自動車ライターがズバッと解説! 3分でわかる自動車最新トレンド

今のクルマにはない楽しさがある「旧車」の世界と選び方

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自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載14回目の話題は、ここ数年盛り上がりが続いている、半世紀程度前の旧型自動車、いわゆる“旧車”の魅力や選び方に迫ろう。旧車や中古車の経験豊富なモータージャーナリストの森口将之氏が解説する。

旧車の値上がりが続いている。高機能で安全性も高い新車ではなく、あえて旧車を選ぶその理由はたしかに存在する

トラブルを乗り越えつつ、最新車種にはない魅力を味わえる旧車の世界

筆者は、フリーのモータージャーナリストになる前、自動車雑誌の編集部に4年間在籍していた。6月26日発売の最新号で通巻458号にもなる老舗月刊誌、ネコ・パブリッシングの「カー・マガジン」の編集部だ。そこは昔も今も、旧車をメインに扱う専門誌である。

運転免許を取った頃から、少し古めのイタリア車やフランス車に興味があった自分にとって、念願かなった職場だった。入社すると早速、毎月数台というレベルで旧車の試乗が始まった。そこで新車とは違う作法をいろいろ学んだ。

旧車との付き合いは、介護を兼ねている。たとえば1960年代のクルマは、生まれてから半世紀が経過しているから、エンジンもシャシーもそれなりに疲れがたまっている。消耗品の交換を入念に行ったとしても、新車と同じ性能を出すのは難しいし、ある日突然機能停止なんてこともある。

旧車をメインに扱うネコ・パブリッシングの自動車専門誌「カー・マガジン」に4年所属。その期間毎月数台の旧車と付き合う生活をしていた

それに最新のクルマと比べると、機械的な信頼性が低かった。つまり壊れやすかった。燃料供給にインジェクションが一般的に使われるようになったのは1980年代になってからで、それまではキャブレターという原始的な機械に頼っていたから、気温や湿度、標高などによって調子が変わりがちだった。

特に、当時の輸入車の場合は、今のクルマと違って、生まれた国や地域以外での使用をあまり考えずに作られた車種が多かったから、高温多湿な日本の夏を苦手とするクルマも珍しくなく、オーバーヒートやボディの腐食などに悩まされることが多かった。

筆者も、最初に自分で買ったクルマであるイタリアのアウトビアンキ「A112アバルト」では、ラジエーターに穴が空いて冷却水が一気に漏れてしまったり、ドアパネルがボコボコしていたので指で触れたらズボッと穴が開いてしまったり、苦労は多かった。カー・マガジンの取材では、エンジンがかからなくなって、スタッフ全員で押すことが何度もあった。

しかも、今でもその傾向が残っているけれど、日本では輸入車は贅沢品という意識が強く、クーラーやパワーステアリング、オートマチック・トランスミッションなどの快適装備が満載の状態で販売されることが多かった。当時は、まだ歴史が浅かったこれらのメカニズムが、トラブルを起こすことも多かった。だからオーナーの中には、新車時には付いていたクーラーをわざわざ外して乗っている人もいる。

ランボルギーニ「ミウラ」は、1960年代後半から70年代初めのクルマ。どんなに入念に手入れをしても、旧車と付き合うにはトラブルに対する心構えがほしい

安全性も期待できない。ABSやエアバックの市販車への搭載が一般的になったのは1980年代のこと。それ以前は、ボディやステアリングコラムを衝撃吸収構造にしたり、シートベルトやヘッドレストを装着したりするぐらいしか対策がなかった。最新のクルマのように、衝突を回避するために自動的に急ブレーキをかけるなんていうのは、夢のまた夢だった。

部品の確保も大変だ。この点については、国産車のほうが厳しい状況に置かれている。欧米のほうが自動車を文化として見ていて、古いクルマに理解を示してくれるのに対し、日本は逆に、車齢13年を超えるクルマは増税になるほどで、部品供給の打ち切りも早い。

なので、数十年前の国産旧車のパンパーやステアリングを探し出すのは至難の技。仕方なく、流用できる部分は他車の部品を使ったり、自作をしたりしてまかなうことが多いようだ。

今に続くシトロエンのイメージを決定付けた「シトロエンDS」。サスペンションなどに複雑な油圧制御が使われ、整備が難しいと言われるが、フランスでは量産車として広く普及していた

旧車には、ローテクならではのクルマの根源的な魅力が詰まっている

では、そんな旧車になぜ、人々は苦労してまで乗り続けるのか。やはりクルマの根源的な魅力がストレートに感じられるからではないだろうか。

古いクルマは軽い。1960年代以前に生まれたクルマは、安全基準が設けられる以前の設計なので、ボディは小柄だったし、デザインの自由度が高かった。プラスチックが本格的に使われる前だったので、前後のバンパーから室内のスイッチまで金属が多用された。今では考えられないほど、細かいパーツひとつひとつが入念に作られており、工芸品を思わせるほどだった。

写真はランチア「アッピア ザガート」のインテリア。樹脂パーツが少ない旧車では、内装に金属パーツが多用されており、独特の雰囲気がある

エンジンは、1960年代以前の車両は、すでに書いたように環境対策が実施される前であり、燃料を絞ったり、触媒などの後処理装置を付けたりすることとは無縁だった。だからアクセル操作に対して生きのよい反応を示し、音はエンジンの息吹きそのものという感じで、心地よいものが多かった。

エンジン形式も今より多彩で、2ストロークや空冷といった、現在のクルマではほぼ見られないメカニズムがまだ残っていたし、今はスバルとポルシェだけが搭載する水平対向4気筒エンジンは、ほかにフォルクスワーゲン(VW)、シトロエン、アルファ・ロメオなどが積んでいた。

しかも、同じエンジン形式でも、VWとアルファ・ロメオとではフィーリングが明らかに異なっているうえに、搭載位置までリアとフロントで違っていたから、クルマにくわしい人なら目をつぶっていても車種を当てられるほどだった。規制がなかったこともあり、エンジンごとの個性が出しやすかったのだ。

手前がポルシェ「356」、その奥が「912」。912は「911」に356のエンジンを組み合わせた廉価版。当時の911(通称、ナロー ポルシェ)を含め、アメリカの安全基準に適合させる前のコンパクトなボディや、環境基準設定前のシンプルなメカが魅力で今でも人気だ

最近は、昔のクルマのデザインを今風にアレンジし、最新のメカニズムを組み合わせた車種がいくつも登場しているけれど、見た目はともかく中身は最新であり、得られる乗り味は別物であると考えたほうがよい。

1980年代になると、ターボが一般的になり始めた。しかし、現在のダウンサイジングターボとは違い、純粋に高性能を求めたものがほとんどで、制御が未熟だったこともあり、3000回転あたりからいきなりトルクが立ち上がる、いわゆる“ドッカンターボ”だった。おかげで運転はしにくかったけれども、その特性を頭と体で覚えこみ、うまく操れたときの喜びは格別だった。

サスペンションにも電子制御は入っていないから、路面を問わずに快適な乗り心地や安定したハンドリングが味わえることはなかったけれど、その分、路面の感触や操縦の実感がリアルに味わえた。

しかも、タイヤが今からは考えられないほど細く、扁平率も控えめだったから、グリップの限界は低かったけれども、公道でもクルマを操る楽しさを満喫しやすかった。

しかし、こうしたクルマたちは、2度と作られることがない。そのためだろう、最近は一部の旧車の価格が、バブルと言いたくなるほど極端な値上がりを示していて、筆者をはじめとする多くのクルマ好きには手の届かない存在になってしまう車種が多くなった。

でもそれは、あくまで一部の車種に限ったことである。中古車と同じで、旧車も人気の程度によって相場が大きく異なる。だからあらゆる車種をくまなく見ていけば掘り出し物に当たるし、自分が憧れていた旧車が実は意外と安かったということもある。

“ボンドカー”として知られるアストンマーティン「DB5」の直列6気筒エンジン。当時のスーパーカーだが、混合気はキャブレターで作っていた

五感やブログなどをフル動員して品定め、目の前の1台に飛びつかずに慎重に選びたい

実際に旧車の購入を考えている人は、まず自分でできるだけ知識を身につけることと、くわしい人に販売車両をいっしょに見に行ってもらうことをおすすめする。実際にオーナーになっている人の話を聞いたり、ブログをチェックしたりすることもタメになる。

最近は、特定の車種のみを扱う専門店も増えてきた。こうしたお店はその車種についての知識が豊富であり、多くの場合、安心できる買い物につながる可能性が高い。購入後のメンテナンスの相談にも乗ってくれるだろう。

選ぶ際には、これも中古車と同じように、できれば複数の個体を、実際に試乗したい。オークションで出ていた車両を乗らずに買うことは、旧車経験が相当豊富な人以外は避けたほうがよい。その時点で自分で旧車を操れる自信がないなら、旧車にくわしい人に運転してもらい、感想を聞きながら、自分でも五感で感触をチェックしよう。

自分のもとに旧車がきたら、なるべくそのクルマが気持ちよいと感じる場所で走らせてあげたい。旧車は現在のクルマのように万能ではない。渋滞にはまったとたんに機嫌を崩し、それが長引くこともある。走ることが手段ではなく目的になるというわけだ。

だから余裕があれば足グルマ、つまり移動の道具のための車両をもう1台所有すると便利だし、カーシェアリングやレンタカーで足グルマをまかなうという方法もある。

それ以上に大事なのは、クルマへの愛だ。「アバタもエクボ」という言葉があるけれど、クルマへの愛がない人の場合、怒るしかないようなトラブルが、愛がある人なら許せるということは多い。人間と機械という関係より、恋人や夫婦や親子の関係に近いかもしれない。

そしてもうひとつ、旧車は文化遺産であるという意識も持ってほしい。お金を払って買ったから自分のものというわけではない。旧車は多くの人が力を合わせて後世に伝えていくものであり、オーナーになったあなたはその一翼を担っているという気持ちを持って、歴史をつむいでいってほしいのだ。

もちろんこういった気持ちは、実際に旧車を所有してみないとわからないことでもある。でもそれを心配してあきらめるより、まずはチャレンジしてほしいと、多くの旧車に触れてきた筆者は思っている。無理だったら新車に戻ればよい。無理して付き合うものじゃない。でも最新のクルマでは絶対に得られない世界が待っていることも事実だ。

右手前の赤いクルマはマーコス「1600GT」、左手前はケータハム「セブン(通称、スーパーセブン)」、その奥はモーガン「4/4」。旧車の所有は、文化財を持つという側面もある

森口将之

森口将之

1962年東京都生まれ。自動車業界のみならず、国内外の交通事情や都市計画を取材しメディアを通して紹介。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

製品 価格.com最安価格 備考
スカイライン 0 プリンス時代から続く日産の代表モデル。旧モデルは旧車としても人気
ミウラ 0 V12エンジンを横置きミッドシップで搭載するスーパーカー
4/4 0 戦前から基本部分が変わっていない2シーターオープン
セブン 0 ロータスセブンの流れを汲むライトウェイトスポーツ
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2017.3.22 更新
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