すっかり国民食となったラーメンですが、NHK「連続テレビ小説」において日清食品創業者をモデルにした物語「まんぷく」が放送されたことで、即席麺も盛り上がっています。そこで市場を見渡してみたところ、注目の新商品を発見。それが2019年3月11日に全国発売された「マルちゃん 吉祥寺 Tombo監修 醤油の旨味ソバ」(東洋水産)です。
右がそのカップ麺で、左の雑誌が「第19回 業界最高権威 TRYラーメン大賞 2018-2019」。表紙はラーメン店「Tombo」のラーメンの写真です。ちなみに「TRY」とは「Tokyo Ramen of the Year」の略
「マルちゃん 吉祥寺 Tombo監修 醤油の旨味ソバ」は、ラーメン業界最高権威と言われる「TRYラーメン大賞」の2018〜2019年度において、「新人大賞部門」の総合1位に輝いたラーメン店「Tombo」とコラボしたカップ麺。つまり、現在ラーメン界で最も勢いに乗っている新店の味を、カップ麺で味わえるということです。
そこで、同カップ麺を実店舗のラーメンと食べ比べてみることに。あわせて、お店のこだわりを店主に聞いてみました!
「Tombo」のオープンは、2017年9月2日。そんな同店に、吉祥寺駅から10数分歩いて行ってきました
最初に、カップ麺をじっくりとチェックしていきます。
サイズは、一般的な定番タテ型カップ麺よりも若干大きい印象で、1食は95g。そのうち、麺は70gで、エネルギーは426kcal。同社の看板商品「MARAUCHAN QTTA SHO-YUラーメン」は78g(麺66g)で346kcalなので、やはり「マルちゃん 吉祥寺 Tombo監修 醤油の旨味ソバ」のボリュームは全体的にやや多めです。
目安として、湯量は470mlが推奨されています
開封して中身もチェック。
具は味付け豚肉とメンマとネギ。麺は油で揚げたタイプで、縮れのあるタテ型カップ麺の王道スタイルです。
粉末の調味料が最初から入っていますが、別途で添付されている特製スープを後から投入して完成させます
次はいよいよ、お湯を入れて調理開始。並行して「マルちゃん 吉祥寺 Tombo監修 醤油の旨味ソバ」のベースとなっている、お店のラーメンも作ってもらうことに。
調理開始。お店のラーメンは、カップ麺のでき上がりに合わせて作ってもらいました
そして完成。
見た目は異なりますが、漂ってくる香りの方向性は同じような気も。それぞれ味わいをチェックしてみましょう。
並べてみました。具の形状をはじめ、見た目としては異なる部分がいくつかあります
カップ麺はこのような仕上がり。シンプルながら、漂う香りからはチープさを感じません
「Tombo」で提供される「醤油の旨味ソバ」830円。塩やつけ麺などもありますが、同店ではこの1杯が「デフォルト」と呼ばれる定番ラーメンです
麺はどちらも細め。とはいえ、カップ麺は揚げ麺かつ縮れのある角麺タイプ。店のラーメンは生麺ストレート。この違いは味にも影響してくると思うのですが、どうなのでしょうか。食べて確かめましょう。
カップ麺のほうは、プツッとした歯応えがあり、適度な細さの麺が旨みの豊かなスープとほどよくマッチ。揚げた麺の油分がスープに溶け出し、シャープなコクとパンチを演出しています
お店のラーメンの麺は、中細のストレートで心地よいのどごし。カップ麺にはない具としては、白髪ネギと海苔が入っています
カップ麺の感想。
そもそものフォーマットが異なりますが、「Tombo」のラーメン「醤油の旨味ソバ」を表現していることはしっかりと感じられました。特徴的だったのは、甘香ばしい旨み。これはパッケージに表記されている「香味野菜の香りとコク」の部分でしょうか。「Tombo」の味作りの一翼を担う「香油」を再現しているのだと思いました。
また印象が強かったのが、麺やスープを含んだファーストタッチのあとに感じる旨みの波。香水でたとえるならば、「ミドルノート」と言われるゾーンです。口内に広がってから奥に抜けて余韻となる手前の段階に、最も「Tombo」らしさを感じました。
お店で使われる実際の「秘伝の醤油ダレ」。褐色の薬味は、玉ネギ、長ネギ、ニンニク、生姜、ベルギーエシャロットを焦がした香油。これが、ふくよかな風味をプラスします
「Tombo」の大きな魅力は、透き通った清湯(チンタン)スープの奥深さ。とにかくウマいことだけは確かなのですが、重層的で複雑。どんな素材によるものなのか、気になるところです
あくまで個人の感想であり、表現はなかなか難しいものの、カップ麺のスープから感じたのは、動物系と魚介ダシがバチッと融合したようなニュアンス……。
ここで、お店で提供しているラーメン「醤油の旨味ソバ」のスープの秘密を、「Tombo」の榎本直記店主に聞いてみました。
榎本直記店主
「今、ウチで使っている素材は、動物系は生の鶏ガラ&丸鶏や、豚のゲンコツ&背ガラをふんだんに使用。魚介系は煮干し、サバ節、宗田節、鰹節、花鰹のほかに昆布やシイタケも使ってます。時期は決まっていませんが、頻繁に素材や配合をブラッシュアップしているんです。『もっとこうしたほうがウマくなるんじゃないかっ』て。たとえば、昔使ってた豚足やモミジはやめました。なので、カップ麺を開発したときのスープと今とでは違いがあると思います。とはいえ、今後もウチのスープはどんどん変わっていくでしょうね」(榎本店主)
ダシにする素材をそれぞれの鍋に。じっくりと旨みを抽出させていきます
カップ麺の開発は、2018年11月ごろからスタート。開発方法は、お店のスープや素材を「マルちゃん」(東洋水産)のテストキッチンに持ち運んで、プロトタイプを試作。それを後日、榎本店主がチェックするというもの。最もこだわったところを聞きました。
「動物系と魚介ダシのバランスです。日々のラーメン作りでもそうなんですけど、カップ麺も難しいし奥が深いんですよ。最初は『もっと魚介を強くしてほしい』とお願いしたんですけど、そうするとまるでカップうどんのようにダシが強くなっちゃったり……。味付けに関しても同様でした。鶏油(チーユ)を多くしてみたら醤油の感じが弱くなって。そんなシーソーゲームを数回繰り返して商品化となりました。カップ麺なのである程度のフォーマットは決まってるんですけど、その中でウチらしい素材のバランス感を表現させてもらっています」(榎本店主)
同店の味作りに欠かせない、福島県にある蔵元「大木代吉本店」の「こんにちは料理酒」(左)と、愛知県の甘強(かんきょう)酒造「昔仕込本味醂(みりん)」(右)
「今回はタテ型カップ麺でしたけど、また機会があったらドンブリ型やチルド麺などでも商品化できたらうれしいです」と榎本店主
榎本店主が言う「ある程度のフォーマット」というのは、油揚げタイプの縮れ麺であることや、メンマやチャーシューなどの具の形が決まっているということ。その中で、麺に関していえば、できるだけ縮れの少ないモノをオーダーしたり、具でいえば青ネギを入れるように指示をしたんだそうです。
「麺は最初、切刃番手(きりはばんて)を店に近いもので試作したんですけど、カップで食べるとちょっと太く感じたので細めにしました。あとは調理時間ですね。3分のものが多いんですけど、この商品は2分が推奨。2分半でもよかったんですけどね」(榎本店主)
お店の麺は、数ある名店が御用達の「三河屋製麺」製。北海道産の小麦を4種ブレンドし、麺を通常より長くすることでしなやかさを生み出しているとか
ラーメンの麺は150g(つけ麺は225g)。麺打ちの技術を持っている榎本店主、そのノウハウを生かしたオリジナルの特注麺をオーダーしています
最後に、カップ麺のおすすめの食べ方を聞いてみました。榎本店主は「お湯は少々減らして味を濃いめにして、調理時間は2分半。そしてしっかりと混ぜ、全体をよくなじませてから食べてみてほしい」とのこと。商品は全国発売ということで、ネットのほかにコンビニやスーパーマーケットにも並んでいます。
【取材協力】
「Tombo」
住所:東京都武蔵野市吉祥寺南町4-16-12 リトハイム 101
営業時間:[月・火・木〜土]11:00〜14:30、18:00〜22:00 [日・祝]11:30〜14:30、18:00〜21:00
定休日:水曜日
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。