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通好みのキットもラインアップ!

社長に直撃取材!鴻池賢三がラトックオーディオ製品の秘密に迫る

オーディオを手がけるメーカーは、大手総合電機メーカーやオーディオ専業メーカー、ガレージメーカーまでさまざま。それぞれが特徴を持つ製品を世に送りだすことで、我々オーディオファンも選ぶ楽しさが味わえるのだが、筆者が最近特に気になっているメーカーの1つが「ラトックシステム」である。同社はパソコンやスマホの周辺機器および、HDMI分配機や拡張ボードなど、実用的な製品をバラエティー豊かに製品化しているが、その中には「RATOCオーディオラボ」のブランドを掲げ、個性的なUSB DACやヘッドホンアンプの完成品、組み立てキットまで取りそろえている。

オーディオ専業メーカーではないにも関わらず、この極度なマニアックさは気にならずにはいられない。そこで今回は筆者の独断で同社に取材を敢行。「RATOCオーディオラボ」の秘密に迫った!

社長肝いりのプロジェクト

ラトックシステムの社長、岡村周善氏

ラトックシステムの社長、岡村周善氏

まず気になるのがラトックシステムの開発体制だ。筆者はAV専業メーカーに数年間所属していたが、近年のオーディオはデジタル回路とアナログ回路が複雑に絡み合い、きちんとした製品を送り出すには非常に高い技術レベルと特有のノウハウが欠かせない。通常、デジタルオーディオ系のエンジニア、アンプなどアナログオーディオに通じるエンジニア、電気回路全般を統括するエンジニア、基板や外装などを担当するエンジニアなど、各分野の専門家が結集して1つの製品を作りあげる。他にも品質保証や生産管理などの人員を含めると、かなりの大所帯になるものだ。もし少人数で実現できるとすれば、オーディオが趣味で、エンジニアとしても非常に能力の高い個人の存在が不可欠だ。

ラトックシステムの場合は後者だ。しかも、同社社長である岡村周善氏が自ら、回路設計やソフト開発に加え、金型、基板設計、生産と、すべての工程をこなすというから驚きだ。

そこで今回は「RATOCオーディオラボ」を率いる岡村社長ご本人にお話しをうかがうことにした。

2003年に本格的なオーディオ事業をスタート

岡村氏はいわゆる元ラジオ少年。学生時代にはエレクトロニクス関連の書籍を参考に、真空管アンプなど製作してオーディオのノウハウを身に付けたという。たとえば、著名なオーディオ評論家である故斎藤宏嗣氏がペンネームで執筆していた、世界の名だたるオーディオ機器を超える…という企画の自作記事に没頭し、片っ端から製作したというから、相当に熱心なマニアであることがうかがえる。

大学では生物学を専攻するものの、マイコンの創生期に遭遇してのめり込むことになる。当時は大手企業も個人も同じ土俵で競えた時代で、岡村社長が目を細めて当時を懐かしむ様子が印象的だった。筆者も中学時代にマイコン少年と化したが、確かにプログラムの規模は小さく、アイデアと知恵があれば個人が活躍できる面白い時代だったことを覚えている。その後岡村氏は、1983年にラトックシステム株式会社を創業し、コンピューターのインターフェイス開発を中心に事業を拡大してゆく。1995年には、PCサウンドカード(16bit STEREO Sound PC Card)を発売。今から思えば、PCオーディオの先駆けと気付く。

オーディオを本格的な事業として手がけるようになったのは2003年。当時登場したばかりのワイヤレスオーディオ伝送に未来を感じ、ワイヤレスUSBオーディオアダプター「REX-Link1」を製品化。今ではワイヤレスオーディオは珍しくないが、当時は製品コンセプトやデザインが画期的で、大変驚いた記憶がある。

その後も、ワイヤレスUSB接続を利用したプリメインアンプ内蔵のコンポ「RAL-Cettia1B」を製品化するなど、ユニークな取り組みを続ける。

REX-Link1を懐かしそうに眺める岡村社長

REX-Link1を懐かしそうに眺める岡村社長

アンプ内蔵のワイヤレスUSB対応オーディオコンポ「RAL-Cettia1B」

アンプ内蔵のワイヤレスUSB対応オーディオコンポ「RAL-Cettia1B」

今注目したいヘッドホンアンプ

ポータブルヘッドホンアンプの「REX-KEB03」

ポータブルヘッドホンアンプの「REX-KEB03」

先述の通り、同社はPCオーディオの創生期に関わってきたメーカーだ。そして今、PCオーディオ&ハイレゾブームを迎え、同社も製品ラインナップを増やしているが、特に注目したいのはポータブルヘッドホンアンプ「REX-KEB03」だ。見た目は地味だが、岡村氏のこだわりや技術が生かされている。

まずは製品の概要を紹介しよう。USBおよび光デジタル音声入力端子を備え、DSD128(ファームウェアアップデートでDSD256に対応)やPCM384kHz/24bitなどのハイレゾ音源を再生できる、DAC内蔵バランス駆動型ポータブルヘッドホンアンプである。

ヘッドホン出力は、一般的な3.5mmステレオミニジャックのほか、多種多様なバランス方式に対応。同社独自のRAL式(2.5mmマイクロジャック×2)を基本に、3.5mm/2.5mm変換アダプターでソニー独自方式にも対応できる。また、Astell&Kern が採用する2.5mmマイクロ4極方式にも標準で対応できるなど柔軟性の高さがマニア心をくすぐる。

続いて、信号の流れに沿って詳細特徴を見て行こう。まずデジタル入力は、iPhoneやiPadがライトニングで直結可能になった。最近は珍しくない機能だが、他社製品は一般的に、接続時にいったんポタアンがマスターとして動作した後、スレーブに切り替わるものも多い。いっぽう、REX-KEB03は最初からスレーブとして認識され、よりスムーズな接続が可能という。これは、長年アップル社との関わりを持つ岡村氏が、親しいエンジニアとの緊密なやりとりで実現できたという。

USB接続においても、インターフェイス開発で培った技術をベースに、音質の劣化を極力防ぐアイデアが随所に盛り込まれている。同社は長年USB-IFの会員企業で、仕様を隅々まで知り尽くしているエキスパート。オーディオである前に、通信インターフェイスとして熟知している。たとえば、岡村社長は、アシンクロナスに関する誤った情報が独り歩きしていると危惧する。そもそもUSBオーディオは、データにクロックが含まれない非同期のアシンクロナス通信だ。しかし、音を正しく再生するには、再生側(パソコン側)とUSBオーディオがやり取りする信号の種類(192kHz/24bitなど)を確認する作業が必要で、その際に、アイソクロナス転送のアシンクロナスモードを使ってやり取りを行う。アシンクロナスモードであるかどうかに関係なくUSBオーディオクラスの伝送はアイソクロナス転送で実行されていて、一方的にUSBオーディオ側に送り込まれ、エラー訂正や再送などはいっさい認められていない。多くの記事などでは、アシンクロナスモードでフロー制御が行なわれているかのような記述が多いが、これは誤りというわけだ。音声データの通信が始まると、USBオーディオ側は一定時間にデータを受け取っては後段に流して行くしかなく、岡村社長は、実際にオーディオを聴くだけなら、アシンクロナスモードだけではそれほど意味を成さないと、数年間から発信してきた。

同社の場合は、そうしたイメージにとらわれることなく、正確なデータ通信に重きを置いている。USB関連だけでも測定器に1億円以上を投じ、着実に精度を高める手法は理にかなっていると感じた。

主要パーツであるDACはESSの「ES9018K2M」を採用。ESSの創業時から知る間柄で、オーディオ機器の開発に際しても積極的に情報交換を行い、低消費電力のES9018K2Mを使いこなすことで高音質を引き出している。ESSは高音質DACとして定評を得るに至っているが、音質面で肝心なのは使いこなし。DACの銘柄だけにこだわっただけではないところが面白い。

このほか、ボリュームは小音量で深刻になりがちなギャングエラーが発生しないよう、電子式を採用。ES9018K2Mに内蔵の32bitフローティング演算機能を利用することで音質劣化も防いでいる。ボリュームはAカーブで、小さい音領域で繊細な調整ができるように工夫されている。なお、音の出口であるヘッドホン端子のうち、バランスはRAL方式と呼ぶ2.5mm×2を推奨している。これは、誤挿入を低減するための配慮だ。

DSDはファームウェアアップデートでDSD256に対応。これは、同製品発売時、DSD256のファイルが存在せず、確認ができなかったためで、購入済みユーザーも2,000円というリーズナブルな価格で依頼できる。

REX-KEB03のファームウェアアップデートは、基板に専用のコネクタを接続して行う

REX-KEB03のファームウェアアップデートは、基板に専用のコネクタを接続して行う

オーディオ機器でありがちな音作りの方針や設計思想についてたずねてみたが、イメージ的な概念は持たず、特性を追及。いい意味でこだわりはなく、技術的に原理原則に突きつめ、悪い要素を排除するという考え方だ。岡村社長はモンクのピアノを愛し、大阪に拠点を置くジャズ・レーベル「澤野工房」のCDを愛聴。目指す音は、プレーヤーの違いがきちんと表現できるクオリティーだ。

まとめ

デジタル化するオーディオ機器においては、やはり通信や処理の精度が基本と言える。その点、インターフェイスとしてUSBを知り尽くし、測定器で確認を行って高性能を実現するラトックオーディオの開発方針は理にかなっている。そうした目で、ラトック製品を改めて聞き直してみたいと思った。

岡村社長の次なる興味は、「ラズベリーパイ」に最適なオーディオキット。ラズベリーパイとは名刺サイズの小さなボード型コンピューター。5,000円弱と安価で、多機能なハイレゾオーディオプレーヤーとしても利用できることから、「ラズパイオーディオ」などと呼ばれ、自作派を中心に注目を集めている。この「ラズパイオーディオ」の音をもっとよくするDACなどの周辺機器の製品化を予定していて、多くのユーザーに手作りを含めたオーディオの楽しさを知って欲しいと言う。

かつてのラジオ少年がオーディオファンとして生み出すRALオーディオに注目だ。

筆者所有のラズベリーパイ。オーディオに特化したLinuxディストリビューション「Volumio」をインストールすると、DLNA/AirPlay対応のハイレゾネットワークオーディオプレーヤーに変身する。ラトックでは、このラズベリーパイからのデジタルオーディオ出力を高品位にアナログに変換するキット製品を企画中とのこと。登場が楽しみだ

鴻池賢三

鴻池賢三

オーディオ・ビジュアル評論家として活躍する傍ら、スマート家電グランプリ(KGP)審査員、家電製品総合アドバイザーの肩書きを持ち、家電の賢い選び方&使いこなし術を発信中。

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