レビュー

日産の電動SUV「アリア NISMO」に試乗!専用チューンがもたらす旋回性と軽快感

電気自動車の量産化を、早期に実用化したのは日産だ。2010年に、世界初の本格的な量販電気自動車として登場した初代「リーフ」は、電気自動車として好調な売れ行きを記録した。その後、日産は2017年に2代目「リーフ」、2021年に上級SUVの「アリア」、2022年に軽自動車「サクラ」などの電気自動車を順次投入していき、いずれも人気を博す。

2024年3月8日、日産の電動SUV「アリア」の全グレードが発売(一部グレードは販売再開)されるとともに、NISMOによるチューニングが施された「アリア NISMO」の正式な発売も発表された

2024年3月8日、日産の電動SUV「アリア」の全グレードが発売(一部グレードは販売再開)されるとともに、NISMOによるチューニングが施された「アリア NISMO」の正式な発売も発表された

だが、「アリア」については半導体不足の影響などから、一部グレードのみの販売であったものの納期が大幅に遅れ、長い間受注停止となっていた。しかし、これまで受注停止していた「B6」2WDグレードの販売がようやく再開されるとともに、「アリア」の全グレードが2024年3月下旬から、「アリア NISMO」(後述)が2024年6月からいよいよ販売開始される。グレードラインアップと価格については、以下のとおりだ。

■日産「アリア」のグレードラインアップと価格
B6(66kWh):6,590,100円[2WD]
B6 e-4ORCE(66kWh):7,195,100円[4WD]
B9(91kWh):7,382,100円[2WD]
B9 e-4ORCE(91kWh):7,987,100円[4WD]
B9 e-4ORCE プレミア(91kWh):8,603,100円[4WD]

■日産「アリア NISMO」のグレードラインアップと価格
NISMO B6 e-4ORCE(66kWh):8,429,300円[4WD]
NISMO B9 e-4ORCE(91kWh):9,441,300円[4WD]
()内はバッテリーサイズ

まず「アリア」の基本的なグレード構成は、66kWhのリチウムイオン電池を搭載する「B6」と、91kWhの「B9」に分けられる。そして、それぞれのグレードに前輪をモーターで駆動する2WDと、前後輪を別のモーターで駆動する4WDが用意されている。

そして、注目したいのが「東京オートサロン2024」で世界初公開されたハイパワーモデル「アリアNISMO」の正式な発売が発表されたことだ。

「アリア NISMO」の駆動方式は4WDのみで、リチウムイオン電池が66kWhの「NISMO B6 e-4ORCE」と、91kWhの「NISMO B9 e-4ORCE」がラインアップされる。

どちらのグレードにも、専用のエアロパーツやアルミホイールのほか、タイヤまで専用に開発されたものが装着される。また、サスペンションなどにも変更が施された。内装は、フロントシートの作りなどが異なっている。今回は、「アリア NISMO」の「NISMO B9 e-4ORCE」グレードに試乗したのでレポートしたい。

「アリア NISMO」のフロント、リアイメージ。空力性能を向上させるため、NISMOのレースカーでの知見が取り入れられた専用バンパーやリアスポイラー、サイドモールなどが装着されている

「アリア NISMO」のフロント、リアイメージ。空力性能を向上させるため、NISMOのレースカーでの知見が取り入れられた専用バンパーやリアスポイラー、サイドモールなどが装着されている

「アリア NISMO」には、ホールド性やフィット感を高めてクルマとの一体感が感じられるNISMO専用シートが採用されている

「アリア NISMO」には、ホールド性やフィット感を高めてクルマとの一体感が感じられるNISMO専用シートが採用されている

高速域まで途切れのない直線的な加速が続く

まず、「NISMO B9 e-4ORCE」のシステム最高出力は、ベース車の「B9 e-4ORCE」の290kW(394PS)から約11%高められた、320kW(435PS)に達する。システム最大トルクはベース車と同じだが、それでも600Nm(61.2kg-m)と強力な値だ。

欧州車などに見られる出力の高い電気自動車は、アクセルペダルを踏み込んだ瞬間から蹴飛ばされたように急激な加速が始まるようなものもあるが、「アリア NISMO」はそのような性格のクルマではない。発進時には穏やかだが、そこから力強く速度を上昇させていくタイプになる。

「NISMO B9 e-4ORCE」は最高出力を320kWまでアップさせ、NISMO専用の加速チューニングが施されることによって、気持ちよくパワフルな加速を実現している

「NISMO B9 e-4ORCE」は最高出力を320kWまでアップさせ、NISMO専用の加速チューニングが施されることによって、気持ちよくパワフルな加速を実現している

一般的に、モーターは実用域の駆動力が高いものの、高回転域や高速域になると回転数や速度の上昇が鈍ってくるものだ。だが、「NISMO B9 e-4ORCE」はその鈍さを感じさせずに、ハイスピードな領域まで一気に加速していく。動力性能を、単純にガソリンエンジンの排気量に置き換えると、なんと5.5〜6L相当の出力を発揮する。

2.2トンの車重を感じさせない軽快さとコーナーの安定感

「NISMO B9 e-4ORCE」では、ステアリング操作に対する反応も、ベース車より正確になっている。たとえば、車線を変更するときには小さな操舵角から、車両の進行方向が正確に変わり始める。全高が1,660mmと高く、車重は2,220kgに達するSUVにもかかわらず、かなり俊敏かつ軽快に曲がっていくのだ。

ボディが重く背の高いSUVは、一般的には少し“曲がりにくい設定”にして、後輪の接地性や安定性を保つのだが、「NISMO B9 e-4ORCE」ではそれをしていない。前後に搭載された2個のモーターの駆動力をそれぞれ絶妙に変化させ、アクセルペダルを踏みながら曲がっているときにも、4輪独立ブレーキが緻密に制御されている。

NISMO専用のチューニングが施された4輪独立制御「e-4ORCE」によって、タイヤのグリップを生かした高い旋回加速とライントレース性を実現している

NISMO専用のチューニングが施された4輪独立制御「e-4ORCE」によって、タイヤのグリップを生かした高い旋回加速とライントレース性を実現している

複雑な制御が高度に行われることにより、ステアリングを操作するドライバーの意図どおりの気持ちよいコーナーリングを実現させている。たとえば、コーナーリング中に膨らんで外側のガードレールへ近づいたり、逆に後輪が横滑りを発生させて車両が内側を向いたりするといった挙動の乱れが生じにくい。危険を避けるために急な操作をしたときなども同様で、後輪の接地性を保ちながら車両の進行方向が変わるため、ドライバーはいつでも安心して運転できる。

この走行安定性の高さは、電気自動車だからこそ可能になったとも言える。モーターは、エンジンに比べると駆動力の増減を素早く行える。しかも、「NISMO B9 e-4ORCE」は前輪と同じ性能を備えたモーターを、後輪にも搭載している。したがって、後輪に前輪よりも大きな駆動力を伝えられるなど、制御できる幅を広げている。

NISMOチューンによる「e-4ORCE」によって、限界域でのコーナーリングにおいても安定した旋回加速が行えるほか、緻密な制御によって路面の変化まで素早く捉えて対応するため、さまざまな状況下において安心して運転できる

NISMOチューンによる「e-4ORCE」によって、限界域でのコーナーリングにおいても安定した旋回加速が行えるほか、緻密な制御によって路面の変化まで素早く捉えて対応するため、さまざまな状況下において安心して運転できる

この点について、開発者は「電気自動車の4WDは、エンジン車の4WDに比べてさまざまな制御をキメ細かく行える」と述べている。電気自動車のメリットは、一般的には走行段階で二酸化炭素や排出ガスを発生させないことだが、モーター駆動は走りの面でも多様な可能性を秘める。電気自動車は、環境性能に加えて安全に直結する走行安定性を向上させ、クルマの性能や機能を総合的に進化させる。「NISMO B9 e-4ORCE」に試乗すると、電気自動車の多岐にわたるメリットがよくわかるのだ。

そして、開発者は「『アリア NISMO』の場合、性能の高いミシュラン『パイロットスポーツEV』の新開発タイヤに合わせて足周りの設定は変えたものの、ボディを補強する必要はなかった」と語る。「NISMO B9 e-4ORCE」がすぐれた走行性能を発揮できる背景には、「アリア」自体のすぐれた素性もあるわけだ。

「アリア NISMO」は走行性能だけでなく、乗り心地も良好だ。時速50km以下では少し硬めだが、タイヤが路上を細かく跳ねるような粗さは抑えられ、重厚なものに仕上げられている。速度が高くなるほど乗り心地が快適になるため、すぐれた走行安定性との相乗効果によって、高速道路を使う機会の多いユーザーにも適しているだろう。

「アリア」のe-4ORCEモデルは値段が少々高め

なお、「NISMO B9 e-4ORCE」の価格は944万1,300円だ。国から交付される補助金の85万円を差し引いても、約859万円に達する。ベースの「B9 e-4ORCE」に比べると、145万4,200円高い。

車両制御技術から内外装まで、高い魅力を持ち合わせている「アリア NISMO」だが、価格が少々高いことが唯一気になる点だ

車両制御技術から内外装まで、高い魅力を持ち合わせている「アリア NISMO」だが、価格が少々高いことが唯一気になる点だ

また、NISMOではない「アリア」のe-4ORCEモデルもすぐれた性能を発揮するのだが、価格が少々高い。後輪にも前輪と同等の性能を備えたモーターを備えるため、2WDの価格を60万5,000円上まわる。一般的なエンジン車の4WDは、25万円前後の価格アップなので割高だ。

そうなると、購入しやすく買い得な「アリア」を求めるとすると、2WDモデルで66kWhのリチウムイオン電池を搭載する659万100円の「B6」2WDを選ぶのが現実的だろう。このグレードであれば、国の補助金を差し引けば約574万円に収まる。

今後は、「アリア NISMO B9 e-4ORCE」のすぐれた4輪制御技術と走行性能を、「リーフ」のようなもう少しコンパクトなボディに搭載して、価格を割安に抑えればより多くのユーザーに喜ばれるはずだ。

(写真:島村栄二)

関連記事
スポーツカー並みにハイスペックな日産「アリアNISMO」誕生!
スポーツカー並みにハイスペックな日産「アリアNISMO」誕生!
日産のクロスオーバーEV「アリア」をベースに、NISMOチューニングが施された「アリアNISMO」がオートサロンへ登場。その魅力を開発者へ伺いました
2024/01/14 09:01
渡辺陽一郎
Writer
渡辺陽一郎
「読者の皆さまに怪我を負わせない、損をさせないこと」が最も大切と考え、クルマを使う人達の視点から、問題提起のある執筆を心掛けるモータージャーナリスト
記事一覧へ
桜庭智之(編集部)
Editor
桜庭智之(編集部)
自動車専門メディアで編集者として10年間勤務した後「価格.comマガジン」へ。これまで、国産を中心とした数百の新型車に試乗しており、自動車のほかカーナビやドラレコ、タイヤなどのカー用品関連も担当する。
記事一覧へ
記事で紹介した製品・サービスなどの詳細をチェック
関連記事
SPECIAL
ページトップへ戻る
×