今、缶のお酒でジン×ソーダがアツいことをご存じでしょうか!?
2022年2月発売のサントリー「翠ジンソーダ缶」を皮切りに、2023年3月には「アサヒGINON」が続き、2024年8月に「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香(もりのか)」が発売。また、2023年9月発売の「サッポロ クラフトスパイスソーダ」は、ジン的な要素を持つ「サッポロ クラフトスパイスソーダ 食の愉しみ」を2024年10月に限定発売しました。
各社のジンソーダ缶。左端は、東京を拠点とするスタートアップの蒸溜メーカー、エシカル・スピリッツの「LASTジンソーダ」。同社初の缶商品であり、2024年11月12日に発売
そこで今回は、これらの銘柄を飲み比べ、商品特徴や味のレビューをしながら、人気の背景や今後のトレンドなどを解説します。
まずはジンというお酒について、簡単に解説します。ジンは1660年にオランダで生まれたとされ、「ジュネヴァ」などと呼ばれていた薬用酒がルーツ。その後、産業革命の時代に英国・ロンドンで大発展するとともに、ジンと呼ばれ親しまれるようになりました。
「ジュネヴァ」で有名な銘柄が「ボルス ジュネヴァ」。リキュールで有名な「ボルス」の仲間です
ジンに欠かせないのが、ジュニパーベリーと呼ばれるスパイス。ジュニパーは「ジュネヴァ」の語源でもあり、見た目は小さなブルーベリーのようなルックスですが、フルーツと呼べるような甘酸っぱさはなく、ウッディーな苦みや、ほのかな甘みのある香りが特徴です。
ジュニパーベリー。ジンでは基本的に、乾燥させたものを使います
世の中にはさまざまなスピリッツ(蒸溜酒)がありますが、このジュニパーベリーを使っていることがジンの定義のひとつであり、また(割る前の)アルコール度数が37.5%以上であることもジンに欠かせないポイントです。
本稿で取り上げている「サッポロ クラフトスパイスソーダ」のうち、写真左のオリジナルはジュニパーベリーを使っていませんが、写真右の限定版「同 食の愉しみ」は一部に使用しています。ということで今回、まとめて紹介しています
ジンの味の特徴としては、ジュニパーベリー特有のビターな風味やハーバルなニュアンス、ドライなキレが共通点。そんなジンのソーダ割りが人気となった背景には、いくつかの理由があると考えられます。
1:ハイボールの台頭によってソーダで割る甘くないお酒がポピュラーになった
2:スパイスカレーや四川料理などが定着したことでスパイスが身近になった
3:食の国際化が進むなかでビターな味に対するハードルも下がった
4:2015年前後ごろから日本でも話題になりはじめたクラフトジンが徐々に浸透
国内クラフトジンのパイオニアは、「季の美 京都ドライジン」。蒸溜所が2014年に設立され、2016年から発売されています
加えて、これは勝手な解釈ですが、見逃せないポイントが
5:ウイスキーハイボールは人気が出すぎて原酒がピンチ
です。
ウイスキーには樽熟成(ジャパニーズウイスキーなら3年以上)が欠かせませんが、ジンは樽熟成を必要としないので、比較的早く生産や出荷が可能。そのため、大手の洋酒メーカーはジンにも注力し、いわば飲み手の購買を分散させる狙いもあるのではないかと思います。
炭酸割りのお酒はこれまで、ウイスキーハイボールやチューハイ(下町系の焼酎ハイボール)、レモンサワーなどが主流でしたが、新たな選択肢となったのがジンソーダ。ビターでハーバルな風味はスパイシーな料理との相性もよく、だからこそ手に取る人が増え、メーカー側の新商品開発熱も高まっているのです。
「LASTジンソーダ」を手掛けるエシカル・スピリッツは2020年創業。酒粕やカカオの皮など、エシカル(倫理的)な未活用素材を蒸溜したクラフトジンを主力とし、サントリーホールディングスをはじめ、名だたる企業からの資金調達を実現しています
なお、次なるトレンドとして注目なのが、ジンの最もメジャーなカクテルと言えるジントニック。その動きはもう始まっていて、サントリーは2024年11月19日から「ジントニック専門店G&T」を限定発売します。
「ジントニック専門店G&T」は、1都9県で期間限定発売。写真右のライチ味は、12月17日の発売です
そして、キリンも「KIRIN Premium ジントニック 杜の香」を2024年11月26日から限定販売。割り材がトニックになるので、より甘くビターな味わいになると思います。
2024年8月27日のブランド立ち上げから、わずか約3か月で発売される新フレーバーの限定商品「KIRIN Premium ジントニック 杜の香」
アサヒも近年、「アサヒ ザ・カクテルクラフト ライム香るジントニック」を発売していましたし、他社がどう動くのか。引き続き目が離せません。
それでは、いよいよ各社のジンソーダ缶をテイスティングして、各商品の特徴や味わいの解説をしていきましょう。
これら全7本を飲み比べます
「翠ジンソーダ缶」は、ジンの伝統的な8種のボタニカル(風味付けの植物素材)に加え、日本の食卓になじみの深い和素材として柚子、緑茶、生姜の3種を使った「サントリージン翠(SUI)」を基本設計とし、缶専用に味をブレンドしています。
「サントリージン翠(SUI)」は2020年3月にデビューし、「翠ジンソーダ缶」は2022年2月に登場。主要なスペックは、アルコール度数が7%、100mLあたり41kcal、炭水化物0.1〜0.6g
味わいは、同商品のキャッチコピー「いと清々し。」がまさに当てはまるような爽快さ。酸味や苦みを繊細に響かせつつ、上品なボディがしっかり調和します。和素材を中心としたボタニカルの表情もありながら、とにかくクリアでキレも十分。ジンソーダの先駆者は、改めてやるなと思いました。
攻めもありつつ、やりすぎないちょうどよさ。甘さはないものの、エントリー層でもなじみやすい香り高さがあり、いっぽうでジンに飲み慣れたお酒好きも納得の、大人な要素も持っています
お次は「アサヒGINONレモン」。「アサヒGINON」は当初、東北エリアで先行デビューしていたものが、好評のため2024年の4月から全国発売にいたったブランドです。ブランディングとしては、ボタニカルより柑橘を前面に押した“ジンサワー”という打ち出し方で、ベースのスピリッツも、レモンピールなどの柑橘の果皮やレモングラスを漬け込んで蒸溜しています。
「アサヒGINONレモン」はアルコール度数が7%、100mLあたり43kcal、炭水化物0.6g
まず印象的なのは香り高さ。同社のジントニック缶「アサヒ ザ・カクテルクラフト ライム香るジントニック」と同じく、完成時に柑橘の皮を搾ったような新鮮味があり、実にフレッシュです。味は無糖のレモンサワーのベースにジンを使ったような印象で、ビター感はジン由来のハーバル系に加え、レモンピール的な苦みも。元々レモンサワー好きで、ジンに興味を持っている人には特におすすめです。
こちらも甘さはなく、苦みは余韻にサラッと。キレもあって、和食にも合うドライで上品なテイストです
いっぽうの「アサヒGINONグレープフルーツ」は、いわば「アサヒGINONレモン」のグレープフルーツ版。ホワイトグレープフルーツより酸味と苦みが少なく、甘みが豊かなピンクグレープフルーツを使っていると見受けられますが、それが絶妙なジューシー感と飲みやすさを演出し、フルーティーな仕上がりに。
左の「アサヒGINONレモン」より白濁しているのも「アサヒGINONグレープフルーツ」の特徴。アルコール度数7%、100mLあたり43kcal、炭水化物0.6gと、主要なスペックは同じです
とはいえこちらも甘さはなく、無糖好きに応えてくれそうなドライな味わい。酸味やキレは「アサヒGINONレモン」のほうが豊かに感じましたが、果実のコクやジューシーさはこちらのほうがふくよかです。ぜひ飲み比べてみてください。
果実味が豊かな分、中華や東南アジア方面の料理には「アサヒGINONグレープフルーツ」のほうが合うと思います
「氷結」や「本搾り」など、缶チューハイのロングセラーを多く持つキリンの新ブランドが「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」。ベースとなるジンのボタニカルを、ジュニパーベリー100%で仕上げていることが特徴です。そのスピリッツは「KIRIN Premium GIN 杜の香」としても、公式ECと会員制生ビールサービス「キリン ホームタップ」で限定販売されています。
左端は500mL缶の「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」で、アルコール度数7%、100mLあたり42kcal、炭水化物0.1〜0.8g。700mLボトルが「KIRIN Premium GIN 杜の香」です
発売時の発表会で聞いたところ、ジュニパーベリー100%のジンはなかなか珍しいとか。また、「Premium」の名は、針葉樹の森を思わせる香気成分を含む味覚特徴を表現したとのこと。飲んでみると、ライムとレモンの爽快さやキレがしっかりありながら、ほんの少しだけ甘みを感じます。ジュニパーベリーによる甘みなのか、しかしこれが絶妙なフックになっており、心地いい飲み口にもつながっている。そんな印象を抱きました。
香りにはどこか、森林浴にも似た深みのあるグリーン調の面影が。ほのかな甘みと相まって、余韻にはクリーミーなニュアンスも
次は、厳密にはジンソーダではないものの、立ち位置的には近しい部類にある「サッポロ クラフトスパイスソーダ」。公式サイトには食事を引き立てる“甘くないおいしさ”を目指したとあり、フードペアリングを強く意識した設計であることが特徴です。
コンセプトは、“新・食中酒”のロゴからしても一目瞭然。アルコール度数は6%と、上記他社の銘柄より1%低く、また、100mLあたり35kcal、炭水化物0.1gでヘルシーなつくりとなっています
味わいとしては、キャラクターがしっかり立っていて個性的。スパイス感は生姜が強く、さらにはカルダモンなどの爽快な香辛料とハーブの主張があります。その分柑橘感や苦みはおとなしめですが酸味はあって、キレも十分。料理は、洋食カレーや生姜焼き、生姜をきかせた唐揚げやキムチ鍋といった、定番のスパイシーフードが特に合うと思います。
クラフトコーラやジンジャーエールから、カラメル感や甘酸っぱさを抜くと、近しいニュアンスが残りそう。そんな気がします
そして限定版の「サッポロ クラフトスパイスソーダ 食の愉しみ」は、ベースとなるスピリッツに、ナツメグとジュニパーベリーを漬け込んでいるのがポイント。製法的に万が一ジンソーダでないとしても、ほぼジンのソーダ割りだと言っちゃっていいと思います。
液体の色は、オリジナルの「サッポロ クラフトスパイスソーダ」とほぼ同じ。主要なスペックも、アルコール度数6%、100mLあたり35kcal、炭水化物0.1gで同じでした
味はオリジナルの「サッポロ クラフトスパイスソーダ」よりもさらに個性的。奥にうっすらとした甘みもあり、クラフトジン的な攻めた風味だと思いました。特に印象的なのは、ナツメグ。この香辛料はハンバーグに頻用されるもので、ジュニパーベリー以上にたくましい風味を醸し出しています。
オリジナルの「サッポロ クラフトスパイスソーダ」よりも味の表情が温かく、秋冬の装い。特にエスニックな味付けや、ハンバーグのほかソーセージやベーコンといった、燻製系の肉料理によく合う気がします
最後に紹介する「LASTジンソーダ」は、2021年に行われた国際的な酒類品評会「IWSC2021」で、最高金賞を受賞したジン「LAST ELEGANT(ラストエレガント)」がベース。同商品は、甘く華やかな香りの酒粕焼酎を使っていることが特徴で、味わいの魅力をより広めたいという想いから「LASTジンソーダ」が誕生しました。
スペックは、今回の中で最もヘルシーでした。アルコール度数は5%で、100mLあたり30kcal、炭水化物は0g
構成されるボタニカルはジュニパーベリーのほか、ハイビスカス、ピンクペッパー、コリアンダーシード、ラベンダー、花椒(ホアジャオ)、レモングラス、リコリス(彼岸花)など。花の要素はハイビスカスよりもラベンダーが豊かで、リコリスや酒粕を思わせる甘やかさ、まろやかなニュアンスも個性的です。
酸味はやさしく、酸っぱくはないものの、すっきりとしたタッチ。5%のアルコール度数とも相まって、飲み口はサラッと軽快です
以前筆者は、加熱式タバコデバイス「Ploom X」の取材で北海道のクラフトジン「9148」を紹介しましたが、「LASTジンソーダ」にはどこか、その味わいとの親和性を感じました。銘柄にもよるのですが、共通点は北海道名産のラベンダーかなと思います。「LASTジンソーダ」は首都圏を中心にスーパー、量販店、百貨店、オンラインで順次販売されるそうなので、ぜひお試しを。
ジンは蒸溜酒の中でも自由度が高く、選ぶボタニカルによって香味も多彩であり、味わいも千差万別。今回飲み比べて、その魅力をより実感しました。個人的には、グレープフルーツがマイブームというのもあり、「アサヒGINONグレープフルーツ」が今回いちばん好みの味でした。
最後に銘柄ごとの特徴を簡潔にまとめたので、参考にしていただけたらうれしいです。
・「翠ジンソーダ缶」
ビター感などのジンらしさと、和素材の滋味深い香りが調和した味はクリアで爽やか
・「アサヒGINON」シリーズ
ジューシーで、レモンサワー(グレープフルーツサワー)的な親しみやすさ
・「KIRIN Premium ジンソーダ 杜の香」
ほんのり甘やかなニュアンスと、柑橘の爽快感が心地よくマッチ
・「サッポロ クラフトスパイスソーダ」シリーズ
香辛料やハーブが印象的な個性派。特に濃厚系やスパイシーな料理と合わせたい
・「LASTジンソーダ」
フラワリーでエレガント。甘やか&まろやかでいて、やさしくすっきりした絶妙な味
コンビニでも存在感はどんどん高まるはず。ジャンルとしての躍進に注目です!