エプソンのフルHD(1,920×1,080解像度)プロジェクター「EF-22」(左)と「EF-21」(右)をレビュー
今回のレビューするのは、エプソンのコンパクトなプロジェクター「EF-21」と「EF-22」です。いずれも「HDR対応」かつ「レーザー光源」搭載のイマドキ仕様のプロジェクターで、HDパネル(パネル解像度は1,920×1,080)採用によりコンパクトにまとめています。
特に注目すべきはジンバルスタンド一体型の「EF-22」。まるでスポットライトのように投写したい面に向けるだけで台形補正やピント合わせまで自動で行うもので、柔軟な設置が可能です。
寝室での天井投写を意識してきた「EF-11」「EF-12」「EF-100」の流れを汲むこれら2モデルがどんな出来なのか、ライバルと目されるJMGO「N1S」との優劣も意識しながら見ていきます。
まずはそれぞれの特徴を把握しておきましょう。基本スペックは同じで、ジンバルスタンド一体型かどうかが両機の最も大きな違いです。
どちらも、最初はガイドに沿ってWi-FiやGoogle TVの設定などが必要です。それが終われば、各種動画配信サービス(NetflixやAmazonプライム・ビデオなど)やYouTubeまで基本的にこれ1台で見られます。“ポン置き”すればフォーカス合わせも台形補正も全部自動でやってくれるので、初めてプロジェクターを使おうという人にやさしいつくりです。
スタンドなしモデル「EF-21」は写真のホワイトのほか、ベージュローズ、スモークアイスグリーンの3色展開。「EF-22」と基本仕様は同一ですが、スピーカー、カラーバリエーションに差があります
「EF-21」の主要スペック
●明るさ:1,000ルーメン
●表示解像度:1,920×1,080(フルHD)
●表示素子:0.62インチTFT×3(3LCD)
●コントラスト:2,500,000対1
●光源(ランプ):レーザー
●スピーカー出力:5W×2
●寸法:197(幅)×191(奥行)×110.5(高さ)mm
●重量:約2.3kg
●投写距離:1.78m(80インチ)、2.24m(100インチ)
●備考:Google TV搭載/Wi-Fi、Bluetooth(5.1)対応
「EF-21」の単焦点レンズ。100インチに対し2.24m で、JMGO「N1S」の2.6mより短焦点。向かって右側にあるのが障害物センサー、左側にあるのがカメラで自動台形補正とオートフォーカスを担います
端子類は背面に。HDMI入力(eARC対応)1系統のほか、ヘッドホン出力(3.5mmステレオミニ)を備えます。ファン音は静かでした
「EF-21」「EF-22」には同じリモコンが付属。ホームボタン下「フォーカス」ボタンを押すと強制的にピント合わせを行います。注目したいのは左の上下ボタンで操作できる「輝度」の調整機能。映画を見ていて明るすぎると感じたらすぐに使える便利な機能です
「EF-21」には、向かって右側面にいわゆるメガネ型電源インレットがあります。ACアダプターは不要で、実はここも「EF-22」との大きな違いです。フロントのフットレバーを伸ばせば、簡単に仰角調整できます
メガネ型インレットに対応した電源ケーブルが付属
本体底の前側に吸気口があります。中央は三脚用の穴
ジンバルスタンドが一体になった「EF-22」。こちらのカラーバリエーションは、写真のネイビーとブラックの2色展開
「EF-22」の主要スペック
●明るさ:1,000ルーメン
●表示解像度:1,920×1,080(フルHD)
●表示素子:0.62インチTFT×3(3LCD)
●コントラスト:2,500,000対1
●光源(ランプ):レーザー
●スピーカー出力:5W×2(パッシブラジエーター方式)
●寸法:236(幅)×191(奥行)×191(高さ)mm
●重量:約3.0kg
●投写距離:1.78m(80インチ)、2.24m(100インチ)
●備考:Google TV搭載/Wi-Fi、Bluetooth(5.1)対応
ジンバル(首振り)スタンド以外は基本的に「EF-21」と同様
背面端子も「EF-21」と同様。eARC対応のHDMI入力を1系統備えています
電源用のインレットはジンバルスタンドに
「EF-21」は電源を内蔵しているためACアダプター不要ですが、「EF-22」は写真の付属ACアダプターで給電します
底面は360度に回転します。中央は三脚用の穴
「EF-22」も底面の前側から吸気します
「EF-21」はタテヨコ約20cmの正方形に高さ10cm強という箱型。いっぽうの「EF-22」は、同等の箱がジンバルスタンドに宙吊りされたイメージです。
両機とも、起動時のほか、本体を動かしたり傾けたりすると、自動台形補正とオートフォーカスがリニアに働きます。加えてジンバルスタンドを備えた「EF-22」は、スポットライトのように仰角と左右にスムーズな首振りが可能。左右360度、上下には−30度/+120度で回転できます。
投写面に対して斜めに投写した場合でも、自動的に正しく投写できる仕組みはなかなか秀逸。 ジンバルスタンド一体型で先行するJMGO「N1S」シリーズより素早くスムーズに補正する印象です。ビジネスプロジェクターでの「ピタッと補正」(※エプソンの自動台形補正機能)のノウハウが生きているのかもしれません。
もっとも、台形補正するとパネルの画素がむだになるので、画質重視の人はなるべく自動台形補正されないよう投写するのがよいでしょう。また画質についてもう一点。レンズに光学ズーム機能がない単焦点仕様ですので、ズームはデジタル補正になりおすすめできません。
こちらが補正なしの(正対した)映像
首振りを行うと、本来持っているパネル画素(青線で囲った部分)の一部だけを使って投写するため、画素がむだになります
角度が急になると、むだになる面積が増えていきます。また、厳密に言えば、画面全体にピントが合っているとは言えない状態になります
「EF-21」「EF-22」の購入を検討する人は天井への映像投写も視野に入れているでしょう。両機ともレーザー光源のプロジェクターなので、水銀ランプのような放熱への配慮は不要。プロジェクターを真上に向け、立てて設置するだけで簡単に映像を天井投写できます。ただし、その場合には留意すべき点もあります。
「EF-22」で天井投写しようとする場合、HDMIのプラグ部分が大きいと、スタンドに干渉します
「EF-21」を床に“ベタ置き”してしまうと、背面のHDMI端子が隠れてしまいます。この場合はGoogle TVのアプリなど、外部入力を使わない視聴しかできません
「EF-21」「EF-22」では、光路中心よりも上方に映像が投写されます。置き場所が自由に決められる場合は気にならないはずですが、垂直に映像が投写されるわけではないことを覚えておくとよいでしょう
ベッドヘッドに置くなら、「プロジェクションモード」を「フロント・上下反転」にすると、ちょうど視線の位置に映像がきます
できる限り高画質の映像を見るため、「各種映像」の「形状補正初期化」と「自動フォーカス」を行い、壁に正対して設置。MAGNETARのUltra HDブルーレイプレーヤー「UDP800」と直結してUltra HDブルーレイを視聴(出力はソースダイレクトで、プロジェクター側はHDR10/1080p/60Hz受け)したほか、内蔵Google TVアプリでAmazonプライム・ビデオの映画作品をチェックしています。
カジュアルな使用スタイルが想定されるため、今回はスクリーンを使用せず、マットスクリーンに近い白の漆喰塗り壁に100インチ相当で投写。最後の比較投写映像以外は、全暗で視聴しています。
基本は暗室にて、白の漆喰塗り壁に投写
画質評価にあたっては、プロジェクターを壁に対して正対に設置し、「形状補正初期化」をかけ、自動台形補正などのデジタル補正がかからないようにしています
「EF-21」「EF-22」は明るさ1,000ルーメンのレーザー光源モデル。バッテリー内蔵モバイルプロジェクターのようなLED光源のモデルなどとは異なり、スペック値から受ける印象より実映像は白が伸びて明るく感じます。
もちろん、昼間の明るいリビングで使おうとするなら、特殊な耐外光スクリーンを使うなどしない限り、テレビのようなクッキリ映像を見ることはできませんが、ちょっとカーテンを引いて直接光を妨げれば十分実用になります。最後に実写映像も紹介しますが、明かりを残したリビングでも結構“イケます”。テレビとはまた違った大画面の別世界が拓けるでしょう。
第一印象では、ユニフォーミティー(画面全体の均一性)は良好で、極限まで明るいところ(白ピーク)はやや頭打ちながら、全体的に明るく伸びやかかつ自然なエプソントーン。コントラスト(特に明暗にわたる階調表現)はとても滑らかかつ忠実です。
こういった「コントラスト」描写を見ると、DLP機よりも黒が浮いていると感じる人もいるかと思いますが、明るい映像でもていねいに立体感を描くためには、黒でやたらに塗りつぶさない姿勢は重要だと考えます。
映像モードは写真の5種。「ビビッド」と「シネマ」をコンテンツに応じて切り替えるのがよいでしょう
「画像」(いわゆる映像モード設定)は、「ダイナミック」「ビビッド(初期値)」「ナチュラル」「シネマ」といったプリセットのほか、カスタムも可能です。
しかし、テレビ的にさまざまなソースを楽しむなら「ビビッド」と「シネマ」2種類の使い分けで十分です。違いも、前者が色温度高め(青っぽい)で明るくちょっとメリハリ調、後者が色温度低め(茶色っぽい)でややトーンを抑えたしっとり調というぐらい。思ったほど極端に明るい/暗い、派手/地味といった違いもなく、どちらを選んでもきちんと作品全体に集中できます。
「コントラスト」との関係で言えば、「シネマ」のほうがより暗部の階調が豊かに作られています。もっとも「ビビッド」も見事なバランスの絵作りで、近作のパリッとしたCG画なら「ビビッド」のほうが適している印象を受けました。
映像の明るさに関する設定項目「輝度」もありますが、初期値「カスタム」(MAXの100固定)のまま、リモコンで都度「輝度」調整するほうが簡単。特に全暗環境でしっとりした映画を見るなら、明るすぎると感じる場面も多々ありました。その場合はリモコンで「70」くらいまで下げてみましょう。MINの「50」近くまで下げても破綻しません
以下に、作品ごとの具体的なインプレッションを記します。まずは「EF-21」で近作のUltra HDブルーレイ「シビル・ウォー アメリカ最後の日」(4K/Dolby Vison収録作品、再生はフルHD/HDR10)を見ます。
夜間ワシントンDCに突入する終盤のシーンでさまざまなビルや照明の色の違いがはっきり出るのは、映像モードを「ビビッド」にしたとき。蒼くキラリと光る銃器の質感、そこから放たれるオレンジ色の閃光が暗い夜景を飛び交う様子が明晰です。
暗い夜間の戦闘シーンですが、人物の表情は明確です。輝度は「62」くらいまで落としましたが、JMGO「N1S」のようなDLPプロジェクターよりも明るく、よく見渡せる印象です。
映像モードを「シネマ」にすると少し枯れた感じになるので、この作品の緊迫感をより伝えるのは「ビビッド」のほう。これらの印象は「EF-22」でも同じです。基本スペックは同じですし、実際に見た印象も同じ。画質が違うとするとパネルの個体差なのではないでしょうか。
今度はちょっと古い作品のUltra HDブルーレイ「ジェヴォーダンの獣」(4K/Dolby Vison収録作品、再生はフルHD/HDR10)を見てみます。
するとどうでしょう、映像モード「ビビッド」では貴族の衣装が派手すぎるうえ、白塗りの化粧の痕まで気になってしまいます。
そこでモードを「シネマ」に切り替えると、単に色が茶色になるのではなくグリーンが立つからか、グッと立体感が増すのです。それでいて、ブルーや赤もくすんだりしません。いわゆるフィルムっぽい映画は「シネマ」モードがよいということでしょうか。輝度も「70」以下まで落としたほうが映画らしく見えました。
「EF-21」でも「EF-22」でも同じ場面を見ましたが、やはりまったく同じ印象でした。
次に、内蔵アプリでAmazonプライム・ビデオを再生します。フルHDのSDRソースである「PERFECT DAYS」を見ると、さきほどの4K素材よりもぱっと見はむしろクリアー。若干テレビ的で書き割りっぽい表現ではあるものの、こういった配信ぐらいの圧縮されたソースでちょうどよい塩梅になるようにチューニングされているのだなと実感します。画質も音質も十分で、「ビビッド」と「シネマ」の違いもよく出ます。輝度を「70」くらいに落としてもまだ明るいぐらいでした。
本作でのチェックのポイントは、役所広司演じる平山が夢の中で見る回想シーン。ヴィム・ヴェンダース監督ならではのモノクロ映像が登場しますが、妙に赤みがかることなく、コントラストも自然に表現されました。
HDR対応を謳っている製品ではありますが、一般的な配信作品(フルHD以下解像度のSDR素材)の解像感とコントラストもたいへんウェルバランスです。
音質モードは4種ありますが、「ムービー」を常用すれば間違いありません
「EF-21」には5W×2のステレオスピーカーが内蔵されています。いっぽうの「EF-22」はそれに加え、パッシブラジエーター付きとあります。外観上2モデルの本体は同じ箱のようですが、もしかすると「EF-22」ではACアダプターとなって外に出た電源部の空間をパッシブラジエーター格納部にしているのかも。
音質モードである「サウンド」のプリセットメニューは「EF-21」も「EF-22」も同じで、「スタンダード」「ボーカル」「ミュージック」「ムービー」があります。
さまざまな音源を再生してみましたが、いずれも低音・高音をちょっと持ち上げた「ムービー」が聞き取りやすく、断然推奨できます。セリフはもちろん、スポーツアナウンサーの実況、音楽番組のボーカルも通り、大画面にはふさわしい印象でした。
また、確かに「EF-22」のほうが少し低音は出るものの、購入時の選択を左右するほどの差はありませんでした。この違いはそれほど気にする必要はないでしょう。
スペックと価格からみると、先代モデル「EF-11」「EF-12」とさほど変わりないかにみえた「EF-21」「EF-22」。いやいやどっこい大違いでした。
「EF-11」「EF-12」では正直、水銀ランプからレーザーに光源を置き換え、箱型にしたものの、絵作りとメニューはさらに先代のモデルからの軌道修正にとどまった印象がありました。それに対し、「EF-21」「EF-22」は、画質などをすべて一から練り直したような印象で、完成度は段違いに向上しています。
特に、映像モード(「画像」)である「ビビッド」「シネマ」の両横綱の絵作りと、「輝度」をリモコンで適宜調整すればよいだけのシンプルな使い勝手が魅力です。
もちろん、エプソンの「EH-LS12000」のようなラグジュアリーでディープな暗部表現力までは期待できませんが、その代わりに、難しい設定などしなくてもオールラウンドな表現力を見せ、ターゲットであるファミリー層には十分すぎる安定した高性能です。
ビスタ映像の上下黒帯や、4対3画角の「PERFECT DAYS」の左右黒帯がグレーで浮いている! などが気になる人、繊細な表現よりカッチリ隈取るような映像が好きな人は、もしかするとJMGOの「N1S」のようなDLPのほうが合っているかもしれません。
しかし、伸びやかな青空や、誇張感のない岩肌の凹凸、グリーンの葉一枚一枚の個性といった繊細な自然の表現力といった地味な再現性、細部にいたる作り込みは、エプソンの3LCDと映像モードがすぐれていると思います。
動きの少ない映像のクローズアップなら、4K(表示)プロジェクターにこだわることもないのでは? と思わせる、とても10万円前後とは思えない表現力を見せます。必要以上に解像度を追いかけず、素直で、景色を滑らかな立体感と端正な色のトーンで清々しく伸びやかに描くのが印象的です。
そこで最後に、「EF-22」で再生したUltra HDブルーレイ「四季 高野山」秋のシーンを一眼レフカメラでとらえた写真を付しておきます。カメラの設定は同一条件にこだわって撮影していますが、あくまでご参考程度に(※ペンタックス「K-3 Mark III 」カスタムイメージ「フラット」、焦点距離11mm、F4.5、1/25、ISO1600で撮影)。