ラーメンの1ジャンルとして知られる「二郎インスパイア系」。
その特徴としては、エッジの効いた豚骨醤油スープ(本家は味のベースに「カネシ醤油」とうまみ調味料「グルエース」を使用)に始まり、大量のアブラ(豚の背脂の塊)や、刻みニンニクと野菜(モヤシとキャベツ)、ワシッとした食感の極太麺(本家は「オーション」という強力粉を使用)などがあげられます。そんな「二郎インスパイア系」ですが、カップ麺もいくつか商品化されています。
以前、筆者が訪れて撮った、「ラーメン二郎 三田本店」の1杯。緊張していたのか、「豚」(ウデ肉のチャーシュー)が見えないアングルで撮ってしまいましたが、これが本家です
その「二郎インスパイア系カップ麺」の中でも、特に話題性の高かった商品が、2020年1月に発売された「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」。「ラ王」という名門ブランドから出ていることや、ブランド史上最も太い「踊る極太麺」を採用していることなどが注目を集めたのだと思います。
こちらは、日清食品が一部の都市で展開しているラーメンデリバリーサービス「RAMEN EX」の「豚天国ラーメン」というインスパイアメニュー。同社の開発力は、ただものではありません
「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」は、通年商品ではなかったのでやがて姿を消しましたが、デビューから約1年後、2021年1月4日に何とカムバックしました!
ということで、今回はこの「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」を主役に、近しいコンセプトのカップ麺と比較。脂の量、麺の太さ、ニンニクの強さなど、さまざまな観点からチェックしていきます。
入手できたのは、この3商品。「マルちゃん正麺 カップ がっつり系ニンニク豚塩味」や「日清デカうま 豚ニンニク味」と比較します
まずは、「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」から。
「ラ王」カップ麺の特徴である8角形の器に入っており、メインカラーは「ラーメン二郎」のデザインを彷彿(ほうふつ)とさせる「黄×黒」。パッケージからして、強烈なインパクトとジャンク感が漂っています。
バブル期は、「24時間、戦えますか。」の「リゲイン」で「黄色と黒は勇気のしるし」とうたわれていましたが、「(食べる)勇気のしるし」という意味では「ラーメン二郎」も同じ
内容量は136g(麺80g)で、486kcal。定番の「日清ラ王 背脂醤油」が 112g(麺75g)の412kcalなので、とんでもなく大盛りというわけではありません
開封してみると、乾麺と4つの袋が入っていました。特に注目すべきは「アブラ増し袋」。「温めないでください」と書いてあるのは、脂が溶けてしまうと効果が100%発揮できなくなるからでしょう。
「アブラ増し袋」のほかに、焼豚、かやく、液体スープが入っています
「踊る極太麺」は、確かに乾麺の状態からでも太いことがわかります。太いため、調理時間も熱湯5分。レシピに従って進めたら、最後に「アブラ増し袋」の中身をトッピングして完成です。
スープに背徳感のあるコクとインパクトを加える「アブラ増し袋」。中身は背脂ペーストで、単体で味わってみるとほんのり塩味が付いていました
完成。お店のと比べると野菜の少なさは否めませんが、カップ麺であれば多いほうでしょう。また、「アブラ増し袋」がジャンク感の訴求にひと役買っています
食べた感想としては、お店のラーメンと比べてしまうとおとなしめ。ただ、方向性は確かに「二郎インスパイア系」です。背徳感のあるスープに、背脂のジャンクテイスト。麺は量こそ少ないものの、ゴワッとした歯応え。特に、この麺の食感とそれほど乳化していないスープに、開発者の“二郎愛”を感じました。
「踊る」感じは不明でしたが、カップ麺としてはかなり強靭な歯応え。随所に業界へのチャレンジ精神と、「ラーメン二郎」への愛を感じる味わいでした
スープは、ベタッとするほどのアブラ感はないものの、微細ながらも刻まれたニンニクと調和したピーキーなニュアンスは十分。食後に黒烏龍茶が飲みたくなるピリピリ感もあり、「二郎インスパイア系カップ麺」としてはかなり高い完成度だと思います。
次は、「ラ王」最大のライバル、「マルちゃん正麺」のカップ麺シリーズのひと品にトライ。2020年秋に新発売された「マルちゃん正麺 カップ がっつり系ニンニク豚塩味」を食べてみました。
内容量は126g(麺75g)で、466kcal。「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」より量はやや少なめで、かつカロリーは低めです
パッケージデザインには、ほかの「マルちゃん正麺」同様に金色が用いられ、比較的高級な印象。ただ、こちらも「二郎カラー」である「黄×黒」のロゴを使用しているので、ジャンク感も漂っています。
かやくは通常タイプのほか、「背脂加工品」が入ったかやくも。スープも液体と粉末の2タイプが用意されています
気になるのは「背脂加工品」。調理時間はこちらも5分ということで、まずは2種類のかやくを入れて熱湯を注ぎ、完成を待つことに。
茶色い文字で書かれたかやくの袋には、「背脂加工品」のほかにミンチも入っていました
5分が経過すると、背脂はこのような状態に。このあと、液体スープと粉末スープを入れて混ぜると、全体が茶褐色になって完成です
混ぜる工程により背脂が散ってしまったので、見た目のジャンクさはあまり感じられません。味はどうでしょうか
食べてみると、塩味でありながらも醤油らしさを感じるコクもあり、濃厚さもしっかり。ただ、ミンチ肉やゴワつきのないモッチリ麺などの採用から、全体的にはそこまで「ラーメン二郎」らしさを意識しているとは感じられませんでした。「マルちゃん正麺」というブランドを通して、独自の「二郎インスパイア」感を表現しているのでしょう。
麺はむしろ「マルちゃん正麺」のものそのもの。ここにはブランドの矜持を感じました
総評するなら、これはコク深い豚骨背脂の塩スープに、ニンニクがゴリッと入った「マルちゃん正麺」のカップ麺。なお、過去には「マルちゃん正麺 カップ がっつり系豚骨醤油」という醤油ベースのタイプも出ていたので、いつかこちらが復活したら食べてみたいと思いました。
最後は、「ラ王」と同じ日清食品から発売されている“アナザー二郎インスパイアカップ麺”。エースコックの「スーパーカップ」や東洋水産(マルちゃん)の「でかまる」の対抗馬と言える「日清デカうま」ブランドの豚ニンニク味です。
「日清デカうま 豚ニンニク味」の内容量は、111g(麺90g)で、503kcal。量も多くフライ麺だからか、カロリーも高め
「日清デカうま」は、ボリューム感とリーズナブルな価格も特徴。その差は歴然で、日清食品のECサイトでは、「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」が税込397円なのに対し、「日清デカうま 豚ニンニク味」は税込140円と、麺量は10g多いのに価格は約3分の1。とは言え、開封してみると、チープさを感じさせないこだわりが詰まっていました。
かやくは少量ながら、野菜も肉も入っています。また粉末スープと調味オイルが分かれていて、低価格ながらも味への探求心を感じられます
「日清豚ラ王 ヤサイ、アブラ、ニンニク」と「マルちゃん正麺 カップ がっつり系ニンニク豚塩味」がノンフライ麺だったのに対し、「日清デカうま 豚ニンニク味」はフライ麺。量は最も多いながらも、調理時間3分でOKという点はフライ麺の利点かもしれません。また、粉末スープを先に入れてから熱湯を注ぐというのもノンフライ麺との違いです。
熱湯を注ぎ、3分経ったら調味オイルをかけて完成です
味は、この安さなら十分大健闘と言えるクオリティ。ただあえて指摘するなら、かやくに入っている赤唐辛子は不要だと思いました。色味の華やかさを演出する意味もあるかもしれませんが、より「二郎インスパイア」に近づけるなら不要でしょう。
フライ麺特有のジャンキーな香りもあって、ガッツリ感は十分!
タテ型カップの弱点も否めません。タテ型はヨコ型より水位が上がるので底に沈んだ具材にリーチしづらく、麺と具材の一体感が損なわれてしまうのです。「二郎インスパイア系」は野菜も魅力のひとつなので、これは残念な部分と言えるでしょう。
麺の太さなどは普通
スープは、どこかコンソメっぽい洋風なニュアンスがあってやや違和感を抱きましたが、これもひとつの個性でしょう。サラッとした豚骨醤油スープに、ニンニクのパンチと辛味が加わる破壊力は、青春の胃袋に応えるにはふさわしい味わい。コスパで考えるなら、かなり優秀な1杯だと思います。
今回食べ比べた3つの商品を、対象者別に当てはめると下記のようになります。
「豚ラ王」→手軽に「二郎インスパイア系カップ麺」を食べたい人向け
「マルちゃん正麺」→モッチリした多加水麺で「二郎系」を食べたい人向け
「デカうま」→安くたくさん食べたい人向け
今回のタイミングでは、3商品しか見つかりませんでしたが、メーカーは常に商品開発をしていて、今後新たな「二郎インスパイア系カップ麺」も登場することでしょう。また挑戦的な新作が登場したら、食べ比べたいと思います。
食の分野に詳しいライター兼フードアナリスト。雑誌とWebメディアを中心に編集と撮影をともなう取材執筆を行うほか、TVや大手企業サイトのコメンテーターなど幅広く活動中。