今、東京のグルメシーンでは、スパイスカレーが話題となっています。その立役者と言えるのが、2017年大阪から東京進出を果たした「旧ヤム邸」。大阪の空堀店と中之島洋館は「食べログ カレー 百名店 2017」にも選出されましたが、同店を含む百名店が監修して人気となっているのが、2018年夏に発売されたハウス食品の「ハウス 選ばれし人気店」というレトルトカレーシリーズです。
「旧ヤム邸」のほか、横浜の「アルペンジロー」、千葉の「印度料理シタール」がそれぞれ監修しています
そこで気になるのは、監修レトルトカレーと実店舗の味の違い。そこで3店の中から「旧ヤム邸」の東京1号店である「旧ヤム邸 シモキタ荘」に取材を依頼し、特別にお店のカレーとレトルトカレーをその場で食べ比べさせてもらいました!
東京・下北沢駅から歩くこと約7分。「旧ヤム邸 シモキタ荘」へ
まずは簡単に、「旧ヤム邸」の紹介から。ここは“大阪空堀から世界へ”を合言葉に進化し続ける、スパイスカレーのパイオニア的存在です。ちなみに、「そもそもスパイスカレーってナニ?」という人もいると思いますので、こちらも解説を。歴史的背景や奥深い食文化などがからんでおり、簡単に説明することはできないのですが、「小麦粉によるカレー粉やルウは使わずに独自で調合したスパイスを使う」「カレーの既成概念にとらわれずに自由な発想で作る」などの特徴があります。
メニューはランチとディナーで異なります。しかも通年で固定されたカレーはなく、内容は月替わり
取材時には、ランチタイムに提供するカレーを作ってもらいました。メニュー構成自体はシンプルで、3種用意されたカレーから2種を選んで「あいがけ」(1,100円)にするか、3種全部の「ぜんがけ」(1,350円)にするか。そのうえで別途、パクチーや温泉玉子などを追加トッピングできます。できるだけいろいろ味わいたい筆者は、迷わず「ぜんがけ」をオーダーしました。
8月(訪問時)のカレー3種を盛り付けた「ぜんがけ」
カレーの正式名称は長いので割愛しますが、省略すると「鶏キーマ」「豚キーマ」「牛豚キーマ」。これに「ヤムカレースープ」が付きます。そして、同店はご飯も選べるのがポイント。玄米、ジャスミンライス、ターメリックライスの3種があり、今回は玄米をチョイスしました。
メインのカレーはキーマなのが「旧ヤム邸」の特徴のひとつ。しかもそれぞれのカレーに合わせた惣菜がのっていて、多彩な味の組み合わせが楽しめます
お次は、特別に同店のご飯と器で、レトルトカレーである「ハウス 選ばれし人気店 牛豚キーマカレー」を作ってもらいました。ちなみに同商品には、最新型のパウチが採用されていて、袋のまま電子レンジで調理できます。
さすがは本物。パッケージそのままのルックスで提供してくれました
具材としてゴボウ、ブナシメジ、クワイなどがたくさん入った、ソースが多めのキーマカレーです。ご飯はこちらも玄米をセレクト
並べて比較するとより顕著。お店で提供されているほうが、ペースト感のあるキーマカレーです
いよいよ食べ比べてみました。お店の「ぜんがけ」のほうは、カレーごとにスパイス感や辛さ、酸味などが異なり、そこにピクルスの甘みや惣菜(この日はタコのアジアンマリネやモロヘイヤ&オクラなど)の味と食感が加わり、極めて重層的かつ複雑なフレーバー。スパイスに関しては、特にカルダモンが効いている印象で、チリ由来の辛さもそれなりに感じます。混ぜ方によってひと口ごとに変化する味わい、口に運んだ時と飲み込んだあとでまったく違う風味。独特でいて、ヤミツキ感が抜群の激ウマカレーです。
次いでレトルトカレーも実食。最初にダシ感のある和のフレーバーがフワッと主張し、そのあとにスパイスの余韻がじんわりと広がります。レトルトのカレーとしては、非常に個性が強く唯一無二と言えるレベル。スパイスはこちらもカルダモンが効いていて、ほかにマスタードシードのニュアンスも感じました。辛さはメーカーの設定としては5段階中4の「中辛」なので、やや辛めと言えるでしょう。ただ、お店のカレーよりは控えめな気がしました。総合的には、斬新でありながら完成度が高くて抜群においしいと思います。
レトルトカレーは、パワフルなスパイス香が印象的で、なじみのあるトロッとしたテクスチャー。食感で最も印象的だったのは、クワイのシャキシャキ感です
レトルトカレーの感想としては、「旧ヤム邸」らしさは感じるものの、お店の味を再現しているようには思えませんでした。ただ、そもそも同店には固定されたカレーがありません。それに、数種のカレーや惣菜、スパイスなどが合わさって初めて“「旧ヤム邸」のカレー”になるので、1袋のレトルトで再現するのは難しいとも思います。そこで、お店の人にレトルトの味作りに込めた思いを聞いてみました。
「旧ヤム邸 シモキタ荘」のスタッフ遠藤僚さん(左)と西嶋勇さん(右)
「重きを置いた点は、再現性よりもレトルトにおけるスパイスカレー感です。再現というより表現なのですが、ひとつのレトルトで『旧ヤム邸』らしさを表現するのはかなり難しかったですね。最終的にポイントになったのは、スパイスの中でもカルダモンの風味を効かせることと、和風のダシを使うこと。スパイスはなるべくウチらしさが出るように調合して、和風に関してはダシのほかに伝統野菜を入れる形で工夫しました。なお、スパイスの風味は立っていますが、あえてトマトベースを豊かにしているので食べやすくなっていると思います。ぜひ多くの方に、スパイスカレーの入門としてレトルトカレーも味わってみていただきたいですね」
レトルトカレーをよりおいしく楽しむコツも聞いてみました。たとえば、「ご飯を玄米にする」「ネギやパクチー、ピクルスなどを添える」といったことがあげられるそうです。また、香りをより楽しみたい場合は、カルダモン、タイム、ローズマリーといったスパイスやハーブを、できればパウダーではなく生のまま入れるのがオススメとか。
ネギとパクチーをトッピングしてもらいました。爽やかさが加わって、楽しみ方が広がります!
「ハウス 選ばれし人気店」シリーズの残り2つは、「アルペンジロー」と「印度料理シタール」。こちらはそれぞれ、自宅で作ってみました。まずは「アルペンジロー」から。
「ハウス 選ばれし人気店 特製ビーフカリー」
「アルペンジロー」は1985年創業の老舗。当時ではまだ珍しいスープ仕立てのカレーに、鉄板で豪快に焼いたステーキを添えたダイナミックなビジュアルが話題を呼び、一躍人気となった名店です。店名の由来や山小屋をイメージした内装は、先代のオーナーが元々スキー場で宿泊ロッジ「アルペンジロー」を営んでいたことから。
盛り付けてみると、サラっとしたカレーは確かに同店らしいテクスチャー。肉や野菜のウマみあふれる香りと、その奥で存在感を放つ複雑味のあるスパイスフレーバーが絶妙です
野菜はソースに溶け込んでいて、具材は肉のみ。ビーフがしっかりと入っていて、リッチなボリューム感です
食べてみると、玉ネギを中心とした香味野菜の甘みとウマみが飛び込んできて、あとから豊かなスパイス感とビターな苦みがじわじわと口の中に広がります。辛さのレベルは3の「中辛」。ほどよい刺激が円熟したコクとあいまって、どっしりとしたおいしさを醸し出しています。
「ハウス 選ばれし人気店 バターチキンカレー」
千葉県・検見川の人気カレー店と言えば「印度料理シタール」。店主の増田泰観マスターが大学時代に食べて衝撃を受けたのが、麹町の伝説的名店「アジャンタ」のインドカレー。マスターはすぐにそこでアルバイトを始め、大学卒業後もいくつかの店で経験を積み、さらには再び「アジャンタ」に戻り、独立して「印度料理 シタール」を開業したのが1981年です。
濃厚でまろやかなテクスチャー。バターチキンらしいオレンジの色味は、生クリームとトマトによるものでしょう
チキンはやわらかく、味がしっかりと染み込んでいます。これは、下味を付けることで香ばしい風味を狙っているそう
「印度料理シタール」の特徴は、日本人の口に合うようやさしく、食べやすくととのえたインドの味です。実際にレトルトカレーも、その魅力を存分に感じられるマイルドなおいしさ。トマトの甘みと酸味をやさしく調和させるのは、生クリームのまろやかなコクと、爽やかに広がる香辛料の刺激です。辛さレベルは2の「中辛」で、食べやすく仕上げられていながらもモノ足りなさは感じません。もっと辛くしたい人は、チリパウダーなどで調整するといいでしょう。
3つの名店が監修したレトルトを食べて感じたのは、普通のカレーにはない個性、そして監修店のレベルの高さです。筆者が今回訪問したのは「旧ヤム邸 シモキタ荘」だけでしたが、「アルペンジロー」と「印度料理シタール」にも行って、話を聞いてみたくなりました。そして今後、「ハウス 選ばれし人気店」の商品が増えることにも期待したいと思います!
【「食べログ」内のお店ページのリンク集】
・旧ヤム邸 シモキタ荘
・旧ヤム邸 空堀店
・アルペンジロー 本店
・印度料理シタール
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。