日本国内における、2020年1〜12月の自動車販売台数(メーカ−別)を振り返ると、1位はトヨタで、2位がスズキであった。過去の数年間は、1位がトヨタ、2位がホンダ、3位がスズキだったので、2位のホンダと3位のスズキが入れ替わったことになる。スズキは、日本では軽自動車に強いメーカーという印象だが、近年は小型車にも力を入れている。小型車の車種数を増やすことで、2020年には国内で販売されるスズキ車全体の17%が小型車、および普通車になった(参考として、ダイハツは9%)。
2020年12月4日に、4代目へフルモデルチェンジされた、スズキ 新型「ソリオ」。取り回しのよさなどは先代モデルから受け継ぎながら、ボディサイズを拡大することによって居住空間や荷室が広げられたほか、全車速追従の「アダプティブクルーズコントロール」や「カラーヘッドアップディスプレイ」を初採用するなど、安全、快適装備の向上が図られている
そんなスズキの小型車の中で、日本における販売台数が最も多い車種が、両側スライドドアを搭載しているコンパクトハイトワゴンの「ソリオ」だ。ソリオは、2015年から3代目モデルが販売されていたが、2020年12月4日にフルモデルチェンジが施され、4代目となった。今回、フルモデルチェンジされた新型ソリオに試乗したので、その印象をレビューしたい。
標準ボディの新型「ソリオ」のフロントエクステリアとリアエクステリア
標準ボディよりも上級な内外装を持つ、新型「ソリオ バンディット」のフロントエクステリアとリアエクステリア
試乗グレードは、標準ボディのソリオ「HYBRID MZ」と、内外装が上級化されているソリオ バンディット「HYBRID MV」の2グレードだ。エンジンは、どちらも1.2L直列4気筒のマイルドハイブリッドが搭載されている。マイルドハイブリッドの機構は、基本的に先代と共通で、モーター機能付きの発電機が減速時の発電やモーター駆動の支援、アイドリングストップのエンジン再始動などを受け持つ。なお、エンジンの再始動にはベルトが使われているため、セルモーターに比べてノイズが小さい。
ちなみに、先代にはEV走行ができるストロングハイブリッドもラインアップされていたのだが、4代目では廃止されている。その理由として、ストロングハイブリッドはマイルドハイブリッドに比べて燃費の向上率が小さく、価格の上昇分を燃料代の差額で取り戻せないことがある。そういったこともあって、ストロングハイブリッドの販売台数はソリオ全体のわずか5〜10%にとどまっていた。スズキが想定していたよりも、ストロングハイブリッドの販売台数が少なかったため、今回のフルモデルチェンジによって廃止されたとのことだ。
コンパクトなボディサイズや便利な両側スライドドアなど、ソリオの基本的な特徴は先代を継承しつつ、新型では室内を拡大させることで居住空間の快適さがさらに増している
ソリオは、全長や全幅が小さいので、幅のせまい道路などでも運転しやすい。最小回転半径も、4.8mと小回りがきいて取り回ししやすい。いっぽう、全高は1,745mmと高く、車内が広い。さらに、後席ドアは両側スライド式なので、乗降性もいい。そして、新型はこれまでのソリオの特徴を継承しながら、さらなる改善が施されている。新型ソリオの全長は、先代よりも80mm長い3,790mmになり、荷室長は100mm伸びている。全幅は、20mm広い1,645mmになり、並んで座る乗員同士の間隔が広げられた。
新型「ソリオ」のインパネ
インパネデザインは、ワイド感が強調されていて、先代に比べて左右方向への広がり感が増している。中央にはメーターが配置されているなど、インパネの基本レイアウトは先代と共通だが、細かな箇所の質感が高められている。
新型「ソリオ」のリアシート
新型ソリオは、空間効率が抜群にすぐれており、頭上や足元の空間がかなり広い。後席のスライド位置を後端まで寄せれば、身長170cmの大人4名が乗車して、後席に座る乗員の膝先には握りコブシ3つ分以上の余裕がある。さらに、左右方向の空間も増している。室内幅を広げ、内装の形状を工夫したことによって、乗員の肩が内装に干渉しにくくなっている。
また、荷室を広げるために後席のスライド位置を一番手前に寄せても、膝先には握りコブシ2つ分もの余裕がある。前述のとおり、新型ソリオは荷室長を100mm伸ばしているので、後席を前端にセットしたときの荷室長は715mmに達する。4名で乗車したうえで、十分な量の荷物を積み込むことができるのだ。
シートの座り心地は、前後席ともに先代と同等だ。コンパクトカーとしては平均水準で悪くはないのだが、後席は腰が落ち込むような座り方になるのが少し気になる。
リアシートを倒した状態のラゲッジルーム。少し段差があるのと、やや前方に向けて上方に傾斜があるものの、その広さはコンパクトカーの中では最大級のものだ
また、後席の背もたれを前側に倒せば、荷室長をさらに拡大できる。広げたラゲッジルームの床には少し傾斜ができるのだが、後席をたたんだときの荷室長は1,390mmと、自転車のような大きな荷物も積み込める。全長が3,800mm以下のコンパクトカーとしては、荷室容量は最大級だ。ひとつ注意したいのは、ラゲッジルームの床面地上高が少し高いことだ。路面から荷室床面までの高さは665mmだから、スズキ「スペーシア」の510mmに比べると約150mm高い。重い荷物を積むことの多いユーザーなどは、荷室床面の高さに問題がないかをあらかじめ確認しておきたい。
新型「ソリオ」は、車幅がコンパクトで左右の視界もいいので、狭い道なども走りやすい
では、新型ソリオに試乗してみよう。乗り始めてすぐに、ソリオの狭い市街地や駐車場での扱いやすさを改めて実感した。全幅は先代よりも20mm広いが、ドアミラーの外側で測った実質的な車幅は同じなので、狭い裏道などでのすれ違いも容易だ。また、水平基調のボディはサイドウィンドウの下端が低く抑えられているので、前後左右ともに視界がいい。
新型「ソリオ」の走行イメージ
1.2Lのマイルドハイブリッドは、実用回転域(2,000〜3,500rpm)の駆動力に余裕があって運転しやすい。背の高いボディながら、車重は2WDであれば1,000kg以内に収まっているので、加速時にパワー不足を感じる機会もほとんどない。さらに、4,000rpmを超えると、吹け上がりが活発になって加速に力強さが増していく。また、先代に比べてエンジンノイズも静かになっている。
マイルドハイブリッドのモーターの最高出力は、3.1馬力と小さいものだ。そのため、モーターの駆動力はほとんど体感できないが、燃費を向上させる効果はある。2WDの燃費(WLTCモード)は、19.6km/Lと良好だ。
新型「ソリオ」の走行イメージ
操舵に対する車両の反応は、背の高いコンパクトカーとしては機敏なものだ。市街地をキビキビと走りやすくする配慮だが、危険を避けるときなどにステアリングを素早く切ると、ボディが唐突に振られやすい。また、後輪の接地性を損ないやすい一面もあるので、もう少し後輪の動きが落ち着いているほうがいいのではと感じる。一般的に、背の高いコンパクトカーや軽自動車は、操舵感を鈍く抑えて曲がりにくくすることによって、相対的に後輪の接地性を高めている傾向にある。だが、スズキはそのあたりをあえて鈍く抑えずに、車両を内側へと積極的に向ける車種が多い。その特徴を、新型ソリオも受け継いでいるのだが、運転しているとやや不安に感じられる場面もあった。もう少し、後輪の安定性が高められれば、走りのバランスも向上するはずだ。
新型「ソリオ」の試乗イメージ
乗り心地は、新型になって快適性が高められている。タイヤは、燃費を重視して転がり抵抗が低く、指定空気圧も高めだが、タイヤが路面を細かく跳ねるような振動は抑えられている。大きめの凹凸を乗り越えたようなときの突き上げ感も、和らげられている。新型ソリオは、後輪の接地性にいくぶん改良の余地が残されているものの、コンパクトなボディや良好な視界、鈍さのない操舵感、乗り心地の改良などによって市街地では快適に運転できるだろう。
安全装備は、歩行者を検知する「衝突被害軽減ブレーキ」や、前後両方向に対応する「誤発進抑制機能」「サイド&カーテンエアバッグ」などが、全車に標準装備されている。運転支援機能は、Gを除く全グレードに車間距離を自動制御できる「全車速追従型クルーズコントロール」が採用されている。ちなみに、このクルーズコントロールは先行車に合わせて停車時まで追従するが、停車後に2秒を経過するとブレーキが解除されてしまう。長く停車する機能はないので、注意したい。
■スズキ 新型「ソリオ」「ソリオ バンディット」のグレードラインアップと価格
※価格はすべて税込み
-ソリオ-
G:1,581,800円(2WD)/1,707,200円(4WD)
HYBRID MX:1,850,200円(2WD)/1,975,600円(4WD)
HYBRID MZ:2,022,900円(2WD)/2,148,300円(4WD)
-ソリオ バンディット-
HYBRID MV:2,006,400円(2WD)/2,131,800円(4WD)
グレードは、4種類がラインアップされている。推奨グレードだが、中間グレードのソリオ「HYBRID MX」(1,850,200円)を選び、オプションでLEDヘッドランプ(55,000円)を加えるといった方法もあるが、もし予算に余裕があるならばソリオ「HYBRID MZ」(2,022,900円)を選びたいところだ。HYBRID MZの価格は、HYBRID MXよりも約17万円高くなるが、前述のLEDヘッドランプに加えて、右側スライドドアの電動機能やヘッドアップディスプレイなどの魅力的な装備が、標準で付いてくるからだ。
また、ソリオ バンディット「HYBRID MV」(2,006,400円)は、ソリオのHYBRID MZよりも約2万円安いが、右側スライドドアの電動機能が標準装備されず、オプションになる(47,300円)。それでもソリオ バンディットは、外観が専用デザインになることなどを考えれば割安と言える。数年後の売却額は、一般的に標準ボディよりも高くなるはずだ。
ソリオは、とことん実用性にすぐれているコンパクトカーなので、子育て世代から、ミニバンからのダウンサイジングを希望する方まで、幅広いユーザーに適している。さらに、「スペーシア」のような背の高い軽自動車では走りに不満があって、小型車にグレードアップしたいといったニーズにもピッタリだろう。
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト