ここのところ、左右をつなぐケーブルやヘッドバンドが一切ない完全なワイヤレスイヤホンに注目が集まっている。最近では、クラウドファンディング発の「EARIN」が国内でリリースされており、発売から半年経った今でも価格.comの「ヘッドホン・イヤホン」カテゴリーの注目ランキングで上位をキープしているほどの人気ぶりなのだ。海外の発表会ではこうしたワイヤレスイヤホンの新製品が多数お披露目されており、今後ますます人気になりそうな勢いを見せている。
今回紹介するfFLAT5(エフフラットファイブ)の「Aria One」(アリアワン)も「EARIN」と同じ左右独立型のワイヤレスイヤホンである。プレーヤー、イヤホン間のワイヤレス通信にくわえて、左右ユニット間の通信にも無線を採用したモデルだ。日本の古河電気工業が開発した素材をドライバーユニットに採用するほか、防水設計を採用するのも見どころ。そんな「Aria One」を詳しくレビューする。
fFLAT5の完全なワイヤレスイヤホン「Aria One」
「fFLAT5」は、2015年1月に香港で正式発表されたイヤホン/ヘッドホン専業のオーディオブランド。音質を損なわないファッショナブルなオーディオアクセサリーを市場に送り出すことをコンセプトに、製品を開発しているという新進気鋭のブランドだ。
そんなfFLAT5が発売する「Aria One」は、Bluetooth4.0接続のワイヤレスイヤホンである。やや大型のボディの中に、ドライバーユニットのほか、Bluetooth用のアンテナとバッテリーも内蔵。同じ構造となる「EARIN」と比べてみても、その大きさは倍以上で、重量も15gと約2倍になっている。とはいえ、必要なものをすべて収めた構造であるため、他のケーブル付きBluetoothイヤホンに比べればそれでも十分コンパクトにまとめられている。
筺体は防水設計。性能はIPX5をクリアしており、アウトドアやスポーツの水しぶき程度なら耐えられる。軽めのジョギングをして汗をかく程度なら問題ないレベルだ。
fFLAT5「Aria One」(左)とEARIN「EARIN」(右)。世界最小クラスのBluetoothイヤホンをうたう、「EARIN」と比べてみると、「Aria One」のほうがひと回り大きい。「EARIN」が耳栓型なのに対し、「Aria One」は耳の穴周辺もカバーするようなフタ型になっている。ちなみに、「EARIN」の防水性能はIPX4で、防水性能では「Aria One」のほうがワンランク上だ
インターフェイスは、左右のイヤホン本体に備えられたボタンのみ。押す回数や長さによって、電源の入/切やプレーヤーとのペアリング操作が行える。ペアリング時の注意点としては、最初に右ユニット(ホワイトボディ)から電源を入れること。右ユニットとプレーヤーをペアリングした後で、左ユニットの電源を入れれば自動で左右ユニットがつながる仕組みとなっている。つなげる順番にさえ注意すれば、使い方は簡単だ。
対応するBluetoothのバージョンは 4.0。プロファイルは、音声ストリーミング標準の「A2DP」のほか、音声通話関連の「HSP/HFP」や、リモコン操作の「AVRCP」に対応。Androidスマートフォンなどでは、本体内蔵のマイクで通話できるほか、ボタンで音楽の再生/一時停止などが操作できる。このほか、ワイヤレスでCDと同等な音質を楽しめるaptXコーデックもサポートしている。音楽再生/通話時間は最長4時間。
ちなみに、電源を入/切した時には「パワーオン」や「パワーオフ」などの音声アナウンスが用意されているのもユニーク。Androidスマートフォンと連携したときに、着信した相手の番号を読み上げてくれるのも便利だ。
左右ユニットの中央に搭載されたボタン。このボタンから、電源のオン/オフやペアリング操作が行える。ボタンの隣にあるLEDでは、Bluetoothの接続状況やバッテリー残量が光の色で表される
ノズルは角度が付いたタイプ。イヤーチップは標準の3サイズ(S/M/L)に加えて、Comply製のフォームチップも3サイズ(S/M/L)同梱。さらに耳にしっかり装着できるフックも3サイズ(S/M/L)付属している。
フックを取り付けたときの左右ユニット。イヤーチップだけで外れやすい場合は、このフックをつけることで外れにくくなる
USBケーブル、専用ポーチ、Comply製のフォームチップ3サイズ、標準イヤーチップ3サイズ、フック3サイズが付属されている
さて気になる装着感だが、標準のイヤーチップだけでは正直に言ってやや危うい印象。特に気になったのが、カナル型だが耳に装着しても押し出されていくような感覚があることだ。通勤時といったシチュエーションで外れることはなかったが、激しいスポーツには不向きな感じがした。ジャンプしたくらいではさすがに外れなかったが、ラジオ体操第1の「体をまわす運動」のときには落ちてしまった。伸ばした腕と耳が触れたことが原因で、比較的ソフトな接触でも落ちやすい。そういうときは付属のフックを併用することで多少外れにくくなるが、それでも運動時で使えるのは、速いウォーキングや軽めのジョギングくらいまでだろう。
なお、付属のComply製チップに変えることで、かなり圧迫感を高めることができる。ポイントはいつも使っているイヤーチップのワンサイズ上を選ぶこと。するとピッタリとフィットする。
身長155cmの小柄な女性に装着した様子。イヤホン本体のサイズが大きいため、耳からかなりはみ出している
次は音の要となるドライバーユニットについてみていこう。ドライバーユニットは日本の古河電気工業(古河電工)と共同開発したダイナミック型を採用している。特徴は振動板。ペットボトルと同じPET(Polyethylene Terephthalate)樹脂からできたものになっており、しかも同社が世界で初めて商品化したという、超微細発泡樹脂シート「MCPET」(Microcellular Formed PET)をベースに開発。耐熱性や耐湿性にすぐれているPET樹脂のいいところはそのままに、高密度で振動の弾性にもすぐれたものとなっている。本製品のドライバーに使用されている素材は、これをさらにオーディオ向けに改良したもので、信号喪失や音の歪みの発生を防ぐとされている。
搭載するドライバーはダイナミック型。振動板は古河電工のMCPET技術が採用されたPET素材。巻かれているコイルも同社のOFCケーブルが使われているとのことだ
ドライバーサイズは若干大きい9mm口径。再生周波数帯域は20Hz〜18kHz、インピーダンスは16Ω、最大入力は20mW、音圧感度は99dB。ちなみに、「EARIN」が搭載するドライバーはBA(バランスド・アーマチュア)型で、両者ではドライバーの種類が異なっている。
「Aria One」には、充電器を兼ねた収納ケースが付属しており、ケース背面には電源供給用のmicroUSBポートを搭載している。また、ケース内部にバッテリーを内蔵しているので、本体をケースにしまえば再充電可能。外出先で急に電池切れになっても、すぐ対応できるような仕組みだ。ケース内蔵のバッテリーでは約3回分イヤホン本体を充電できる。ケース内蔵バッテリーの充電時間は約2時間だ。
さらに、このケースのすぐれた点は、ファンクションボタンを押さないと充電が始まらない点。これによりバッテリー劣化をまねきやすい継ぎ足し充電が防げるようになっているのだ。搭載できるバッテリー容量が少ないワイヤレスイヤホンでは、こういう寿命を長く持たせる工夫はありがたい。
シースルータイプのフタが付いた楕円形のケース。中央のパーティションの真ん中にあるのが、ファンクションボタン。そのそばにあるLEDによって、充電状況がわかるようになっている
それでは気になる音質についてチェックしていきたい。今回使用したプレーヤーは、ソニーモバイルのファブレット「Xperia Z Ultra」。楽曲は、CD音源(44.1kHz/16bit)を中心に使用している。
まず標準のイヤーチップを装着して聴いてみた。ダイナミック型らしい音の厚みが特徴的。比較的クリアな音質で、長時間聴いても聴き疲れしにくいサウンドであるように感じた。低音はもっと強いかと思っていたが、変な誇張や脚色がない自然な印象。逆にComplyのフォームチップで聴いてみると、その低音のボリュームが上がる。クリアさはやや損なわれてしまうが、代わりに迫力は大きく増す印象だ。ともあれドンシャリのような派手な音ではなく、メリハリのついたサウンドになっている。
全体的な印象としては、低音域から高音域まで自然な音色が感じられるサウンドだと思う。「EARIN」が採用する1ドライバーのBA型に比べると、好みもあるが、低音の表現はしっかりしている。ハイレゾ音源を十分に楽しめるほどの解像感はないものの、ダイナミック型ならではのバランスのとれた非常に聴きやすい音だと思う。ちなみに、このモデルでは、イヤーチップは適正サイズよりやや大きめのものをつけたほうがよく聴こえやすいようだ。
以上、fFLAT5の「Aria One」をチェックした。本製品の価格.com最安価格は26,784円(2016年6月14日時点)となっており、価格帯から見ても「EARIN」の対抗馬になるモデルだ。ただ、その中身は全く異なるもの。特に筺体サイズを大きくとることで、口径の大きいドライバーを搭載し、ダイナミック型ならではのエネルギー感のある音楽を楽しめるのが「Aria One」の大きな魅力だ。
また、Androidスマートフォンでは着信番号を読み上げてくれたり、通話の応答や終了などの操作もイヤホンから行えたりするなど、スマートフォンとの組み合わせ機能も豊富。コンパクトな筺体デザインは「EARIN」が一枚上手だが、スマートフォンとの連携や充電&収納ケースの使い勝手は「Aria One」のほうがすぐれている。機能で選ぶなら「Aria One」、サイズで選ぶなら「EARIN」といった印象だ。