テレビの音を聞き取りやすくするためのワイヤレススピーカー「Carry by MIRAI SPEAKER」
テレビの音を聞き取りやすくするための「エイジテック」製品でおなじみのミライスピーカーから、いわゆる“手元スピーカー”「Carry by MIRAI SPEAKER」(以下、「Carry」)が登場。耳が遠くなった高齢者に向けて開発された大ヒット作「MIRAI SPEAKER(ミライスピーカー)」のバリエーションモデルだ。
「Carry」のポイントは、この手の製品には非常に珍しくHDMI(ARC)端子を持ったワイヤレススピーカーであること。テレビと専用ドックをHDMI接続さえすれば、テレビの音を好きな場所(ユーザーの手元)で聞ける。難しい操作は一切せずテレビの音が聞き取りやすくなるのだから、父の日や母の日、敬老の日のプレゼントとしてぴったりの製品だと言える。今回はメーカーから製品をお借りして80代の親と自宅で試してみたのだが、非常に気に入ったようなので、筆者は1台プレゼントすることにした。
・機械が苦手な高齢者にも簡単に使える
・ニュースでもドラマでも人の声が聞き取りやすい
・音楽鑑賞にも使えるほど音質が良好
・バッテリー残量表示がない
「Carry」が拙宅に届いたのでさっそく箱から出し、本体をドック(ベースユニット)にセット。こちら側にふたつのスピーカードライバー(アングルド・ドライバー構成、外向きに角度を付けたステレオ)が向き、低音増強用のパッシブドライバー(アンプなどがつながっていないスピーカー)が背面になる。すぐに充電が始まり、本体左上のオレンジのライトが点灯する。
ファブリックで包まれているため、スピーカーユニットは見えない。付属するレザーのハンドルは取り付けなくてもいいが、せっかく「Carry」という名前なので取り付けたほうが持ち歩きに便利だし、Bang & Olufsenのポータブルスピーカー「BeoPlay」風で見た目もよい
ドックに本体を置くと、本体左上にオレンジのライトが点灯する。これが充電されている合図で、満充電になるとライトは消える。本体のバッテリー残量確認方法がこれだけなので、あと1%なのか、99%残量があるのかがわからない。これが「Carry」唯一の不満点だった。3段階でよいのでバッテリー残量がわかるとうれしい
使い始めで気を付けたいのは「初回は4時間以上充電」すること。充電せずにBluetoothで音楽をかけてみたところ、音が“ガサガサ”。どうやらバッテリー残量が不足すると音が荒れてしまうようなので、おとなしく充電されるのを待った。ウチの親みたいに取扱説明書を読まない人は気を付けよう。
翌日、しっかり充電後に改めて試聴を開始。専用ドックと本体はあらかじめペアリングされているので、準備は必要なし。ドックのHDMI(ARC対応)端子に、テレビ代わりのプロジェクターLGエレクトロニクス「HU915QE」を接続。メジャーリーグ野球中継を視聴する。
本体上部に入力切り替え(Bluetooth/テレビ音声)ボタンが備わる。Bluetooth機能を併用する場合には、これが正しく切り替わっているかを確認しよう
もしもテレビの音声が出ない場合は、テレビ(ここではプロジェクター)側の音声出力設定画面を確認しよう。「PCM」もしくは「自動」などにすればOK。それでも音が出ない場合は「HDMI制御」などの項目がオフになっていないことも確認しておきたい
入力切り替え以外何もしていないすっぴん状態では、なかなかウェルバランス。落ち着いた太い男性アナウンサーの声が正面に定位し、会場の喧噪もその背後に自然に聞こえる。指向性は古きよき時代のデスクトップ型ラジオのように狭め。
ドックから本体を外しても、映像に対する音声の遅延はまったく感じられない。ドックと本体の間は2.4GHzの無線伝送とのことだが終始安定しており、混線してノイズを生じることもなかった。
大相撲中継も同様。ここで天面の「3D」ボタンを押してみると3Dサウンド機能がオンになり、音に広がりが生まれる。ややクセっぽさを感じることはあるものの、中心に定位する落ち着いた男性アナウンサーの声はそのままに、より歓声や暗騒音が後方に自然に広がる。
HDMI(ARC)端子がないテレビと接続する場合、光デジタルやステレオミニアナログ端子も使える。聞き比べても音の傾向は似ており音質が特段劣るわけではないが、のちに述べるように、利便性ではHDMI(ARC)が圧倒的にすぐれている。
ドック背面には接続端子が並ぶ。HDMI端子を使い、テレビ(やプロジェクター)とつなぐのが基本的な使い方だと考えたほうがよいだろう
天面のダイヤルは大きくて動きが滑らか。適度な粘りもあり、微調整もしやすい。レザーのハンドルが操作のじゃまになるかと懸念されたが、操作の中心は親指で、指の腹が掛かりやすく問題ない。
音量調整用の大ぶりのダイヤルには溝が刻まれており滑らない。HDMIで接続する場合はテレビのリモコンで音量調整できるので、ダイヤルとテレビのリモコン、どちらを調整の主体にしても構わない
音質は、ドックから本体を外して手元の机に置いたほうが重心が下がって好ましく感じた。それが実際に使用する場合と同じ想定だから、正しいチューニングだ。音量もオーディオ機器並みに結構大きく出せる。置き場所次第でハイファイ的に使えそうな気もしたが、そこを追究すべき製品でもないのでこの程度にしておく。
「Carry」には光デジタルケーブルや3.5mmステレオミニケーブルが同梱されているが、別途HDMIケーブルを用意してでもHDMI(ARC)接続を利用することを強く推奨する。その最大の理由は、以下の2つのメリットにある。結果、機械操作が苦手なユーザーであっても、手元スピーカーを簡単に導入でき、手元スピーカーを必要としない家族とも1台のテレビをストレスなく共有できるのだ。
●テレビとHDMI接続するだけですぐに使える
●電源を消すだけで、自動でテレビ内蔵スピーカーに切り替わる
よほど古いテレビでなければ、テレビ側のHDMI端子に「ARC対応」(もしくは「eARC」)などと記載されている端子があるはず。接続にはこの端子を使うこと
お伝えしておきたいのは、「Carry」を最も簡単に使う方法はテレビのHDMI(ARC)端子と「Carry」のドックのHDMI接続であること(上記のとおり、特に古めのテレビの場合にテレビの設定変更を要する場合もある)。この方法ならばほかの操作や配慮は必要ない。加えてHDMI接続であれば、「Carry」の本体ダイヤル操作だけで手元スピーカーへの切り替えや音量調整が完結する。
まず、「Carry」の電源を入れるためには少し本体の音量ダイヤルを回す必要がある。すると「Carry」の電源が入り、音声出力先がテレビ内蔵スピーカーから「Carry」へ切り替わるのだ。つまり「Carry」を使わないときはテレビ内蔵スピーカーの音がそのまま聞けるということ。
また、「Carry」の電源をオフにするだけで、自動的にテレビ内蔵のスピーカー音声に切り替わる。 ほかの家族がテレビを見るときは、「Carry」の電源を切り、テレビの内蔵スピーカーを優先するのも簡単。面倒な設定変更やケーブルの抜き差しは一切不要なので、機械操作が苦手な高齢の方でも直感的に扱えるはずだ。
音量調整はテレビのリモコンでも対応できるほか、「Carry」を使う際には手元の本体ダイヤルでほどよい音量に調整できる。
2011年発売の液晶テレビ、パナソニック「TH-L37DT3」でもスムーズに動作することを確認できた。もし音が出ない場合は「HDMI制御」などの項目がオンになっていることを確認してみよう
注意点として知っておきたいのは、テレビの電源オフ時または無音が15分続くとバッテリー消費を防ぐために「Carry」の電源が自動で切れること。この状態から復帰させるには、ダイヤルを一度電源オフに回してから再度オンにする必要がある。
“手元スピーカー”として重要なのは、特に人の声がしっかりと聞き取りやすいこと。「Carry」では、声のくっきり度合いを「強」「弱」で切り替えられる
そして注目すべきは「言葉くっきり」機能。ものすごく乱暴に言えば、中域の厚みが若干弱まって、代わりに高音域が強調されるイメージだ。ただ、文字通りコントラストが上がってくっきりする印象で、単純に「トレブル」(高域)を上げてシャリシャリさせているだけではないように思う。
50代の私がオーディオ的に聞いても、「言葉くっきり(弱)」程度なら、さほど不自然とは感じない。ややハイ寄りな小型家電音質はざらにあるからだ。ところがこの「Carry」は、とくに小音量でスピーチが聞き取りやすくなり、加えて風の音や効果音が際立つので、作品のニュアンスが読み取りやすい。
それに対し、「言葉くっきり(強)」はかなり強烈にしゃべりが響く。小音量でもさらに聴き取りやすくなる代わりに、筆者が大音量で聞き続けると少し疲れてしまうレベル。
なお、「言葉くっきり」にしながら、「3D」も押すと広がりを感じるので、「言葉くっきり」と「3D」効果は掛け合わせOKだ。これらの効果は、ヘッドホンを使うとよりよくわかる。
私には、同一敷地内の別世帯に、80代の父(87歳)と母(81歳)がいる。そこで「Carry」を聞いてもらうことにした。
両親の視聴ソースは、リビングの壁掛けした液晶テレビ。父は耳がよく、小音量でも比較的よく聞き取れる。いっぽうで母は、生活には支障がないものの耳がやや遠く、テレビの音は部分的にしか聞き取れていないそうだ。思えば母方の祖父と祖母も耳が遠かった記憶があるから家系なのだろう。
そんな2人にいつもと同じようにテレビ内蔵スピーカーで番組を視聴してもらい、私が立ち会った。
これまでどのようにテレビを視聴しているかあまり気にしていなかったのだが、2人の普段の音量はごく普通かやや小さめだと知った。しかも、音をあまり聞き取れていない母は父に気を遣い、聞き取りづらくても音量を上げていなかった。そんな母を見かねた父が、ネックバンド式のスピーカーを母に買い与えていたことも判明。しかも、これまた使いづらいのに父に言えず今にいたっていることもわかった。早く言ってよ母ちゃん……。
かくして今回のテストのメインターゲットは母となった。
母と一緒に壁掛けテレビを視聴すると、テレビの内蔵スピーカーでも、アナウンサーのようにすぐれた滑舌ならばかなりの確率で聞き取れているし、バラエティ番組ならテロップが出るから内容は把握できている。
しかし、字幕の出ない昼ドラ、こと古い時代劇ともなると、セリフがこもって聞こえ、部分的に単語は聞き取れるものの会話劇の内容はほとんどわからないという。私との日常会話には支障がないものの、テレビの音声となるとどうしても聞き取りにくさがあるらしい。せっかくの時間を不自由なくハツラツと過ごしてもらうためにも、早急に対策を講じなければと痛感した。
続いて、音が「Carry」から出るように切り替える。と言っても、HDMI(ARC)でテレビとつないだドックから本体を持ち上げて目の前の机に置き、ダイヤルを回すだけだ。音が切り替わったタイミングでテレビ内蔵のスピーカーがオフになり、「Carry」だけから音が出るようになる。「Carry」の音量は本体のダイヤルで調整するのが基本だが、HDMI(ARC)が働くのでテレビのリモコンでもOK。家族と使う場合にはこの点も便利だ。
本体が充電式なので一日使って寝る前にドックに戻すこと(中音量なら約18時間再生できる)、ワイヤレスで音声が本体まで飛んでくる仕組みであること、を母に説明する必要はあったが、あとはダイヤルを回すだけ。「これなら……」と使える自信はありそう。
本体裏側にも充電用USB Type-Cが用意されている。ドックに戻し忘れて次の日充電されていなかった……という場合も、手元で充電しながら使える安心設計
「Carry」を素のまま(「言葉くっきり」なし)で聞いてもらうと、これでも十分にテレビ内蔵スピーカーよりも聞き取りやすいという。これは意外だった。なぜなら、壁掛けテレビ内蔵スピーカーの音はあえて高域を上げてシャカシャカさせたモードに設定し、対策していたから。にもかかわらず、中域が厚めのややレトロで落ち着いた「Carry」のほうが聞き取りやすいというのだ。
続いて「言葉くっきり(弱)」にすると、母はすでにほぼすべての話が聞き取れるレベルにまで聴感が向上したという。私からすると、「中域厚めのレトロで落ち着いた音」が、比較的最近のデジタルサウンドにありがちの「シャキッ」とした音になった程度という印象。つまり、一般的な人が一緒にテレビを囲んで聞いていても「言葉くっきり(弱)」であれば、「味付けの差でしょ」ぐらいの振れ幅に収まる。
最後に「言葉くっきり(強)」にすると、「これはものすごくクリア」だそうだ。母の背筋も伸びて聞き入っている。私にとってはさすがにだいぶハイ上がりだが、比較的小音量で聞くぶんには堪えられないレベルではない。
「Carry」は、HDMI(ARC)接続することで、ダイヤルの操作だけで快適にテレビ視聴ができる手元スピーカーだ。母にはこれまでさまざまなポータブル機器をプレゼントするも使いこなすことができなかったが、この「Carry」は1泊2日預けただけでいたく気に入った様子。母の日は過ぎてしまったが、取材後に1台購入して母にプレゼントした。今では自宅で大活躍している。
「リタイアしたら、好きな映画を思う存分楽しみたい」。工業デザイナー水戸岡鋭治さんが「ななつ星in九州」を構想されていたころに語っておられたホームシアターへの夢だ。水戸岡さんが想定していたのは、専用ルームではなく多目的なリビングシアター。いざリビングでテレビを囲むとき、家族の中でひとり音を聞き取れないとしたら……。その孤独感はいかばかりだろうか。そんな問題を解決しようとするやさしい眼差しが、「ミライスピーカー」シリーズには詰まっていると感じた。