選ぶと特によいでしょう。デバイスの優位性を100%味わうには、暗い部屋向けの映像モードへの変更も必須です。