ということで、ここからはズバリ、両コーデックの音質についてチェックしていこう。まずは最新のaptX HDから。今回は、ヘッドホンにオーディオテクニカ「ATH-DSR9BT」を、プレーヤーにはAstell&Kern「AK300」を組み合わせて試聴することにした。
aptX HDの音質チェックに用いたAK300とATH-DSR9BT
ヘッドホンについて簡単に説明しておくが、今回使用したオーディオテクニカのヘッドホンATH-DSR9BTは、昨年11月に発売されたBluetoothヘッドホンのフラッグシップモデルとなる製品だ。今回フィーチャーするaptX HD対応のほかにも、音声信号をドライバーまでフルデジタル伝送するDnote技術を採用したのが大きな特徴となっている。
ちなみに、Dnote技術を採用したBluetoothヘッドホンとして「ATH-DSR7BT」も同時発売されたが、「ATH-DSR9BT」は4芯撚り線構造の7N-OFCショートボイスコイルにより、高音質が追求されている。また、ポータブル性と音質の両立を推し進めるべく、音響スペースと電気回路スペースを分けて最適化したアイソレーション設計や振動板前後の空間を仕切るダンパーの設置、硬質なアルミニウムハウジングをネジ留めで固定するなど、随所に拘った物づくりがなされているのもポイントだ。
Dnote技術を用いたフルデジタル伝送に対応したATH-DSR9BTは、オーディオテクニカのBluetoothヘッドホンのフラッグシップモデルだ
ATH-DSR9BTを装着したところ
プレーヤーのAK300は、Astell&Kernの最新シリーズ、AK3xxシリーズのスタンダードモデル。旭化成エレクトロニクス製DAC「VERITA AK4490」や超低ジッターを誇るVCXO CLOCKの採用など、上位モデルとの共通部分を多く持つハイコストパフォーマンスモデルで、2016年10月に配信されたファームウェアのアップデートにより、aptX HDに追加対応した。
AK300とATH-DSR9BTをペアリングしたところ。aptX HD対応製品同士のペアリングが成功すると、aptX HDロゴが表示される
そのサウンドはというと、とてつもなく鮮度感の高いストレートな表現が特徴。Bluetooth入力からドライバーまでデジタル伝送であることが功を奏しているのだろう、一切のフィルター感がない、とても距離感の近いサウンドなのだ。結果として(PC接続と比較してみて)、aptX HDの特徴がよく分かった。ひとことでいえば、「いやいやBluetoothでこの音が楽しめるのだったら充分魅力アリでしょう!」といったイメージ。コーデック=DD変換が入るためか、PC接続に対してクオリティ面での低下を感じる部分はあるものの、その差は大きくなく、歌声やアコースティック楽器などの表現のリアルさ、空間的な広がり感など、CDリッピング音源を有線で聴いた場合とは情報量的に根本的な差を感じさせてくれる。結果、足し引きして良質なシステムでCD音源を聴いたときと同等か、それ以上の良質さを感じさせてくれた。ハイレゾ音源ならではのハイクオリティさをしっかりと活かすことができる、優秀なコーデックといえる。
さて、ここからはATH-DSR9BTならではの音質的な特徴を。先にも述べたとおり、解像感の高さはかなりのもので、歌声の細やかなニュアンスが伝わってきてリアルだし、空間的な広がり感も充分に感じられる。とはいえ、最大の特徴はフォーカス感の高さだろう。曖昧さのいっさいないキレッキレのサウンドで、情報の全てを引き出してそのまま伝えてくれるのだ。そのため、J-POPのなかには高域が目立ちすぎるマスタリング傾向のものもいくつかあったが、スピーディであって尖っているわけではない高域のおかげもあって、聴き心地はなかなか良好だ。また、曖昧さがない=圧倒的に正しい“定位感”を味わえるという点でも貴重なヘッドホンといえる。
続いて、LDACのほうもチェックしていこう。こちらはソニー同士のコンビ、ワイヤレス&ノイズキャンセリングヘッドホン「MDR-1000X」とウォークマン「NW-WM1A」を組み合わせてみた。
LDACの音質チェックには、ソニーMDR-1000XとNW-WM1Aを使用した
こちらも使用した製品について軽く触れておこう。まずMDR-1000Xだが、ソニーのBluetoothヘッドホンのフラッグシップモデルで、特に音質とノイズキャンセリング性能について徹底的にこだわったモデルとなっている。LDACを搭載するほか、専用設計となるアルミニウムコート液晶ポリマー振動板採用の40mmドライバーなど、細部まで徹底的な音質向上が図られている。また、ノイズキャンセリング機能に関しては、ユーザーの装着状態に合わせて最適化する「パーソナルNCオプティマイザー」や、周囲の騒音に適したモードを自動で選択する「フルオートAIノイズキャンセリング機能」、音楽を楽しみつつ周囲の音も聞こえる「アンビエントサウンドモード」など、性能と利便性の両面において機能アップが推し進められている。
MDR-1000Xは、ソニーBluetoothヘッドホンのフラッグシップモデルだ。アクティブノイズキャンセリング機能や、圧縮音源やCD音源をハイレゾ相当にアップコンバートする「DSEE HX機能」などを備えている
MDR-1000Xを装着したところ
プレーヤーのウォークマン NW-WM1Aは、高音質をうたうシグネチャーシリーズのウォークマンで、進化したフルデジタルアンプ「S-Master HX」によって、高級ヘッドホンもしっかり駆動する高出力と上質なサウンド、そして11.2MHzまでのDSD/384kHz/32bitまでのリニアPCM音源のネイティブ再生を実現したモデルとなっている。また、新たに4.4mm5極タイプのバランス接続端子を採用している点も特徴だ。究極のサウンドを追求したフラッグシップモデル「NW-WA1Z」に対して、こちらは音質とコストパフォーマンスの巧みに両立したモデルと言っていいだろう。
LDACに対応したNW-WM1Aに、同じくLDACに対応したMDR-1000Xをペアリングしたところ。ウォークマン側では、接続品質を音質優先と接続優先の2つから選択できた
そのサウンドは、ひとことで表現すると美しく心地よい音。全体のまとまりがよく、帯域バランスも良好で、長時間のリスニングでも疲れることのない、なかなか上質なサウンドといえる。女性ボーカルは、声に艶が感じられていつもよりも印象的な歌声に感じられる。いっぽうで、細部のニュアンス表現や表現のストレートさなどは、ATH-DSR9BTのあとに聴くと曖昧に思える部分も多く、求めているものが違っている印象だ。
ユニークだったのが、ノイズキャンセリングをオンにしたときのサウンド。低域がかなりしっかりと届いてくるようになり、迫力のあるパワフルなビートを聴かせてくれるようになるのだ。これは、ノイズキャンセリング機能によって低域の騒音をしっかりとマスクしてくれた恩恵だろうが、演奏のノリのよさについてはこちらが断然上。普段からノイズキャンセリングをオンにして活用することをオススメしたい。個人的には、アンビエントサウンドが好ましかった。
ちなみに、こちらのシステムは有線で比較試聴してみたのだが、印象はそれほど変わらず。MDR-1000Xのキャラクターが支配的な組み合わせとなっているようだ。LDACのクオリティによる音質への影響は(今回の組み合わせについては)推測の域を出ないのだが、過去の経験から、CD以上、ハイレゾ未満の基礎体力を持ち合わせていることは確認できている。そういった素材を充分に活かしつつ、製品ならではのサウンドを作り上げている点ではさすがといえる。
ということで、今回は高音質Bluetoothコーデックを持つ2つの高級ヘッドホンシステムを試聴させてもらったが、ハッキリといえることは、どちらも素晴らしい音質だったということだ。Bluetoothヘッドホンにだってそれなりに良質なサウンドを持つ製品がいくつもあることは知っているが、コーデックという足かせによってどうしても(Bluetooth接続では)実力が発揮できないことを歯痒く感じていたことも事実だ。そんな思いが一瞬で払拭される、素晴らしい組み合わせだったと思う。
詳細をいえば、さらなる可能性を感じるのがaptX HDだ。96kHz/24bit対応や最大990kbps伝送などスペック的にはLDACのほうにいくつかの優位性があるのだが、絶妙な割り切りがあるのか(単にATH-DSR9BTがいい製品だけなのかもしれないが)、粒の細かやかさや音のリアルさなど、音質的な喪好感触だった。また、下位互換となるaptXの採用製品数をみても、普及する可能性は高いと思われる。とはいえ、LDACのほうも基礎体力の高さに加え、ソニー製品以外への採用が進む予定があるなど、決してそん色はない印象だったりする。どちらにしても、aptXですら別物と思わせる、とても良質なサウンドであることは確証しよう。