新製品として発売されたaiwa(アイワ)のラジカセ「aiwa audio -G RCP2」(左)と「aiwa audio -G RCP1」(右)をレビュー
時代が回って懐かしいモノが再び注目される“レトロブーム”。近年、オーディオの世界でも、カセットテープを再生できる新製品が毎年それなりに発売されていて、筆者のようなリアルカセット世代のアラフォーには興味深い現象だったりする。
実際、以前にORION(オリオン)ブランドから登場した“80年代風ビッグラジカセ”をレビューしたときは、なかなかエモい体験をしたものだ(以下関連記事参照)。
「ラジカセっぽい音」は、今やノスタルジー性の高まりとともに、一種のエンタメとして楽しめるのかも……。そんな風に思っていところ、上述のビッグラジカセがゴキゲンだったことに気をよくした編集部・柿沼氏から、「なんか面白いから、また別のラジカセも試しましょうよ!」と強めのプッシュが来た。
確かに、せっかくなのでほかの製品にも興味が出てきた。ここは「あえてレトロな音で鳴らしてエモくなる!」ってムーブに乗っかってみようではないか。
というわけで、ちょうどaiwa(アイワ)から登場した「aiwa audio -G RCP1」と「aiwa audio -G RCP2」がレトロデザインで話題になっていると聞いたので、お借りして使ってみた。
以前の記事では「アラフォーが自宅に眠っているカセットテープを再生してみる」というテーマだったので軽く触れるにとどまったが、今どきのラジカセ型オーディオは、Bluetooth再生に対応する製品が多い。
「aiwa audio -G RCP1」の天面部。入力切り替えノブには「BT/USB」という記載があり、Bluetooth接続とUSBメモリーからのデジタル音声データ再生に対応している
つまり、カセットテープがなくても、手持ちのスマホとワイヤレス接続して音楽を再生するBluetoothスピーカーとして使えるのだ。「レトロな見た目とサウンドのBluetoothスピーカー」という、ある種遊び心のあるオーディオとしてとらえるのも面白いのではないか? 今回は、この観点から今どきのラジカセを語りたい。カセット再生ではなく、Bluetooth再生で楽しむラジカセだ。
さらに、ラジカセ型ならではのポイントがもうひとつある。カセット挿入部を中心に、その左右にスピーカーが振り分けられているユニット配置が、「ステレオ」(2ch)スピーカー構成だということだ。つまり、これで音楽をかければちゃんと「ステレオ感」(※)のある再生ができるはず。(※編注:たとえばボーカルが左右スピーカーの真ん中から聴こえて、スピーカーの外側にも音が広がるさま)
上述の「レトロな見た目とサウンド」に加え、「ステレオ感のある一体型Bluetoothスピーカー」という側面も持ち合わせていると考えると、なかなか趣のある存在ではないか。
ではいよいよ、今回の主役であるアイワの2機種をBluetoothスピーカーとして使っていこう。
筆者のスマホ(Google Pixel 6a) とBluetooth接続して、Amazon Musicからいろいろと音楽を再生してみた
ちなみに、筆者が学生時代(90年代中盤〜2000年代前半)に使用していたのもアイワのラジカセだったので、今回の企画はちょっと感慨深かったりする。一度終息した同ブランドがあれやこれやの末、2017年に復活したときは、ノスタルジー感に包まれたものだ。遅ればせながら、おかえりアイワ……。
「aiwa audio -G RCP1」。本体サイズは445(横)×116(奥行)×285(高さ)mm、重量は約2.8kg(本体のみ)。カセット部はノーマルのほか、ハイポジ(Type II) /フェリクロム(Type III)/メタル(Type IV)の再生も可能だが、ノーマルタイプ相当の音質となる
まずは「aiwa audio -G RCP1」(以下、「RCP1」)から。本機は大きなシルバーボディが特徴的な、「ベーシックなステレオラジカセ」といった風合いの1台。機能的にはカセットテープの録音/再生とAM/FMラジオの聴取に加え、Bluetooth再生とUSBメモリー再生(対応フォーマットはMP3)に対応する。
内部にはウーハーとツイーターを2基ずつ搭載する2ウェイスピーカー構成。いわゆるコンセントから電源を取ることもできるが、単2形乾電池×8本でも駆動するので、それこそ昔のラジカセのようにいろいろな場所に持ち運んで音楽再生を楽しめる。
本体の両端にツイーターが見える。その横のVUメーターがレトロ感を高めている
ウーハーユニットがしっかり見えるのもラジカセらしい
高音と低音それぞれの調整ノブ(イコライザー)を装備しており、「抜けが良いシャープな音から迫力の重低音の調整が可能」としている
そして、左右独立のVUメーターが搭載されているのが印象的。VUメーターが付いた瞬間にノスタルジー感が高まる。本体の電源を入れると、このVUメーターとランプが点灯し、ラジカセ本体が呼吸を始めたみたいだ。
音楽を再生すると、針の動きでステレオ音声の音量の変化・強さを表示するわけだが、 VUメーターとライトのギミックが踊るように動くのがまたレトロでよい
そのサウンドは、思いっきり90年代当時のラジカセを思い出させるもの。前に出るボーカルの歌メロをメインで聴きつつ、一歩下がって適度に広がるバックの演奏も楽しむイメージ。なんかこう、「ラジオとセットで聴いてたな」って感じの音だ。
今どき(2010年代以降〜)の音楽を、あえてこういう音で鳴らすのは確かに面白い。はっきり言って、まったく違う音楽に聴こえる。もちろん今どきの楽曲の音作りは、ラジカセで鳴らされることを念頭に置いていないだろうから、アーティストが狙っている世界観や聴きどころを満喫する方向性ではない。あくまでも「あえて昔のサウンドで鳴らしてみる」という、ちょっとクスッとする楽しみ方がオツだ。
しかし……、これが90年代の音楽を再生すると、感情が一気に揺さぶられる。「あのころ、こういう感じの音で聴いてたわ!」と懐かしさが込み上げてきて、冷静じゃいられなくなるのだ。そう、やっぱりラジカセはノスタルジックに堪能する製品なのだと思う。
たとえばスピッツ「ロビンソン」(1995年)を鳴らしてみると、ボーカルの隣ですぐアコギが鳴っている感じのバランスがすごく懐かしい。CHAGE and ASKA「YAH YAH YAH」(1993年)なんかは、そもそも歌メロだけでもクオリティが唯一無二の完成度であること、さらにCHAGEとASKAの伸びのあるハーモニーがその魅力を加速させてきて、それだけで聴けちゃう楽曲なのだということを実感する。
「RCP1」の背面。左右それぞれのスピーカーに低域増幅用のバスレフポートがあり、本体の大きさと相まって「RCP2」よりも低音は出る
あと印象的だったのが、中村一義の楽曲。90年代中盤にリリースされた「犬と猫」「主題歌」(いずれも1997年)あたりを中心にいくつか再生してみたのだが、ラジカセサウンドで聴くと中村一義の“宅録感”が漂ってくるのだ。レトロなサウンドと、ちょっとオタッキーな空気感の親和性が高いのかもしれない。加えて、広大なステレオ感とまではいかずとも、2ウェイのスピーカー配置のおかげか適度な広がりも感じられるし、「これはこれでアリ」って感じで成り立っている。
その感覚で言うと、令和のアーティストで「これはこれでアリ」だったのは藤井風だ。「花」「満ちてゆく」(いずれも2024年)あたりを中心にいろいろ聴いたが、楽曲に合わせた表現力の豊かなボーカルが個性的で色味があふれているので、バックミュージックが少し引っ込んだバランスでも「ひとつの味」として楽しめる。
じゃあ日食なつこなんかも、ボーカルの個性だけで楽しめるんじゃないか……と思って「水流のロック」(2014年)を再生すると、こちらはピアノがもっと力強く精細に聴こえてほしくて消化不良になる。日食なつこのエネルギッシュな世界観は、ピアノの躍動的な音がかなりの割合を占めるのだということを、逆説的に実感したのだった。いやー、面白い。
「aiwa audio -G RCP2」。本体サイズは347(横)×88(奥行)×162(高さ)mm、重量は約1.3kg(本体のみ)。再生対応カセットテープの仕様は「RCP1」と同じ
続いて、「aiwa audio -G RCP2」(以下、「RCP2」)を見ていこう。機能的には、「RCP1」と同じくカセットテープの録音/再生とAM/FMラジオの聴取に加え、Bluetooth再生とUSBメモリー再生(対応フォーマットはMP3)に対応するほか、microSDメモリーカードの録音/再生機能も備えている。内部にはフルレンジスピーカーを2基(ステレオで)搭載。
コンセントからの給電のほか単2形乾電池×4本でも駆動し、もちろん本機もさまざまな場所に持ち運んで使える。「RCP1」と比較するとサイズが小ぶりなので、より持ち運びやすいし、設置しやすいのがよい。
「RCP2」はお借りしたレッドのほかにグリーンのカラーバリエーションもラインアップ
スピーカーは全帯域再生を1つのユニットでまかなうフルレンジ仕様。「RCP1」はツイーター付きの2ウェイだったので、ややシンプルになっている。シンプルな構造のよさは音質にも表れている。右上に見えるのはツイーターではなくマイクだ
「RCP2」にはイコライザーが搭載されていない
音を鳴らしてみると、「RCP1」と比べてこちらのほうがもっと「ラジカセ的な個性」が強く、わかりやすくボーカルがドンと前に出てくる。「RCP1」以上に歌メロの聴こえやすさが強化される印象だ。
簡単に言うと、「RCP1」は90年代を思い出す音だったが、「RCP2」は80年代の歌モノが合う。そう、見た目のイメージどおり。
なので、松田聖子「風立ちぬ」(1982年)や大滝詠一「君は天然色」(1981年)を鳴らすととにかく合っている。いずれもシンプルながらメロウで、哀愁が強い。ボーカルを強化する鳴らし方が成り立っていると表現すればよいだろうか。
実は2曲とも「RCP1」でも再生してみたのだが、そちらはバックの演奏に広がりが出てきれいにまとまるものの、哀愁が薄れるのだ。せっかくラジカセで鳴らすなら、「RCP2」のメロウ感を推したいと感じた。
「RCP2」の背面。「RCP1」にあったバスレフポートがないので、低音は控えめ。本製品は密閉型フルレンジスピーカーと思われる
メロウ感という部分では先ほどのスピッツも悪くはないのだが、チャゲアス共々、ボディの大きい「RCP1」のほうが低音も出るし、90年代っぽい疾走感がある。やはりこのへんのサウンドは「RCP1」のほうが相性がよい印象。
しかし中村一義は、「RCP2」で鳴らしてもなんやかんやアリだった。“宅録感”がよりマシマシになり、楽曲の軸からオタクっぽさがいっそう出ていて楽しい。
そして先ほど好印象だった藤井風の楽曲だと、周囲の細かい演奏は引っ込んで見えにくくなるのだが、脱力感のあるウィスパーボイスや深みのある低音ボイスなど、藤井風の世界観を形作るコアなボーカル部分にフォーカスされている面白さがある。楽曲から漂うレトロ感がマッチしているのも大きく、引き続き「これはこれでアリ」だった。
両機ともステレオ感はほどほどだが、ちゃんとラジカセの目の前(真ん中)に正対して聴くと「ステレオしてる!」とわかるはず
さて、いかがだっただろうか? 今どき、こんなに80〜90年代の楽曲ばかりで製品レビューすることはなかなかないので、個人的にちょっとテンションが上がっている。
ちなみに今回取り上げた2機種は、比べて聴くと「RCP1」はアクが少ない。サウンド傾向については上述のとおりだが、Bluetooth対応のラジカセとしてある程度イメージどおりというか、その中では無難なほうの選択肢に入る気がする。
ただ、せっかく今あえて「ラジカセっぽい音」を求めるなら、個人的には「RCP2」くらい哀愁があったほうが楽しめると思う。現実的に、「RCP2」のほうがコンパクトで設置しやすいのもあるし、カラバリも相まってレトロなインテリアアイテムとしても成り立ちそう。
まあ正直、2機種とも郷愁感が強すぎて、この音を今の若者世代が聴いたらどう思うかわからない部分もあるが……。少なくとも、筆者と同じアラフォー世代以上の皆さんは、「懐かしい〜!」と仰け反りながら楽しめること請け合いなので、ご興味のある方はチェックしてみてはいかが?
ちなみに、「RCP2」のスピーカーを1つ(モノラル)にしたような「aiwa audio -G RCP3」も発売中。カラーバリエーションはパステルブルーとパステルグリーンの2色。色合いはむしろ現代的かも