『サウンドバーの新製品「Sonos Arc Ultra」がスゴいらしい』と編集担当からの話に乗って聴いてみたら、これが確かにしっかり者。サウンドバーの試聴は断り続けてきた筆者が、本機と120インチ画面で高校野球を観戦したら、その自然さに感動してしまいました。
Sonos(ソノス)は2002年に音楽好きの4人がマルチルームオーディオ(※)を実現しようと発足させたアメリカのメーカー。iPhone登場(2007年)より前の時点で、誰でも簡単に操作できるマルチルームでのワイヤレスオーディオシステムを、メッシュネットワークで構築するビジョンをすでに持っていたというわけです。それ以来、4000以上の特許技術を得たSonosは、世界的にマルチルームオーディオの代名詞として知られるようになっています。
※Sonosの公式サイトでは「マルチルームオーディオとは、同じ音楽やポッドキャスト、ほかの種類のオーディオを自宅の複数の部屋で同時に再生できるシステムです。」とされています。
スマートスピーカー「Sonos Era 300」の使用イメージ。本稿では「Sonos Arc Ultra」とあわせて少し小型の弟モデル「Sonos Era 100」も紹介します
筆者宅ではLINN(リン)のネットワークオーディオプレーヤー「DS」シリーズを10年以上使い続けていますが、ネットワークオーディオプレーヤーとしての洗練された機能と使い勝手ではSonosとLINNは双璧を成しています。音声アシスタントが脚光を浴びスマートホームが注目されたころにはスマートスピーカー「Sonos One」を使用する機会も多く、その使い勝手のよさには舌を巻きました。
今回取り上げる「Sonos Arc Ultra」(と「Sonos Era 100」)は、それよりさらに世代が進んだ最新モデルです。今でこそネットワークを使ったマルチルームオーディオのストリーミング再生は一般的になりましたが、先見の明には改めて驚かされます。
「Sonos Arc Ultra」のセットアップは簡単。背面のHDMI(ARC)端子にテレビ代わりの超短焦点プロジェクター「HU915QE」(LGエレクトロニクス)をつなぐと、すぐさま音が出ました。この時点でテレビ(プロジェクター)のリモコンで音量調整が可能。
また、手持ちの「iPhone15」を同じ宅内LAN(有線でも無線でも可)につないで「Sonos」アプリを開くと、すぐに「Sonos Arc Ultra」を追加するか尋ねてくるので、ガイドにしたがって宅内ネットワークに追加完了。この間わずか数分で、ネットワークに詳しくない人でも設定は容易です。
接続するスピーカーがチャイムを鳴らして教えてくれました。今回は設置場所を「オフィス」で設定。テレビの入力切り替えなどはアプリからも可能です
それだけでも十分よい音が出ますが、せっかくなので試してみませんか? と尋ねてくるのが、部屋の音響特性に合わせて音を自動でチューニングする「Trueplay」。この手の機能は音が“鈍る”という先入観を持っている人もいらっしゃるかもしれません。自動チューニング機能の利用をためらう向きもありますが果たして……。
なお、「Sonos One」などにもこのような機能はあり、「iPhone」のマイクを使って部屋の音環境を測定していました(マイク特性が揃っているという理由で「iPhone」のみの対応でしたが、現在はAndroidデバイスにも対応しています)。
「iPhone」を使った調整は「高度なチューニング」とされています。マイク側を上に持ち部屋を歩き回ります
「Sonos Arc Ultra」でも「iPhone」などを使った音質調整機能は残されていますが、本体に内蔵したマイクだけで似たような調整をより簡単にできるようになりました。これがアプリ画面で「クイックチューニング」と表示されている機能です。
「クイックチューニング」を選ぶと本体内蔵マイクを使って音質を最適化してくれます
サウンドバーは、必ずしも良好な設置環境で使われるとは限りません。実際、今回は「Trueplay」の「高度なチューニング」を試してみると、ときおり強調気味に感じられた低音域も俄然クリアーでヌケがよくなり、高音域のシャワー効果がより自然になりました。
本機を試聴したのは、ちょうど選抜高校野球の時期。この原稿も大画面で観戦しながら書いていますが、まるで甲子園球場の客席に座り“ながら観”しているような臨場感です。私がサウンドバーに抱いていた苦手なあの“不自然なバーチャル感”はまったくないのです。
しかも、アナウンサーの声が非常にクリアー。「センターチャンネルにリアルスピーカーがある」といった感じの鳴り方をするのも好印象です。
「Sonos Arc Ultra」は豊かな低音再生に特徴があり、従来モデルからの進化としてあげられているのが「Sound Motion」テクノロジーです。低域再生をより小さい容積で実現し、余裕のできたスペースにツイーターとミッドレンジを追加し、配置を最適化。全体的なクオリティが向上したというのが謳い文句です。
聴いてみたところ、いかにもクラスDアンプでドライブするアクティブスピーカーっぽい、マッシブな鳴り方をします。拙宅の8畳程度の試聴室では、サブウーハーがなくても十分に楽しめました。先述したとおり、この強力な低音は、「Trueplay」を施すとスッキリしてヌケがよくなります。
本体中心部分に「Sound Motion」技術によるウーハーを配置。楕円形をした2基のウーハーが対向配置されています
スペックを見てみると、「Sonos Arc Ultra」はこれ一本で「9.1.4」システム(サブウーハーを含む合計14本のスピーカーで試聴者を囲むサラウンドシステムのこと)相当の立体音場を再生するとあります。「ほんまかいな」と思いつつ、Apple MusicのDolby Atmos収録音声(Dolby Atmos Music)を再生してみます。
Dolby Atmosの音楽を楽しむために、「空間音楽」をオンに。Dolby Atmosの音楽はApple Musicなどで配信されているので、アプリで連携しておきましょう
Apple MusicのDolby Atmosをフォーマットどおり理想的な形で再生するには、「Apple TV 4K」とHDMI接続したAVアンプでの再生がベスト。ところが「Sonos Arc Ultra」は、これ自体がApple Musicの再生に対応しており、単独で「Apple TV 4K」+AVアンプと同じ役割を果たせます。
Apple Musicの再生画面。音声フォーマットをアプリ画面でも明記してくれるのはうれしいポイントです。「Lossless」は2chの可逆圧縮のこと
Sonos製品は、日本に上陸したばかりのハイレゾ対応サービスQobuz(コバズ)にも対応します。同じ曲を、Apple MusicのAtmos音声と、Qobuzの2chとで聴き比べもできます
実際に聴いてみると、「Apple TV 4K」+AVアンプ(とリアルスピーカー)によるDolby Atmos再生に匹敵する音場感で、2ch音源のバーチャル再生とはまったく次元が異なる見通しのよさと楽しさにあふれていました。7つあるツイーターのうち2つが上向きでハイトチャンネル(垂直方向に広がる音)を創り出しているとのことです。
ハイトチャンネルの音量は調整もできます
高品位なサラウンドに気をよくして、追加で「Sonos Era 100」を2本お借りしてみました。これを「Sonos Arc Ultra」のサラウンド(リア)スピーカーとして使い、さらに没入感のあるサラウンド音場の再現に挑戦します。
ここでサラウンドスピーカーとして使うのは、単体でも音楽再生に使えるスマートスピーカー「Sonos Era 100」。2つのツイーターが左右外向きに配置されているので、1本でもステレオ(2ch)再生が可能。さらに、2本をペアリングしてより本格的なステレオ再生もできます
実際の写真がこちら。試聴位置後方の左右に2本の「Sonos Era 100」を設置。試聴者を取り囲むようにするのがセオリーです
このペアリングもとても簡単。同一ネットワーク上に初期化された「Sonos Era 100」を置いて、1台ずつ追加していくだけです。
ここでそれぞれに「キッチン」「書斎」などと名前を付けておくと、それだけでマルチルームシステムが完成します。手持ちのスマホで、それぞれの部屋の音楽(や音量)を一括コントロールできてしまう、ということです
ここから、「Sonos Era 100」をそれぞれサラウンドL/Rスピーカーとして割り当てることも簡単。改めてペアリングする必要もなく、それぞれに「君はサラウンドR」「アナタはサラウンドL」と指定し直すだけで、数十秒ほどで役割を変えてくれます。
一度「寝室」などに割り当てた「Sonos Era 100」をサラウンドスピーカーに割り当て直すのも簡単。普段は寝室で使い、本気で映画を見るときだけリビングのサラウンドスピーカーとして使う、ということも考えられます
かくして得た音は、これまたこれ見よがしな誇張感がない、自然なサラウンド。とても音のつながりがよく、「Sonos Era 100」が「Sonos Arc Ultra」のサポート役に回る奥ゆかしさを見せます。もっとも、「Sonos Era 100」自体の低音再生もなかなか充実しており、出るべきところではしっかり鳴ってくれます。
思い出したのが、ソニーのAVアンプ「STR-AN1000」のサラウンドスピーカーとして使った「SA-RS5」や、4本の無線スピーカーで構成される“ホームシアターシステム”「HT-A9M2」。Sonosもソニーも、やや遠目から取り囲まれているかのような自然な音像を心理的に形作る術を心得ているなと感じます。
ちなみに「Sonos Era 100」の上位モデル「Sonos Era 300」は、1台でDolby Atmos
再生ができる4ツイーター(前、両サイド、上向き)+2ウーハーを内蔵しており、Sonosとしては最上級のサラウンドスピーカーとして推奨されています。
「Sonos Era 300」をサラウンドスピーカーとして使い、さらにサブウーハー「Sonos Sub 4」を2台使った設置例。好みに応じてシステムアップできるのも「Sonos Arc Ultra」の魅力です
「マルチルームオーディオ」の老舗、Sonos。まったくその姿勢にブレがないまま、「Sonos Arc Ultra」は進化しており、私のようにサウンドバーを毛嫌いする人間でも一度は試してほしい完成度。Dolby Atmosの映画再生はもちろん、特にApple MusicでDolby Atmosの音楽を聴きたい! という人にぴったりです。
また、「Sonos Era 100」などを買い足せば、スピーカーケーブルをはわせることなくサラウンド(リア)スピーカーを簡単に追加できたり、マルチルームオーディオを実現できたりと、使い方のバリエーションが広がるメリットもあります。
AVアンプに親しみがあって配線もきれいにできる方、ハイサンプリングレート至上主義で2chステレオにこだわりがある方ならまだしも、シンプルに好きな映画や音楽をよい音で快適に再生したい人なら、Sonos製品を選択肢のひとつとして必ず検討しておくことをおすすめします。