特別企画
観客が証人!ライブを聴きながら録って出しの“本物”のハイレゾ音源をつくる!

大物アーティストも協力!何も足さない何も引かないDSDレコーディングライブレポート前編

この3月、都内で非常に変わったライブ演奏が行われた。歌手であり音楽プロデューサーでもある大澤誉志幸(おおさわよしゆき)さんを中心に、ギターとピアノも加えた3人の編成で行われたアコースティックライブだ。しかしながら会場にいた観客はたった20人。開催された場所は何と、プロが使うレコーディングスタジオだったのだ。

これはどんな意図で、何を目指して行われたライブなのか。2回にわたってレポートする。前編となる今回は、このイベントが開催されるまでのいきさつについてレポートし、後編では実際のライブ会場に潜入した模様をお届けする。

レコーディングに必要な機材が置かれたコントロールルームが、ライブ会場となった

レコーディングに必要な機材が置かれたコントロールルームが、ライブ会場となった

この「PREMIUM SPEC」と名付けられたライブだが、実はハイレゾ音源のスゴさを伝えるイベントでもあった。趣旨としてはこうだ。アーティストの生演奏をスタジオのモニタースピーカーを通して聞きながら、その生音源をハイレゾ化。スタジオで聴いた音とそこで録ったハイレゾ音源を、実際に観客が聴き比べできる。観客には録れたてのWAV音源がその場でプレゼントされたほか、現在最高の音質といわれるDSD 11.2MHzの音源も後日送られた。

そんなライブを主催したのは、アーティストマネージメント・音楽制作を行う株式会社コンポジラの社長、鈴木誠さん。同氏は80年代にビクターでアイドルのマネージメントやレコーディングに携わってきた人だ。80 年代といえばちょうど、アナログレコードからCDへの転換期。そんな時代を経験したからこそ、最近話題のハイレゾにも敏感だった。ただ、ハイレゾ対応製品が次々と生まれていくいっぽうで、音源のほうに目を向けてみると必ずしも、もろ手をあげてよろこべる状況でもなかったという。

ハイレゾ制作の現場をガラス張りに。原産地も生産者もわかるハイレゾ音源

「本当の意味で、ハイレゾのよさを生かした作品は、まだまだ少ないのではないでしょうか? ハイレゾ音源はCDより多くの情報が持てるので、すばらしいものだと思います。でも、その中には、ハイレゾブームに乗っかって、ただアップサンプリングしたような音源も散見され、そうした音源はハイレゾに対して“ニセレゾ”などとも呼ばれているのが実情です。そんなのを聴いて、ハイレゾにガッカリする人が増えてしまったら、あまりにも残念なことですよね」と語るのは鈴木さん。

アーティストマネージメント・音楽制作を行う株式会社コンポジラの社長、鈴木誠さん

アーティストマネージメント・音楽制作を行う株式会社コンポジラの社長、鈴木誠さん

そんな鈴木さんの目にとまったのが、ハイレゾ音源とアナログレコードを比較試聴するというイベント。そのイベントを企画したのは、秋葉原でPCパーツショップを運営する有限会社オリオスペックの、酒井啓吉さんと佐藤智将さんだった。そこから交流が始まり、「へたなハイレゾ音源よりレコードのほうがいい音だよね……」、「ハイレゾ自体はいい器なのに音源がイマイチ……」、「高品質なハイレゾ音源が作れたらいいのに……」、と話していくうちに意気投合し、今回の企画がはじまった。居酒屋でのことである。

「鈴木さんとの話で盛り上がったのは、いまのハイレゾ作品が粗製乱造(そせいらんぞう)状態で、既存の音源と比べたときの違いが、わからないことでした。で、だったら本当のハイレゾ作品を作れないものか。そんな話を鈴木さんとしたのが、この企画のきっかけだったんです」と酒井さんは語る。

「野菜や肉なら原産地や生産者の表示がありますよね。ハイレゾ作品もそうしたものさしがあるといいなと考えたんです。事実、そうした表記をすでにしているものもあります。でも、実際にお客さんにレコーディング現場を見てもらい、その方たちに証人になってもらえればなお最高じゃないか、と今回のライブを企画したんですよ。まあその分、予算的にも頭を抱えてしまうことにもなりましたが(笑)」と鈴木さん。

有限会社オリオスペックの酒井啓吉さん(左)と佐藤智将(右)さん

有限会社オリオスペックの酒井啓吉さん(左)と佐藤智将(右)さん

ずいぶんと突拍子もない発想のようにも思えるが、数多くのアーティストを育て、マネージメントしてきた経験のある鈴木さんだからこそ思いついたアイデアともいえる。

ハイレゾで録るなら設備も環境も整っているスタジオがいい

まず「ハイレゾ作品として、とにかくいい音を、生の雰囲気で、あまさず収録して伝えたい」というコンセプトを踏まえたとき、実現するためのアプローチとして一番よかったのがライブ演奏だった。するとホールでなどと考えるところだが、あえて今回は細かいニュアンスまで完全に収録できる、機材も環境も整っているレコーディングスタジオで行うほうがいい、という結論になった。またせっかくハイレゾでレコーディングするなら、現在最高の音でも収録してみようとなり、DSD 11.2MHzでレコーディングすることが決まった。

ところがこの段階でまだ、ライブの大本を成すアーティストが決まっていなかったのである。

アーティストが実際に演奏するときに使ったメインフロア(ブース)の風景。右奥に見えるのはピアノが常設されている小さいブース。引き戸が付いており、同じブース内でも完全に遮音される

一般的なライブの企画は、アーティストありきで話がスタートするが、ここでは「レコーディングスタジオでライブを行う」、「現在最高のDSD 11.2MHzで録る」ということから話が固まっていった。

でも、プロのレコーディングというと、「Pro Tools」などのDAW(Digital Audio Workstation)という制作ソフトを用いて、編集しやすいように楽器やボーカルを個別に録音したあとで、それらの音を重ねながら作り込んでいくのが一般的。ミスがあれば何度も録り直すし、必要があればどんどん編集して音を仕上げていく。

けれども「PREMIUM SPEC」はその真逆。記録されたときには2ch(ステレオ)になっている一発録りだ。生の雰囲気を強く残せるいっぽうで、ミスしても直しができない一発録りは、それをこなすアーティストの技量が不可欠。しかしそんなアーティストも、なかなか少ないのが実情だそうで……。

アーティストも動揺するミスしても直せないDSDの一発録り

そんな中、抜擢されたのが大澤誉志幸さんだった。デビューは1981年。「その気×××(ミステイク)」(1984)、「そして僕は途方に暮れる」(1984)など、数多くのヒット曲を持つベテランミュージシャンであると同時に、これまでに、沢田研二、中森明菜、鈴木雅之、山下久美子、吉川晃司、アンルイス、ビートたけし、八代亜紀、小泉今日子、松田聖子など、そうそうたる面々を手掛けてきた音楽プロデューサーでもある。

さらに、大澤さんは今年で5年目を迎えた全国各地を旅しながらアコースティックライブを披露する「渡り鳥ツアー」を行っており、小規模なライブハウスなどで開催することもあって、自然とファンとの距離が近づく独特な空気感が楽しめるライブだという。そんな大澤さんであればこそ、ライブの一発録りにも適役だろう、ということで白羽の矢が立ったのだ。

「今回のお仕事をお願いする際、打ち合わせでコンセプトを説明したら大澤さんから『ええ?これ編集できないの?』と顔色が変わったんです。でもすぐに事情をのみ込んでくれ『OK!OK!なんとか対応するよ』とおっしゃってくれました」と鈴木さん。やはり、どう考えても普通ではないチャレンジだったわけだ。

歌手であり音楽プロデューサーでもある大澤誉志幸さん。大のベテランであるが、今もなおライブを精力的にこなしているからこそ、今回のイベントでもその圧倒的なパフォーマンスで魅了してくれた

利益度外視の参加費8万円

もっと大きなハードルとなるのが参加費用だ。場所は都内にある「MIT STUDIO」という、プロが使う大きめのレコーディングスタジオとなったが、それでも中に入れるのは、フルで20人が精いっぱい。そのため募集できる人数も限られてしまう。

さらに、スタジオ代、アーティストやエンジニアへの報酬、DSDレコーディングなど機材にかかる費用など……と足し合わせていくと莫大な金額となる。これを定員20名で割り算したら、どうなるのか。費用を切り詰め、利益度外視で計算した結果、観客1人あたりの料金は税込で80,000円。普通のライブとはケタ違いの金額になってしまったのだ。そこで以下の「参加者特典」を前面に打ち出して、観客の募集が行われた。

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参加者特典
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1. 普段入ることのできないレコーディングスタジオでのリアルライブ演奏をコントロールルームのモニターでサウンドチェックしながらお楽しみいただけます。
2. ダイレクトレコーディングした世界に1つしかないマスターデータ(コピーマスター
DSD 11.2MHz)を手にできます!しかもこのマスターコピーデータを手にできるのはご参加いただいた皆様だけ!(当日は24bit96kHzのWAVデータをお持ち帰りいただきます。後日、Blu-ray 盤を送付。)マスターコピーデータは制作はシリアルNo.入りの50枚のみ!お申込み先着順にNo.1から配布いたします。この完全無編集音源は以後販売いたしませんので、ご参加いただいたあなただけのプレミアム音源となります。
3. レコーディング終了後にメンバーと参加者全員(最大20名)で記念撮影をいたします。
4. ライブ終了後はメンバーを囲んでの懇親会を実施いたします。(飲酒あり)

後編(6月11日公開予定)につづく。

藤本 健

藤本 健

DTM、デジタルオーディオ関連をネット、雑誌、書籍などで執筆しているライター。最近はニコニコ生放送やネットラジオでも発信している。

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