レビュー

スズキ「ワゴンRスマイル」の質感の高さはもはや“プレミアム軽”の域に!

2021年9月に発売された、スズキの新型車「ワゴンRスマイル」。今回、ワゴンRスマイルにおける開発のポイントや特徴的なデザインなどについて、スズキの開発者へ改めて話をうかがったのでお伝えしたい。

スズキ「ワゴンRスマイル」のエクステリア

スズキ「ワゴンRスマイル」のエクステリア

ワゴンRスマイルの製品画像
スズキ
4.01
(レビュー18人・クチコミ188件)
新車価格:129〜171万円 (中古車:99〜205万円

車名に「ワゴンR」を入れた理由

「軽自動車におけるスライドドア車の市場は着実に伸びていて、2020年度に日本で販売された軽自動車のうち、半分以上がスライドドア車になります。いっぽう、スズキの軽自動車におけるスライドドア車の販売比率を見ると、ライバル社に比べてそこまでシェアを取れていないのが現状になります。軽自動車市場ではスライドドア車の需要が伸びているにも関わらず、シェアが伸びていない。そこで、我々としてはスライドドア車のラインアップが足りていないのではないか、そう考えたのがきっかけです」そう話し始めるのは、スズキ 商品企画本部 四輪商品第一部 チーフエンジニアの高橋正志さん。つまり、スズキの軽自動車のラインアップ上に、ユーザーが望むスライドドア車が足りなかったことが、ワゴンRスマイルを投入した大きな要因になるとのことだ。

右の男性は、スズキ 商品企画本部 四輪商品第一部 チーフエンジニアの高橋正志さん

右の男性は、スズキ 商品企画本部 四輪商品第一部 チーフエンジニアの高橋正志さん

そこで、スズキではどのようなスライドドア車が求められているのかを市場調査したところ、「ワゴンRくらいの背の高さが望まれていたのです」と高橋さん。だが、ワゴンRスマイルの車高は、ワゴンRよりも45mm高くなっている。その理由は、ワゴンRよりも70mm高められ、「スペーシア」と同じシートポジションにある。現在のスライドドア車は、ハイトワゴンが需要を引っ張っている。スズキではスペーシア、ホンダは「N-BOX」、ダイハツは「タント」などだ。また、小型車でもミニバンやSUVなど背の高いクルマが増えている、「そういったクルマに共通するのは、着座ポイントが高く視界の見晴しがいいことです。そして、それによって安心して運転できるというお客様の声を多く聞いたのです」と言う。ただ、そのまま車高を70mm上げるとスペーシアのようなハイトワゴンの車高になってしまうので、極力ワゴンRに近い車高にすべく、必要な室内寸法を確保して45mmに収めたのだという。

スズキ「ワゴンRスマイル」のテールロゴ

スズキ「ワゴンRスマイル」のテールロゴ

もうひとつ、筆者が疑問に思ったことを開発者へうかがってみた。それは、車名になぜ「ワゴンR」を入れたのかということ。高橋さんは、「たとえば、車名を『スマイル』にすると、まずスマイルとはどのようなクルマなのかという説明から始めなければいけません。ですが、ワゴンRと言えば、すぐに想像してもらえます。そこで、『ワゴンRスマイル』という車名にすることで、『ワゴンRくらいのサイズのクルマなんだ』と、直感して頂けるだろうと考えたのです」と説明する。

「ワゴンR」並の車高にスライドドアが装着された「ワゴンRスマイル」

「ワゴンR」並の車高にスライドドアが装着された「ワゴンRスマイル」

だが、スライドドアにこだわるのであれば、ワゴンRをスライドドア車にしてもよいのではないだろうか。だが、高橋さんはワゴンRには使命があると語る。「昔は、『アルト』くらいが軽自動車における標準的な車高でしたが、いまはワゴンRくらいが価格も含めてスタンダードだと考えています。また、より背の高いハイトワゴンになると、さまざまな利用シーンを想定して開発しますので、価格は高くなる。そのように考えると、ワゴンRはベーシックな価格も含めた基本性能をしっかりと押さえるべきだと考えた時に、ワゴンRを全部スライドドアにしてしまうのはやはり違うと思っているのです」と話してくれた。

「ワゴンRスマイル」に搭載されているエンジンは、全車NAエンジンになる

「ワゴンRスマイル」に搭載されているエンジンは、全車NAエンジンになる

ワゴンRスマイルには、ターボ車は設定されていない。これについて、高橋さんは「企画初期の段階で、設定するかどうかはとても悩みました。当然、設定したほうがお客様にとっては選択肢が増えるのですが、今回想定した利用シーンと他銘柄のターボ車の比率を見ると、いちばん多いのは『ハスラー』が30%前後ぐらいで、スペーシアでは大体25%前後。ですが、ワゴンRでは10%行かないくらいなのです。そういったことを考えると、まずはNAで、となりました。お客様に、『燃費がいいね』と言っていただけるように、NAエンジンを作り込んでいます」と答えてくれた。

ターゲットユーザーは、「スペーシアのような大きさが必要ない、まだ結婚される前の若い方や、子育てを卒業された世代などです」と高橋さん。「実は、若い方にもスライドドアの需要は多くあります。今の若い方はミニバンに乗って育っているので、スライドドアがあるのが普通という方も多くいらっしゃいます。実際にインタビューした時には、『ヒンジドアやスイングドアって、何のことでしょうか』と言われたり、『スライドドアのほうが普通ですし、便利じゃないですか』とおっしゃられる若いお客様が多く居られました。若い方は、スライドドアの便利さがよくわかっていますので、エクステリアデザインはこれまでのような箱型ではない、若い方たちにも響くようなスタイリングを意識して開発しました」と語った。

「かわいい」と同時に「カッコいい」と言われるように

「ワゴンRスマイル」のフロントエクステリア

「ワゴンRスマイル」のフロントエクステリア

「ワゴンRスマイル」のリアエクステリア

「ワゴンRスマイル」のリアエクステリア

ここからは、スズキ 四輪デザイン部 四輪先行デザイングループの新居武仁さんに、ワゴンRスマイルのエクステリアデザインについて語ってもらおう。デザインの方向性について、新居さんは「ワゴンRの男女比率は5:5とおよそ半々なのですが、軽自動車全体では4:6と女性のほうが高いのです。そんなこともあって、女性へアピールしたいというのはありました」と言う。だが、高橋チーフエンジニアからは、「女性にはウケたいけれども、女性一辺倒で開発するのはやめてほしい、と言われていました。かわいいだけではダメ、と。『かわいい』と4回言われたなら、『カッコいい』と6回言われる。そんなクルマを作ってほしい、と」とコメントする。

「ワゴンRスマイル」は、ヘッドライトを楕円形にすることによってフロントフェイスに表情を持たせている

「ワゴンRスマイル」は、ヘッドライトを楕円形にすることによってフロントフェイスに表情を持たせている

そこで、まずワゴンRスマイルのヘッドライトは完全な丸目ではなく、すこしだけ楕円にすることで表情を作った。たとえば、BMW「ミニ」やポルシェ「911」がそうであるように、丸目であってもその表情如何で、男性が乗っても女性が乗っても違和感のないものに仕上げられるからだ。

「ワゴンRスマイル」のサイドイメージ

「ワゴンRスマイル」のサイドイメージ

また、ワゴンRスマイルは、サイドのボリューム感も特徴的だ。軽自動車でありながら、ボディセクションはしっかりと抑揚を持たせている。じっくりとサイドデザインを見てみると、ボディに対してグラスエリアが小さいことがわかる。いわゆる、チョップドルーフ的な印象だ。新居さんは、「ボディががっちりしていて、キャビンが小さいのです。ベルトラインは、ほぼスペーシアと一緒の高さなのですが、キャビン部分を90mmから100mm低くしています。ボディは大きく、頭は小さく見えるようにしましたので、スポーティーなエクステリアにも映ると思います」と説明する。

温もりのある手縫いの糸などをこだわって表現

「ワゴンRスマイル」のインテリア

「ワゴンRスマイル」のインテリア

いっぽう、インテリアデザインはどうだろうか。スズキ 四輪デザイン部 四輪インテリアグループマネージャーの辻村隆光さんは、「ターゲットユーザーを考えると、しっかりとモノにこだわりを持っておられる方々ですので、こだわりのあるクルマのほうがよいでしょう、と。そこで、世の中の流れとしてシンプルであるのと同時に、普遍的な洗練さやぬくもり、温かみを持たせたほうがよいのではないかというのが、社内メンバーの一致した意見でした」と話す。

「ワゴンRスマイル」のフロントシート

「ワゴンRスマイル」のフロントシート

インパネやドアライニングなどに施された縫い目のデザインなどにおいても、こだわって開発されている

インパネやドアライニングなどに施された縫い目のデザインなどにおいても、こだわって開発されている

そこで、辻村さんのインテリアグループは、「手作りのような、ていねいな表現をなるべく全体に散りばめたい」とのことから、たとえばシートは「側面や背面に使われるファブリックを、表情のある布を使用することによって、室内での心地よさや温もりのある空間へと仕立て上げています。また、ステッチも手縫い感や温もりを、疑似とはいえしっかりと表現しようと、糸目を織り込むところの周辺の形状の断面や糸目などを、ひとつ一つ再現しました。さらに、布同士をつないで糸で縫うと、その間に裏側の糸目のピッチ(縫い目)が見えてくるのですが、そういった細部についてもデザインしました。また、縫った際にもっともテンションがかかる革のトップのアール部分などは、シボをやや浅くして革が引っ張られるなどを表現しています」と、細部に至るまでかなりこだわったことを語ってくれた。

そんな説明を聞いた後、実際にワゴンRスマイルに触れてみると、特にインテリアにおける質感の高さが感じられた。驚くほど広いということはないものの、ほどよい広さで安心感がある。シートのショルダーや座面のサポート部分はあまり張り出していないため、乗降性もいい。これは、街乗りがメインであることを想定しているからだろう。ただし、ペダルレイアウトが若干外側に寄っているようで、真っ直ぐ足を延ばしてペダルを操作しようとすると、シートの右寄りに座りがちになってしまったので、気になる方はディーラーなどで試乗して際に確認してみてほしい。だが、そのほかは気になる点はほとんどなく、市街地における走りはスムーズそのもので、アイドルストップからの再始動もショックはまったく感じられず、乗り心地も大きなショックなどはシートが吸収してくれて、なかなか快適に運転することができた。

「ワゴンRスマイル」の走行イメージ

「ワゴンRスマイル」の走行イメージ

エンジンについては、NAなので高速道路では少々物足りない印象だったが、市街地においては必要にして十分なものだ。取り回しもしやすいので、市街地がメインであれば不満を感じるようなことはほとんどないだろう。ちなみに、高速道路と市街地とも燃費は20km/Lをオーバーし、十分な経済性の高さも見せてくれた。

ワゴンRスマイルは、ワゴンRほどの車高を持つスライドドアとして、これからも存在をアピールしていくはず。だが、ワゴンRという名前が逆に足かせとなり、派生車というポジショニングに見えてしまうのが惜しいところだ。なぜなら、ワゴンRスマイルの作りは非常に質感が高く、まさにプレミアム軽といっても過言ではないほどのものだからだ。少しおしゃれな軽がほしいという人は、ぜひ一度実際にクルマを見てみることをおすすめしたい。

内田俊一

内田俊一

日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)会員。自動車関連のマーケティングリサーチ会社に18年間在籍し、先行開発、ユーザー調査に携わる。その後独立し、これまでの経験を活かし試乗記のほか、デザイン、マーケティング等の視点を中心に執筆。

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(レビュー18人・クチコミ188件)
新車価格:129〜171万円 (中古車:99〜205万円
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