自動車に関係する気になるニュースや技術をわかりやすく解説する連載「3分でわかる自動車最新トレンド」。連載16回のテーマは、インテリアデザインだ。インテリアは運転中に接し続ける場所なので重視する人も多いが、大画面カーナビや、液晶化されるメーターなど、自動車の情報化の最前線でもあり、今後も大きな変化が起こりうる場所でもある。そんな自動車のインテリアで把握しておきたいポイントをモータージャーナリストの森口将之氏が解説する。
高級車はもちろんだが、軽自動車やコンパクトカーでも最近ではインテリアを特徴にする車は多い。しかし、よいインテリアデザインはたしてどんなものなのだろうか
クルマの車内のことを「インテリア」と呼ぶことが多い。もちろんこれは、家のインテリアから来た言葉だ。たしかに一定時間をここで過ごすという点では家に似ており、居心地のよさが求められる。そこから建築の世界の言葉が使われるようになったのかもしれない。
いっぽうで、この空間には、「コクピット」というフレーズもよく使われる。こちらは航空機由来の言葉で、操縦席を意味する。エクステリアに似ているが、ダイナミックなイメージを前面に押し出しているような表現だ。
クルマのキャビン(室内)のデザインはこの2つ、つまりインテリア的要素とコクピット的要素を、ジャンルに合わせてブレンドしながら形にしていくことだと思っている。
でもスポーティーなクルマほどコクピット的に仕立てているかというと、そうではない。前回のエクステリアと同じように、スポーツカーは運転という機能に徹することが求められるからだ。
マツダ「ロードスター」もそのひとつ。同社のスポーツモデルから受け継がれたT字型インパネを核として、現在のクルマに求められる安全装備や快適装備をスマートに配置している。ドライビングをじゃまするような演出は不要という考えからきているのだろう。ほかにもロータス「エリーゼ」など、機能主義的なインテリアを持つスポーツカーは多い。
求められる機能をシンプルに配置するマツダ「ロードスター」のダッシュボードには、スポーツカーらしさが色濃く現れている
コクピットっぽさを強調したインテリアは、むしろスポーツセダンなど、実用性とスポーティーさを兼ね備えた車種に多く見られる。センターパネルを運転席側に傾け、ドライバーを囲むようなインパネを世界でいち早く採用したBMW「3シリーズ」はその代表だ。
ただしコクピット感覚の造形を、ミニバンのようなファミリーユースのクルマにまで展開するのは間違いだと思っている。乗る人すべてが幸せになれるような空間作りが理想だと考えているからだ。
センターパネル全体がドライバーに向いているBMWの3シリーズ。こうしたドライバーを楽しませる演出はむしろスポーツセダンでよく見かける
その点でほめられるのはシトロエン「C4ピカソ」である。ナビだけでなくメーターもインパネ中央に配置して、どの席からも見えるようにしてある。さらに前席を左右非対称として、乗員が自然と内側を向くようにしたり、ルームミラーの上に後席確認用のサブミラーをつけたりしている。
空間作りも独特で、フロントウインドウを運転手の顔近くまで伸ばし、ガラスルーフと相まって開放的な雰囲気を提供している。少子化問題を脱したフランス生まれらしい、家族全員のことを考えた空間だ。ファミリーカーを名乗るなら、ここまで楽しくなれるインテリアを目指してほしいものである。
搭乗する人の誰もが快適に過ごせるような工夫が随所に盛り込まれているシトロエン「C4ピカソ」のインテリア
ただし、インテリアデザインは、エクステリア以上に制約が多いことも確かである。特に安全性が重視される昨今は、その傾向が強まっている。ステアリングやペダル、シフトレバーなど、走りを司る機能部品はどれも、ドライバーが自然に扱える位置や角度でないと危険だし、エアバッグを含めた安全対策、視界の確保、ナビやエアコンなどのインターフェイスも同様だ。
なので、最近のカーナビに多く使われているタッチパネルには疑問がある。操作の確実性が薄いうえに、操作するときも結果も目で確認しなければならず、視線移動をひんぱんに必要とするからだ。停止中や助手席の人が扱うならよいけれど、運転中の使用は歩きスマホに似た状況になりかねない(※走行中の操作は禁止されています)。
タッチパネルは、音声入力が本格的に普及するまでのつなぎだという声もある。しかし、現状の音声入力機能は、メーカーによって差はあるが、信頼できるレベルではないので、音声だけですべての操作が完璧にできないのなら、見ないで操作できる従来型のボタンやダイヤルなどのデザインのほうが安全上は好ましいのではないだろうか。
その点で最近頑張っていると感じるのはスズキだ。たとえば「イグニス」のエアコンのコントローラーは、視線をやらなくても確実に扱える。さらにイグニスでは、ここから伸びるセンターコンソールをオレンジなどに彩ることで、クロスオーバーモデルらしいアクティブな雰囲気を打ち出すことにも成功している。
イグニスのエアコン操作はダイヤルとボタンを組み合わせたものだが、クロスオーバーらしいアクティブさがデザインに取り入れられている
最近はメーターに液晶ディスプレイを採用する例が増えてきた。なかでも、メーターパネルを全面液晶として、アナログ風の速度計や回転計を映し出すクルマが目立つ。所有する2台がいずれもデジタルメーターの筆者から見ると、アナログメーターを映すなら針のままでいいじゃないと思ってしまう。
ちなみに全面液晶メーターは、航空機や鉄道の分野では「グラスコクピット」と呼ばれ、すでに当たり前の設計となっており、新しい技術ではない。でもカーデザイナーの中には、これが先進的な表現だと思い込んでいる人が多いようだ。
困るのは、まだ目新しい技術だからだろう、必要以上の情報を盛り込んでしまって、見た目が煩雑になっているクルマがあることだ。特に気になったのは、カーナビの画面をメーターのディスプレイに大きく映し出すタイプである。そちらにばかり気を取られ、隅に小さく追いやられた速度計がなかなか目に入ってこないこれは、安全性の面では、明らかに時代に逆行している。
いっぽう、個人的に感心したのは、レクサス「IS」や「RC」のFスポーツに採用されているメーターだ。センターにアナログ式エンジン回転計を置き、その中にデジタル数字で速度とギアポジションが表示される。そしてスイッチを押すとこのメーターリングごと横にスライドし、新たな情報を表示してくれるのだ。アナログとデジタルを上手に融合させたデザインと言える。
レクサス「IS」や「RC」の液晶ディスプレイは、アナログメーターの視認性と、液晶ならではの表示の融通性が融合されており、すぐれたデザインだ
インテリアデザインでもうひとつ大事なのはコーディネートだ。エクステリアに比べて、異なる素材を多種多様に組み合わせることが可能だからこそ、ここもまたデザイナーの腕の見せどころとなる。
コーディネートという言葉は、今でこそ各方面で当然のように用いられているけれど、そのなかで建築業界は、ファッション業界とともに早くから一般的に使われていた分野だろう。
この分野では、インテリアコーディネートの基本として、メインカラー6〜7割、サブカラー2〜3割、アクセントカラー1割を理想としているという。つまり素材や色を多く使えば使うほどよいわけではない。色を使いすぎると落ち着きがなくなり、むしろ安っぽく感じてしまうのは、先ほどの高機能な液晶メーターと同じだ。
その点でさすがだと思ったのは、ロールス・ロイスやベントレーなど、イギリス製高級車のインテリアだ。淡色と濃色のレザーにメインカラーとサブカラーを担当させ、ウッドパネルをアクセントとしている。さきほどの数字が当てはまっていたのである。
写真を見ていただければおわかりかと思うが、この2つのブランドのインテリアは、クロームメッキなどの光り物はそれほど多くない。真の高級は飾り立てることではないことが、2台のインテリアからも理解できる。
ベントレー「フライングスパー」の運転席。淡色のレザーをメインに、濃色のレザーをサブに、ウッドパネルをアクセントとして取り入れている
イギリス車は素晴らしくて日本車はダメだと言っているわけではない。たとえばスズキの軽自動車「ハスラー」は、シート自体には色をつけず、パイピングだけにとどめている。これが絶妙なアクセントになっている。女性社員たちの提案でこうなったそうだが、おかげでピンクを使いながら落ち着いた雰囲気を打ち出すことに成功している。
ちなみにハスラーのデザイン担当者は、プライベートでジャガーなどヨーロッパ車数台を乗り継いだ経験の持ち主でもあった。エクステリアにも言えることだが、よいデザインを生み出すためには経験もまた重要なのだ。
スズキ「ハスラー」は、シートのパイピングに特長的なカラーを採用しており、効果的なアクセントになっている
このように、インテリアは流行や機能性、安全性などがせめぎ合う場所だが、新技術の導入当初はそれらとの摩擦が生じるので、「新しい=いい」とは言えない場合がある。また、室内のカラーリングは、コーディネートのセオリーが、今でも役に立つ。インテリアを判断する場合は、そうした知識も活用すれば、よりよいものを判断できるようになるだろう。