1台で8種類もの音が楽しめるユニークなヘッドホン、TORQUE「t402v」が登場した。大小サイズが異なる2種類のイヤーパッドが付属し、オーバーイヤーとオンイヤーの両方に対応。さらに各イヤーパッドには低音を調整できるギミックを備え、自分好みの音に変えることもできる。今回はそんな、イヤーパッドを選べて音も変えられる、カスタマイズが楽しいヘッドホン、TORQUE「t402v」をレビューする。
オーバーイヤー(左)とオンイヤー(右)の両方に対応する、TORQUE「t402v」
2015年に設立したばかりのロサンゼルス発のオーディオメーカー「TORQUE」(トルク)から発売された「t402v」は、再生周波数帯域が20Hz〜20,000Hzのダイナミックドライバーを搭載する密閉型ヘッドホン。「t402v」の最大の特徴は、「あらゆる音楽愛好家のニーズに柔軟に適応する」(同社)という、バスブースト機能がついた大小2サイズのイヤーパッドだ。
一般的なヘッドホンの付属イヤーパッドは1種類のみというのが当たり前だが、本製品は2種類のイヤーパッドを付属。大きいイヤーパッドを付けることで耳全体を完全に覆うオーバーイヤー型として、いっぽうの小さいイヤーパッドを付ければ耳にのせるオンイヤー型としてハイブリッドで使えるようになっているのだ。着け心地のよさや安定感を重視するときにはオーバーイヤー型を選び、外出時には携帯性にすぐれたオンイヤー型にしたりと、1台ながらさまざまなシーンにフィットできる。
イヤーパッドはどちらも立体縫製でクッション性が高い。フェイクレザーを採用しており、肌触りも良好だ。ただし、オンイヤーとオーバーイヤーでは内部の作りが若干異なっている
外出時にはオンイヤーを付けてポータブル機(写真左)として、自宅ではオーバーイヤー(写真右)にしてゆったり楽しむといった楽しみ方が可能
また、大小それぞれのイヤーパッドにはバスブースト用の空気穴「modi:fiテクノロジー」を搭載。イヤーパッド裏面に搭載された4つの空気穴を選ぶことで低音の強弱が変えることができ、フラット傾向のニュートラルなバランスから力強い低音も楽しめる。くわしい音質については後述するが、その効果は歴然。「t402v」では、オーバーイヤーとオンイヤーの2スタイルそれぞれで、4種類、つまり計8種類の音を楽しめるようになっているのだ。
イヤーパッド裏面に用意されている低音調整機構「modi:fiテクノロジー」。上下左右それぞれに設けられた空気穴の大きさが異なっているのがわかる。上側のマグネットの間にあるスリットと、色分けされた空気穴の位置を合わせることで、低音調整ができるようになっている。それぞれ色分けされているため、見た目からしてわかりやすい
「modi:fiテクノロジー」の帯域特性。黒色のニュートラルなバランスから力強い低音を楽しむこともできる
次はフィット感に大きく関わる本体デザインを見ていこう。まず本体サイズは全体的にコンパクトで、オンイヤー用のイヤーパッドを付けた状態でなら、カバンの中に入れて持ち運ぶこともできる。オーバーイヤー型の場合持ち運びには適さないものの、他の製品に比べれば小さめだ。
ハウジングは長方形状の薄型デザインで金属製。表面加工を変えることで見た目にも配慮している。トップパネルにはヘアライン加工、側面にはサンドブラスト、そしてエッジ部にはダイヤカットと、それぞれ表面加工が違うので、光の当たり方によって見映えが変化する。ただ金属を用いているため小型ながらやや重めだ。
イヤーパッドを取り外した状態の本体。取り付けるイヤーパッドによって大きさは変わるものの、ポータブル用途でも十分通用するサイズだ
特徴的なのがヘッドバンドだ。幅は細めだがスプリング鋼で補強されている。頑丈なだけでなく手でグニャッと曲げられるほどのしなやかな作りだ。頭頂部が張り出す傾向のあるアジア人でも、違和感なくピッタリとフィットする。実際に着けたところ窮屈さは感じなかった。側圧もほどよい。
丈夫でしなやかさのあるヘッドバンド。着け心地も良好だ
ヘッドバンド内側のクッションは固めだがゴツゴツとした感触はない。ヘッドバンドの表面にはメーカーロゴが書かれている
トップパネルにはヘアライン加工、側面にはサンドブラスト、そしてエッジ部にはダイヤカットと、別々の表面加工が施されている
ドライバーユニットにも注目したい。搭載される40mm径のダイナミック型ドライバーには、応答性にすぐれたバイオセルダイアフラム(振動板)を採用。バイオセルダイアフラムは、一般的なPET系のフィルムダイアフラムに比べて高剛性かつ軽量。クリアでひずみのない音が楽しめる。ダイアフラムを動かすマグネットには、高出力のネオジウムを搭載。音質についても抜かりがない。
ケーブルはiPhone対応のマイク付きリモコンケーブルで、iPhoneとなら通話も可能だ。線材は無酸素銅(純度の記載はない)。シールド性能を上げるためマイラー素材が使われている。接続ユニットは左側ハウジングにあり、ケーブルは着脱可能。
PET系のフィルムダイアフラムに比べて、高剛性かつ軽量なのがバイオセルダイアフラム。クリアでひずみのない音が楽しめるという
ケーブルは左ハウジング出し。着脱可能でiPhone用のコントローラーも備えている
さて気になる音についてレポートしていこう。まず低音の調整なし(黒)の状態で、オーバーイヤーとオンイヤーの音の違いを聴き比べてみた。オンイヤーでは音が全体的に強く、低域から高域までハッキリした音が楽しめる。逆にオーバーイヤーは音の明瞭さはオンイヤーに比べて引けをとるものの、音の響きの強さが増すと同時に高域寄りになる印象だ。ポップスなどのボーカル系はオンイヤーのほうがノリよく楽しめるし、逆にジャズやオーケストラなどはオーバーイヤーのほうがその場の雰囲気がよく出ていると感じる。
次に低音調整がもっとも強い状態で聴いてみた。ノーマルな状態に比べて低重心になり、ドラムスはパンチのある音に、ベースはゴリゴリと鳴る。他の帯域の音が若干マスクされるほどボトムがどっしりとしている。また適度なキレやスピード感もあり、クラブミュージックやEDMといった音楽との相性は非常によい。試しにピアノ曲も聴いてみたが、低い音にしたがって強弱のコントラストが際立つ気持ちのよい音が楽しめた。
なお、4つある低音調整の強弱を端的に言うなら、ノーマルの黒色を基準にすると、赤色が「1.2〜1.3倍」、青色が「1.5〜1.7倍」、黄色が「2倍」というイメージ。フラット好きなら黒色を選べばいいし、少し低音の肉付けが欲しい場合は赤色がベスト。低音好きなら青色もしくは黄色を選ぶとよさそうだ。
「t402v」は、いつもそばに置いておけるヘッドホンだ。オーバーイヤーとオンイヤーの両方に対応し、低音の表現を変えられるなど、徹底的に自分に合わせて使い込むことができる。また、好みの音色を選ぶだけでなく、利用シーンに応じてスタイルを変えられるのもありがたい。外出時にはオンイヤーにして持ち運んだり、騒音の大きい環境下ではあえて低音ブーストを強めにしたりと、環境にそって音を合わせていけるからだ。
価格.com最安価格は42,973円(2016年8月26日時点)と高価で、同価格帯のハイエンドヘッドホンに比べれば、音のクオリティが及ばない面はたしかにある。だが、聴くジャンルやその日の気分、環境に合わせて柔軟に対応できる点は、ほかの製品にはない大きな魅力。いつもそばに置いて楽しめる頼もしいヘッドホンと言えるだろう。